ALS のシーティング・ポジショニング|呼吸と褥瘡を守る座位調整チェック
臨床の引き出しを増やしたいときは、まず “基準の型” を作るのが近道です。 臨床力を体系化するロードマップを見る ※ 評価→記録→再評価の型ができると、福祉用具の説明や多職種連携もラクになります。
なぜ ALS は「座位調整」で差が出るのか
ALS は進行に伴い、体幹・頸部の支持性低下や呼吸筋の疲労、長時間座位が重なりやすくなります。座位が崩れると、体幹の代償で肩・頸部の過緊張が起こり、疲労や痛みが増え、食事・会話・呼吸の “持ち時間” も短くなりがちです。
一方で、骨盤と体幹の “土台” を整え、圧とずれ( shear )を減らし、呼吸が楽になる角度を見つけるだけで、ADL と QOL が一段上がる場面も多いです。まずは「短時間で評価→仮調整→再評価」の 1 サイクルを作りましょう。
5 分で押さえる評価(座位の “詰まりどころ” を見つける)
シーティングは “用具の話” に見えますが、臨床では評価の質が結果を左右します。座位を見たら、まずは下の項目を短く確認し、原因(どこが崩しているか)と目的(何を守るか)を言語化します。
| 観点 | 見るポイント | よくある所見 | 記録のコツ |
|---|---|---|---|
| 骨盤 | 後傾 / 前傾、左右傾斜、回旋、座面の奥行き | 骨盤後傾→胸椎後弯、ずれ座り | 「骨盤後傾(軽 / 中 / 強)」+“ずれ” の有無 |
| 体幹 | 側屈、回旋、胸郭の動き、座位保持時間 | 片側へ崩れる、肩甲帯挙上で代償 | 「保持できる条件(背もたれ / 支持具)」を併記 |
| 頭頸部 | 前方頭位、頸部屈曲、顎引き / 顎上がり | 下を向いて呼吸が浅い、嚥下が不安定 | 会話・食事・呼吸の “楽さ” を主観で 0〜10 |
| 圧 / ずれ | 仙骨・坐骨結節、片側荷重、臀部の滑り | 臀部前方へ滑る→仙骨部のリスク | 赤み・湿潤・疼痛の有無、座位時間 |
| 呼吸 | 呼吸数、息切れ、会話時の途切れ、肩呼吸 | 体幹崩れで呼吸が増悪、疲労が早い | 「楽な角度(背角 / 座角)」を数字で残す |
全体像を先に押さえたいとき
ALS のリハ評価は、座位だけでなく呼吸・嚥下・コミュニケーション・移動が連動します。評価の全体像(何を優先し、どこに連携を投げるか)を先に整理したい場合は、ALS リハ評価の全体像(総論)から読むと迷いが減ります。
セッティング手順(“一発で決めない” のがコツ)
ALS は日内変動や疲労の影響が大きいので、最初から完璧を狙うより、仮調整→ 10 分試す→再調整で詰める方が安全です。下の順番で “崩れの原因” を減らしていきます。
| 手順 | やること | 狙い | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 1. 座面の “土台” | 座面奥行き、座幅、フットサポート高さを調整 | 骨盤の安定と “ずれ” 予防 | 深すぎる奥行きは骨盤後傾・頸部屈曲を助長 |
| 2. 骨盤の位置 | 骨盤後傾を減らす(座角・骨盤パッド・クッションの選択) | 体幹の支持を作る | 締め付けで痛みが出ると逆に崩れる |
| 3. 体幹支持 | 側方パッド、背もたれ形状、必要なら胸部ベルト | 片側崩れと疲労を減らす | 固定が強いと呼吸が浅くなることがある |
| 4. 頭頸部 | ヘッドサポート、頸部カラー、視線の高さを調整 | 会話・嚥下・呼吸の “楽さ” を確保 | 顎が落ちると嚥下が不安定、顎が上がると気道管理が難しい |
| 5. 圧とずれ | 赤み・疼痛の確認、除圧動作(ティルト / リクライニング)を練習 | 褥瘡リスクを下げる | リクライニングのみは “ずれ” が増える場合がある |
| 6. 試用→再評価 | 10〜20 分使ってもらい、呼吸・疲労・疼痛を再チェック | 再現性の確保 | “午前は良いが夕方は辛い” など時間帯も確認 |
目的別:調整ポイント早見表
ALS の座位調整は、目的がブレると迷子になります。いま最優先で守るのは何か(呼吸 / 褥瘡 / 食事 / 疼痛 / 操作性)を決め、そこから逆算します。
| 最優先の目的 | 主な調整 | 観察ポイント | 記録(例) |
|---|---|---|---|
| 呼吸を楽にする | 体幹の支持を増やし、胸郭が動く姿勢を探す(背角・座角の最適化) | 息切れ、会話の途切れ、肩呼吸 | 背角 ○° で呼吸数↓、主観 7→4 |
| 褥瘡を防ぐ | 圧分散クッション+除圧(ティルト / リクライニング)の “やり方” を統一 | 坐骨・仙骨の赤み、湿潤、疼痛 | 2 時間ごとに除圧 2〜3 分、皮膚所見なし |
| 食事・嚥下を安定 | 骨盤・体幹の安定→頭頸部の角度を微調整(顎引き過多を避ける) | むせ、疲労、姿勢崩れ | 食事 15 分で崩れ→体幹支持追加で 25 分 |
| 疼痛・しびれを減らす | 片側荷重の是正、肩甲帯挙上の代償を減らす | 頸肩部痛、坐骨痛、痺れ | 右坐骨痛 NRS 6→3(座幅調整+パッド) |
| 操作性を上げる | テーブル高・アームサポート・入力機器の位置を再設計 | 上肢疲労、操作精度 | 前方リーチ↓、入力時間↑、疲労↓ |
よくある失敗(現場の詰まりどころ)と修正
シーティングがうまくいかない理由の多くは、「固定を強くして崩れを止めようとする」か、「リクライニングだけで解決しようとする」のどちらかです。まずは NG パターンを潰すと改善が速いです。
| NG(起こりがち) | なぜ問題か | OK(修正の方向性) | 確認ポイント |
|---|---|---|---|
| リクライニングだけで除圧 | 臀部の “ずれ” が増え、仙骨部のリスクが上がる | ティルトと組み合わせ、除圧の “角度と時間” を決める | 座位後の赤み、滑り、疼痛 |
| ベルトで強く固定 | 痛み・呼吸の浅さ・不快で逆に崩れる | 骨盤と体幹の支持を “面” で作り、固定は最小限 | 呼吸数、会話、主観的楽さ |
| 座面奥行きが深すぎる | 骨盤後傾→頸部屈曲→呼吸・嚥下が不利 | 奥行きを詰め、骨盤を立てやすい座りにする | 骨盤後傾の程度、顎の位置 |
| フットサポートが合っていない | 足が浮く / つま先接地で骨盤が引っ張られる | 膝・股関節角度と足底支持を整える | 骨盤の左右差、片側荷重 |
| “今日の最優先” が曖昧 | 介入が散って効果判定ができない | 呼吸 / 褥瘡 / 食事など最優先 1 つに絞る | 再評価項目を 2〜3 個に固定 |
家族・介助者に伝えるポイント(短く、同じ言葉で)
座位調整は、本人が疲れてくると再現できなくなりやすいので、介助者向けに同じ言葉で伝えるのがコツです。おすすめは「①骨盤を奥へ、②肩の力を抜く、③息が楽か確認」の 3 点だけに絞る方法です。
- 除圧は “回数” ではなく “角度と時間” をセットで共有する
- 皮膚の赤みは「場所・いつ・消えるまでの時間」を記録する
- 疲労が強い日は「調整を増やす」より「休む姿勢(角度)を先に確保」する
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. ティルトとリクライニング、どちらを優先しますか?
まずは “ずれ” を増やしにくい形で圧を逃がすのが基本なので、ティルトを軸に考え、必要に応じてリクライニングを組み合わせます。リクライニングだけだと臀部が前方へ滑りやすく、仙骨部のリスクが上がることがあるため、皮膚所見と滑りを必ず確認します。
Q2. 頭が前に落ちて呼吸が苦しそうです。最初にどこを直す?
頭頸部だけを支えるより先に、骨盤と体幹を整える方が改善しやすいです。骨盤後傾が強いと、頭部支持を増やしても “全体が崩れる” ため、座面奥行き・フットサポート・体幹支持の順に見直し、最後にヘッドサポートで微調整します。
Q3. クッションは何を選べばいいですか?
原則は「①圧分散、②ずれにくさ、③姿勢を作れる形状」の順に評価します。痛み・赤みがある場合は圧分散を優先しつつ、骨盤が後傾しているなら “姿勢を作れる” 形状も重要です。選定後は、皮膚所見と “座位の持ち時間” で効果判定します。
Q4. 座位で息切れが増える日があります。評価のコツは?
ALS では座位と背臥位で肺活量が変わることがあり、姿勢で呼吸の楽さが動きます。日内変動も含めて「楽な角度」と「休める姿勢」を 1 つ決め、疲労が強い日は “活動姿勢” を短くして、休息姿勢へ切り替える運用が安全です。
おわりに
ALS のシーティングは、土台(骨盤)→支持(体幹)→微調整(頭頸部)→圧とずれ→再評価の順で整えると、呼吸・褥瘡・食事の “同時最適化” が進みます。臨床で迷ったときは、面談準備チェックと職場評価シートも一緒に使える無料ダウンロードから、まず整理してみてください。
参考文献
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- Miller RG, Jackson CE, Kasarskis EJ, et al. Practice parameter update: The care of the patient with amyotrophic lateral sclerosis: multidisciplinary care, symptom management, and cognitive/behavioral impairment (an evidence-based review). Neurology. 2009;73(15):1227-1233. DOI: 10.1212/WNL.0b013e3181bc01a4 / PubMed: 19822873
- Majmudar S, Wu J, Paganoni S. Rehabilitation in Amyotrophic Lateral Sclerosis: Why It Matters. Muscle Nerve. 2014;50(1):4-13. DOI: 10.1002/mus.24202 / PubMed: 24510737
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- Zemp R, Rhiner J, Plüss S, et al. Wheelchair Tilt-in-Space and Recline Functions: Influence on Sitting Interface Pressure and Ischial Blood Flow in an Elderly Population. Biomed Res Int. 2019;2019:4027976. DOI: 10.1155/2019/4027976 / PubMed: 30956981
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- Gefen A. Reswick and Rogers pressure-time curve for pressure ulcer risk. Part 1. Nomenclature and experimental data. J Tissue Viability. 2007;16(3):16-20. DOI: 10.1016/S0965-206X(07)64004-9 / PubMed: 17662431
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


