- 失語症評価の基本セット| SLTA ・ WAB ・ CADL の違いと使い分け
- 先に結論| 3 つの検査で「何が違うか」を一発で整理
- 選び方フロー|「病期 × 目的」で迷わない最小セット
- ケースで分かる|急性期と生活期の “最小セット” 運用
- 結果を “使える形” にする| 3 ステップで介入と共有へ落とす
- 各検査の “使いどころ” だけ押さえる| SLTA ・ WAB ・ CADL
- 現場の詰まりどころ|“やりがち” を先に潰しておく
- よくある失敗|時間がないのに “全部やる” で崩れる
- 回避の手順/チェック|評価 → 介入 → 共有を 1 本にする
- よくある質問(FAQ)
- 次の一手|運用を整える → 共有の型 → 環境も点検
- 参考文献
- 著者情報
失語症評価の基本セット| SLTA ・ WAB ・ CADL の違いと使い分け
失語症の評価は「全部やる」ほど正確になるわけではなく、病期と目的に合わせて検査を選び、結果を介入と共有に変換できるほど強くなります。本記事では、 SLTA ・ WAB ・ CADL を「何が分かるか」ではなく、どの場面で、どれを優先し、どう組み合わせるかに絞って整理します。
結論はシンプルで、WAB で全体像と重症度→SLTA で苦手プロファイル→CADL で生活の困りごとの順に「翻訳」すると、カンファや家族説明まで一気に通ります。まずは 10 秒で全体像が掴める比較表と、選び方フローから入ってください。
回遊(同ジャンル):失語だけでなく「脳卒中の ST 評価」を最小セットで揃えると、優先順位がブレにくくなります。
関連:脳卒中ハブ(全体像)
続けて読む:構音・音声の ST 評価(兄弟記事)
先に結論| 3 つの検査で「何が違うか」を一発で整理
迷いが出るのは「検査の目的」が混ざるときです。まずは、 SLTA ・ WAB ・ CADL を目的で分けると、選び方が速くなります。
| 検査 | 最短の目的 | 強い場面 | 弱い場面 | 向く病期 |
|---|---|---|---|---|
| WAB | 全体像+重症度 | 限られた時間で「失語の輪郭」を作る | 読み書き等の細かな苦手が残りやすい | 急性期〜回復期 |
| SLTA | プロファイル(苦手の地図) | どこから訓練するかを具体化する | フル実施は負担が大きい | 回復期〜外来 |
| CADL | 生活での会話能力 | 家族説明・在宅支援に直結する | 急性期の状態不安定では取りにくい | 生活期(回復期後半〜) |
選び方フロー|「病期 × 目的」で迷わない最小セット
検査は「どれが優れているか」ではなく、いま欲しい意思決定に合わせて選ぶのが実務です。ここでは、病期ごとに優先しやすい組み合わせを固定します。
| 病期 | まず決めたいこと | 優先しやすい検査 | 運用のコツ |
|---|---|---|---|
| 急性期 | 安全に評価できる上限/全体像 | WAB(コア)+観察 | フルにこだわらず「いま取れた範囲」を固定して再評価 |
| 回復期 | 訓練の優先順位/目標設定 | SLTA(重点 or フル)+ WAB(再評価) | 苦手モダリティを「介入に変換」して共有する |
| 生活期 | 生活で困る場面/支援設計 | CADL +会話観察+聴き取り | 「できる/できない」より「どうすればできるか」を先に決める |
ケースで分かる|急性期と生活期の “最小セット” 運用
同じ失語でも、病期が違うと「まず決めたいこと」が変わります。ここでは典型 2 例で、 SLTA ・ WAB ・ CADL の使い分けを “現場の型” に落とします。
ケース 1(急性期):短時間で全体像 → 再評価の軸を作る
状況:疲労が強く、長時間の検査が難しい。まずはチームで「どれくらい助ければ会話が通るか」を揃えたい。
最小セット:WAB(コア)+会話観察(通る手段)+ 3 行テンプレで共有。
| 枠 | 書く内容 | 短い例 |
|---|---|---|
| ①いま何が起きているか | 全体像(理解/発語) | 短文理解は通るが、発語は遅延が強い |
| ②何ができるか | 通る手段 | 指差し・二択提示で意思確認は可能 |
| ③次に何をするか | 支援の一手 | 指示は 1 文を短く区切り、二択で成功率を上げる |
急性期あるある(回避):急性期に SLTA を “フル” で回すと疲労で崩れやすいので、まずは WAB の軸を作り「次回の条件固定(時間帯・声掛け・提示法)」を先に決めます。
ケース 2(生活期):点数 → 生活支援に翻訳して家族説明まで通す
状況:家族が「電話ができない」「用件が増えると噛み合わない」と困っている。支援設計へ直結させたい。
最小セット:CADL(困る場面)+必要なら SLTA(重点)→「代償手段+環境調整+家族の関わり」に固定して共有。
| 困る場面 | 代償手段 | 環境調整 | 家族の関わり |
|---|---|---|---|
| 電話 | 要点カード | 静かな場所で短時間 | 一問一答+確認の合図を統一 |
| 買い物 | 写真付きリスト | 売り場を固定 | 選択肢を 2 つに絞って提示 |
| 来客対応 | 定型フレーズ紙 | 会話の役割を分担 | 話題を 1 つずつ、待つ時間を確保 |
生活期あるある(回避):検査結果を示して終わらず、 CADL の結果を「今日からできる支援」に直訳して、家族と支援者で同じ型を共有します。
結果を “使える形” にする| 3 ステップで介入と共有へ落とす
点数やタイプ名だけだと、チームは動けません。検査結果は行動と支援に翻訳して、カンファと家族説明まで通すのがゴールです。
- WAB:重症度とタイプで「全体像」を 1 行で言う
- SLTA:苦手モダリティを「訓練の優先順位」に変換する
- CADL:生活場面の困りごとを「支援の設計」に変換する
| 枠 | 書く内容 | 短い例 |
|---|---|---|
| ①いま何が起きているか | 全体像(重症度/大枠) | 「口頭理解は短文なら可能だが、発語は遅延が強い」 |
| ②何ができるか | 保たれる手段 | 「指さし・ジェスチャーで意思は伝わる」 |
| ③次に何をするか | 介入と環境調整 | 「指示は 1 文を短く区切り、選択肢提示で成功率を上げる」 |
各検査の “使いどころ” だけ押さえる| SLTA ・ WAB ・ CADL
ここでは、各検査の説明を最小限にして、現場で迷うポイント(いつ・何のために)だけに絞ります。
SLTA:苦手の “地図” を作り、訓練の優先順位を決める
- 向く:回復期〜外来で、読解・書字を含む苦手領域を具体化したい
- 迷いどころ:フル実施にこだわると負担が増え、結果が荒れる
- 運用のコツ:「重点項目」を固定して経時で追える形にする
WAB:短時間で “全体像+重症度” を作り、再評価の軸を揃える
- 向く:急性期〜回復期で、限られた時間に全体像を作りたい
- 迷いどころ:読み書きの細かい訓練設計は単独だと不足しやすい
- 運用のコツ:コアを優先して「同条件」で繰り返し、変化を拾う
CADL:生活場面の “困りごと” を見える化し、支援設計へ直結させる
- 向く:在宅復帰・復職を見据え、家族説明と支援方針を作りたい
- 迷いどころ:急性期の状態不安定では実施の質が落ちやすい
- 運用のコツ:結果を「代償手段」「環境調整」「家族の関わり方」に直訳する
現場の詰まりどころ|“やりがち” を先に潰しておく
ここは読ませるゾーンです。ボタンは置かず、ページ内で解決できる形にします。
よくある失敗|時間がないのに “全部やる” で崩れる
失語評価が回らない原因は、検査の難しさよりも「設計ミス」であることが多いです。よくある失敗と、最短の修正を表に固定します。
| 失敗(NG) | なぜ起きるか | 修正(OK) |
|---|---|---|
| 急性期に SLTA をフルで回そうとする | 目的(全体像)と手段(詳細)が逆転する | 急性期は WAB コア+観察で「上限」と「再評価軸」を作る |
| 点数だけを共有して終わる | チームが行動に変換できない | 「できる手段」「難しい場面」「支援の一手」を 3 行で添える |
| 1 回で全部終わらせようとする | 疲労で反応が崩れ、結果が荒れる | 評価を分割し「どこまでできたか」を固定して追う |
| 検査の印象と生活の印象がズレて混乱する | 構造化場面と自然場面の差を見落とす | CADL/会話観察で “生活の強み” を拾い、支援設計に直結させる |
回避の手順/チェック|評価 → 介入 → 共有を 1 本にする
失語評価は「検査」ではなく「意思決定」です。迷わないために、手順を固定します。
- 目的を 1 行で宣言:いまは(全体像/訓練設計/生活支援)のどれか
- 検査を選ぶ: WAB / SLTA / CADL を 1 つ軸にして、必要なら補助を足す
- 結果を翻訳:点数 → 行動(できる/難しい) → 支援(どうすればできる)
- 共有の型: 3 行テンプレで、チームが動ける情報にする
- 再評価の条件を固定:時間帯、疲労、声掛け、提示方法を揃える
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
SLTA ・ WAB ・ CADL は全部やるのが理想ですか?
理想は「全部」ではなく、目的に対して必要十分であることです。急性期は WAB で全体像と重症度、回復期は SLTA で訓練設計、生活期は CADL で生活支援というように、病期と目的で優先順位を決める方が再現性が高くなります。
急性期で疲れやすく、検査が途中で止まります。どう扱えばいいですか?
無理に最後まで進めるより、どこまでできたかを記録して、その範囲で意思決定に必要な情報へ変換します。次回は同条件で再実施し、変化を拾える形にすると、評価が「積み上がる」運用になります。
検査結果をカンファでどう説明すれば伝わりますか?
点数よりも、できる手段と支援の一手が伝わるとチームが動けます。「いま何が起きているか → できる手段 → 次に何をするか」の 3 行で言い切ると、家族説明にも流用できます。
SLTA と WAB の結果が噛み合わず混乱します。
評価場面の構造化の程度が違うため、ズレは起こり得ます。ズレは情報なので、 CADL や会話観察で「生活場面の強み」を拾い、代償手段と環境調整に落とすと整理しやすくなります。
次の一手|運用を整える → 共有の型 → 環境も点検
- 運用を整える:脳卒中の ST 評価まとめ(最小セット)
- 共有の型を作る:SOAP カルテの書き方(テンプレとチェック)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- 日本高次脳機能障害学会(旧 日本失語症学会)関連:標準失語症検査( SLTA )情報(購入案内を含む) 公式ページ
- 医学書院: WAB 失語症検査 日本語版(書籍情報) 書籍詳細
- 心理検査専門所(千葉テストセンター): CADL 実用コミュニケーション能力検査(概要) カタログ
- Strokengine: Western Aphasia Battery( WAB )概要( AQ の説明を含む) 解説
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


