失行ドリル( OT )|観念運動・観念・構成を「混ぜずに」回す
失行の介入で一番つまずきやすいのは、課題そのものではなく「どの失行を見ているのか」が混ざることです。混ざると、手がかりの選び方も記録もブレて、同じ対象者でも「できたりできなかったり」に見えやすくなります。
本記事は、OT が現場で回せるように、観念運動失行( IMA )/観念失行( IA )/構成の問題(構成障害)を分けて、ドリルの型(実施 → 手がかり → 記録 → 生活へ)をまとめます。関連するドリル一覧は 高次脳機能障害ドリル OT ハブ に整理しています。
この記事でわかること
失行の練習を「その場の声かけ」から、比較できる運用に変える手順がわかります。ポイントは、①まず型を分ける(混ぜない)、②手がかりを段階で固定する、③同条件で 2 回は比較してから 1 要素だけ変更する、の 3 点です。
失行は注意・遂行・失語などと重なって崩れ方が変わるため、必要なら 注意障害ドリル( OT ) や 遂行機能障害ドリル( OT ) も併せて確認すると、評価と共有が速くなります。
図版( 30 秒トリアージ)
失行は「どれを見ているか」が混ざると、練習の狙いがぼやけます。まずは以下の図で、模倣/道具・手順/配置のどこが崩れているかを分けます。

まず分ける( 30 秒トリアージ )
| 場面 | 起こりやすい崩れ | 疑う方向 | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| 模倣 | 意味は分かるのに、手の形・方向・タイミングが崩れる | 観念運動失行( IMA ) | 手がかり段階を固定して比較 |
| 道具使用 | 順番が崩れる/道具を取り違える/飛ばす | 観念失行( IA ) | 手順を 3〜5 に固定して反復 |
| 図形・組立 | 配置が崩れる/全体と部分が噛み合わない | 構成の問題(構成障害) | 枠と基準線で比較 |
実施ルール(条件固定で比較する)
失行ドリルは、課題を増やすよりも条件を固定した方が改善が見えます。最小ルールは以下です。
| 項目 | ルール | ねらい |
|---|---|---|
| 課題数 | 1 回 4〜6 課題(同型を反復) | 比較できる |
| 条件 | 姿勢・机・道具配置・開始位置を固定 | 揺れの原因を減らす |
| 手がかり | 段階を固定(次項) | 支援量を共有できる |
| 変更 | 次回は 1 要素だけ変更(課題/段階/条件) | 何が効いたか分かる |
手がかりの順番(弱→強)
失行では「何をどこまで助けたか」を揃えると、介入が積み上がります。手がかりは次の順で固定します。
| 段階 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 0 | 自立 | 無提示で成立 |
| 1 | 言語ヒント | 「最初は何を持つ?」 |
| 2 | 視覚ヒント | 見本提示/手順カード |
| 3 | 模倣 | OT が同時にやって見せる |
| 4 | 身体誘導 | 手を添えて運動を導く |
失行ドリル(型別)
1) 観念運動失行( IMA )|模倣・ジェスチャー
| 課題 | やり方 | 見る点 | 記録 |
|---|---|---|---|
| ジェスチャー模倣 | 同時模倣 → 遅延模倣へ | 手指形・方向・速度 | 崩れ方+段階(0〜4) |
| 象徴ジェスチャー | 敬礼/手を振る 等 | 意味は合うか/形が崩れるか | 近似で成立か |
| 切替 | 2 動作を交互に | 保続/切替不良 | エラー回数 |
2) 観念失行( IA )|道具・手順
| 課題 | やり方 | 見る点 | 記録 |
|---|---|---|---|
| 道具の選択 | 目的に合う道具を選ぶ | 取り違え/迷い | 選択ミス・自己修正 |
| 手順の実行 | 3〜5 手順を固定して反復 | 順序エラー/飛ばし | どこで崩れたか |
| 点検→再実行 | 崩れたら 1 回だけ点検して再実行 | 気づき | 自己修正の有無 |
3) 構成の問題(構成障害)|枠と基準線
| 課題 | やり方 | 見る点 | 記録 |
|---|---|---|---|
| 模写(枠あり) | 枠内に同サイズで模写 | 配置・比率 | 逸脱方向 |
| 枠なし(枠のみ) | 基準線を外す(1 要素だけ変更) | 全体と部分 | やり直し回数 |
| 分割→統合 | 部分→全体の順で組む | 統合の崩れ | つながらない箇所 |
記録の最小セット( 5 項目 )
| 項目 | 書き方 | 次回の打ち手 |
|---|---|---|
| 型 | IMA / IA / 構成 | 混ぜない |
| エラー | 形/方向/順序/取り違え/保続 | エラーに合わせて課題選択 |
| 手がかり | 段階 0〜4 | 次回は 1 段階だけ変更 |
| 自己修正 | あり/なし | 点検タイムを 1 回入れる |
| 一般化 | 更衣/整容/食事での崩れ | ADL の手順へ橋渡し |
失行ドリルの PDF(課題シート)
失行は「型を分ける」+「手がかり段階」+「課題(刺激)」がそろうと、現場で回しやすくなります。以下の課題シートは、IMA/IA(手順)/IA(道具選択)/構成を 4 枚でまとめています。
プレビューを表示する
現場の詰まりどころ
詰まりやすいのは、失行と注意・失語・麻痺が混ざり、見た目の失敗を “失行” だけで説明しようとすることです。まずは模倣( IMA )/道具・手順( IA )/構成(配置)を分けて観察し、手がかり段階を固定して比較してください。
もう 1 つは、身体誘導(段階 4)まで一気に上げてしまうことです。身体誘導は成立させやすい一方、どこで崩れたかが見えにくくなります。段階 1〜3 を先に揃え、必要最小限で成立させます。
よくある失敗
| 失敗 | 理由 | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 課題を混ぜる | 何が効いたか分からない | 1 回は 1 型だけ(IMA/IA/構成) | 型 |
| 手がかりが毎回違う | 比較できない | 段階 0〜4 を固定 | 段階 |
| 身体誘導に頼る | エラーの型が見えない | 言語→視覚→模倣を先に | 崩れ方 |
| 生活へ橋渡ししない | 机上で終わる | 更衣・整容・食事の “手順” へ移す | 生活での崩れ |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 失行と麻痺の区別が難しいです
麻痺は「力が出ない/可動域が出ない」要素が中心で、失行は「やる気はあるのに手順や形が崩れる」要素が中心です。まず模倣( IMA )と道具・手順( IA )を分けて観察すると整理しやすくなります。
Q2. どの手がかりが有効か分かりません
段階(言語→視覚→模倣→身体誘導)を固定して、どこで成立するかを比較します。毎回手がかりを変えると、改善が見えません。
Q3. 生活での失敗に結びつきません
IA(道具と手順)の枠で、更衣・整容・食事などの「手順」を 3〜5 に固定して橋渡しします。机上の成功条件を、そのまま生活の順序へ移すのがポイントです。
Q4. 自己修正ができません
修正の前に「気づき」が必要です。点検タイムを 1 回入れて、どこがおかしいかを言語化または指差しで確認してから再実行します。
次の一手
無料チェックシート で共有フローも整理しておくと、チームでドリルが続きやすくなります。
参考文献
- Goldenberg G. Apraxia and beyond: life and work of Hugo Liepmann. Cortex. 2003;39(3):509-524. DOI: 10.1016/S0010-9452(08)70106-7 / PubMed: 14584557
- Buxbaum LJ. Ideomotor apraxia: a call to action. Neuropsychologia. 2001. DOI: 10.1016/S0028-3932(01)00020-7
- Sunderland A, Shinner C. Ideomotor apraxia and functional ability. Cortex. 2007;43(3):359-367. DOI: 10.1016/S0010-9452(08)70449-7
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


