半側空間無視(USN)の訓練|OTの課題選択・ADL支援

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半側空間無視(USN)の訓練は「どこで崩れるか」から選ぶ

半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN)のリハビリでは、同じドリルを繰り返すだけでなく、どの空間・生活場面で無視が現れ、どの手がかりで行動が変わるかを確認して介入を選ぶことが重要です。机上の探索課題で改善しても、食事・更衣・移動では見落としが残ることがあります。

この記事ではOT向けに、視覚走査、cueing、身体への注意、環境調整、ADL練習を、問題場面 → 反応観察 → 介入選択 → ADLで再確認の順に整理します。介入・反応記録と視覚走査練習に使えるExcel・PDFも掲載しています。

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まず結論|USN訓練は患者の反応から選ぶ

USNでは、紙面課題の成績だけで介入方法を決めるのではなく、無視が現れる場所と行動、手がかりへの反応、ADLへの影響を組み合わせて考えます。

半側空間無視(USN)の介入選択フロー。問題場面の確認、反応観察、介入選択、ADLでの再確認、次回の介入につなげる流れを示す
半側空間無視(USN)は、同じドリルを繰り返すのではなく、問題場面と患者の反応から介入を選び、ADLで効果を再確認します。
USNの所見から考える介入の方向性
観察される問題 追加で確認すること 介入候補 ADLで確認すること
紙面・机上で無視側を見落とす 探索開始位置、走査範囲、誤反応、cueへの反応 視覚走査、視覚的アンカー、言語・視覚cue 読書、書類、食事、物品探索
身体の無視側へ注意が向きにくい 上肢・下肢への気づき、触覚・運動への反応 身体への注意喚起、limb activation、感覚入力を利用した課題 整容、更衣、移乗、上肢使用
机上ではできるが生活場面で崩れる 疲労、注意負荷、二重課題、環境刺激 課題・環境調整、cueing、実際のADL練習 病棟内移動、食事、更衣、整容
移動中に無視側へ接触する 歩行・車いすでの探索、速度、混雑時の変化 移動空間での走査練習、環境調整、安全cue 病棟移動、ドア通過、障害物回避

視覚走査訓練、limb activation、mirror therapy、プリズム、VRなど、USNには複数の介入が報告されています。ただし、すべての患者に同じ方法が適するわけではなく、ADL自立まで含めた効果については不確実性が残ります。そのため、介入方法の名称よりも「その患者の行動がどう変化したか」を追うことが重要です。

訓練前に「どの空間でUSNが出るか」を確認する

USNは、机上の左側だけを見る障害ではありません。身体周囲、手が届く空間、歩行や車いすで移動する空間など、課題と空間によって症状の現れ方が変わります。

USN介入前に確認したい3つの空間
空間 観察例 OTが確認する場面
身体・身体近傍 顔や上肢の無視側へ注意が向かない 整容、更衣、身体部位への接触
到達空間 テーブル上の無視側の物品を見落とす 食事、机上課題、物品操作
移動空間 無視側の壁・人・障害物へ接近する 歩行、車いす、病棟移動

標準化された検査結果だけでなく、更衣や移動などの機能課題で症状を確認することも重要です。また、視野障害、眼球運動障害、注意障害などが併存すると行動の解釈が変わるため、「USNだから見落とした」と単純化しないようにします。

視覚走査訓練|無視側へ探索範囲を広げる

視覚走査訓練は、USNに対して用いられる代表的な介入の1つです。重要なのは、「無視側を見てください」と繰り返すことではなく、どこまで自発的に探索でき、どのcueを加えると探索範囲が変化するかを観察することです。

視覚走査で見るポイント

  • 探索をどちら側から開始するか
  • 正中を越えて無視側まで探索できるか
  • 無視側端まで到達できるか
  • 見落とした後に自分で再探索できるか
  • 視覚的アンカーや言語cueで反応が変わるか
  • 刺激数や背景刺激が増えると見落としが増えるか
  • 疲労や注意負荷で探索範囲が狭くならないか

練習課題は、刺激数や大きさを一律の「初級・中級・上級」に当てはめるのではなく、その患者で観察したい反応に合わせて選びます。課題条件を変えた場合は、その条件と反応を一緒に記録します。

手がかりは「種類」と「反応」をセットで見る

USNでは、視覚、言語、触覚・運動など複数のcueが使われます。決まった順番ですべて試すのではなく、どのcueなら患者自身の探索・動作へつながるかを確認します。

USNで用いる手がかりと観察ポイント
手がかり 例 見る反応
言語cue 「反対側も確認しましょう」などの短い声かけ 声かけだけで探索・動作が変化するか
視覚cue 無視側端の目印、対象物のコントラスト調整 探索範囲や発見までの過程が変わるか
指差し・実演 探索方向や対象物を示す 模倣後に自発的な探索へつながるか
触覚・運動cue 無視側上肢への接触、上肢運動を伴う課題 身体や無視側空間への注意が変化するか
環境cue 物品配置、照明、背景刺激の調整 生活動作の見落としや安全性が変わるか

cueを使って成功した場合も、「できた」とだけ記録せず、cueを外したときにどうなるか、自発的な確認へつながるかを見ます。

身体への注意とlimb activationをどう考えるか

USNでは、外部空間だけでなく無視側の身体への注意が低下していることがあります。この場合、紙面探索だけを続けるより、無視側の上肢・下肢を使う活動や感覚入力を伴う課題の反応を見る方が臨床場面を捉えやすいことがあります。

たとえば、両手で物品を操作する、無視側上肢を活動へ参加させる、整容時に無視側の身体部位へ触れるなど、身体と課題を結びつけます。ただし、麻痺、感覚障害、疼痛、運動失行などがある場合は、USNだけによる反応と考えず、それぞれの影響を分けて評価します。

limb activationなどの介入はUSNの選択肢として挙げられていますが、特定の実施方法や回数をすべての患者へ固定的に適用するものではありません。

机上課題からADLへつなげる

USNの介入では、机上課題で変化が出た後に、実際に困っている生活動作で同じ変化が起こるかを確認します。机上で見落としが減っても、食事や移動で無視が残れば、介入目標はまだ達成していません。

USNをADLで確認するポイント
場面 観察する行動 介入の方向
食事 無視側の料理・食器・飲み物を残す、探索が偏る トレー探索、視覚cue、配置調整、食事動作内での反復
整容 顔・髪・身体の無視側を処理しない 鏡、身体へのcue、触覚入力、セルフチェック
更衣 無視側の袖・裾・衣服を見落とす 身体への注意、視覚探索、実際の更衣動作で練習
物品操作 無視側にある道具へ気づかない 探索範囲を広げるcue、配置調整、課題内での探索
歩行・車いす 壁、人、家具、ドア枠などへ接近・接触する 移動空間での走査、安全cue、環境調整

特に食事や移動など安全性に関係する場面では、患者本人の自発的な確認だけに任せず、病棟スタッフ・家族を含めた環境調整やcueの共有も検討します。

机上ではできるのにADLで崩れるとき

机上課題と生活場面の結果が一致しないことは珍しくありません。この場合は「ドリルの難易度を上げる」前に、課題が変わったことで何が追加されたかを確認します。

机上とADLが一致しないときの確認ポイント
確認すること 例 次に見る反応
注意負荷 会話しながら食事、移動しながら人を避ける 単一課題との差
疲労 訓練後半、午後、食事後半で悪化 時間経過による探索変化
刺激量 病棟、食堂、混雑した廊下 背景刺激を減らした場合との差
身体活動 座位課題では可能だが歩行中は見落とす 姿勢・移動を加えた場合の変化
自己認識 見落としに気づかず修正しない フィードバック後の行動変化

USNは注意機能とも関連するため、注意負荷によって症状が強くなる場合があります。ただし、全般的な注意障害と空間的な偏りは同じではありません。どの条件で行動が崩れるかを整理して、介入の焦点を決めます。

視覚走査以外の介入はどう位置づけるか

USNには視覚走査以外にも、limb activation、mirror therapy、プリズム、VR、感覚刺激、非侵襲的脳刺激など複数の方法が研究されています。

一方、2021年のCochraneレビューでは、非薬物介入についてADLや自立度を改善する特定の方法を高い確実性で支持できるだけの研究は不足しているとされています。ガイドラインでは複数の方法が選択肢として挙げられていますが、患者の症状、実施環境、専門性、安全性を踏まえて選ぶ必要があります。

そのため本記事では、特殊機器や専門的手技の実施方法を一律のドリルとして提示せず、日常のOT場面で確認しやすい視覚走査、cueing、身体への注意、環境調整、ADL練習を中心に扱います。

記録は「何をしたか」より「どう反応したか」を残す

USNの記録では、課題名だけでなく、問題が起きた場面、観察した反応、使った介入・cue、介入後の変化、ADLでの結果を残すと、次回の介入を決めやすくなります。

USN介入記録で整理したい内容
記録内容 記載すること
問題場面 どの空間・ADLで無視がみられたか
観察反応 見落とし、探索範囲、誤反応、自発的修正など
介入・cue 視覚走査、視覚cue、言語cue、身体への働きかけ、環境調整など
反応の変化 何が改善し、何が残ったか
ADLでの確認 食事、更衣、整容、移動などで同じ効果がみられたか
次回の方針 継続する介入、変更する条件、再確認する生活場面

記録例

記録例:食事場面でトレー無視側の副菜を見落とす。口頭cueのみでは探索範囲の変化が乏しかったが、無視側端に視覚的な目印を加えると探索が広がり、副菜に気づいた。食事後半では再度見落としを認めた。次回は疲労前後の変化と、視覚cue使用時の食事動作を再確認する。

このように、回数や点数だけでなく、介入前後で行動がどう変化したかを記録します。

USN介入・反応記録+視覚走査練習シート

今回のリライトに合わせて、旧「条件固定型」の配布物を見直し、問題場面 → 反応観察 → 介入選択 → ADLで確認 → 次回方針の流れで使える資料へ作り直しました。

Excel版は入力・編集しながら使う場合、PDF版は印刷して手書きで使う場合に適しています。介入・反応記録シートと複数の視覚走査練習シートを1つにまとめています。

Excel版|USN介入・反応記録+視覚走査練習シート

記録内容を編集・入力して使いたい場合はこちらを利用してください。

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PDF版|USN介入・反応記録+視覚走査練習シート

A4で印刷し、記録・練習用紙として使いたい場合はこちらを利用してください。

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配布物の位置づけ

このExcel・PDFは、USNの標準化された評価尺度や診断用紙ではありません。OT等が介入時の反応を整理し、視覚走査練習やADLへの橋渡しを検討するための補助資料です。USNの評価・重症度判定には、適切な標準化評価や行動観察を併用してください。

USN介入で避けたい4つの落とし穴

USN介入で重要なのは、決まったドリルを消化することではなく、患者の反応を次の介入へつなげることです。

USN介入で起こりやすい問題と見直し方
落とし穴 問題点 見直し方
紙面課題だけで判断する 生活場面の無視を捉えられないことがある 食事、更衣、移動など機能課題でも確認する
見落とし数だけを見る 探索過程やcueへの反応が分からない 開始位置、探索範囲、自己修正、cueへの反応を見る
同じ介入を全員に使う USNの個別性を反映できない 症状が出る空間・課題と反応から介入を選ぶ
机上で改善して終了する ADLで効果が再現されているか分からない 同じ日に生活動作でも確認する

よくある質問

Q1. USNには視覚走査訓練を最初に行えばよいですか?

視覚走査訓練は代表的な介入候補ですが、すべてのUSN患者で同じ方法を最初に使うとは限りません。身体への無視が強い、言語cueへ反応しにくい、移動場面でのみ症状が目立つなど、患者によって問題の現れ方が異なります。まず症状が出る場面とcueへの反応を確認して介入を選びます。

Q2. 紙面課題で見落としがなくなればUSNは改善したと考えてよいですか?

紙面課題だけでは判断できません。食事、更衣、整容、歩行、車いす移動などでは、刺激量や注意負荷が増えることで無視が現れることがあります。標準化評価と機能課題の両方から確認します。

Q3. 左側を見るよう何度も声をかけても改善しない場合はどうしますか?

言語cueだけを増やすのではなく、視覚的な目印、指差し、身体への感覚入力、環境調整など別の手がかりへの反応を確認します。どのcueで行動が変わるかが、次の介入を選ぶ手がかりになります。

Q4. 机上課題ではできるのに食事や歩行では無視が出ます

注意負荷、疲労、背景刺激、姿勢や移動が加わった影響を確認します。机上課題を難しくするだけでなく、実際に問題が出るADL・移動場面で介入と反応を確認することが重要です。

Q5. 配布Excel・PDFはUSNの評価用紙として使えますか?

標準化されたUSN評価尺度ではありません。介入時の反応整理と視覚走査練習を支援する資料です。USNの評価には、標準化された検査やCatherine Bergego Scaleなどの行動観察評価を目的に応じて使用してください。

次の一手

USNが疑われる段階では、まず机上検査とADL観察を組み合わせて症状の特徴を整理します。生活場面での無視をより体系的に確認したい場合は、CBSなどの行動観察評価へ進みます。


参考文献

  1. Longley V, Hazelton C, Heal C, et al. Non-pharmacological interventions for spatial neglect or inattention following stroke and other non-progressive brain injury. Cochrane Database Syst Rev. 2021;7:CD003586. DOI: 10.1002/14651858.CD003586.pub4 / PubMed: 34196963
  2. Heart and Stroke Foundation of Canada. Canadian Stroke Best Practice Recommendations: Visual and Visual-Perceptual Impairment. Canadian Stroke Best Practices. Accessed September 30, 2026.
  3. Intercollegiate Stroke Working Party. National Clinical Guideline for Stroke for the United Kingdom and Ireland. 2023 ed. Section 4.37 Neglect. National Clinical Guideline for Stroke.
  4. 藤森禎子. 半側空間無視のリハビリテーションの課題とこれからの訓練. リハビリテーション連携科学. 2025;26:12-17. DOI: 10.34507/reharenkei.26.12
  5. 太田久晶. 半側空間無視のみかた. 神経心理学. 2025;41(2):80-87. DOI: 10.20584/neuropsychology.17248

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療・リハビリテーション現場で活用できる実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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