ARAT(上肢機能テスト)実施と採点

評価
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ARAT(Action Research Arm Test)とは?

ARAT は、脳卒中などによる上肢機能を観察的に定量評価する 19 項目のテストです。4 つのサブテスト(Grasp/Grip/Pinch/Gross Movement)で構成され、各項目を 0–3 点で採点、総点 0–57を用います。本稿は「初めてでもこの記事だけで実施・採点・記録まで到達できる」ことを目的に、標準化手順の要点とワークシート(A4)をセットで提供します。

上肢評価の位置づけを3分で把握(PT/OTキャリアガイド)

構成・配点・所要時間

ARAT の概要(19 項目/総点 57)
サブテスト 目的 採点 備考
Grasp把持して持ち上げ・移動各 0–3 点最難/最易のショートカット規則あり
Grip把握保持・移動各 0–3 点時間・難易の基準で 2/3 を判定
Pinch巧緻的つまみ各 0–3 点姿勢・上肢運動要素も観察
Gross Movement粗大上肢運動各 0–3 点総点は 0–57

所要時間の目安は 10–15 分(準備・説明を含めると 15–20 分)。テーブルや棚の高さ、物品配置は再評価で再現できるよう固定して記録します。

実施前チェックと採点ルール(標準化の要点)

  • 説明とデモ:簡潔な口頭指示。非麻痺側での模倣デモは可。
  • 試行回数:原則 1 回(外的要因で無効なら再試行可)。
  • ショートカット規則:各サブテストの最難項目が 3 点なら残りを 3 点扱い、最易項目が 0 点なら残りを 0 点扱い。
  • 2 点と 3 点の分岐:課題は完了したが著しく時間がかかる/顕著な困難がある場合は 2 点。正常・迅速(概ね 5 秒以内)であれば 3 点。
  • 安全配慮:肩痛・亜脱臼に留意し、立位動作は見守りと転倒対策を徹底。

準備物とセットアップ(再現性の肝)

  • 安定した椅子・テーブル、物品(ブロック、ボール等)、ストップウォッチ、記録用紙/筆記具
  • 椅子・テーブル高、棚の段位置、物品の配置は数値で記録し再評価時に同一化

実施のコア手順(要約)

  1. セットアップを確認し、デモを 1 度だけ提示。
  2. 各サブテストは最難→最易の順で評価し、ショートカット規則を適用。
  3. 2/3 の判定では、時間・姿勢・運動要素を総合的に判断。

解釈(スコアの読み方)

ARAT は 0–57 の連続尺度で、研究によりカットポイント提案は異なります。例として「0–12(非常に低い)/13–33(限定的)/34–49(良好)/50–57(高機能)」のような区分が提案されています。MCID は対象や時期で幅があり、概ね 5–17 点のレンジが報告されています。施設では運用する域値を決め、カンファで共有しておくと解釈の一貫性が高まります(介入方針は 臨床フロー も参照)。

関連:Fugl-Meyer Assessment(FMA)完全ガイド も参照。

よくあるミス/中止基準(早見表)

ARAT 実施時の OK / NG と中止判断
場面 OK(推奨) NG(避ける) 中止・再評価
セットアップ高さ・配置を固定して記録毎回配置が変わる痛み増悪・バイタル逸脱
採点ショートカット規則を適用規則無視の全項目実施理解困難・疲労蓄積
安全管理監視・転倒対策・動線確保無監視・急激な負荷肩痛悪化で中断

ARAT スコアシート(A4・印刷用|自作ワークシート)

配点構造と記入欄のみの自作シートです(項目の逐語掲載は行いません)。

ARAT スコアシートを開く

別タブで開く(表示が崩れる場合)

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

ARAT と FMA-UE の違いは?併用した方がいい?

FMA-UE は運動障害(インペアメント)寄り、ARAT は活動(能力)寄りの評価です。回復過程や介入効果の把握では併用が推奨されます。

ショートカット規則は必ず使う?

標準化スコアリングに含まれる要点です。最難 3 点で残り 3、最易 0 点で残り 0 の扱いにより、所要時間を短縮しつつ再現性を担保します。

所要時間の目安は?

準備を除き 10–15 分程度。初回は説明・セットアップで 15–20 分を見込むと安全です。

運用プロトコル(導入の最短ルート)

  1. 対象と目的を明確化(例:FMA-UE と併用した上肢能力の追跡)。
  2. 本記事の手順+ワークシートでパイロット → 二重採点で基準合わせ。
  3. 定点観測の時点固定(入院時/ 2 週/ 4 週/ 退院時など)。
  4. MCID/域値の運用基準をチームで共有し、臨床フローに組み込み。

参考文献(一次情報・公的資料中心)

  1. Lyle RC. A performance test for assessment of upper limb function in hemiplegia. Scand J Rehabil Med. 1981.(原著)
  2. Yozbatiran N, Der-Yeghiaian L, Cramer SC. A standardized approach to performing the Action Research Arm Test. Neurorehabil Neural Repair. 2007;21(2):160–167. doi:10.1177/1545968306286951
  3. RehabMeasures Database – ARAT 概要(構成・配点・プロトコル)Link
  4. StrokEngine – ARAT 概要 Link
  5. van der Lee JH, et al. Clin Rehabil. 2001(ショートカット規則の有用性)
  6. Grattan ES, et al. Arch Phys Med Rehabil. 2018(総点指標の報告と解釈)
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