要介護認定で「評価依頼」が来る理由(主治医意見書・認定調査)
介護保険の要介護認定では、認定調査(基本調査+特記事項)と、医師が記載する主治医意見書がセットで審査に使われます。現場でリハ職に依頼が来やすいのは、移動・移乗・ ADL の「介助の手間」を、条件つきで具体化できるからです。
ポイントは「できる/できない」よりも、どの条件で(補助具・環境・見守り)/どれくらいの手間が/どの頻度で生じるか。これが揃うと、調査票や意見書の特記事項に落ちやすく、手戻りが減ります。書類依頼の全体像は、こちらでまとめています。
まず確認する 4 点(ここが曖昧だと手戻りが増える)
依頼を受けたら、測定や評価に入る前に「何を、どの条件で、いつの状態として」返すかを合わせます。要介護認定は、様式・運用が更新されることがあるため、依頼元が使う最新の様式で揃えるのが安全です。
とくに補助具の扱いと評価の時点が揃わないと、同じ情報でも意味がズレます。
※スマホでは表を横スクロールしてご覧ください。
| 確認ポイント | なぜ重要か | 聞き返す一言(例) |
|---|---|---|
| ① 目的(主治医意見書/特記事項/ケアプラン) | 「介護の手間」を強くしたいのか、医学的留意点を足したいのかで返す情報が変わる | 「どこ(意見書/特記事項)に反映する想定ですか?」 |
| ② 時点(直近 1 か月/固定後/退院直後など) | 要介護認定は一定期間の実態が重要で、単発の“最大能力”は弱い | 「直近の生活実態(概ね 1 か月)として整理しますか?」 |
| ③ 評価条件(屋内外/環境/介助者) | 同じ歩行でも、廊下と屋外・段差で手間が変わる | 「屋内(病棟)想定か、在宅・屋外想定か、どちらで揃えますか?」 |
| ④ 補助具・装具の扱い(あり/なし) | 条件が混ざると解釈不能。原則は“普段の生活条件”で揃える | 「杖・装具は普段どおり“あり”で統一して良いですか?」 |
最小セット|まずはこの 6 つを揃える(PT 版)
要介護認定で強いのは、介助の手間(何を・どれくらい・どの頻度で)が想像できる情報です。迷ったら、移動・移乗 → 排泄・入浴 → 安全(見守り) → 補助具 → 疲労・痛み → 変動の順で整理すると、特記事項に落としやすくなります。
「数値( ROM )」は、動作の止まり所や介助の理由に直結する範囲だけを、条件つきで添えると効率的です。
| 項目 | 最低限の書き方 | 記録ポイント(例) |
|---|---|---|
| 移動(歩行/車いす) | 屋内外/距離/介助量/休息/危険サイン | 「屋内: T 字杖・監視、 20 m で休息。方向転換でふらつき」 |
| 移乗(ベッド・トイレ・浴槽) | どこで詰まるか+必要な手すり/介助 | 「立ち上がりで膝折れ。手すり必須で 1 人監視」 |
| ADL (排泄・更衣・入浴) | 介助量+できない理由+場面 | 「浴槽またぎで疼痛・恐怖が強く、介助なしは危険」 |
| 見守り(安全) | 転倒リスク/注意障害/危険行動の有無 | 「段差で足が出ない。見守りがないと転倒リスク高い」 |
| 補助具・装具 | 種類/使用場面/“ないと何が起きるか” | 「屋外は杖必須。なしでは 10 m 以内でふらつき増悪」 |
| 疲労・痛み・変動 | 午前/午後、訓練後などの変化と手間への影響 | 「午後に疼痛増悪。移乗で介助量が増える(監視→一部介助)」 |
歩行・移乗の書き方テンプレ(距離+介助量+安全)
歩行や移乗は「できる」だけだと弱く、要介護認定では介護の手間に変換できません。距離/介助量/安全上の理由を 1 行にまとめると、特記事項に転記しやすくなります。
おすすめは、次のテンプレに当てはめる書き方です。
| 要素 | 書く内容 | 例文 |
|---|---|---|
| 場面 | 屋内/屋外、段差、トイレ、浴室など | 「屋内廊下(段差なし)」 |
| 条件 | 補助具・装具、手すり、靴など | 「 T 字杖+手すり」 |
| 距離・回数 | m 、回数、連続時間 | 「 20 m で休息」 |
| 介助量 | 自立/見守り/一部介助/全介助 | 「見守り」 |
| 理由(手間) | ふらつき、膝折れ、立ちくらみ、疼痛など | 「方向転換でふらつき」 |
| NG 例 | なぜ弱いか | OK 例 |
|---|---|---|
| 「歩行:可能」 | 距離・介助・安全が不明で、手間に変換できない | 「屋内:杖・見守り、 20 m で休息。方向転換でふらつき」 |
| 「移乗:見守り」 | どこで危険かが不明 | 「立ち上がりで膝折れ。手すり必須で監視」 |
| 「段差:注意」 | 介助が必要な理由・頻度が不明 | 「段差で足が出ず停止。毎回声かけと身体支持が必要」 |
ADL を短文化するコツ(介助量+理由+場面)
要介護認定で効くのは、 ADL の“結果”ではなく介助が発生するポイントです。そこで介助量+できない理由+場面を 1 行で具体化します。
文章は長くしなくて大丈夫です。むしろ 1 行で具体が強いです。
| 項目 | NG 例 | OK 例( 1 行で具体) |
|---|---|---|
| トイレ動作 | 「排泄:介助」 | 「立位保持が不安定で、更衣操作に一部介助(転倒リスク)」 |
| 入浴 | 「入浴:不可」 | 「浴槽またぎで疼痛・恐怖が強く、介助なしでは危険」 |
| 更衣 | 「更衣:見守り」 | 「袖通しで片手操作が詰まり、介助者の手出しが必要」 |
| 屋外移動 | 「外出:できる」 | 「屋外:杖で 30 m まで。段差は身体支持が必要」 |
特記事項に落とす型(介護の手間+頻度)
特記事項は、審査会が介護の手間を判断できるように、具体的な内容と頻度を書くことが重要です。調査票の選択(できる/できない、介助あり/なし)だけでは説明しきれない部分を、 1〜 2 行で補強します。
おすすめは「手間(何をする)+頻度(どれくらい)+リスク(放置すると何が起きる)+条件(補助具・環境)」の順です。
| 要素 | 書く内容 | 例文 |
|---|---|---|
| 手間 | 介助者が実際にしている介助 | 「立ち上がりで身体支持が必要」 |
| 頻度 | 毎回/ 1 日数回/週数回など | 「トイレのたびに( 1 日 5 回程度)」 |
| リスク | 転倒、誤嚥、疼痛増悪など | 「見守りなしでは転倒リスクが高い」 |
| 条件 | 補助具・環境・時間帯 | 「手すり使用、午後は疲労で介助量が増える」 |
現場の詰まりどころ(よくある失敗)
よく詰まるのは、この 2 つです。(リンク先はこの記事内の該当節です)
| NG (起こりがち) | なぜ弱いか | OK (直し方) |
|---|---|---|
| 「歩行:可能」だけ | 手間(見守り・身体支持)が判断できない | 距離/介助量/危険サインを 1 行で足す |
| ADL が「介助」だけ | どの動作で、なぜ介助かが不明 | 介助量+理由+場面を 1 行で具体化する |
| 補助具条件が混在 | 装具あり/なしが混ざると解釈不能 | “普段の生活条件”で統一し、例外は注記 |
| 最大能力の一発勝負 | 普段の実態とズレて、手間が見えない | 直近の生活実態(概ね 1 か月)でまとめる |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 補助具・装具は「あり」で評価していいですか?
原則は普段の生活条件(使っている状態)で揃えるのが安全です。評価条件を明示したうえで、装具あり/なしのどちらかに統一します。例外(屋外だけ杖が必要など)がある場合は、場面を分けて 1 行で補足します。
Q2. 「できるけど危ない(転倒しそう)」はどう書けばいいですか?
要介護認定では安全確保の手間が重要です。「できる/できない」だけで終わらず、見守りが必要な理由(ふらつき、膝折れ、注意低下など)と、どの場面で起きるかを 1 行で残すと、特記事項に落としやすくなります。
Q3. 疲労や痛みで日内変動があります。どうまとめますか?
変動は“条件”として価値があります。午前/午後など理解しやすい単位で「どの方向に変わるか」「介助量がどう変わるか」を短く書きます。例:「午後は疼痛増悪で、移乗が監視→一部介助に増える」。
Q4. 依頼が曖昧で、何を返せばいいか分かりません。
この場合は、まず目的(意見書/特記事項)を確認し、最小セット(移動・移乗・ ADL ・見守り・補助具・変動)だけを先に揃えます。最初から全部盛りにすると条件が混ざりやすく、手戻りが増えます。
次の一手(現場で回る形にする)
書類対応は「個人の頑張り」で回すほど消耗します。まずは、最小セットと 1 行テンプレをチームで共通言語にすると、手戻りが減ります。
- 共有の型を作る:歩行・移乗と特記事項の 1 行テンプレを、チームの標準にする
- 運用を整える:依頼時の 4 点確認(目的・時点・条件・補助具)を固定する
- 環境の詰まりも点検:教育体制や標準化が噛み合わないなら、外部の選択肢も確認する
参考文献
- サービス利用までの流れ(介護保険の解説)
- 要介護認定における「認定調査票記入の手引き」
- 基本調査及び特記事項の記載方法と留意点(PDF)
- 主治医意見書(様式例)(PDF)
- 介護保険最新情報(要介護認定の見直し関連)(PDF)
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


