はじめに|2026 年に「日本糖尿病療養指導士」を目指す理由
専門資格をキャリアにどう活かすか整理する( PT キャリアガイド )
日本糖尿病療養指導士( Certified Diabetes Educator of Japan:CDEJ )は、糖尿病療養指導に関する知識と実践力を認定する資格で、看護師・管理栄養士・薬剤師・臨床検査技師・理学療法士の 5 職種を対象としています。糖尿病患者さんへの教育・運動療法・食事指導・自己管理支援などを、多職種で一貫してサポートすることが求められる時代に、「療養指導のプロ」としての共通言語を持てるのが大きな特徴です。
第 26 回認定試験( 2025 年度実施)は CBT 方式( 80 問・ 120 分)に切り替わり、今後もガイドブックや更新制度の見直しが続く流れにあります。 2026 年以降に受験を考えている方にとっては、「旧制度の情報」と「新しい CBT 形式」の両方が混在していて、何から押さえればよいか分かりにくいかもしれません。本記事では、 2026 年受験を目指す医療職、とくに PT ・ OT ・ 管理栄養士を念頭に、受験資格の確認から自験例記録の準備、 CBT 試験対策、現場での活かし方までを一気通貫で整理します。細かな日程や要件は変更される可能性があるため、最終的には必ず日本糖尿病療養指導士認定機構の公式情報を確認してください。
日本糖尿病療養指導士(CDEJ)とは?
日本糖尿病療養指導士( CDEJ )は、日本糖尿病療養指導士認定機構が認定する資格で、「糖尿病患者の療養指導に携わる医療職の質を高めること」を目的としています。対象となる職種は、看護師・管理栄養士・薬剤師・臨床検査技師・理学療法士の 5 職種で、それぞれの専門性を活かしつつ、共通の基盤知識と実践力を持つことが求められます。資格は 5 年ごとの更新制で、学会参加や研修受講、症例経験などによるポイント制で維持していく仕組みです。
CDEJ の特徴は、「糖尿病の診断や薬物療法の知識」だけでなく、「患者教育・行動変容・多職種連携・継続支援」までを一体として扱う点にあります。血糖コントロールや合併症予防に直結する療養行動を、患者さん自身が日常生活の中で続けていけるよう、多職種で支える視点が重視されます。リハ職にとっては、運動療法やフットケアだけでなく、退院後の生活設計にまで踏み込んだ支援がしやすくなる資格と言えます。
2025〜2026 年の制度と試験形式のポイント
近年の大きな変更点として、認定試験が CBT 方式に一本化され、 80 問・ 120 分の多肢選択式試験になったことが挙げられます。従来はマークシート形式の筆記試験でしたが、現在は全国のテストセンターでコンピュータを用いて受験するスタイルです。問題数は 80 問と一見少なく感じられるものの、設問ごとの情報量が多く、ガイドブック全体から満遍なく出題されるため、決して楽な試験ではありません。
また、認定後の更新制度についても、 2026 年度以降に要件が見直される予定とされています。これまで以上に「継続的な学び」や「療養指導の実践」が重視される方向であり、取得したら終わりではなく、糖尿病療養指導に関する最新の知見やガイドラインをフォローし続ける姿勢が求められます。こうした流れを踏まえると、「一度きりの資格試験」ではなく、「糖尿病ケアを専門的に学び続ける覚悟があるか」を自分自身に問う機会として位置づけるのが現実的です。
受験資格と勤務先の条件
CDEJ の受験資格は、大きく分けて「基礎資格」と「実務経験」の 2 本柱で構成されています。基礎資格としては、看護師・管理栄養士・薬剤師・臨床検査技師・理学療法士のいずれかの国家資格を有していることが必須条件です。作業療法士・言語聴覚士は対象外ですが、PT ・ 管理栄養士・薬剤師など多職種が共通の枠組みで学べる点に、この資格の特徴があります。
実務経験については、糖尿病診療に携わる医療施設において、過去 10 年以内に通算 2 年以上、かつ通算 1,000 時間以上の糖尿病療養指導に従事していることが求められます。また、勤務先の要件として、糖尿病専門医・糖尿病薬物療法を行う医師が在籍していること、糖尿病患者の教育やカンファレンスが行われていること、などが条件として挙げられます。自施設が要件を満たしているかどうかは、日本糖尿病療養指導士認定機構の公式サイトに掲載されている受験要項を必ず確認し、勤務証明書の書式や記載ルールも合わせてチェックしておく必要があります。
取得までの 5 ステップ(2026 年版の手順)
CDEJ 取得までの流れを、 2026 年受験をイメージして 5 つのステップに整理すると、次のようになります。
- ステップ 1:受験資格と勤務先要件の確認 – 自分の職種・勤務年数・療養指導の時間数が条件を満たしているかを確認し、勤務証明書を作成してもらえるか所属長・事務部門に相談します。
- ステップ 2:受験者用講習会の受講 – 認定機構が指定する受験者用講習( e ラーニングや集合研修)を受講し、修了証を取得します。講習はガイドブックのエッセンスを押さえる内容なので、早めに受講しておくと勉強の全体像がつかみやすくなります。
- ステップ 3:自験例記録( 10 例)の作成 – 糖尿病患者さん 10 例の療養指導に関する記録(自験例)をまとめます。診断名や治療内容だけでなく、患者さんの生活背景・指導の方針・具体的な支援内容・指導後の変化などを、フォーマットに沿って整理する必要があります。
- ステップ 4:申請書類一式の提出 – 勤務証明書・講習修了証・自験例記録 10 例など、必要書類をまとめて認定機構に提出します。書類不備があると試験が受けられないため、提出期限から逆算して余裕をもって準備することが重要です。
- ステップ 5:CBT 試験( 80 問・ 120 分)への受験 – 申請が受理されると、 CBT 試験の受験期間にテストセンターで試験を受けます。糖尿病療養指導ガイドブックを中心に、診断・治療・合併症・食事・運動・心理・社会資源など広い範囲から出題されます。
この一連のプロセスは、申込から合否発表までおおよそ 1 年弱の長丁場です。仕事との両立を考えると、「今年は自験例を集める年」「来年は CBT 受験まで走り切る年」といった具合に、複数年計画で臨むことも選択肢になります。
糖尿病療養指導ガイドブックを使った勉強ロードマップ
試験対策の中心になるのは、日本糖尿病療養指導士認定機構が発行する「糖尿病療養指導ガイドブック」です。まずはガイドブックを通読して、糖尿病の病態・診断基準・薬物療法・シックデイ対応・合併症・食事療法・運動療法・フットケア・心理社会的支援・地域連携など、大まかな章立てとキーワードをつかみます。そのうえで、受験者用講習で配布される資料や講義内容を紐づけて整理すると、理解が深まりやすくなります。
忙しい現場で勉強時間を捻出するには、「インプット期」「整理期」「アウトプット期」の 3 段階に分けて考えるのがおすすめです。インプット期はガイドブックの通読と講習視聴、整理期は自験例や日々の症例と照らし合わせながら要点をノート化する時期、アウトプット期は CBT 形式の問題集や模擬問題を時間を測りながら解く時期です。学び方の大枠を整える際には、キャリア全体の学び方をまとめた学び方の流れも参考になると思います。
PT ・ OT ・ 管理栄養士は CDEJ をどう活かせるか
理学療法士にとって CDEJ を取得する意義は、運動療法やフットケアだけでなく、「糖尿病療養指導の一員」として患者さんに関わる視点を強められる点にあります。血糖コントロール・低血糖リスク・合併症(網膜症・腎症・神経障害・足病変など)を踏まえて、どのような運動処方が安全か、日常生活の活動量をどう調整していくか、といった判断をチームと共有しやすくなります。入院中だけでなく、退院後の生活や職場復帰を見据えた運動指導に説得力が増すのも利点です。
管理栄養士にとっては、食事療法と療養行動をつなぐコミュニケーションの枠組みを整理し直す機会になります。食事指導だけが単発で終わるのではなく、運動・服薬・自己測定・フットケアなど多方面の支援と連動させるための思考法が身につきます。薬剤師・臨床検査技師にとっても、薬物療法の副作用や検査結果を、患者の生活行動に結びつけて説明できる力が鍛えられます。作業療法士は CDEJ の対象外ですが、糖尿病患者さんの生活支援・就労支援に関わることが多く、学んだ内容をチーム内で共有してもらえると、より一体感のある療養支援につながります。
現場の詰まりどころ
まず多いのは、「自験例記録 10 例のハードルが高い」という声です。日々の業務の中で、指導内容や患者さんの変化を丁寧に記録し続けるのは簡単ではなく、「気づいたら締切直前で、慌ててカルテをさかのぼっている」という状況になりがちです。こうした事態を防ぐには、受験を意識し始めた時点で、「今月は 1 例だけ丁寧に記録する」といった小さな目標を立てておくと良いでしょう。フォーマットに沿って記録する習慣がつけば、残りの症例も段々とまとめやすくなります。
もう一つの詰まりどころは、「ガイドブックが分厚くて、どこから手を付ければよいか分からない」という問題です。すべてを完璧に暗記しようとすると挫折しやすいため、まずは「頻出テーマ(病態・薬物・合併症・食事・運動・シックデイ)」に絞ってざっくり全体像をつかむのがおすすめです。そのうえで、自分の職種に直結する領域( PT なら運動・フットケア、管理栄養士なら食事・栄養、薬剤師なら薬物・副作用など)を深掘りし、残りは CBT 用の問題演習で押さえていくと効率的です。
よくある質問
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理学療法士でも日本糖尿病療養指導士(CDEJ)を受験できますか?
はい、CDEJ の受験対象となる 5 職種のひとつに理学療法士が含まれています。ただし、基礎資格を持っているだけでは足りず、糖尿病診療に携わる医療施設での実務経験(通算 2 年以上・ 1,000 時間以上など)が必要です。リハビリテーション科での運動療法やフットケア、患者教育などがどの程度「糖尿病療養指導」としてカウントされるかは、受験要項や勤務証明書の記載に依存するため、日本糖尿病療養指導士認定機構の公式情報を確認したうえで、所属長・事務部門に相談すると安心です。
作業療法士・言語聴覚士は CDEJ を受験できますか?
現行の制度では、CDEJ の受験対象職種は看護師・管理栄養士・薬剤師・臨床検査技師・理学療法士の 5 資格に限定されています。そのため、作業療法士・言語聴覚士は、CDEJ としての受験資格を満たしません。ただし、同じチーム内で働く OT ・ ST が糖尿病療養指導に深く関わるケースは多く、CDEJ を取得した PT ・ 管理栄養士・薬剤師などと協働しながら、生活支援やコミュニケーション支援の視点を共有していくことには大きな意味があります。
どのくらいの勉強時間が必要ですか?CBT 80 問 120 分が不安です。
必要な勉強時間はバックグラウンドによって差がありますが、目安としては「ガイドブックを 2~3 周+問題集や模試でのアウトプット」をこなせる程度の時間があると安心です。CBT 80 問 120 分は、単純計算で 1 問あたり 1.5 分ですが、読み込む情報量が多い問題も含まれるため、時間に余裕があるとは言えません。普段から問題集を使って「 20 問を 30 分で解く」「 40 問を 60 分で解く」といった練習を行い、画面上で問題を読むことにも慣れておくと、本番の負担が軽くなります。
合格しても職場での評価や給与が変わらない場合、取る意味はありますか?
CDEJ は、必ずしも全ての職場で手当や昇格に直結する資格ではありませんが、糖尿病療養指導の場面で「この人に相談すれば安心」という信頼を得やすくなるのは事実です。また、他職種からの相談が増えることで、カンファレンスでの役割や院内でのポジションが変化することもあります。将来的に糖尿病専門外来・教育入院・地域連携などに軸足を移したいと考えている場合や、転職時に糖尿病領域の強みを示したい場合には、十分に意味のある投資と言えます。資格そのものだけでなく、準備過程で身につく知識とネットワークも含めて価値を判断するのがおすすめです。
おわりに
日本糖尿病療養指導士( CDEJ )は、糖尿病ケアに関わる医療職が「療養指導の専門家」としての軸を作るための資格です。一方で、自験例 10 例の作成やガイドブックのボリューム、CBT 80 問 120 分という負荷を考えると、「今の働き方のままで本当に準備できるのか」と迷うのも自然なことです。まずは受験資格や勤務先要件を確認し、今すぐ受験するのか、数年かけて症例と経験を積み上げていくのかを含めて、自分なりのタイムラインを描いてみてください。
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著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

