複合感覚の評価手順|図解と記録シート付

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複合感覚の評価手順|二点識別覚・立体覚・数字書字覚の見方

複合感覚は「感覚検査全体 → 基本感覚 → 複合感覚」の順で整理すると、評価の抜け漏れが減ります。

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神経学的評価ハブで関連評価を確認する
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複合感覚の評価で決まるのは、「触れていることはわかるのに使いにくい」患者さんで、どの段階の情報統合が詰まっているかです。本記事は、 PT がベッドサイドで複合感覚をどう実施し、どう記録し、どう ADL や転倒リスクの説明につなげるかを短時間で整理できるようにまとめています。

対象は、感覚障害の局在や実用場面への影響を見極めたい場面です。ここで答えるのは「今日の評価をどう回すか」であり、表在感覚・深部感覚の詳細手順や神経学的評価の全体像は親記事やハブへ譲ります。二点識別覚・立体覚・数字書字覚を 5 分フロー → 記録語彙 → A4 記録シートまで 1 本でつなげて確認できるようにしました。

評価の型は、個人の努力だけで安定するとは限りません。今の職場で教育体制が薄い、相談相手が少ない、記録の型がそろいにくいと感じるなら、学び方と環境の整え方も先に整理しておくと動きやすくなります。

評価を「実施して終わり」にしないために、学び方と環境の整え方もまとめて確認しておきましょう。 PT キャリアガイドを見る

まずは 5 分フロー(短時間で回すスクリーニング)

時間が限られる場面でも、複合感覚を “飛ばさない” ための最小セットです。初回は「左右差」と「反応様式(誤認/遅延/探索延長)」を拾い、必要時にフルバッテリーへ拡張します。

複合感覚は、表在感覚や深部感覚が十分に入っているかを前提に解釈する評価です。触覚や位置覚の結果と切り離さず、「入力の問題」なのか「統合の問題」なのかを意識して進めます。

複合感覚の評価の流れをまとめた図版
図:複合感覚の評価は、前提確認 → 最小評価 → 記録と解釈の順で整理すると、短時間でも流れを保ちやすくなります。

図版で全体像を確認してから下の表に進むと、「どこまで見れば初回として十分か」がつかみやすくなります。ベッドサイドでは、まず前提条件をそろえた上で、二点識別覚と立体覚を軸に進め、必要時に数字書字覚を追加する流れが使いやすいです。

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複合感覚を 5 分で回す最小フロー(成人・ベッドサイド)
順番 項目 やること 見るポイント
準備 視覚遮蔽・健側で練習 1〜2 回・回答形式を固定 理解/注意の乗りを確認
二点識別覚 1 点/2 点をランダム提示(距離は 2〜3 段階) 左右差・一貫性・迷い方
立体覚 小物 3 種(例:硬貨/消しゴム/クリップ)で識別 誤認・探索延長・途中放棄
追加(必要時) 数字書字覚をランダム 5 回前後実施する 誤読パターン・反応遅延

準備と標準化(視覚遮蔽・練習・ダミー)

複合感覚検査では、静かな環境と安定した体位を確保し、「これから触っているものを当ててもらいます」など目的と流れを短く具体的に説明します。視覚遮蔽(閉眼またはアイマスク)を徹底し、健側で 1〜2 回の練習試行を行い、回答形式(名称・用途・二択など)をそろえます。

提示はランダムとし、ダミー刺激を 20〜30 % 混在させ、一定のリズムや誘導的な声掛けは避けます。記録は左右・部位・条件(体位・視覚遮蔽の有無・練習の有無など)を統一フォーマットで残し、誤認・遅延・無反応・探索延長といった質的所見も合わせて書いておくと再評価でぶれにくくなります。

二点識別覚:装置・提示法・最小弁別の見方

二点識別覚は、二点計または 2 本の綿棒などを用いて、 1 点刺激と 2 点刺激をランダムに提示し、最小弁別距離を推定します。接触は一定の強さ・一定時間で垂直に当て、皮膚滑走は避けます。部位ごとに距離を段階的に変化させ、連続正答を基準に「この距離なら 2 点とわかる」というラインを決めます。

見るべきは、最小弁別距離そのものだけではありません。左右差・部位差・一貫性が重要で、表在感覚の低下や注意力低下が混在すると偽陽性・偽陰性が生じやすくなります。標準値の暗記よりも、まずは相対比較(左右差・経時変化)を軸にすると解釈しやすいです。

立体覚(ステレオグノーシス):対象選定と誤認の解釈

立体覚では、硬貨・消しゴム・クリップなど、形状と質感が異なる 3〜5 種類の小物を準備します。片手ずつ視覚遮蔽下で触知してもらい、名称または用途を答えてもらいます。同じ対象が連続しないようにランダム提示とし、片側ずつ完結させる方法か、左右交互に提示する方法かをあらかじめ決めておきます。

判定では、正答・誤認・無反応に加え、探索に時間がかかる、途中であきらめる、持ち替えが増えるなどの質的特徴を拾います。片側のみ障害が目立つ場合は、対側半球の体性感覚皮質や連合野の関与が疑われます。半側空間無視・失語・失行が混在する症例では、理解や注意、運動プログラムの影響も備考に残しておくと解釈しやすくなります。

数字書字覚(グラフィエステジア):描記法と誤読パターン

数字書字覚は、掌に数字を一定速度(例: 1 桁 1〜2 秒)で描記し、即時に読み上げてもらう検査です。左右交互か片側まとめて行うかを統一し、数字の種類や順番はランダムにします。同じ数字を続けて提示することは避け、軽く触れるだけのダミー刺激も挿入します。

見るポイントは、正答率だけでなく誤読の型です。特定の数字だけ誤る、上下・左右が逆転しやすい、左右差が大きい、回答が極端に遅いといった特徴は、皮質での統合低下を示唆します。二点識別覚や立体覚と組み合わせると、「どこで情報処理が破綻しているか」を整理しやすくなります。

代表項目と実施要点(ダイジェスト表)

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複合感覚の代表項目と実施要点(成人・ベッドサイド)
項目 手順ダイジェスト 判定の着眼 注意点
二点識別覚 1 点・2 点をランダム提示し、距離を段階調整して最小弁別距離を推定する。 左右差・部位差・連続正答の有無を確認し、相対比較を重視する。 皮膚滑走は避け、触覚低下や注意低下の影響を併せて評価する。
立体覚 形状・質感が異なる 3〜5 品を片手ずつ触知させ、名称または用途を答えてもらう。 誤認・探索延長・無反応など質的所見を記録し、左右差を確認する。 半側空間無視・失語・失行の影響を評価し、必要に応じて回答方法を調整する。
数字書字覚 掌に数字を一定速度で描記し、即時に読み上げを求める。 正答率・誤読パターン・左右差・反応時間をあわせて評価する。 数字の形の共有を練習で確認し、描記速度や強度を一定に保つ。

信頼性を上げる要点(連続正答・ダミー・一貫性)

複合感覚は、注意・理解・実行の 3 要素が大きく影響するため、「連続正答」「ダミー挿入」「一貫性」の 3 点を意識すると信頼性が高まります。各項目で「連続何回正答したら成立とみなすか」をあらかじめ決め、ダミー刺激を 20〜30 % 入れて “当てずっぽう” の正答を減らします。

一貫性が低い場合は同日または翌日に再検し、「状態のゆらぎ」なのか「手順の問題」なのかを切り分けます。失語や高次脳機能障害がある場合には、名称回答にこだわらず、指差しや二択カードなど回答形式を調整し、その工夫内容を記録に残すことで、複合感覚障害とコミュニケーション障害を区別しやすくなります。

現場の詰まりどころ(時間制約と役割分担)

複合感覚検査で詰まりやすいのは、「時間がないので飛ばしてしまう」「 OT ・ ST の領域と考えて PT が十分に触れていない」「結果を生活場面に結び付けにくい」の 3 点です。評価時間が限られると、二点識別覚だけに偏り、立体覚や数字書字覚を省略しがちですが、それでは皮質レベルの障害像が見えづらくなります。

また、上肢機能や ADL に関わるからといって他職種任せにすると、「歩行・バランス・転倒リスク」に感覚障害がどう効いているかが不明瞭になります。短時間でも「二点識別覚+立体覚」のようにセットで組み込み、評価結果を立位課題や歩行練習、環境調整へ反映させることが、 PT にとっての実用的な使い方です。

記録テンプレ(語彙統一)

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複合感覚 記録シート(成人・ベッドサイド)
項目 所見 / 語彙 備考
二点識別覚 最小弁別距離: xx mm 最小弁別距離: xx mm 左右差あり / なし・連続正答の有無 使用装置・距離段階・体位など
立体覚 正答 / 誤認 / 無反応 正答 / 誤認 / 無反応 探索延長・遅延の有無 対象の種類・片手 / 両手・回答形式
数字書字覚 正答率 xx %・誤読傾向 正答率 xx %・誤読傾向 反応遅延・一貫性の有無 描記速度・練習試行の有無

記録シート PDF ダウンロード

複合感覚の評価をそのまま記録したい方へ、A4 1 枚で使える記録シートを用意しました。二点識別覚・立体覚・数字書字覚の流れを、現場で書き込みやすい形にまとめています。

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よくあるミスと対策( OK / NG 早見)

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実施の質を上げる OK / NG(複合感覚)
場面 OK(推奨) NG(避ける) 理由 / メモ
説明・理解 短く具体的に説明し、健側で練習試行を行う。 抽象的な説明だけで本番に入る。 理解不足により偽陽性・偽陰性が増え、複合感覚障害と誤解しやすい。
提示設計 ランダム提示にダミー 20〜30 % を混在させる。 一定の順番やリズムで刺激を出す。 患者がパターンを学習し、“当てずっぽう” の正答が増えてしまう。
記録 語彙・略語を統一し、左右 / 部位 / 条件を明記する。 自由記載のみで詳細条件を残さない。 再評価との比較や多職種共有がしにくくなる。

関連評価との統合(臨床での使い方)

複合感覚の所見は、表在感覚・深部感覚と統合して、局在推定や方針へ反映します。例えば、立位・歩行の安全性では、荷重コントロールや支持基底面の探索が乱れていないかを観察し、「どの情報(接地感覚/足趾の位置感覚/物体認知)が欠けると崩れるか」を言語化すると介入に落とし込みやすくなります。

また、複合感覚の訓練は “手の課題” に閉じず、「目を閉じて物を探す」「形や用途を当てる」などの識別課題を、立位・移乗・更衣などの機能課題に組み込むと再学習につながりやすくなります。検査 → 解釈 → 日常場面への落とし込みまで、 1 本のストーリーで説明できる状態を目標にします。

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

複合感覚の検査は、すべての患者さんに行うべきでしょうか?

全例にフルセットを行う必要はなく、「感覚障害が疑われる」「 ADL の割に筋力・運動機能だけでは説明しにくい」「高次脳機能障害がありそうだが、どこがボトルネックか不明」といったケースを優先すると効率的です。初回評価では二点識別覚+立体覚を行い、結果や訴えに応じて数字書字覚を追加する “段階付け” が実用的です。

検査に時間をかけられないとき、最低限どの項目を選べばよいですか?

時間が限られる場面では、「二点識別覚+立体覚」の 2 項目を優先すると、空間的な弁別と物体認知の両方を短時間で確認できます。さらに、上肢の実用性を重視したい場合は立体覚、左右差を重視したい場合は二点識別覚を厚めに見ると評価効率が上がります。

触覚や深部感覚が低下しているときも、複合感覚は評価できますか?

評価自体は可能ですが、解釈は慎重に行う必要があります。複合感覚は表在感覚や深部感覚の入力を土台にして成立するため、入力そのものが不十分だと “統合の問題” なのか “入力の問題” なのかが混ざります。必ず表在感覚・深部感覚の結果を並べて記録し、単独で結論づけないことが大切です。

複合感覚障害があった場合、どのようにリハビリに結び付ければよいですか?

単に「低下あり」と記載して終わりにせず、「どの場面で危険・不便が生じるか」を具体化し、課題設定とリンクさせることがポイントです。例えば、立体覚の障害があれば衣服操作や財布の中身の取り扱い、二点識別覚の障害があれば把持の安定性や手すり把持の安全性など、実際の行動に結び付けた課題・環境調整を計画します。

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参考文献

  • Dellon AL, Mackinnon SE, Crosby PM. Reliability of two-point discrimination measurements. J Hand Surg Am. 1987;12(5 Pt 1):693-696. DOI:10.1016/S0363-5023(87)80049-7PubMed
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  • Mørch CD, Andersen OK, Quevedo AS, Arendt-Nielsen L, Coghill RC. Exteroceptive aspects of nociception: insights from graphesthesia and two-point discrimination. Pain. 2010;151(1):45-52. DOI:10.1016/j.pain.2010.05.016PubMed

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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