できる ADL としている ADL の違い|評価と実生活のズレを整理

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できる ADL としている ADL は同じではありません

ADL 評価では、「訓練場面ではできる」のに「病棟や自宅では実際に行えていない」というズレがよく起こります。この違いを整理しないまま BI や FIM の点数だけを見ると、退院支援や生活場面の見立てがずれやすくなります。

この記事では、できる ADL としている ADL の違いを、病棟 ADL、BI・FIM、退院前評価の視点から整理します。目的は、点数を否定することではなく、評価結果を実際の生活につなげることです。

ADL 評価の全体像を確認したい方へ

ADL 評価は、点数だけでなく「どの場面で、どの程度実行できているか」を見ると臨床で使いやすくなります。

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関連:Barthel Index の基本BI 評価タイミング早見表

できる ADL としている ADL の違い

できる ADL は、評価場面や訓練場面で発揮できる能力を指します。一方、している ADL は、病棟や自宅など日常生活の中で実際に行っている動作です。両者は近いようで、環境・介助者・疲労・安全性・習慣によって差が出ます。

臨床では「できるか」だけでなく、「実際の生活で再現できるか」を確認することが重要です。退院支援では、このズレを見落とすと、退院後の転倒や介助負担の増加につながることがあります。

できるADLとしているADLの違いを整理した図版
できる ADL としている ADL の違い
できる ADL としている ADL の違い
視点 できる ADL している ADL
意味 評価場面で発揮できる能力 日常生活で実際に行っている動作
場面 訓練室、評価場面、療法士同席時 病棟、自宅、施設生活、普段の生活場面
影響因子 声かけ、環境調整、補助具、評価者 疲労、習慣、介助者、時間帯、環境制約
臨床での使い方 能力の上限や可能性を見る 生活上の支援量や退院後の実用性を見る

なぜ ADL のズレが起きるのか

ADL のズレは、本人の能力だけでなく環境によって起こります。訓練室では手すりや十分なスペースがあり、療法士が声かけを行うため動作できても、病棟や自宅では同じように行えないことがあります。

また、疲労、疼痛、排泄の切迫感、夜間、認知機能、家族の介助方法なども影響します。そのため、評価場面で「できる」と判断した動作が、生活場面で安全に「している」とは限りません。

できる ADL としている ADL がズレやすい理由
要因 ズレの例 確認ポイント
環境 訓練室では歩けるが、自宅の段差で不安定 段差、手すり、動線、トイレ幅
介助者 療法士介助では可能だが、家族介助では難しい 家族の介助力、理解度、時間帯
疲労 午前はできるが、夕方は動作が崩れる 時間帯、活動量、休息の必要性
認知・注意 声かけがあればできるが、単独では手順を忘れる 声かけ量、安全確認、遂行機能
習慣 能力はあるが、病棟では介助を待っている 病棟ルール、本人の不安、スタッフ対応

病棟ではできても自宅で難しい場面

退院支援で特に重要なのは、病棟 ADL と自宅 ADL のズレです。病棟は広く、段差が少なく、スタッフ支援があります。一方、自宅では動線が狭く、段差や敷居、夜間トイレ、家族の介助力などが影響します。

そのため、退院前には「病棟でできる」だけでなく、「自宅環境で安全に再現できるか」を確認する必要があります。家屋評価や家族指導、福祉用具調整と組み合わせて判断すると、退院後のミスマッチを減らしやすくなります。

病棟 ADL と自宅 ADL でズレやすい場面
ADL 場面 病棟での見え方 自宅で起こりやすい課題
歩行 平坦な廊下で歩ける 段差、敷居、屋外路面で不安定
トイレ 広いトイレで移乗できる 狭い空間で方向転換が難しい
入浴 模擬動作は可能 浴槽またぎ、床の滑り、介助者不足
更衣 座位で時間をかければ可能 朝の時間制限や疲労で継続しにくい
食事 リハ場面では姿勢保持できる 食事時間中に姿勢が崩れる

BI・FIM で起こりやすい解釈ミス

BI や FIM は ADL の状況を共有するうえで有用ですが、点数だけで生活能力を判断するとズレが起こります。合計点が高くても、退院後に重要なトイレ動作や移動が不安定であれば、生活支援は必要です。

また、「できる ADL」をもとに採点したのか、「している ADL」をもとに共有したのかが曖昧だと、多職種間で認識がずれます。評価時には、点数と一緒に評価条件や場面を記録しておくことが大切です。

BI・FIM で起こりやすい解釈ミス
ミス 起きやすい理由 対策
合計点だけで判断する 点数が分かりやすい どの項目で介助が残るかを見る
評価場面を書かない 訓練室か病棟かが不明 場所、補助具、介助条件を残す
できる ADL を生活 ADL と誤解する 能力評価だけで退院判断する 病棟・自宅場面で再確認する
多職種で見え方が違う 看護・リハ・家族の観察場面が違う カンファで場面ごとに共有する

BI の評価時期を整理したい場合は、BI 評価タイミング早見表もあわせて確認してください。

退院前に確認したいポイント

退院前は、できる ADL としている ADL のズレを最も確認したいタイミングです。病棟でできる動作が、自宅環境でも安全に行えるかを見ておかないと、退院後に転倒や介助負担増加につながることがあります。

確認するときは、点数だけではなく、環境、介助者、時間帯、疲労、認知面、福祉用具をセットで見ます。自宅での再現性を確認できると、ケアマネジャーや訪問リハへの申し送りも具体的になります。

退院前に確認したい ADL の再現性
確認項目 見るポイント 申し送り例
環境 自宅の段差、手すり、動線 トイレ内方向転換に手すり使用が必要
介助者 家族が安全に介助できるか 移乗時は右側から声かけと見守りが必要
時間帯 夜間・早朝でも同じようにできるか 夜間トイレはふらつきあり、ポータブル検討
疲労 連続動作で崩れないか 歩行後は更衣動作に休憩が必要
福祉用具 補助具があると実行できるか 歩行器使用で屋内移動は見守りレベル

現場で多い失敗

現場で多い失敗は、「できた」という事実だけで退院後の生活を判断してしまうことです。1 回できた動作と、毎日安全に行える動作は同じではありません。

また、看護師、療法士、家族で見ている ADL 場面が違うため、「リハではできる」「病棟ではできない」「家族は不安」というズレも起こります。こうしたズレは、カンファレンスで場面を分けて共有すると整理しやすくなります。

できる ADL としている ADL でよくある失敗
失敗 問題点 改善策
1 回できた動作を自立と判断する 再現性が確認できていない 複数場面・複数時間帯で確認する
訓練室 ADL だけで判断する 生活環境の制約が反映されない 病棟・自宅場面で確認する
点数だけをカンファで共有する 介助方法やリスクが伝わりにくい 動作別に支援量を伝える
家族の介助力を見ない 退院後に介助負担が増える 家族指導と介助確認を行う

現場の詰まりどころ

ADL 評価で詰まりやすいのは、「できる」と「している」を同じ意味で使ってしまうことです。訓練場面でできる動作でも、病棟や自宅で安全に継続できるとは限りません。

まずは、できる ADL としている ADL の違い退院前に確認したいポイントを使い、評価結果を生活場面に結びつけて整理しましょう。

ADL 評価や申し送りが個人任せになっている場合は、教育体制や記録文化も見直す必要があります。関連:理学療法士のキャリア設計ガイド

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

できる ADL としている ADL は何が違いますか?

できる ADL は評価場面で発揮できる能力、している ADL は日常生活で実際に行っている動作です。訓練室でできても、病棟や自宅では環境や疲労、安全性の影響で実行できないことがあります。

BI や FIM はどちらを見ればよいですか?

BI や FIM の点数は有用ですが、合計点だけで判断しないことが重要です。どの項目で介助が残るか、評価場面はどこか、実生活で再現できるかをあわせて確認します。

退院前は何を確認すればよいですか?

自宅環境、家族の介助力、夜間トイレ、段差、福祉用具、疲労による動作変化を確認します。病棟でできる動作が、自宅でも安全に行えるかを見ることが重要です。

病棟 ADL とリハ場面の ADL が違うときはどうしますか?

どちらか一方を正解にするのではなく、場面を分けて共有します。リハではできるが病棟では見守りが必要、などの形で具体的に伝えると多職種で判断しやすくなります。

ADL のズレは記録にどう残せばよいですか?

「どの場面で」「どの条件なら」「どの程度できるか」を残すと分かりやすくなります。例として、訓練室では歩行器歩行 30m 見守り可能、病棟では夜間トイレ時ふらつきあり、などです。

次の一手

できる ADL としている ADL の違いを整理できると、BI・FIM の点数を退院支援や生活場面につなげやすくなります。次に確認するなら、ADL 評価の基本と BI の評価タイミングをあわせて読むと実務に落とし込みやすくなります。


参考文献

  1. World Health Organization. ICF Beginner’s Guide. https://cdn.who.int/media/docs/default-source/classification/icf/icfbeginnersguide.pdf
  2. Mahoney FI, Barthel DW. Functional evaluation: the Barthel Index. Md State Med J. 1965;14:61-65. PubMed
  3. Iwai N, Aoyagi Y, Tokuhisa K, Yamamoto J, Shimada T. The Gaps between Capability ADL and Performance ADL of Stroke Patients in a Convalescent Rehabilitation Ward -Based on the Functional Independence Measure-. J Phys Ther Sci. 2011;23(2):333-338. J-STAGE
  4. Shirley Ryan AbilityLab. Functional Independence Measure. Rehabilitation Measures Database. https://www.sralab.org/rehabilitation-measures/functional-independence-measure

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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