デルマトームと末梢神経領域は「地図の種類」が違います
感覚検査は、所見を集めるだけではなく「どの地図で整理するか」を先に決めると精度が上がります。デルマトームは神経根(脊髄神経)の地図、末梢神経領域は正中・尺骨・橈骨など末梢神経の地図です。地図選びを先に固定すると、やり直しが減り、チーム共有も通りやすくなります。
検査全体の流れ(説明 → 刺激量のそろえ方 → 記録テンプレ)は、親記事の 感覚検査の完全ガイド で固定できます。本記事では「デルマトームと末梢神経領域の使い分け」に絞って、現場で迷わない運用に落とし込みます。
使い分けの結論:まずは「境界」と「走り方」で分けます
最初に見るのは、①境界が帯状か、②神経走行に沿って線状か、③末梢ほど強いかです。帯状ならデルマトーム、特定の指や手掌・手背の一部など走行に沿うなら末梢神経領域を優先します。左右差が強いときは、境界を言語化してから地図へ落とすと再現性が上がります。
図で確認:神経根マップと末梢神経マップの違い
同じ「しびれ」でも、帯状に読むか(神経根)・走行で読むか(末梢神経)で、次に確認すべきポイントが変わります。
| 所見の見え方 | まず使う地図 | 次にやること | よくある落とし穴 |
|---|---|---|---|
| 帯状に境界がある(体幹や四肢の輪切り感) | デルマトーム | 境界を「上 / 下」に 1 段ずつ詰める | 痛みの放散だけで決め打ち |
| 特定の指・手掌 / 手背の一部が目立つ | 末梢神経領域 | 神経の代表ポイントで当たりを確認 | 重なり領域を 0 / 1 で割り切る |
| 末梢ほど強い(手袋・靴下型) | パターン(多発末梢神経障害) | 左右対称性と近位の保たれ方を確認 | 単神経障害と混同して領域がブレる |
| 片側の顔+身体、または身体半分が一括で変 | 中枢(脳)を想定 | 運動・視野・高次機能も同時に整理 | 末梢の地図で無理に説明する |
現場の詰まりどころ
デルマトーム:まずは「代表ポイント」で当たりをつけます
デルマトームはマップ間で差があり、丸暗記だけでは運用が不安定になりやすい領域です。現場では、代表ポイントで当たりを取り、境界を 1 段ずつ詰める手順に固定すると再現性が上がります。特に C6 〜 C8 と上肢末梢神経領域の重なりは、単独所見で断定しないことが重要です。
※表はスマホでは横スクロールで見られます。
| レベル | 代表ポイント(例) | 現場メモ(境界の取り方) |
|---|---|---|
| C5 | 上腕外側(肩外側〜上腕外側) | C4 / C6 の間を帯で詰める |
| C6 | 橈側前腕〜母指 | 指 1 本の所見は末梢神経とも競合 |
| C7 | 中指 | 当たりを取りやすい代表点として有用 |
| C8 | 小指〜尺側前腕 | 尺骨神経領域と比較して判断 |
| L4 | 膝内側〜下腿内側 | 近位から遠位へ境界を段階的に確認 |
| L5 | 足背(母趾側を含むことが多い) | 腓骨神経領域との混線に注意 |
| S1 | 足外側〜踵外側 | 刺激強度を固定して左右比較する |
末梢神経領域:代表ポイントを「 3 点」で押さえます
末梢神経領域は重なり(オーバーラップ)と個人差が大きく、単一点では判定がブレます。代表ポイントを 2 〜 3 点取り、所見の一致度で整理する運用が安全です。特に手掌と手背、指の橈尺側を分けて確認すると、神経走行の当たりが取りやすくなります。
| 末梢神経 | 代表ポイント(例) | 補助所見(あれば) | よくある誤り |
|---|---|---|---|
| 正中神経 | 母指〜環指橈側(手掌側) | 手根管症状の再現、母指球周辺の違和感 | 手背所見だけで決める |
| 尺骨神経 | 小指〜環指尺側(手掌 / 手背) | 巧緻運動の低下感、骨間筋関連訴え | C8 の帯状所見を見落とす |
| 橈骨神経(浅枝) | 母指背側〜示指背側(橈側) | 手背橈側の違和感、伸筋群の疲労感 | 正中神経の手掌所見と混在させる |
現場で詰まらない 5 分フロー(地図選び → 詰め方)
- 左右比較で差が出る刺激を 1 つ決める(触覚 / 痛覚 / 振動覚など)。
- 分布から、まずはデルマトームか末梢神経領域のどちらか 1 枚を選ぶ。
- 代表ポイントで当たりを確認し、境界を 1 段ずつ(上 / 下、近位 / 遠位)詰める。
- 記録は左右差+境界+感覚種別を 1 行で固定する。
- 混線時は地図を増やしすぎず、一致度(高 / 中 / 低)で共有する。
症例ミニケース( 2 例)
| ケース | 分布の特徴 | まず使う地図 | 次アクション |
|---|---|---|---|
| Case 1:頸部痛+母指〜前腕橈側のしびれ | 首運動で増悪。帯状に近い境界を伴う。 | デルマトーム(C6 を当たり) | C5 / C6 / C7 の境界を 1 段ずつ確認し、筋力・反射も合わせて共有。 |
| Case 2:小指〜環指尺側のしびれ(夜間増悪) | 指に沿う走行。手掌・手背で尺側優位。 | 末梢神経領域(尺骨神経を当たり) | 肘部の誘発所見と巧緻動作の訴えを確認し、一致度で記録。 |
ポイント:迷う症例ほど「断定」より「一致度(高 / 中 / 低)」で整理すると、再評価とチーム共有が通りやすくなります。
よくある失敗(ここでブレると地図が崩れます)
| 失敗 | 起きる理由 | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 刺激量が毎回違う | 押圧・速度の差で反応が変わる | 同じ道具・同じテンポを先に宣言する | 使用刺激(綿棒 / ピン / 音叉など)を明記 |
| 重なり領域を 0 / 1 で断定する | 末梢神経領域は個人差が大きい | 代表ポイント 2 〜 3 点の一致度で判断 | 一致度(高 / 中 / 低)を添える |
| 境界を取らずに「全体がしびれる」で終える | どこから変わるかを確認していない | 上 / 下・近位 / 遠位で段階的に詰める | 境界の目印(手関節、膝内側など)を記録 |
よくある質問(FAQ)
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デルマトームは暗記しないとだめですか?
暗記より、代表ポイントで当たりを取り、境界を 1 段ずつ詰める運用が実務的です。マップ差があるため、単発所見の断定より「一致度」で整理するほうが共有しやすくなります。
末梢神経領域とデルマトームが混ざって見えるときは?
まず差が出る刺激を 1 つに固定し、代表ポイントを 2 〜 3 点で確認します。次に境界を段階的に詰め、最終的に分布・境界・一致度を 1 行で記録すると判断がブレにくくなります。
どの刺激(触覚・痛覚・振動覚)から始めるのが良いですか?
表在感覚の当たりは触覚・痛覚、深部感覚の確認は振動覚・位置覚が使いやすいです。混線する症例ほど、同一刺激での左右比較を優先してください。
次の一手
- 運用を整える:感覚検査の完全ガイド(全体像)
- 共有の型を作る:深部感覚の検査方法(すぐ実装)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Lee MW, McPhee RW, Stringer MD. An evidence‐based approach to human dermatomes. Clin Anat. 2008;21(5):363-373. doi: 10.1002/ca.20636
- Downs MB, Laporte C. Conflicting dermatome maps: educational and clinical implications. J Orthop Sports Phys Ther. 2011;41(6):427-434. doi: 10.2519/jospt.2011.3506
- Ladak A, Tubbs RS, Spinner RJ, et al. Mapping sensory nerve communications between peripheral nerve territories derived from spinal nerves. Clin Anat. 2014;27(8):1187-1191. doi: 10.1002/ca.22285(PubMed: PMID 23824984)
- Clinical Examination of the Cervical Spine. N Engl J Med. 2023. doi: 10.1056/NEJMvcm2204780
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


