廃用症候群の筋力トレーニング|始め方と負荷設定【結論】
結論:リスク管理ができていれば、廃用症候群でも筋力トレーニングは有効で、むしろ「回復を早める核」になります。現場では「やらない」より「安全にやる」ほうが ADL の底上げにつながりやすく、まずは RPE 11–13 (楽〜ややきつい)で小さく始めるのが実務的です。
本記事は、開始条件・段階づけ(ベッド上→座位→立位→課題特異)・強度調整( RPE ×反復)・中止基準を 1 本の流れで整理します。読み終えると「今日の 1 セッション」を迷わず組める状態になります。
臨床の不安を「型」で減らす:評価〜記録〜説明が一気に整うガイドをまとめています。
なぜ筋力が低下するのか(メカニズム)
廃用の筋力低下は「筋だけ」ではなく、神経の動員低下と代謝の耐容量低下が重なって起こります。数日〜 1 週間の安静でも変化が出やすく、開始強度を誤ると「息切れで中止」「痛みで拒否」になりがちです。
実務では、抗重力筋(大腿四頭筋・下腿三頭筋)を中心に、フォームが崩れない負荷で神経適応を呼び戻し、徐々に反復と外的負荷を積み上げます。最初から「重さ」を狙わず、安全に続く量を先に作るのが近道です。
実施原則(安全第一の枠組み)
筋力トレーニングを「安全に継続」するために、開始条件とモニタリングを先に決めます。現場でブレやすいのは「どこまで頑張らせるか」よりどこで止めるかです。
基本は RPE 11–13 から開始し、症状(息切れ・胸部不快・めまい・痛み)とバイタルの変化を見て微調整します。可能なら短時間・少量を高頻度にして、離脱を防ぎます。
段階づけ(ベッド上 → 座位 → 立位 → 課題特異)
廃用のプログラムは、急に高負荷へ飛ばさず、体位と抗重力負荷と課題特異性を少しずつ上げます。段階が明確だと、チーム内の申し送りと再現性が一気に良くなります。
下の表は「今日どこから始めるか」を決めるための簡易モデルです。次段階の目安を置くことで、セッションのゴールが明確になります。
※ 表は横スクロールできます。
| 段階 | 主目標 | 代表ドリル(目安) | 次段階の目安 |
|---|---|---|---|
| Stage 0:ベッド上 | 疼痛の最小化と筋活動の再学習 | セッティング/足関節ポンプ/ヒールスライド/ブリッジ(許容範囲) RPE 11・15–20 回× 2 セット |
端座位 3–5 分を許容し、 SpO₂ ・心拍が安定 |
| Stage 1:座位 | 座位耐久性と下肢基礎筋力 | 膝伸展( LAQ )/足関節底背屈/セラバンド体幹・肩甲帯 RPE 11–12・15 回× 2–3 セット |
立位試行で自覚症状が乏しく、回復が速い |
| Stage 2:立位 | 抗重力筋の強化と立位保持 | ヒールレイズ/トゥレイズ/股外転・伸展(バンド)/部分 STS RPE 12–13・10–15 回× 2–3 セット |
立位 3–5 分と短距離歩行でバイタル安定 |
| Stage 3:課題特異 | 起立・歩行・階段など機能課題 | フル STS /ミニスクワット/ステップアップ/歩行反復 RPE 13(許容で 14)・8–12 回× 3 セット |
ADL が拡大し、遅発性筋痛が軽度で支障が少ない |
強度設定の実務( RPE ×反復の早見)
効果を出すには「頑張らせすぎて中止」を避けつつ、一定以上の負荷が必要です。現場で使いやすいのが RPE で、患者さんの体感に合わせて微調整できます。
下表は、 RPE と反復の「ざっくり対応」です。まずは RPE 12–13 の範囲で、フォームが崩れない反復数を確保し、翌日に残りすぎない量で積み上げます。
※ 表は横スクロールできます。
| RPE | 反復回数の目安 | 主なねらい | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 11 | 15–20 回 | 可動域の維持/神経適応/フォーム習得 | 疼痛を増やさない。息こらえ回避。テンポ一定。 |
| 12–13 | 10–15 回 | 筋持久力〜基礎筋力の回復(初期〜中期) | 翌日に残りすぎる場合は量を 2–3 割減。 |
| 14–15 | 6–10 回 | 筋力の向上(安全確認後) | フォーム破綻/強い息こらえが出たら即減量。 |
起立-着座( STS )を“中核ドリル”にする
廃用の筋力づくりで「最も実装しやすく、 ADL に直結」しやすいのが STS です。器具が少ない場面でも展開でき、筋力・バランス・持久力をまとめて刺激できます。
はじめは高座面・手すり・介助下で 5–10 回× 2–3 セット( RPE 11–12 )から。高座面→標準→低座面、手支持→非支持、一定テンポ→降ろしをゆっくり(エキセントリック重視)の順に負荷を上げます。
器具を使う場合のコツ
器具は「効かせる」ためではなく「同じ運動を安全に再現する」ために使います。最初から重さを追うと代償が増え、痛みや中止につながります。
セラバンドは軽→中→高へ段階的に変更し、重錘は 0.25–0.5 kg から小刻みに増量します。負荷よりもフォームを優先し、息こらえが出る場合はテンポを落として呼吸を合わせます。
安全・中止基準(現場の目安)
「止めどき」が曖昧だと、スタッフ間で負荷がブレて疲弊します。先に中止基準を共有すると、説明も記録も一気に楽になります。
下表は、現場で使いやすい目安です。医師の指示や院内基準がある場合は、そちらを優先してください。
※ 表は横スクロールできます。
| 区分 | 目安 | 対応 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 即時中止 | 胸痛/新規の神経症状/失神・前失神/重度の呼吸困難 | ただちに中止し、評価・報告を優先 | 発症時刻、運動内容、バイタル、自覚症状の推移 |
| 減量・中止 | SpO₂ 90%未満、または安静時から −4%以上が持続 | 負荷・反復を下げ、回復しなければ中止 | 最低値、回復までの時間、介入(休憩・呼吸介助など) |
| 要相談 | 著明な血圧変動(例:収縮期 200 mmHg 以上 / 90 mmHg 未満 相当) | 医師と協議し、条件・量・種目を再設計 | 前後差、症状、内服・補液など背景 |
| 延期 | 発熱・感染徴候の増悪、 DVT 急性期が疑わしい | 再評価を優先し、プログラムは一旦延期 | 兆候の根拠(下腿腫脹、痛み、炎症所見など) |
現場の詰まりどころ/よくある失敗
廃用の筋力トレーニングは「正しい種目」より、運用が続く形を作れるかで差が出ます。詰まりやすいのは「開始条件が曖昧」「記録がバラバラ」「翌日に残って中止」の 3 つです。
対策は、①開始前チェックを固定、② RPE と反復で量を統一、③次回調整を 1 行で残す、の順に整えることです。記録の型を作ると、申し送りが速くなり、チーム内の負荷のブレも減ります。
- 失敗 1:「頑張った=良い」で量を増やし、翌日に拒否される → 次回は量を 2–3 割減らし、回復したら再度戻す
- 失敗 2:息こらえで血圧が跳ねる → テンポを落として「吐きながら」の声かけ、負荷を一段下げる
- 失敗 3: STS をいきなり低座面で実施 → 高座面と手支持から入り、段階づけを守る
評価とのつなぎ方
同じ安静期間でも回復スピードは個人差が大きく、「許容量の見立て」がない筋トレは危険です。筋力・持久力・起立耐性を同じ物差しで追うと、負荷調整が再現できます。
評価の全体像と、指標の使い分けは 評価ハブにまとめています。まず「何を追うか」を揃えると、筋トレの記録がそのまま改善の証拠になります。
ダウンロード
記事内容に合わせて、現場でそのまま使える 筋力トレーニング記録シート( A4 ・印刷用)を用意しました。セッションの「実施内容」と「次回調整」が 1 枚で残せる形式です。
下のボタンから PDF を開けます。印刷して病棟・リハ室の運用に合わせてお使いください。
PDF を記事内でプレビューする
FAQ(よくある質問)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
高齢で低栄養でも筋トレはして良い?
基本的には有効です。ただし最初は RPE 11–12 から始め、運動後のたんぱく質摂取と水分補給をセットにします。嚥下や食思不振がある場合は、栄養チームと連携して形態・タイミングを調整します。
遅発性筋痛( DOMS )が出たら中止?
軽度の筋肉痛なら継続できます。次回は量を 2–3 割減らし、テンポを整えてフォーム優先にします。強い痛みや明らかな機能低下がある場合は、負荷設定を見直し休養を優先します。
RPE を言語化できない人はどうする?
表情・呼吸・会話の余裕・動作速度の低下を合わせて見ます。「話しながらできる」「終わった直後に 1 分以内で息が整う」など、チームで共通の観察ポイントを決めるとブレが減ります。
STS が痛い(膝痛・股関節痛)ときは?
まず高座面・手支持で負荷を下げ、疼痛が出にくい可動域で反復します。膝前面痛なら座面高を上げ、股関節痛なら足部位置を調整し、体幹前傾の量を減らします。
次の一手
まずは「段階」と「中止基準」をチームで共有し、今日からは記録シートで RPE /反復/次回調整を残してください。 1 週間で「どの量が続くか」が見えてきます。
運用をチームに落とし込むときは、共有項目(申し送りの観点)を先に揃えるのが近道です。院内でのチェック項目づくりの雛形として、面談準備のチェックリストもあわせて使えます。
関連:評価の全体像は 評価ハブ にまとめています。筋トレの効果を示す指標を先に決めると、説明と申し送りが一気に楽になります。
参考文献
- Fiatarone MA, Marks EC, Ryan ND, et al. High-intensity strength training in nonagenarians. JAMA. 1990;263:3029-3034. PubMed
- American College of Sports Medicine. Progression models in resistance training for healthy adults. Med Sci Sports Exerc. 2009;41(3):687-708. doi:10.1249/MSS.0b013e3181915670. PubMed
- Fragala MS, Cadore EL, Dorgo S, et al. Resistance Training for Older Adults: Position Statement. J Strength Cond Res. 2019. PubMed
- Scott JM, Dowdle JD, Zanesco A, et al. Disuse-Induced Muscle Loss and Rehabilitation. Sports Med. 2020. PMC
- Morishita S, Tsubaki A, Hotta K, et al. Rating of perceived exertion on resistance training in elderly subjects. Expert Rev Cardiovasc Ther. 2019. PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


