廃用症候群でも筋力トレーニングはできる?安全な進め方と段階的リハビリ

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廃用症候群でも筋力トレーニングはできる?【結論】

結論:適切なリスク管理ができていれば、廃用症候群でも筋力トレーニングは有効であり、むしろ推奨されます。 近年の廃用症候群 リハビリ ガイドラインやメタ解析でも、低〜中強度のレジスタンストレーニングが筋力・ADL の維持改善に役立つことが示されています。実務では RPE 11–13 程度の「楽〜ややきつい」から始め、循環・呼吸・疼痛・栄養状態をモニタリングしながら、少しずつ負荷を漸増していきます(同義語:不動化症候群、デコンディショニング)。

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なぜ筋力が低下するのか(メカニズム)

廃用症候群の筋力低下 メカニズムは、筋・神経・代謝の変化が複合して起こります。数日〜 1 週間程度の安静でも変化は顕著で、廃用症候群 リハビリ プログラムを組むうえで「どこから」「どの強度で」開始するかを決める重要な前提になります。

  • 蛋白同化の低下とアナボリック抵抗性:筋蛋白合成が低下し、食事や運動による刺激に対する反応性も鈍くなります。
  • 抗重力筋の選択的萎縮:大腿四頭筋・下腿三頭筋など下肢の抗重力筋を中心に、早期から顕著な萎縮が生じやすくなります。
  • 神経要因:運動単位の動員低下や同期化の乱れ、協調性の低下により、同じ筋量でも発揮張力が低下します。
  • 代謝変化:インスリン抵抗性の進行や有酸素能の低下が、リハビリ全体の耐容量と回復スピードを遅らせます。
  • 付帯組織の硬化:腱・筋膜・関節包などの硬さが増し、運動フォームの乱れや出力低下につながります。

実施原則(安全第一の枠組み)

ここでは、廃用症候群 筋力トレーニング を安全に行うための基本枠組みを整理します。筋力増強訓練(muscle strength exercise; MSE)として負荷を上げる前に、開始条件とモニタリングの視点を共有しておくことが重要です。

  • 開始基準:安静時 SpO₂ が概ね 90%以上で安定し、著明な起立性低血圧やコントロール困難な疼痛がないことを確認します。
  • 強度:基本は RPE 11–13 程度から開始し、許容できれば 14–15 まで段階的に引き上げます。痛み・息切れ・バイタル変動を見ながら、その都度調整します。
  • 頻度・量:週 3–5 日、1 部位あたり 2–3 セット、反復 10–15 回をひとつの目安とします。集中困難な方では、短時間・少量を高頻度で行う形でも構いません。
  • 種類:下肢大筋群と 起立-着座(Sit-to-Stand; STS) を中核とし、必要に応じて体幹・背部のエクササイズを組み合わせます。
  • 栄養連携:セッション後のたんぱく質摂取と水分補給を意識し、嚥下・食思も含めて多職種でタイミングや形態を調整します。

段階づけ(ベッド上 → 座位 → 立位 → 課題特異)

廃用症候群 リハビリ プログラム は、急に高負荷の筋力トレーニングを行うのではなく、体位・抗重力負荷・課題特異性を少しずつ高めていく設計が基本です。以下は実務で使いやすい 4 段階モデルの一例です。

廃用症候群に対する筋力トレーニング:段階づけと代表ドリル(例)
段階 主目標 代表ドリル(RPE/反復) 次段階の目安
Stage 0:ベッド上 疼痛の最小化と筋活動の再学習 クアド・殿筋セッティング/足関節ポンプ/ヒールスライド/ブリッジ(許容範囲で)
RPE 11・15–20 回×2 セット
端座位 3–5 分を許容し、SpO₂・心拍数が安定している
Stage 1:座位 座位耐久性と下肢基礎筋力の確保 膝伸展(LAQ)/足関節底背屈/セラバンドによる体幹・肩甲帯エクササイズ
RPE 11–12・15 回×2–3 セット
立位試行で自覚症状が乏しく、回復が速い
Stage 2:立位 抗重力筋強化と立位姿勢保持の安定 ヒールレイズ/トゥレイズ/股外転・伸展(セラバンド)/部分可動域 STS
RPE 12–13・10–15 回×2–3 セット
立位 3–5 分を許容し、短距離歩行で SpO₂・心拍数が安定している
Stage 3:課題特異 起立・歩行・階段昇降など機能課題の改善 フル可動域 STS/ミニスクワット/ステップアップ/歩行反復
RPE 13(許容で 14)・8–12 回×3 セット
ADL が拡大し、遅発性筋痛が軽度で日常動作への支障が少ない

強度設定の実務(RPE×反復の早見)

廃用症候群 筋力トレーニング 効果 を出すには、「がんばらせすぎて中止になる」ことを避けつつ、一定以上の負荷をかける必要があります。RPE と反復回数の対応表を頭に入れておくと、現場での微調整がしやすくなります。

RPE と概ねの反復回数・ねらい(目安)
RPE 反復回数の目安 主なねらい 注意点
11 15–20 回 可動域の維持・神経適応・フォーム習得 疼痛の最小化、息こらえ回避、テンポ一定を意識する
12–13 10–15 回 筋持久力と基礎筋力の回復(初期〜中期) 疲労感は「ややきつい」範囲に留め、翌日に残りすぎない量に調整する
14–15 6–10 回 筋力の向上(安全確認後に移行) フォームの破綻や強い息こらえが出た場合は、即座に負荷や回数を減らす

起立-着座(STS)を“中核ドリル”にする

廃用症候群 筋力増強訓練 の中でも、STS は機能的アウトカムに直結しやすく、筋力・バランス・持久力をまとめて刺激できる「コスパの良い」ドリルです。器具が少ない場面でも展開しやすく、プログラムの中核として位置づける価値があります。

  • はじめ方:高座面・手すり使用・介助下で、5–10 回×2–3 セット(RPE 11–12)から開始します。
  • 漸増の順序:高座面 → 標準座面 → 低座面、手支持 → 非支持、一定テンポ → 降ろしをゆっくり(エキセントリック重視)といった順で負荷を上げていきます。
  • 外的負荷:足首重錘・ダンベル・重り入りバッグなどを、少量から段階的に追加します。
  • バリエーション:3 回×短休憩を何セットか繰り返すクラスターセットや、目標回数到達後に 1–2 回のみ追加するなど、フォームを保てる範囲で工夫します。

器具を使う場合のコツ

廃用症候群 筋力トレーニング 効果 を高めるために器具を使う場合でも、「少量から」「段階的に」が原則です。

  • セラバンド:軽負荷 → 中負荷 → 高負荷の順に色を変えます。関節痛の出る角度は避け、痛みの少ない可動域で実施します。
  • 重錘:足関節周囲では 0.25–0.5 kg から開始し、週単位で 0.25–0.5 kg ずつ小刻みに増量します。
  • フォーム優先:負荷よりもフォームを優先し、痛み・代償動作・バルサルバ(息こらえ)が出ないように、呼吸のタイミングを声かけでガイドします。

安全・中止基準(現場の目安)

廃用症候群 リハビリ プログラム を運用する際は、「どこまで頑張らせてよいか」と同じくらい「どこで止めるべきか」をチームで共有しておくことが重要です。以下は現場で使いやすい目安です。

  • 胸痛、新規の神経症状、重度の呼吸困難、失神・前失神などが出現した場合は、ただちに中止します。
  • SpO₂ が 90%未満へ低下、または安静時から −4%以上の低下が持続する場合も中止・減量の対象です。
  • 著明な血圧変動(例:収縮期血圧 200 mmHg 以上または 90 mmHg 未満相当)や制御困難な疼痛が生じた場合は、医師と協議しプログラムを見直します。
  • 発熱・感染徴候の増悪、深部静脈血栓症(DVT)急性期が疑われる場合は、主治医による再評価が優先されます。

廃用症候群 筋力低下 文献 を読むと分かる通り、同じ安静期間でも個人差が大きく、筋力・持久力・起立耐性などの許容量は患者さんごとに異なります。筋力トレーニングは評価に基づく許容量の見立てがあってこそ安全に進められます。全体像や他の評価指標との組み合わせは、評価ハブもあわせて確認すると整理しやすくなります。

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※ 印刷は A4 を推奨します。病棟やリハ室に掲示したり、スタッフ間で共有資料としてご活用ください。

FAQ(よくある質問)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップすると閉じます。

高齢で低栄養でも筋トレはして良い?

基本的には有効です。ただし、まずは RPE 11–12 程度から開始し、運動後のたんぱく質摂取を組み合わせることで回復を促します。嚥下機能や食思不振がある場合は、栄養チームと連携して形態・タイミングを調整します。

遅発性筋痛(DOMS)が出たら?

軽度の筋肉痛であれば、次回は量を 2–3 割程度減らしたうえで継続し、ストレッチや低強度有酸素運動で循環を高めます。強い痛みや明らかな機能低下を伴う場合は、負荷設定を見直し、休養日を設けて回復を優先します。

器具が少ない病棟ではどうする?

STS、ミニスクワット、段差昇降、セラバンドの組み合わせだけでも十分なプログラムが組めます。座面高さ・手支持の有無・テンポ・回数を調整して負荷を変化させ、重錘を使う場合は 0.25–0.5 kg 単位で小刻みに増やしていきます。

参考文献

  1. American College of Sports Medicine. ACSM’s Guidelines for Exercise Testing and Prescription. 11th ed. Philadelphia: Wolters Kluwer; 2021.
  2. Peterson MD, et al. Resistance exercise for muscular strength in older adults: a meta-analysis. Ageing Res Rev. 2010;9(3):226–237. https://doi.org/10.1016/j.arr.2010.03.004
  3. Liu CJ, Latham NK. Progressive resistance strength training for improving physical function in older adults. Cochrane Database Syst Rev. 2009;(3):CD002759. https://doi.org/10.1002/14651858.CD002759.pub2
  4. Kortebein P, et al. Functional impact of 10 days of bed rest in healthy older adults. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2008;63(10):1076–1081. https://doi.org/10.1093/gerona/63.10.1076
  5. Dirks ML, Wall BT, et al. One week of bed rest leads to substantial muscle atrophy in the elderly. J Clin Endocrinol Metab. 2016;101(7):2240–2246. https://doi.org/10.1210/jc.2016-1990

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