糖尿病リハの運動療法ガイド|FITT・合併症・記録【PDF】

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糖尿病リハの運動療法|開始条件・FITT・記録を1本でつなぐ

糖尿病の運動療法は、血糖値だけを見て開始可否を決めるのではなく、①その日の条件を確認する、②合併症に合わせて負荷を調整する、③FITTで処方する、④反応を確認して次回へつなぐ、の順で考えると整理しやすくなります。

主に2型糖尿病、または糖尿病を併存する患者へ運動療法を行うPT・OTを想定し、病棟・外来・通所・訪問で使いやすい形に絞って解説します。低血糖時の詳細対応やフットスクリーニングの実施手順は別記事へ分け、この記事では運動処方と記録の型を中心に扱います。記事後半にはA4記録シートPDFもあります。

糖尿病リハの運動療法を開始前確認から次回調整まで5ステップで示した図
糖尿病リハの運動療法は、開始前確認から運動処方、反応確認、次回調整までを1本の流れで考えます。

糖尿病の運動処方|まずFITTの目安を押さえる

2型糖尿病の運動療法では、禁忌がなければ有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせることが基本です。日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」では、有酸素運動は中強度を中心に週150分以上・週3回以上、レジスタンス運動は連続しない日程で週2〜3回が勧められています。

ただし、これは全員へ同じ量を当てはめるという意味ではありません。高齢者、長期間運動していない方、合併症がある方では、現在の体力や身体状態に合わせ、低い強度・短い時間から開始して反応を確認しながら増やします。

糖尿病の運動療法:FITTの基本的な目安
要素 有酸素運動 レジスタンス運動
Frequency
頻度
週3日以上。運動しない日が2日以上続かないようにする 連続しない日程で週2〜3日
Intensity
強度
中強度が基本。導入時はRPE 11〜12程度から始め、慣れてきたらRPE 12〜13程度を検討 ごく軽い負荷、または10〜15回反復できる負荷から開始し、状態に応じて8〜12回で限界となる負荷へ段階化
Time
時間・量
週150分以上を基本的な目標とする 主要筋群を含む5種類以上を目安に、段階的に1〜3セットへ
Type
種類
歩行、自転車エルゴメーターなど継続可能な全身運動 マシン、ダンベル、バンド、自重運動など、個人に合う方法

実務での考え方

最初から「週150分を達成する」ことだけを目標にせず、現在の活動量を起点にします。たとえば歩行15分・RPE 11〜12から開始した場合は、その日の反応を記録し、次回も同じ条件から再現できるようにすることが先です。

週150分は基本的な目標ですが、それより少ない運動量でも血糖改善効果が期待できる可能性があります。運動習慣がない方では「150分できないから意味がない」と考えず、実施可能な量から段階的に増やします。

運動開始前は「血糖だけ」で判断しない

その日の運動を予定どおり行うかは、必要時の血糖値・食事・薬・体調をセットで確認します。同じ血糖値でも、食事が遅れている、インスリンやSU薬の条件がいつもと違う、感染や脱水が疑われる、といった条件によってリスクは変わります。

このページでは血糖値別の細かな開始・中止基準までは扱いません。数値単独ではなく、症状、薬物療法、代謝コントロール、合併症、施設ルール、医師指示などを含めて判断します。

運動前にそろえる4項目
確認項目 確認する内容 記録例
血糖 必要時の血糖値・CGM、低血糖を疑う症状、普段との差 BG ○mg/dL、症状なし
食事 摂取の有無、直近の食事時刻、普段との違い 朝食8:00、摂取良好
インスリン・SU薬など低血糖リスクに関わる治療、投与時刻や変更 薬変更なし
体調 発熱、感染兆候、脱水、倦怠感など 発熱なし、体調変化なし

合併症があるときは「運動禁止」ではなく負荷を調整する

糖尿病の合併症がある場合は、一律に運動を避けるのではなく、合併症の種類と程度を確認して、避けたい負荷を決めることが重要です。特に網膜症、腎症、末梢神経障害、自律神経障害、足病変では、通常の運動処方をそのまま当てはめない場面があります。

合併症別:運動療法で確認するポイント
状態 主な注意点 PT・OTでの調整例
前増殖網膜症以上 激しい有酸素運動、ジャンプなどの衝撃、頭位を下げる活動、息を止めていきむ動作が禁忌となる場合がある 強い息こらえや急な高負荷を避け、激しい運動を行う前は眼科での評価状況を確認する
糖尿病性腎症 腎症があることだけで身体活動を一律に禁止するものではなく、進行例では症例ごとの検討が必要 全身状態や治療状況を確認し、時間・強度・休息を個別に調整する
末梢神経障害 感覚低下により皮膚障害、感染、Charcot関節などへ気づきにくい 靴、皮膚所見、足部への負担を確認し、歩行量を急に増やさない
自律神経障害 循環応答低下、起立性低血圧、体温調節障害、無自覚性低血糖などに注意する 心拍数だけに頼らず、RPE、症状、血圧などを合わせて運動強度を判断する
足の外傷・開放性潰瘍 体重をかける活動の制限が必要になる 荷重運動をそのまま継続せず、創部状態と治療方針を確認して運動様式を調整する

末梢神経障害があるだけで歩行を一律に禁止するわけではありません。適切な靴を使用している場合、中等度の歩行が足潰瘍・再潰瘍リスクの上昇につながらないことも示されています。一方、足の外傷や開放性潰瘍がある場合は荷重活動を制限する必要があります。

足部の評価方法を具体的に確認したい場合は、糖尿病フットスクリーニングの手順で、観察項目と記録方法を整理しています。

同じFITTでも「今日の条件」で処方を変える

FITTは固定メニューではなく、その日の状態を運動量へ変換するための枠組みとして使います。予定していた運動を実施するか、時間・強度・荷重方法を変えるか、見合わせるかを、開始前の条件と運動中の反応から決めます。

当日の条件からFITTを調整する考え方
当日の状況 調整の方向 記録すること
普段と大きな変化なし 予定した処方から開始し、RPE・症状を確認 種目、時間、強度、反応
食事・薬の条件が普段と違う 低血糖リスクを再確認し、必要に応じて時間・強度を調整 食事時刻、薬、変更した処方
足部に新しい発赤・靴擦れ 歩行量や荷重方法を見直し、悪化させない方法へ変更 部位、皮膚所見、荷重変更
自律神経障害で心拍反応が使いにくい 心拍数単独ではなくRPE・症状・血圧などで強度を調整 RPE、症状、血圧反応
発熱・感染・脱水など体調不良 状態を再評価し、強度低下・短縮・実施見合わせを検討 体調変化、判断、連絡内容

運動中・後は「反応」と「次回調整」を記録する

記録は実施した運動を書くためだけではありません。開始前の条件 → 今回の処方 → 運動中の反応 → 終了後の状態 → 次回の調整まで残すと、次の担当者が同じ条件から判断しやすくなります。

運動中は、低血糖を疑う症状、胸部症状、息切れ、ふらつき、強い疲労などを確認します。末梢神経障害や足病変がある場合は、運動後に皮膚・靴・発赤・靴擦れなどの変化も確認します。

次回につながる1セッションの記録
記録項目 最低限残す内容
開始前 必要時の血糖、食事、薬、体調、合併症上の注意
FITT 種目、時間、強度、回数・セット、休息
運動中 RPE、症状、途中で変更した内容
終了後 症状、必要時の血糖、補食・休止・連絡、足部所見
次回 維持する条件、変更する時間・強度・荷重方法

記録例(架空例)

朝食8:00、薬変更なし、体調変化なし。10:00より歩行15分、RPE 11〜12、途中休息なし。ふらつき・胸部症状なし。終了後の足部発赤なし。次回も同条件から開始し、反応をみて運動時間の延長を検討する。

A4記録シートPDF|確認・FITT・反応を1枚で残す

運動前確認、合併症への配慮、FITT、運動後の反応、次回申し送りを1枚で記録できるA4シートです。印刷して、施設のルールや記録様式に合わせてご利用ください。


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糖尿病の運動療法で起こりやすい4つのズレ

運用が安定しないときは、知識を増やす前に確認順・強度指標・記録欄・次回条件がそろっているかを確認します。同じ患者でも担当者ごとに判断が変わる場合は、どこで情報が途切れているかを見ると修正しやすくなります。

よくある失敗と立て直し
よくある失敗 問題 立て直し
血糖値だけで開始可否を決める 食事・薬・体調の変化を拾えない 血糖・食事・薬・体調をセットで確認する
「軽め」「無理なく」だけで処方する 担当者間で強度を再現できない RPE、時間、回数などで具体化する
合併症があると運動量を一律に減らす 必要以上に活動量を制限する可能性がある 何を避ける必要があるのかを合併症ごとに分ける
今回の実施内容だけを書く 次回の開始条件が分からない 反応と「次回どうするか」を1行追加する

よくある質問

糖尿病の有酸素運動は週何分が目安ですか?

日本糖尿病学会では、中強度の有酸素運動を週150分以上、週3日以上行い、運動しない日が2日以上続かないようにすることが基本的な目安です。ただし、運動習慣がない方や体力が低い方では、短時間・低強度から開始して徐々に増やします。

レジスタンス運動は週何回、何回反復しますか?

基本は連続しない日程で週2〜3回です。ごく軽い負荷、または10〜15回反復できる負荷から開始し、状態に応じて8〜12回で限界となる負荷を1〜3セット行うことを目標にします。年齢、合併症、筋力、疼痛、けがのリスクなどに合わせて調整してください。

心拍数で運動強度を決めにくい場合はどうしますか?

自律神経障害、高齢者、β遮断薬を使用している場合などでは、脈拍数だけで運動強度を決めることが難しくなります。その場合はRPE、症状、血圧などを合わせて判断します。

末梢神経障害があれば歩行運動は避けるべきですか?

末梢神経障害があるだけで歩行を一律に禁止するわけではありません。靴、皮膚、足変形、外傷、潰瘍の有無などを確認します。足の外傷や開放性潰瘍がある場合は、体重をかける活動を制限する必要があります。

次の一手|評価と開始前判断へつなげる

糖尿病の運動療法では、まず現在の評価をそろえ、その日の安全条件を確認し、FITTを記録できる形へ落とし込みます。全体評価や開始前判断を詳しく確認したい場合は、次の記事へ進んでください。


参考文献

  1. American Diabetes Association Professional Practice Committee for Diabetes. 5. Facilitating positive health behaviors and well-being to improve health outcomes: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026;49(Suppl 1):S89-S131. doi: 10.2337/dc26-S005
  2. American Diabetes Association Professional Practice Committee for Diabetes. Summary of Revisions: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026;49(Suppl 1):S6-S12. doi: 10.2337/dc26-SREV
  3. Kanaley JA, Colberg SR, Corcoran MH, et al. Exercise/Physical Activity in Individuals with Type 2 Diabetes: A Consensus Statement from the American College of Sports Medicine. Med Sci Sports Exerc. 2022;54(2):353-368. doi: 10.1249/MSS.0000000000002800
  4. Colberg SR, Sigal RJ, Yardley JE, et al. Physical Activity/Exercise and Diabetes: A Position Statement of the American Diabetes Association. Diabetes Care. 2016;39(11):2065-2079. doi: 10.2337/dc16-1728
  5. 日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2024 4章 運動療法. 公式PDF

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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