嚥下食レベルとは?( JDD2021 を軸に “迷わない選び方” を作る)
「嚥下食レベル」は、現場では “食形態(硬さ・まとまり・ばらけやすさ)”の話として使われることが多い一方で、文脈によっては “摂取状況(経口+代替栄養)”まで含めて語られることがあり、混同が起きやすい用語です。
本記事は、日本で標準化の軸になる JDD2021(嚥下調整食 学会分類 2021 )を中心に、① 食事コード( 0j / 1j / 2-1 / 2-2 / 3 / 4 )と、② とろみ 3 段階を「選定 → 運用 → 申し送り」まで落とし込みます。施設で JDD2013 が運用されている場合も多いため、読み替えの考え方も併記します。
まず混同を解消( “食形態レベル” と “摂取レベル” は別物)
最初に結論です。食形態(嚥下食)のレベルをそろえる枠組みが JDD2021 で、食事摂取レベル( 1〜10 )のように「どれだけ食べられているか」を表すのが FILS です。両者は目的が違うので、申し送りでは “両方を書く” とズレが減ります(例:JDD2021 2-1/FILS 6 など)。
JDD2021 の全体像(何を標準化する分類か)
JDD2021 は、① 食事の分類( meal )と ② とろみの分類( thickened liquid )を分けて整理し、転院・在宅連携などで “施設ごとの呼び方の違い” による事故を減らすことを狙った枠組みです。ポイントは、コードが重症度の単純な連番ではないこと。患者さんの嚥下機能だけでなく、認知・姿勢・口腔衛生・摂取量・疲労などの条件で「同じコードでも安全性が変わる」ため、条件固定と再評価がセットになります。
また、施設によっては JDD2013 を継続運用していることがあります。その場合は “名称の違い” よりも、実際の形態(噛む要否、まとまり、離水、貼りつき)を優先して、JDD2021 の語彙で翻訳して共有するのが実務的です。
食事コードの考え方( 0j / 1j / 2-1 / 2-2 / 3 / 4 を “判断に使う” )
食事コードは、暗記よりも「口腔内でまとまるか」「噛む工程が必要か」「ばらけて散らないか」を軸に、安全に “再現できる形態” を選ぶために使います。以下は現場で迷いがちな判断軸に絞った “要約表(自作)” です。
| コード | ざっくり形状 | 噛む工程 | ここで詰まりやすい点 | 運用のコツ(条件固定) |
|---|---|---|---|---|
| 0j | 均質なゼリー状(まとまり最優先) | 不要 | 口腔内移送が弱いと残留が増える | 一口量・姿勢・介助の速度を固定し、反応を観察して次段階へ |
| 1j | 均質でなめらか(ゼリー/ペースト寄り) | 不要〜最小 | 乾燥・付着で咽頭残留が増える | 口腔ケア後に実施、湿性嗄声・咳反射の変化をセットで記録 |
| 2-1 | やわらかく “まとまりやすい” 形態 | 最小(舌でつぶせる目安) | ばらけ・散りで誤嚥/窒息リスクが上がる | パサつき・粒立ちを避け、同一メニューで 2〜3 回再現して評価 |
| 2-2 | 少し形があるが “散りにくい” 形態 | 軽度(歯ぐきでつぶせる目安) | 疲労で咀嚼が落ちると一気に危険側へ | 食事時間・疲労・離床量を固定し、後半の所見(むせ/残留)を必ず拾う |
| 3 | 軟らかい固形(形が保てる) | 必要 | 早食い・一口量増で詰まりやすい | 一口量・見守り・水分形態(とろみ)をセットで決める |
| 4 | 誤嚥・窒息に配慮した “やわらか食” | 必要(ただし負担は軽く) | “普通食に近い” と誤解して事故が起きる | 硬さだけでなく、ばらけ・貼りつき・乾燥をチェックして共有 |
ここでの落とし穴は、コードだけを見て “上げ下げ” を決めることです。実務では、同じコードでも条件が変われば別物になります。最低限、① 一口量、② 姿勢(座位角度・頸部位)、③ 介助スピード(待ち時間)の 3 点は固定して比較します。
とろみ 3 段階の考え方(粘度・LST・残量試験を “使い分け” )
とろみは「付ければ安全」ではなく、濃すぎると粘着・残留が増えて飲みにくいことがあります。JDD2021 では、とろみを 段階 1 / 2 / 3として整理し、目安として 粘度・LST( Line Spread Test )・シリンジ残量試験が示されています。
| 段階 | 呼び方(例) | 粘度(目安) | LST(目安) | シリンジ残量試験(目安) |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 薄いとろみ | 50–150 mPa・s | 36–43 mm | 2.2–7.0 mL |
| 2 | 中間のとろみ | 150–300 mPa・s | 32–36 mm | 7.0–9.5 mL |
| 3 | 濃いとろみ | 300–500 mPa・s | 30–32 mm | 9.5–10.0 mL |
現場での使い分けはシンプルです。測定できないなら “同じ作り方で再現する” が最優先です。粉量・温度・放置時間(とろみが安定するまでの時間)を固定し、飲む瞬間の状態で評価します。スポーツ飲料・栄養剤・牛乳などは、とろみの出方が変わることがあるため、同じルールで作っても別物になり得ます。
5 分で回す:選定 → 運用 → 移行( “条件固定” が主役)
このページの結論は「食形態の選定は、単発の正解当てではなく “条件固定の小さな PDCA ”」です。最小の型は次の 4 ステップです。
- 安全確認:意識・呼吸・SpO₂・湿性嗄声・咳の有無(危険なら経口を止めて連携)
- 最小条件で試す:一口量、姿勢、介助速度を決め、コードととろみを “セット” で運用
- 食後まで拾う:むせだけでなく、湿性嗄声・呼吸苦・食後の痰増加を記録
- 移行は 1 変数だけ:コードを上げるなら、とろみや姿勢は固定。とろみを薄くするなら食形態は固定
現場の詰まりどころ(よくある失敗と対策)
いちばん多い失敗は、「コード」だけを申し送って “条件” が抜けることです。同じ 2-1 でも、座位角度・一口量・介助速度・口腔衛生で安全性が別物になります。申し送りは、コードに加えて 条件 3 点(姿勢・一口量・介助)だけでも書くと事故が減ります。
次に多いのが、とろみを濃くして飲水量が落ちるパターンです。脱水・便秘・痰の粘調化など “別の問題” が出やすいので、摂取量が落ちた時は「とろみを変える」前に 量・回数・提供タイミングを調整します。施設の教育体制や標準手順が整っていないと “作る人によって濃さが変わる” こともあるため、手順を 1 枚にまとめておくと再現性が上がります。関連:面談準備チェックなどを使って、まず “運用の型” を整える
| よくある失敗 | 起きる問題 | まずやる対策(最小) | 記録に残す 1 行 |
|---|---|---|---|
| コードだけ申し送り | 次の現場で条件が変わり事故 | 姿勢・一口量・介助速度の 3 点固定 | 座位 __°/一口量 __ mL/介助:待ち __ 秒 |
| 濃いとろみで安心する | 残留増・飲水量低下 | 飲む瞬間で評価、量と回数を先に調整 | 段階 __/飲水量 __ mL/食後の湿性嗄声:有・無 |
| 移行で複数条件を同時に変える | 何が効いたか分からない | 1 変数だけ変更(食形態 or とろみ or 姿勢) | 変更点:__ のみ/他条件固定 |
| 食事中だけ見て終わる | 食後サインを見逃す | 食後 10〜30 分の痰・嗄声・呼吸を拾う | 食後:痰増・湿性嗄声・SpO₂最低 __% |
記録テンプレ(コピペして穴埋め:条件固定が残る形)
〖食形態〗JDD2021 コード __(0j/1j/2-1/2-2/3/4)/主食:__/副菜:__ 〖水分〗とろみ 段階 __(1/2/3)/作り方:粉 __ g + 水分 __ mL/温度:__ ℃/放置:__ 分 〖条件〗座位 __°(骨盤:安定/不安定)/頸部:中間位/軽度屈曲/一口量:__ mL/介助:待ち __ 秒 〖所見〗むせ:有・無/湿性嗄声:有・無/SpO₂最低 __%/口腔残留:有・無/咽頭残留疑い:有・無 〖食後〗痰:増・不変/呼吸:苦あり・なし/発熱兆候:有・無 〖連携〗ST:所見共有・次段階案/栄養:摂取量と整合/看護:提供手順の統一 再評価:__ 日(同条件固定)/次の一手:__(例:2-1→2-2、段階2→1、姿勢調整を優先)
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1.JDD2021 と JDD2013 はどう違いますか?
A.結論は「考え方は継承しつつ、運用のための整理が進んだ」です。現場では、名称よりも “実際の形態(まとまり・ばらけ・噛む要否)” と “条件固定” を優先し、施設差がある場合は JDD2021 の語彙で翻訳して共有すると連携が安定します。
Q2.コードは重症度の順番ですか?
A.単純な連番ではありません。嚥下機能だけでなく、姿勢・一口量・介助・疲労・口腔衛生で安全性が変わります。コード単独ではなく「条件 3 点(姿勢・一口量・介助)」とセットで運用するとブレが減ります。
Q3.とろみは “付ければ安全” ですか?
A.安全側に寄ることはありますが、濃すぎると粘着・残留が増えて逆に飲みにくいことがあります。粉量・温度・放置時間を固定し、飲む瞬間の状態で評価するのが実務的です。
Q4.LST や粘度を測れない施設ではどうしますか?
A.測定よりも “再現性” が重要です。作り方(粉量・温度・放置時間)を固定して、同じ作り方で同じ段階が再現できる状態を作ります。人が変わっても同じ濃さになると、申し送りの精度が上がります。
Q5.申し送りで最低限、何を書けば事故が減りますか?
A.最小は「コード + とろみ段階 + 条件 3 点(姿勢・一口量・介助)」です。むせの有無だけでは足りないので、湿性嗄声・食後の痰・SpO₂ 低下のようなサインも 1 行入れると安全側に倒しやすくなります。
次の一手(同ジャンル)
参考文献
- Kayashita J, et al. The Japanese Dysphagia Diet of 2021 by the Japanese Society of Dysphagia Rehabilitation. Jpn J Compr Rehabil Sci. 2022;13:64-77. doi: 10.11336/jjcrs.13.64
- 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会 医療検討委員会 嚥下調整食特別委員会. 嚥下調整食 学会分類 2013. 日摂食嚥下リハ会誌. 2013;17(3):255-267.(配布 PDF)PDF
- Matsuo K, Fujishima I. Textural Changes by Mastication and Proper Food Texture for Patients with Oropharyngeal Dysphagia. Nutrients. 2020;12(6):1613. doi: 10.3390/nu12061613
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


