FSST(Four Square Step Test)運用プロトコル|中止基準・記録テンプレ・在宅応用

臨床手技・プロトコル
記事内に広告が含まれています。

この記事の趣旨( FSST を「回すため」の運用プロトコル)

評価は「実施 → 記録 → 解釈 → 次の介入」までが 1 セット。ブレない型を先に作ると回ります。 PT キャリアガイドで「型」を整える

本稿は Four Square Step Test( FSST )を「どう測るか」ではなく、臨床でどう回すかに特化した運用 SOP です。安全管理・中止基準、記録テンプレ、所見から介入へつなぐ早見表、在宅・狭小空間への翻訳、二重課題/不安定支持面の導入基準までを 1 ページに集約します。

測定手順(配置・順序・開始終了)とカットオフの確認は、親記事の FSST の評価法(測定手順・カットオフ) に譲ります。本稿の焦点は、現場の詰まりどころ(安全・再現性・記録・介入への接続)を減らし、院内でブレない「ルール」を作ることです。

安全管理・中止基準( SOP )

FSST は「多方向ステップ+切り返し」を短時間で見る一方、転倒ハイリスクでは事故が起きやすい検査です。先に中止基準と失敗の扱いを決め、評価者の迷いを減らすほど運用は安定します。

準備は、歩行帯、監視者 1 名以上(必要なら介助者追加)。環境は照度と床摩擦を確認し、スティックは平置きで 4 区画を構成します(滑り止めテープ推奨)。補助具は日常歩行に準じて使用可とし、種類・高さ・使用側を記録へ明記します。

FSST の中止基準と「失敗」の扱い(成人・ 2026 年版)
区分 判定 現場ルール(おすすめ)
中止基準 失神前駆・胸痛・著明な息切れ( Borg 7 以上)・顔面蒼白・強い動悸/不整脈自覚・姿勢制御の破綻・本人の中止希望 どれか 1 つでも該当で即終了。安全側に倒し、代替として TUG など低リスク指標を優先。
失敗の扱い 順序誤り/明らかなバランス喪失/スティック接触(施設で定義) 「失敗=再試行」を固定。最大 2 回まで(例:本試行 2 回+最良値)など、回数をルール化して疲労を管理。
比較条件 再評価の再現性 同一時間帯・同一補助具・同一声かけで再検し、記録に残す(条件が違えば比較しない)。

実施フロー( 3 分で回す)

FSST を「運用」できる施設は、実施の細部が揃っています。ポイントは環境・声かけ・回数を固定し、学習効果と疲労の影響を最小化することです。

下記を SOP として共有し、例外を減らします。特に「デモ」「練習」を省くと、順序誤りが増えて再現性が崩れやすくなります。

  1. 環境固定:4 区画の大きさ/スティック位置/開始姿勢(両足)を固定。
  2. デモ 1 回:評価者が順序を見せる(声かけも固定)。
  3. 練習 1 回:順序誤りがある場合はここで修正(練習実施の有無を記録)。
  4. 本試行 2 回:「スタート」「ストップ」の声かけを統一し、最良タイムを採用。
  5. タイム+所見:後退・側方・ターンでの減速/踏み損ね/リード脚切替を 1 行で残す。

記録テンプレ(貼るだけ)

タイムだけでは「何が詰まっているか」が共有できず、介入が遅れます。タイム+所見+ ADL 対応を 3 点セットで残すと、引き継ぎとカンファが一気に楽になります。

下のテンプレをそのまま流用し、施設の必須変数(補助具・監視・失敗定義)を固定してください。

S) 切り返しで足がもつれる不安あり(台所・トイレ)
O) FSST 最良 12.4 s(試行 1:13.1 s / 試行 2:12.4 s)補助具なし・歩行帯あり
   手順遵守:◯(順序 / 両足接地 / 前向き) スティック接触:なし 転倒:なし
   観察:後退 → 側方で減速大きく、方向転換でリード脚切替に遅れ
A) タイムは目安内。減速パターンは ADL(台所・廊下コーナー)の慎重さと一致
P) 多方向ステップ(前 → 側 → 後)を段階練習 → ターン反復、狭所の切り返し課題を週 3 回
   2 週後に同一条件で FSST 再検し、タイムと「減速の質」を再評価
  • 必須変数:最良タイム/各試行タイム、補助具(有無・種類)、監視/介助の有無、手順遵守(順序・両足接地・前向き)、失敗の有無。
  • 所見の軸:後退区間のリード脚、方向転換時の減速パターン、踏み損ね、足部の引っかかり、注意の逸れ(会話・視線)。

解釈から介入設計へ(早見表)

FSST は「切り返し能力のスナップショット」です。転倒リスクを断定する検査ではなく、どの区間でズレるかを拾って課題を当てるほど価値が上がります。

所見を「要因の仮説」に翻訳し、介入を分節化して当てます。とくに後退・側方・ターンは ADL の事故場面と直結しやすい観察ポイントです。

FSST 所見 → 要因 → 介入の方向性(成人・ 2026 年版)
FSST の所見 想定される要因 介入の方向性(例)
後退区間で顕著な減速 リード切替の拙劣・後方恐怖・固縮や痛み 前 → 側 → 後の段階的ステップ、手すりを使った後退歩行、視覚キュー(床マーカー)
方向転換での踏み損ね 注意配分・遂行機能、末梢感覚低下、配置理解不足 ターン課題の分節化(個別練習 → 結合)、足位置マーカー、注意の口頭キューを固定
全体的に極端な減速 下肢筋力低下、反応時間延長、転倒恐怖 → 回避的行動 弱点群の筋力トレ、俊敏性ドリル(小刻みステップ)、低難度から成功体験で段階アップ
失敗(順序誤り・接触)が繰り返される 手順理解不足、注意散漫、認知機能・視空間の問題 デモ 1 回+練習 1 回を固定、声かけスクリプト統一、図示や足型マーカーで視覚提示
FSST と ADL 所見が乖離 検査環境と生活環境のギャップ、日内変動(薬剤・疲労) 自宅・病室環境での観察を追加し、弱点が出る場面を再特定して課題化

測定誤差( SEM / MDC )とカットオフの使い方

再評価では「変化が本物か(誤差を超えたか)」を先に決めると迷いません。たとえば股関節 OA を対象にした報告では、FSST の SEM は 0.77–0.86、MDC90 は 1.8–2.0 秒が示されています。同条件で 2 秒以上の改善は、誤差を超えた変化として扱いやすい目安になります(対象集団により変動)。

カットオフは「判定」に使うほど誤解が増えます。説明とフォロー頻度(再検の間隔、見守りの強度、課題の優先順位)を決める補助として位置づけ、FSST 単独で結論を出さない運用が安全です。

FSST の目安値の使い分け(臨床の運用例)
目的 使う指標 運用のコツ
経時変化を追う MDC(例: 2 秒) 同一条件の固定が最優先。条件が変わったら「比較しない」を徹底。
転倒リスクの説明 カットオフ(例:高齢者 15 秒) FSST 単独で断定せず、転倒歴などと一緒に話す。
介入の設計 所見(減速・踏み損ね・順序誤り) 「どの区間で詰まるか」を 1 行で残し、課題を分節化して当てる。

在宅・狭小空間への翻訳

FSST の弱点が出やすいのは、家屋内の切り返し(台所・トイレ・廊下の角・玄関周囲)です。検査の形にこだわらず、生活動線の事故場面を「前 → 側 → 後」のステップパターンへ翻訳すると介入が速くなります。

家族には声かけの統一を共有します(例:「角では一度止まってから」「一歩ずつ前向きで」「各マスで両足をそろえてから次へ」)。補助具の有無、時間帯、照度は再評価の比較条件になるため、初回からカルテに残します。

発展:二重課題・不安定支持面(導入条件)

二重課題(数唱・計算・しりとり等)やフォームパッド上の FSST は現実場面に近い高負荷課題です。導入は「できそうだからやる」ではなく、基準で段階化して事故と解釈ブレを防ぎます。

おすすめは「二重課題(通常床)→ 不安定支持面(単一課題)→ 併用」の順です。フォームの素材・厚み・配置、監視体制、声かけスクリプトを固定し、再現性を担保します。

  • 導入基準(例):①通常条件で失敗なく完遂、②通常条件のタイムが極端に不良でない、③注意の維持が観察上可能。
  • 段階:二重課題(通常床)→ 不安定支持面(単一課題)→ 両者併用。
  • 固定:フォーム素材・厚み・設置位置、監視体制、声かけスクリプトを固定して記録。

よくある運用ミスと現場の詰まりどころ( OK / NG 早見)

FSST が「回らない」主因は、学習効果と声かけのバラつき、所見の未記載です。ここを潰すと、再評価の説得力と介入の速度が上がります。

OK / NG を施設内で共有し、例外を減らすほど運用は安定します。新人帯の教育にもそのまま使えます。

FSST 運用で陥りやすいミスと対策(成人・ 2026 年版)
NG 理由 OK(対策)
練習なしでいきなり本試行 学習効果と順序誤りで再現性が落ち、前後比較が崩れる デモ 1 回+練習 1 回を SOP に固定し、「練習実施」を記録に残す
声かけや開始/終了の定義がバラバラ 評価者間でタイムがブレて、再評価の解釈が揺れる 「スタート」「ストップ」文、開始位置・終了条件をスクリプト化して共有
タイムだけを記録して所見を残さない 転倒場面が共有できず、介入設計が遅れる タイム+所見(減速・踏み損ね・リード脚)+ ADL 対応を 1 行で残す
FSST 単独で「転倒リスクあり/なし」を断定 対象により識別能が変動し、過信すると判断ミスにつながる 転倒歴などと束ね、「複数指標の 1 つ」として位置づける
在宅で「 FSST の形」にこだわりすぎる 現実動線から離れ、介入とリンクしない 家屋内の切り返しを FSST パターンに翻訳し、「台所版」「トイレ版」として運用

よくある質問( FAQ )

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

練習は必要ですか?本試行は何回にしますか?

おすすめは デモ 1 回+練習 1 回+本試行 2 回です。順序誤りや学習効果の影響を減らしつつ、疲労も管理しやすい形です。施設で「最大回数」を固定し、例外を減らすほど再評価が強くなります。

補助具(杖・歩行器)は使っていいですか?

原則は「日常歩行に準じて使用可」で OK です。ただし比較のために、種類・高さ・使用側・監視/介助を必ず記録し、再評価で同条件にそろえます。条件が変わった場合は「横比較しない」を徹底します。

狭い病室や在宅で、4 区画が作れないときは?

形にこだわらず、生活動線の切り返し(台所・トイレ・廊下の角)を「前 → 側 → 後」のステップ課題に翻訳して練習へつなげます。評価として実施する場合は、区画サイズと配置を固定して「同条件の再評価」を最優先します。

二重課題やフォーム上 FSST はいつ導入しますか?

導入は 通常条件で失敗なく完遂し、注意の維持が確認できる症例に限定します。段階は「二重課題(通常床)→ フォーム(単一課題)→ 併用」。素材・厚み・監視体制・声かけを固定して、事故と解釈ブレを防ぎます。

次の一手(続けて読む)

参考文献(一次情報優先)

  1. Dite W, Temple VA. A clinical test of stepping and change of direction to identify multiple falling older adults. Arch Phys Med Rehabil. 2002;83(11):1566-1571. PubMedDOI
  2. Duncan RP, Earhart GM. Four square step test performance in people with Parkinson disease. J Neurol Phys Ther. 2013;37(1):2-8. PubMedDOI
  3. Choi YM, Dobson F, Martin J, Bennell KL, Hinman RS. Interrater and intrarater reliability of common clinical standing balance tests for people with hip osteoarthritis. Phys Ther. 2014;94(5):696-704. PubMedDOI
  4. Shirley Ryan AbilityLab. Four Square Step Test. RehabMeasures Database. Accessed 2026-01-15. Website

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

運営者について編集・引用ポリシーお問い合わせ

タイトルとURLをコピーしました