Fugl-Meyer Assessment(FMA)とは?
FMA は、脳卒中後の感覚運動障害を モーター(上肢 66 点・下肢 34 点)、感覚、バランス、関節可動域、関節痛 の複数ドメインで定量化する評価法です。各項目は 0(不能)/1(部分的)/2(完全) の 3 段階で採点します。本稿は「初めて FMA を使う人でも、この記事だけで実施・採点・記録まで完了できる」ことを目的に、脳卒中ハブ・評価ハブと連携しながら、実施手順・採点ルール・解釈・よくあるミスを一気通貫でまとめました。
評価構成と配点の概要
ドメイン | 主な内容 | 最大点 | 備考 |
---|---|---|---|
上肢運動(FMA-UE) | 反射、シナジー内/混合/外、手関節・手指、協調/速度 | 66 | 33 項目 × 0/1/2 |
下肢運動(FMA-LE) | 反射、シナジー内/外、立位課題、協調/速度 | 34 | 0/1/2 採点 |
感覚 | 触覚・位置覚(閉眼・左右比較) | 24 | 上肢・下肢 |
バランス | 座位/立位の保持と姿勢反応 | 14 | 転倒予防に配慮 |
関節可動域 | 主要関節の自/他動可動域 | 44 | 疼痛と別採点 |
関節痛 | ROM 実施時の疼痛反応 | 44 | VAS ではなく項目内基準 |
合計 | フル版(全ドメイン) | 226 | モーター合計は 100( UE 66 + LE 34 ) |
所要時間の目安:フル版 約 30–45 分、モーターのみ 約 20–30 分。経時追跡や介入効果判定では FMA-UE/LE のみでも実務上の有用性は高いです。
実施前チェックと採点ルール
- 環境:静かで安全なスペース、患者の覚醒が良い時間帯を選択。
- 説明:簡潔な口頭指示。非麻痺側での模倣デモ可。
- 試行回数:原則 各課題 3 回までで最良成績を採点(協調/速度は 1 回)。
- 介助:誘導のハンドリングは不可(安全確保の接触は可)。
- スコア:0=不能/1=部分的/2=完全。疼痛や ROM 制限で不能でも 0 とする。
- 安全管理:立位・バランス課題では転倒対策と見守りを徹底。肩痛・亜脱臼に留意。
準備物(最小構成)
- 安定した椅子・ベッド、テーブル、ストップウォッチ、反射ハンマー、綿球/小物
- 遮蔽(アイマスク等)、筆記具、本記事の記録シート(A4)(下段で配布)
FMA-UE(上肢) 実施のコア手順
- 反射:上腕二頭筋・三頭筋などの誘発有無を 0/1/2。
- シナジー内:屈曲/伸展シナジー内での随意運動(代償・パターン崩れを観察)。
- シナジー混合/外:肩 90° 外転での肘伸展、肩 30° 屈曲での手関節運動など分離の程度を確認。
- 手関節・手指:背屈保持(軽抵抗付与)、反復背屈/掌屈、把持課題、指屈伸。
- 協調/速度:拮抗運動の滑らかさ・正確性・時間内反復。
声かけ例:「耳に手を当てるように持っていき、そこから反対の膝まで滑らせてください」「手首を上にそらして、その位置を保ってください」。厳密な開始位・終末位・減点基準は University of Gothenburg の公式マニュアルを参照。
FMA-LE(下肢) 実施のコア手順
- 反射:膝蓋腱・アキレス腱。
- シナジー内:股・膝・足の屈曲/伸展パターン内での随意運動。
- シナジー外:立位での膝屈曲 90°、足関節背屈(股伸展保持下)など。
- 協調/速度:リズム・正確性・分離の程度。
感覚・バランス・関節可動域/疼痛
- 感覚( 24 点 ):触覚・位置覚を閉眼・左右比較で評価。
- バランス( 14 点 ):座位/立位の静的保持と姿勢反応。介助量・保持時間・代償を評価。
- 関節可動域( 44 点 )/疼痛( 44 点 ):主要関節の自/他動可動域と、その際の疼痛を別採点。
解釈:重症度の目安・経時変化の見方
重症度 | FMA-UE 目安 | 臨床メモ |
---|---|---|
重度 | 0–19(〜22) | クラスタ分析等の提案値。臨床像と併せて判断。 |
中等度 | 20–46(23–47) | 境界域は重なりあり。 |
軽度 | ≥47(48–66) | 上位域は ARAT 等の能力評価と併用。 |
MCID の目安(対象や時期で差あり):FMA-LE は慢性期で 約 6 点、FMA-UE は おおむね 4–13 点の報告。施設で運用する「域値」をカンファで共有しておくと解釈の一貫性が高まります。
よくあるミス/中止基準(早見表)
場面 | OK(推奨) | NG(避ける) | 中止・再評価 |
---|---|---|---|
指示・デモ | 簡潔な口頭指示/非麻痺側での模倣デモ | 長い説明・複雑課題の同時提示 | 理解困難が続けばセッション再設定 |
試行回数 | 各課題 3 回までで最良成績を採点 | 無制限の反復・練習偏り | 疲労・痛み増悪で一時中止し別日再開 |
安全管理 | 見守り配置・転倒対策・動線確保 | 立位課題での無監視 | バイタル逸脱・激痛・失神前駆で即中止 |
肩の扱い | 痛み・亜脱臼の事前確認と支持 | 疼痛を無視した他動強要 | 痛み増悪時は ROM/Pain 項目を見送り |
採点の一貫性 | 同一の開始位・終末位・減点基準で実施 | 担当者ごとに基準が異なる | 不一致時はビデオ・二重採点で合議 |
FMA スコアシート(A4・印刷用|自作ワークシート)
以下は配点構造と集計欄のみを備えた自作ワークシートです(各項目文言は記載せず、公式マニュアルへリンクで参照する方針)。
FMA モーター(UE/LE)スコアシートを開く
FMA 感覚・バランス・ROM/疼痛シートを開く
運用プロトコル(チーム導入の最短ルート)
- 対象と目的を明確化(例:回復期での UE 改善の追跡)。
- 本記事の手順+記録シートで 1 例パイロット → 二重採点で基準合わせ。
- 定点観測日を固定(入棟/ 2 週/ 4 週/退棟など)。
- 解釈の「運用域値」(MCID 目安など)をカンファで共有。
- 能力評価(例:ARAT、BI/FIM)と 臨床フロー に組み込み、介入方針に反映。
参考文献(一次情報・公的資料優先)
- Fugl-Meyer AR, Jääskö L, Leyman I, Olsson S, Steglind S. The post-stroke hemiplegic patient: I. A method for evaluation of physical performance. Scand J Rehabil Med. 1975;7(1):13-31. PubMed
- University of Gothenburg. Fugl-Meyer Assessment – Protocols & Manuals.(公式サイト)Link
- Sullivan KJ, et al. Fugl-Meyer assessment of sensorimotor function after stroke: standardized training procedure. Stroke. 2011;42(2):427-432. doi:10.1161/STROKEAHA.110.592766
- Gladstone DJ, et al. The Fugl-Meyer Assessment of motor recovery after stroke: a critical review. Neurorehabil Neural Repair. 2002;16(3):232-240. doi:10.1177/154596802401105171
- Pandian S, et al. Minimal clinically important difference of the lower-extremity FMA in chronic stroke. J Neurol Phys Ther. 2016;40(3):186-193. doi:10.1097/NPT.0000000000000134
- Woytowicz EJ, et al. Determining levels of upper-extremity movement impairment by cluster analysis of the FMA-UE. Arch Phys Med Rehabil. 2017;98(3):456-462. doi:10.1016/j.apmr.2016.06.023
- StrokEngine. Fugl-Meyer Assessment summary(配点・実施時間・解釈の概説). Link