目標設定等支援・管理シートは「文章力」ではなく「順番」で決まる
目標設定等支援・管理シート(別紙様式 23 の 5)は、思いついた順に埋めるとブレやすく、「目標が抽象的」「支援内容が薄い」「見通しが弱い」で差し戻しが起きがちです。本記事では、PT/OT/ST が 1 枚を最短で整える記入順と、よくある NG をそのまま使える OK 文へ変換する型をまとめます。
ねらいは「きれいに書く」ではなく、退院後(生活期)まで見据えた説明と記録を、院内で同じ品質にそろえることです。読み終えたら、まずは記入順とNG→OK 変換表だけをチームで共有して運用を固定してください。
現場の詰まりどころ:差し戻しが起きる 5 パターン
差し戻しは「内容が間違い」というより、読み手が次の判断に進めないときに起きます。下の 5 パターンを潰すだけで、説明と記録の一貫性が上がります。
スマホは表を横スクロールして確認してください。
| パターン | なぜ差し戻される? | 直し方(型) | 記録の一言テンプレ |
|---|---|---|---|
| 目標が「訓練内容」 | アウトカム(生活の変化)が見えず、説明に使えない | 参加 → 活動 → 心身機能の順で 1 行ずつ固定 | 「訓練」ではなく「生活で達成したい行動」で設定 |
| 長期と短期が同じ | 期限と評価が曖昧で、再評価が回らない | 短期=次回見直し、長期=退院/在宅定着で期限を分ける | 短期は「次の 2 〜 4 週」で達成可能な条件にする |
| ICF が形だけ | 心身機能しか書かれておらず、生活像に接続しない | 参加・活動・環境因子を最小セットで書く | 環境因子(家屋/家族/サービス)を 1 つ必ず入れる |
| 支援内容が抽象的 | 誰が/いつ/何をがなく、多職種で役割分担できない | 「担当 × 頻度 × 手段」で 1 行化 | 「 PT:週 5 回、歩行は T 字杖で見守り」 |
| 見通しが弱い | 退院後の対応(介護保険/通所/訪問)が読めない | 順調/停滞の 2 シナリオで書く | 「順調なら在宅、停滞なら福祉用具+サービス調整」 |
書類の“詰まり”が続くときは、面談準備のチェックを先に整えると説明が楽になります(関連:面談・説明の準備チェック(ダウンロード))。
3 分で埋める“記入順”テンプレ(迷いが消える)
記入は「思いついた順」ではなく、意思決定が前に進む順で埋めます。結論から言うと、参加 → 活動 → 心身機能 → 目標 → 支援 → 再評価です。
- 参加(生活でやりたいこと)を 1 行で固定(例:自宅で入浴、職場復帰、買い物再開)
- 活動(できる行動)を 1 行で固定(例:屋内移動、階段、移乗、更衣)
- 心身機能(ボトルネック)は 1 〜 2 個に絞る(例:起立耐性、下肢筋力、疼痛)
- 長期目標を先に作る(期限+条件+ 1 指標)
- 短期目標は「次回見直し」までに達成できる条件に落とす
- 支援内容を「誰が/頻度/手段」で 1 行化(多職種・家族・環境)
- モニタリング(再評価)のタイミングを固定(例:週 1 回のミニ再評価、退院前カンファ)
迷ったら「参加の 1 行」に戻ると、目標と支援が自然にそろいます。
NG→OK 変換集(そのまま書き換えできる)
目標文は、条件(補助具/介助量/環境)を入れるだけで一気に伝わります。下の表は「よくある NG」を、説明に使える「 OK 文」に変換した例です。
| よくある NG | なぜ弱い? | OK(そのまま使える例) | 評価指標( 1 つで OK ) |
|---|---|---|---|
| 歩行訓練を行う | 訓練で終わり、生活の変化が不明 | 屋内 20 m を T 字杖で見守り 1 回、転倒なしで移動できる | 歩行距離/介助量/転倒回数 |
| 筋力向上 | 何ができるようになるかが不明 | 手すり使用で立ち上がり 5 回を 1 分以内に完遂し、休憩 1 回以内 | 回数/時間/ Borg |
| ADL 自立 | 範囲が広すぎて評価不能 | 更衣(上衣)を座位で 5 分以内、声かけのみで完遂する | 所要時間/介助の種類 |
| 家事ができる | 状況・環境が想定できない | 食事準備を 10 分、休憩 1 回で完遂し、見守りは不要 | 遂行時間/休憩回数 |
| 転倒予防 | 介入が抽象で役割分担できない | 屋内移動は夜間のみセンサーライト、段差はマット撤去、週 1 回の振り返りで転倒 0 | 転倒回数/環境調整の実施 |
ICF は「 3 つだけ」書けば運用できる(最小セット)
ICF を完璧に埋める必要はありません。重要なのは、参加と活動を中心に、環境因子までを 1 セットで書いて「次の対応」を決められる状態にすることです。
- 参加:家庭・仕事・地域で果たしたい役割(例:入浴再開、通院、復職)
- 活動:参加に直結する行動(例:屋内移動、階段、更衣、調理)
- 環境因子:家屋、家族支援、福祉用具、サービス(例:手すり、訪問リハ、通所)
心身機能は「活動を邪魔している 1 〜 2 個」に絞ると、書類が一気に読みやすくなります。
長期目標・短期目標の作り方(期限・数値・条件)
目標設定で最も大事なのは、期限と条件です。数値は 1 つで十分で、むしろ増やすほどブレます。
- 長期目標:退院・在宅定着・復職などの「節目」を期限にする(例:退院時、 3 か月後)
- 短期目標:次回見直し(例: 2 〜 4 週)で達成可能な条件にする
- 条件固定:杖/装具/介助量/環境(屋内・屋外、段差、夜間)を明記する
同じ「歩ける」でも、屋内 20 m と屋外 200 m は全く別物です。条件を決めるほど、多職種の支援が揃います。
支援内容の書き方:多職種・家族・環境調整まで 1 セット
支援内容は「良くする」ではなく、誰が/頻度/手段で書きます。これだけで、カンファレンスの議論が短くなります。
| 領域 | 書き方の型 | 例 | 確認ポイント |
|---|---|---|---|
| PT | 頻度+課題+条件 | 週 5 回、屋内歩行 20 m( T 字杖・見守り) | 介助量と補助具が固定されている |
| OT | 生活課題+環境 | 更衣・調理の動作手順を自宅環境で練習 | 家屋条件(段差・手すり)を想定 |
| ST | 食形態/指導+評価 | 食形態調整とセルフケア指導、週 1 回の再評価 | 安全な摂取条件が明確 |
| 看護 | 24 時間の統一 | トイレ動作は手すり使用、移乗は見守りで統一 | 病棟で手順が揃う |
| 家族支援 | やることを 2 つまで | 見守りの位置、声かけの言い方を統一 | 過介助になっていない |
| サービス調整 | 候補+条件 | 訪問/通所の候補、福祉用具(手すり・歩行器)の確認 | 退院後の継続が切れない |
ケース別の書き方( 3 パターン)
最後に「書き方の型」を、よくある 3 パターンに当てはめて整理します。文章は短く、条件だけを明確にするのがコツです。
回復期:歩行自立を狙う
参加(在宅生活の再開)→活動(屋内移動)→心身機能(起立耐性・下肢筋力)で 1 行ずつ固定し、長期=退院、短期=次回見直しに落とします。
生活期:転倒予防と活動量の底上げ
転倒予防は「注意」では変わりません。環境因子(照明・段差・手すり)と、週次の振り返り(再評価)をセットにすると回ります。
神経疾患:進行を前提に “維持と代償” を書く
“改善” だけに寄せず、代償手段(補助具・環境)と、悪化時の対応(サービス調整)を 2 シナリオで記載します。
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1.「目標が抽象的」と言われます。何を足せばいい?
A.条件(補助具/介助量/環境)を 1 つ足してください。例えば「歩ける」ではなく「屋内 20 m を T 字杖で見守り、転倒なし」のように、読み手が同じ場面を想像できる文にします。数値は 1 つで十分です。
Q2.短期目標が思いつきません。
A.短期目標は「長期目標の途中経過」です。期限を次回見直し( 2 〜 4 週)に固定し、長期目標の条件を 1 段だけ易しくします(距離、介助量、環境のどれか 1 つだけ調整)。
Q3.支援内容に何を書けば “具体的” になりますか?
A.「誰が/頻度/手段」の 3 点です。例えば「 PT:週 5 回、屋内歩行 20 m( T 字杖・見守り)」のように、担当と条件が揃えば多職種の連携が回りやすくなります。
Q4.退院後の見通しが弱いと言われます。
A.順調/停滞の 2 シナリオで書くと強くなります。順調なら在宅、停滞なら福祉用具やサービス追加など、次の一手が読める形にします。
Q5.ICF を全部書けません。最低限は?
A.参加・活動・環境因子の 3 つで十分運用できます。心身機能は「活動を邪魔している 1 〜 2 個」だけに絞ると、書類が読みやすくなります。
次の一手(今日やること)
- 院内で記入順(参加→活動→心身機能→目標→支援→再評価)を統一する
- 差し戻しの多い表現は、NG→OK 変換表を共有して置換する
- ICF の最小セット(参加・活動・環境因子)だけは必ず書く
続けて読む:
参考文献
- 厚生労働省. 目標設定等支援・管理シート(別紙様式 23 の 5). 様式(Word)
- 厚生労働省. リハビリテーション総合実施計画書(別紙様式 2-3). PDF
- Clinical Sup. H003-4 目標設定等支援・管理料(通知). 掲載ページ
- 国立保健医療科学院(研究助成). ICF を活用したリハビリテーションカンファレンスの進め方. PDF
- 吉田 望. ICF に基づく評価と目標設定に関する解説( J-STAGE ). PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

