- GOLD( COPD 重症度 )の読み方|増悪リスクと呼吸困難の整理
- 結論・早見(まずこれだけ)
- GOLD は 3 つを分けて読む(診断/重症度整理/治療の方向性)
- 診断:まずスパイロ( FEV1 / FVC )で COPD を確認
- 気流閉塞の重症度( FEV1 % predicted ):GOLD 1〜4
- 症状評価: mMRC / CAT で「息切れの負荷」を揃える
- 増悪リスク:過去 1 年の「回数」と「入院」を最優先で確認
- ABE 分類の決め方( 3 ステップで迷わない )
- リハでの使い方:ABE から「負荷設定・観察・次アクション」へ
- 現場の詰まりどころ(よくある失敗と対策)
- よくある質問(FAQ)
- おわりに
- まとめ
- 参考文献
- 著者情報
GOLD( COPD 重症度 )の読み方|増悪リスクと呼吸困難の整理
臨床で迷わない「評価 → 介入」の組み方をまとめて見る( PT キャリアガイド )
GOLD は、 COPD(慢性閉塞性肺疾患)を「気流閉塞(スパイロ)」「症状(呼吸困難)」「増悪リスク」で整理し、初期治療やフォローの方向性をそろえる国際的な枠組みです。とくに近年は、スパイロの重症度だけでなく、症状と増悪で臨床の優先順位を決める考え方が中心になっています。
リハの現場では「息切れが強いのに FEV1 は軽い」「増悪が多いのに普段は歩ける」など、ズレが起きやすいのが実情です。本記事では、GOLD を ABE で整理する手順と、そこから運動負荷・観察・次アクションへ繋げる読み方を 1 本にまとめます。関連の整理は 内部障害ハブ にまとめています。
結論・早見(まずこれだけ)
- GOLD は COPD を「診断(スパイロ)」と「重症度の整理(症状+増悪: ABE )」に分けて考えます。
- リハの優先は、①増悪( E かどうか )と②呼吸困難の強さ( mMRC / CAT )で決まります。
- スパイロ( FEV1 % )は重要ですが、個人の息切れや ADL を単独で決めないため、ABE とセットで読むのがコツです。
GOLD は 3 つを分けて読む(診断/重症度整理/治療の方向性)
GOLD を読みやすくするコツは「何を決める情報か」を分けることです。まず COPD の診断はスパイロで行います。その上で、治療やフォローの方向性を決めるために、症状(呼吸困難)と増悪歴で ABE に分類します。最後に、気流閉塞の重症度( FEV1 % )を併記して、呼吸機能の背景やリスク(低下の程度)を押さえます。
つまり、スパイロの数字は「病態のベース」を示し、ABE は「今の困りごと(症状)と近い将来のリスク(増悪)」を示します。リハでは ABE を介入の優先順位として使うと実務に落ちます。
診断:まずスパイロ( FEV1 / FVC )で COPD を確認
COPD の診断は、原則として気管支拡張薬吸入後のスパイロで、 FEV1 / FVC < 0.70 が持続することを確認します。ここが曖昧だと、喘息や心不全、過換気、貧血などが混ざり、息切れの整理が崩れます。
現場での詰まりどころは「検査結果が手元にない」「高齢で境界になりやすい」「 COPD と言われているが実際は別の要因が強い」です。まずは診断情報(スパイロの有無)を確認し、なければ主治医へ共有するのが安全です。
気流閉塞の重症度( FEV1 % predicted ):GOLD 1〜4
気流閉塞の程度は FEV1(予測値 % )で GOLD 1〜4 に区分します。ただし、これは症状の強さと 1 対 1 では一致しません。息切れが強いのに FEV1 が保たれるケース(脱条件化・過膨張・不安など)もあれば、 FEV1 が低いのに工夫で ADL が保てるケースもあります。リハでは「背景の重さ」として押さえ、介入の優先順位は ABE で整理します。
| GOLD グレード | FEV1( % predicted ) | 臨床での読みどころ |
|---|---|---|
| 1 | ≥ 80% | 症状が強い場合は、過膨張・脱条件化・併存疾患を疑う |
| 2 | 50–79% | 息切れと活動量低下が進みやすい。運動耐容能の評価が有用 |
| 3 | 30–49% | 増悪・低酸素・栄養低下などの併発に注意。モニタを厚く |
| 4 | < 30% | 呼吸困難が強くなりやすい。中止基準と環境調整が最優先 |
症状評価: mMRC / CAT で「息切れの負荷」を揃える
ABE の「 A と B 」を分けるのは症状の強さです。代表は mMRC (呼吸困難の程度)と CAT (健康状態の質問票)で、GOLD では一般に mMRC 0–1(または CAT < 10 )=症状少、 mMRC ≥ 2(または CAT ≥ 10 )=症状多として整理します。
ポイントは、どちらか 1 つに固定して運用することです。リハの現場では mMRC の方が短時間で扱いやすい一方、 CAT は「睡眠・活力・咳痰」なども含めた全体像が見えやすい利点があります。どちらを使っても、“同じ物差しを継続する”ことが再評価の精度を上げます。
増悪リスク:過去 1 年の「回数」と「入院」を最優先で確認
ABE の「 E 」は、増悪リスクが高い群です。実務では、過去 1 年の中等度増悪(抗菌薬 / 全身性ステロイドが必要)の回数、または入院を要した増悪があったかを確認します。病棟・外来で情報が分かれやすいので、主治医記録・紹介状・退院サマリで裏を取り、患者さんの自己申告は“補助”にします。
ABE 分類の決め方( 3 ステップで迷わない )
ABE は、①症状の多い / 少ない、②増悪リスクが高い / 低い、の組み合わせで整理します。手順はシンプルで、まず増悪( E )かどうかを確認し、次に症状で A と B を分けます。
| 群 | 症状(目安) | 増悪(過去 1 年) | 臨床での意味(リハの優先) |
|---|---|---|---|
| A | 少ない(例: mMRC 0–1 / CAT < 10 ) | 少ない(増悪が多くない) | 活動量を落とさず、セルフマネジメントを固める |
| B | 多い(例: mMRC ≥ 2 / CAT ≥ 10 ) | 少ない(増悪が多くない) | 呼吸困難を下げ、歩行・ ADL の“詰まり”を優先介入 |
| E | 症状の多少を問わない | 多い(例:中等度増悪 ≥ 2 回、または入院増悪 ≥ 1 回) | 最優先は増悪予防(教育・早期受診・負荷設計・併存疾患) |
リハでの使い方:ABE から「負荷設定・観察・次アクション」へ
GOLD をリハで活かす最大のポイントは、ABE を介入の優先順位に落とすことです。A は「動けるうちに活動量を底上げ」、B は「息切れを下げて動ける範囲を広げる」、E は「増悪を減らす設計」を最優先にします。
| 群 | 狙い(最優先) | 負荷設定のコツ | 観察ポイント |
|---|---|---|---|
| A | 活動量の維持・増加 | “ややきつい”まで段階的に。歩行・下肢持久+筋力を定着 | 息切れの立ち上がり、回復速度、生活内の歩数 / 外出 |
| B | 呼吸困難の軽減と ADL 拡大 | インターバルで成功体験を作る。呼吸法・休憩計画をセット | 動的過膨張が疑われるサイン(息切れの早期出現) |
| E | 増悪予防(再入院を減らす) | “上げすぎない”設計が重要。教育と自己管理を優先して進行 | 増悪前兆(咳痰・倦怠・睡眠・食欲)、 SpO2、バイタル変動 |
現場の詰まりどころ(よくある失敗と対策)
GOLD の読み違いは「スパイロだけで決める」「症状の物差しが揃っていない」「増悪歴が曖昧」の 3 パターンが多いです。特に E を見落とすと、運動負荷の設計がズレて再燃リスクが上がるため、増悪歴の確認は最優先にします。
| よくある詰まり | 何が起きるか | 対策(実務の型) |
|---|---|---|
| FEV1 だけで重症度を決める | 息切れや ADL の困りが拾えず、介入が外れる | ABE を主軸にし、FEV1 は“背景”として併記する |
| 症状評価が毎回変わる | A / B がブレて、目標設定が定まらない | mMRC か CAT のどちらか 1 つに固定して継続する |
| 増悪歴が曖昧(自己申告のみ) | E を見落とし、再燃リスクが上がる | 退院サマリ・紹介状・処方歴で裏を取り、過去 1 年で整理 |
| B 群で「息切れが強いのに進まない」 | 成功体験が作れず、活動量が落ちる | インターバル、休憩計画、呼吸法をセットにして“できた”を増やす |
よくある質問(FAQ)
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Q1. 「 GOLD 2 」と「 B 群 」は同じ意味ですか?
同じ意味ではありません。GOLD 1〜4 は気流閉塞の程度( FEV1 % )で、A / B / E は症状( mMRC / CAT )と増悪歴で決まります。リハの優先順位(呼吸困難の軽減や増悪予防)は、まず ABE で整理し、FEV1 は背景として併記するとズレが減ります。
Q2. 息切れが強いのに FEV1 が軽い( GOLD 1〜2 )ことがあります。どう考えますか?
あり得ます。息切れは気流閉塞だけで決まらず、動的過膨張、脱条件化、不安、心不全や貧血などの併存が影響します。ABE で症状を整理しつつ、歩行耐容能・筋力・活動量・併存疾患の情報を集めて「息切れの主因」を推定すると、介入が組み立てやすくなります。
Q3. E 群の見落としを防ぐコツは?
過去 1 年の増悪について、①抗菌薬 / 全身性ステロイドが必要だった回数、②入院が必要だったかの 2 点を必ず確認します。患者さんの記憶だけに頼らず、退院サマリや処方歴で裏を取ると見落としが減ります。
Q4. A / B の境目は、どう運用するとブレにくいですか?
mMRC と CAT を混ぜて使うとブレやすいので、まずどちらか 1 つに固定します。一般に mMRC は短時間で扱いやすく、CAT は健康状態の全体像を拾いやすい特徴があります。運用を固定した上で、再評価は「同じ条件」で行うのがコツです。
おわりに
COPD の整理は、スパイロで診断を確認 → 症状を言語化 → ABE で優先順位を決める → 負荷を段階化 → 再評価のリズムで回すと、現場の迷いが減ります。息切れの強さと増悪リスクを先に整えることで、運動療法・ ADL 指導・自己管理教育が同じ方向を向きやすくなります。もし職場選びや学び直しの計画も一緒に整えたい場合は、面談準備チェックや職場評価シートを使って「学ぶ環境」を点検しておくと、臨床の伸びが加速します。
まとめ
- GOLD は COPD を診断(スパイロ)と重症度整理(症状+増悪: ABE )に分けて読むと迷いが減ります。
- リハの優先は、 E(増悪リスク)と呼吸困難( mMRC / CAT )で決まります。
- FEV1( GOLD 1〜4 )は背景として併記し、介入は ABE を主軸に組み立てます。
参考文献
- Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD). Global Strategy for the Diagnosis, Management, and Prevention of COPD: 2025 Report. GOLD; 2025. Available from: GOLD 2025 Report.
- Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD). Pocket Guide to COPD Diagnosis, Management, and Prevention: 2024 (ver 1.2). GOLD; 2024. Available from: Pocket Guide 2024.
- Agustí A, Celli BR, Criner GJ, et al. Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease 2023 Report: GOLD Executive Summary. Eur Respir J. 2023;61(4):2300239. doi: 10.1183/13993003.00239-2023. PubMed Central: PMC10111975.
- Miravitlles M, Kostikas K, Bizymi N, Tzanakis N. A Novel Figure and Algorithm for the GOLD ABE Classification. Arch Bronconeumol. 2023. doi: 10.1016/j.arbres.2023.06.001.
- Bhatt SP, Balte PP, Schwartz JE, et al. FEV1/FVC Severity Stages for Chronic Obstructive Pulmonary Disease. Am J Respir Crit Care Med. 2023. doi: 10.1164/rccm.202303-0450OC.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


