手関節・手部の整形外科テスト【しびれ・腱鞘炎】

評価
記事内に広告が含まれています。

手関節・手部の整形外科テストとは

臨床で伸びる学び方の流れを見る(PT キャリアガイド)

手関節・手部の整形外科テストは、手根管症候群、狭窄性腱鞘炎(ドケルバン病)、末梢神経障害、末梢循環不全など「よくある手のしびれ・痛み」の鑑別に欠かせないツールです。ただし、レントゲンや神経伝導検査・超音波検査などと組み合わせて総合的に評価する必要があり、テスト単独で診断を確定できるわけではありません。

本記事では、Phalen テスト・手関節部の Tinel 徴候・Allen テスト・Finkelstein/Eichhoff テスト・Froment 徴候・Tear Drop 徴候など、理学療法士が日常的に遭遇しやすいテストを中心に、「何を狙うテストか」「どのようにリハビリに活かすか」を整理します。頸椎や肩、糖尿病や血管疾患など全身要因も視野に入れながら、手の症状を評価していきましょう。

手根管症候群を疑うテスト(Phalen・Tinel)

母指〜環指橈側のしびれ・痛み、夜間〜早朝の増悪、物を落としやすいなどの訴えがある場合には、手根管症候群を想定します。代表的なテストは Phalen テスト(手関節最大掌屈保持)と、手関節部の Tinel 徴候です。いずれも正中神経の絞扼部位にストレスを与え、しびれや疼痛の再現を狙うテストです。

手根管症候群を疑う代表的テスト
テスト名 主な操作 狙う所見
Phalen テスト 両手関節を最大掌屈位で背中合わせに合わせて保持 1〜3 指+ 4 指橈側のしびれ・痛み再現
手関節部の Tinel 徴候 手根管部を軽く叩打 正中神経支配領域への放散痛・ビリビリ感

重要なのは、「どの指に」「どのようなしびれが」出るかを具体的に確認することです。しびれの分布が典型的な正中神経領域から外れている場合や、左右対称のしびれ・感覚低下がある場合、頸椎症性神経根症や頸髄症、糖尿病性ニューロパチーなどの可能性も考慮する必要があります。また、テスト実施中に強い痛みや不快感が出た場合には、持続時間や強度を無理に延長しないよう配慮します。

リハビリテーションでは、長時間の手関節掌屈位(スマホ操作、寝姿勢での手の位置など)を避ける指導とともに、夜間装具による手関節中間位保持、前腕〜肩の姿勢改善などを検討します。テスト結果は「どの姿勢・負荷で症状が出やすいか」を説明する際の材料として活用し、患者さんと共通認識を作ることが重要です。

末梢血管・動脈循環不全を疑うテスト(Allen)

手指の冷感・蒼白、労作時や寒冷曝露時のしびれ・痛みなどがある場合には、末梢動脈循環不全も念頭に置きます。Allen テストは、橈骨動脈・尺骨動脈の開存や掌側アーチの血流を大まかに評価するテストです。患者に握りこぶしを作らせてから両動脈を圧迫し、開放した側の血流再開による手掌の色調変化を観察します。

臨床でのポイントは、「色の戻りに左右差がないか」「血流回復にかかる時間が極端に遅くないか」を大まかに見ることです。Raynaud 現象や動脈硬化性疾患、透析歴などがある場合には、末梢循環の評価が特に重要になります。一方、Allen テスト単独で重大な血管病変の有無を判定できるわけではなく、必要に応じて血管エコーや専門科での評価を依頼する必要があります。

理学療法士としては、末梢循環不全が疑われる症例に対して、冷却や強い圧迫を伴う治療手技を控えたり、保温・自動運動・呼吸循環訓練など全身的なアプローチを組み合わせるなどの配慮が求められます。Allen テストの結果は、「なぜこの症例ではモビライゼーションやストレッチの強度を控えているのか」を説明する根拠にもなります。

狭窄性腱鞘炎(ドケルバン病)を疑うテスト

橈側手関節〜母指基部の局所痛や、ペットボトルをひねる・子どもを抱き上げるなどの動作での痛みがある場合には、狭窄性腱鞘炎(ドケルバン病)を疑います。代表的なテストが Finkelstein テストと Eichhoff テストです。母指を他の指で包み込んだ状態で手関節を尺屈させ、長母指外転筋・短母指伸筋腱の通過部(橈側茎状突起周囲)にストレスをかけます。

ドケルバン病関連テストのイメージ
テスト名 主な操作 評価する所見
Finkelstein テスト 母指を包んだ拳で緩やかに尺屈 橈側茎状突起部の鋭い局所痛
Eichhoff テスト 同様だがやや強めに尺屈することが多い より強いストレスでの痛み再現(偽陽性に注意)

臨床では、局所圧痛や腫脹、触診での肥厚の有無と組み合わせて解釈することが重要です。単に「尺屈で手関節全体が痛い」ケースや、橈骨遠位端骨折・ CMC 関節症・頸椎からの関連痛など他の要因が疑われるケースでは、テスト陽性のみでドケルバン病と判断しないよう注意が必要です。

リハビリテーションでは、まず疼痛誘発動作を洗い出し、生活の中での動作・抱え方・荷物の持ち方を調整します。必要に応じて短期間の装具固定を併用しながら、前腕や肩・体幹の使い方を改善して、負荷が局所に集中しないようにしていきます。テスト結果を患者と共有することで、「なぜ今はこの動作を控えているのか」を説明しやすくなります。

ギヨン管症候群など尺骨神経障害を疑うテスト

小指〜環指尺側のしびれ・感覚低下、つまみ動作の弱さなどがある場合には、ギヨン管症候群などの尺骨神経障害を考えます。Froment 徴候は、母指と示指で紙をつまませた際に、母指 IP 関節の屈曲(長母指屈筋優位)や母指内転の弱さがみられるかどうかを評価するテストです。尺骨神経支配の母指内転筋が機能低下していると、代償的に正中神経支配筋が働きます。

ギヨン管での絞扼は、自転車・車椅子・杖のグリップ部位での長時間荷重や、工具使用、反復する荷物運搬などと関連しやすいといわれます。肘部管症候群との鑑別のためには、しびれの分布や、肘位・手関節位による症状変化を問診・観察で丁寧に確認することが大切です。手関節部での Tinel 徴候が陽性となる場合もあります。

リハビリテーションでは、圧迫のかかる手掌尺側の荷重を減らすためのポジショニングやグリップ変更、ハンドル周囲の工夫などを検討します。筋力トレーニングは、神経障害の程度や回復状況を見ながら段階的に行い、必要に応じて整形外科・手外科・神経内科と連携して治療方針を調整します。

前骨間神経麻痺を疑うテスト(Tear Drop 徴候)

母指と示指で丸を作る「 OK サイン」がうまく作れず、扁平な三角形のような形になる場合には、前骨間神経麻痺を疑います。Tear Drop 徴候は、このような母指 IP 関節・示指 DIP 関節の屈曲障害を視覚的に捉えるテストであり、深指屈筋や長母指屈筋(前骨間神経支配)の機能低下を反映します。

前骨間神経麻痺の背景には、上腕〜前腕の外傷・ギプス固定・圧迫などが関与することもあり、単純な末梢神経障害にとどまらない場合もあります。頸椎病変や脳卒中などの中枢病変との鑑別も重要であり、徒手筋力テストや他の神経学的所見とあわせて評価していきます。

理学療法では、まず原因検索と経過観察の方針を主治医と共有しつつ、代償動作の学習や日常生活動作の工夫を支援します。筋力回復が見込まれる場合には、痛みや疲労を増悪させない範囲での随意収縮練習や、手内筋・手関節周囲の協調性トレーニングを行います。テスト所見の変化を定期的に記録しておくことで、回復経過の説明にも役立ちます。

評価結果をリハビリテーションにどう活かすか

手関節・手部の整形外科テストは、局所の病態だけでなく、頸椎・肩・全身状態を含めて「どのレベルで問題が起きているか」を切り分けるための材料です。Phalen や Tinel で正中神経障害が強く疑われる場合には、夜間装具や作業姿勢の変更を優先し、頸椎や肩の姿勢制御とセットでアプローチすることで、末梢負荷を軽減できます。

ドケルバン病やギヨン管症候群が疑われる症例では、装具やテーピングなど局所保護の工夫に加えて、「抱え方」「ハンドルの握り方」「荷物の持ち方」など具体的な動作を一緒に確認し、再発予防まで含めた生活指導を行うことが重要です。Allen テストで末梢循環不全が示唆される場合には、評価結果を根拠に、冷却・強圧・過度の牽引などを控える説明が可能になります。

再評価では、すべてのテストを毎回繰り返す必要はなく、症状の主座や治療ターゲットに関係する 1〜3 個を選んで追跡すると効率的です。しびれの範囲・強さ・日内変動、握力や巧緻動作の変化も併せて記録し、患者さんと一緒に変化を確認していくことで、モチベーション維持にもつながります。

配布物・チェックシートの活用(働き方の整理にも)

手の症状は、職場環境や働き方と強く結びついていることが多く、評価・治療の工夫だけでは限界を感じる場面も少なくありません。症例を通じて自分の臨床スキルを高めつつ、「この職場環境で長く働き続けられるか」「学びを継続しやすい体制か」を考えることも、キャリアを守るうえで大切な視点です。

働き方を見直すときの抜け漏れ防止に。見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック( A4・ 5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。印刷してそのまま使えます。ダウンロードページを見る

おわりに

手関節・手部の整形外科テストは、手根管症候群・狭窄性腱鞘炎・尺骨神経障害・末梢循環不全など、「よくあるが見落としたくない病態」を整理するうえで有用です。テストの名前や手順だけでなく、「どの神経・腱・血管にストレスをかけるテストなのか」「どの動作場面と結びつけて考えるのか」を意識することで、評価→介入→再評価のリズムが整いやすくなります。

面談準備チェックと職場評価シートも活用しながら、自分の働き方や学び方を振り返り、手の症例に強いセラピストとしての引き出しを少しずつ増やしていきましょう。日々の臨床で得た気づきをメモし、チーム内で共有することで、患者さんのアウトカムと自分自身のキャリアの両方を守ることにつながります。

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Phalen テスト陽性なら、すぐ手根管症候群と考えてよいですか?

Phalen テスト陽性は手根管症候群を示唆しますが、それだけで確定診断にはなりません。しびれの分布や夜間増悪の有無、筋萎縮・巧緻動作障害、頸椎や肘・肩の病変などもあわせて評価する必要があります。疑いが強い場合には、神経伝導検査や超音波検査などを含めた整形外科・手外科での精査を主治医に相談しましょう。

Finkelstein テストと Eichhoff テストの違いは何ですか?

どちらもドケルバン病を疑うテストで、母指を包んだ状態で手関節を尺屈させる点は共通です。Eichhoff テストはより強い尺屈ストレスになることが多く、健常者でも痛みが出やすいため、偽陽性が増えやすいとされています。臨床では、まず軽い力で Finkelstein テストを行い、局所圧痛や腫脹など他の所見と合わせて解釈するのがおすすめです。

Allen テストが「やや怪しい」場合、すぐに運動療法を中止すべきですか?

Allen テストは簡便なスクリーングに過ぎず、「やや怪しい」からといって即座にすべての運動療法を中止する必要はありません。ただし、強い握力トレーニングや極端な手関節肢位での長時間負荷など、末梢循環をさらに悪化させる可能性のある介入は控えめにし、保温・自動運動・全身の循環改善を重視するなどの配慮が必要です。心配な場合は、評価結果をまとめて主治医に相談し、血管検査の必要性を検討してもらいましょう。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

運営者について編集・引用ポリシーお問い合わせ

タイトルとURLをコピーしました