HFNC(ハイフロー)装着中の離床・運動療法|安全基準・観察・記録の型

臨床手技・プロトコル
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HFNC(ハイフロー)装着中の離床・運動療法|安全基準・観察・記録の型

HFNC 下の離床は「メニュー」より先に、開始条件・中止基準・記録の型をそろえると安全に回ります。

呼吸療法の全体像を確認する

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HFNC( High-Flow Nasal Cannula )は、加温加湿した高流量ガスで酸素化と呼吸仕事量の軽減を狙う非侵襲的サポートです。急性期〜回復期では「まだ酸素が必要だが、ベッド上に固定したくない」場面が増え、離床・運動療法とセットで考える機会が増えています。

結論として、HFNC 装着中のリハは「設定の正解探し」よりも、① 開始条件(安全に始められる状態)、② 観察項目(何が崩れたら危ないか)、③ 中止基準(戻す判断)、④ 記録(次のスタッフが同じ判断をできる)を標準化すると、安全に回ります。

HFNC の特徴|リハで効くポイントだけ整理

HFNC は高流量により吸気流量要求に追いつきやすく、加温加湿で分泌物管理にも寄与し得ます。成人の急性呼吸不全で HFNC を他の非侵襲的サポートと並べて扱う推奨は、国際的なガイドラインでも整理されています。

  • 酸素化の安定: FiO2 を調整しながら、動作に伴う SpO2 低下を抑えやすい
  • 呼吸困難の軽減:呼吸仕事量が下がると、離床の「最初の 5 分」が通りやすい
  • 加温加湿:乾燥・粘稠化を抑え、排痰の前提条件を整えやすい
  • 装着感:マスクより会話・経口摂取・ケアと両立しやすい

HFNC 装着中でも「離床を検討したい」場面

離床の目的は「酸素化を上げる」ではなく、機能低下を防ぎ、呼吸と活動をつなぐことです。目安として、次のような状況では HFNC を維持したままでも、段階的離床を検討する価値があります。

  • 安静時は安定しているが、端座位・立位で SpO2 が落ちやすい
  • 呼吸困難が強く、通常鼻カニュラだと動作が止まる
  • 分泌物が多く、加湿と体位変換をセットで回したい
  • ICU 退室前後で「動き始め」が遅れると廃用が進みやすい

開始条件|「今日はやっていいか」を 30 秒で判定する

HFNC 装着中のリハは、毎回「開始条件」を確認してから入ると事故が減ります。以下は成人の現場で使いやすい判定セットです(最終判断は主治医・病棟ルールを優先)。

HFNC 装着中リハの開始条件(成人の目安)
観察 目安 確認ポイント
意識・協力 指示が通る/危険行動が少ない せん妄・強い不穏がある場合は「目的」と「介助量」を先に調整
SpO2 安静時におおむね安定 開始前値(ベースライン)と目標域を決めてから実施
呼吸 強い努力呼吸が少ない 呼吸数、補助呼吸筋、会話の可否(息継ぎの頻度)
循環 血圧・脈拍が極端に不安定でない 起立性低血圧、頻脈の持続、胸痛の有無
デバイス カニューラ固定・チューブ余長が確保 皮膚トラブル、リーク、加温加湿の状態、移動導線

例:離床が進まない原因が“患者”ではなく導線(チューブ余長・固定・酸素源の位置)にあることが多いので、開始前に 1 分だけ動線を作ると事故が減ります。

観察の要点|「崩れ方」と「回復」で判断する

HFNC 装着中は、SpO2 だけを追うと判断が遅れます。特に離床では、呼吸困難の主観( Borg )が取れない場面もあるため、見た目と客観指標を束ねて観察します。

  • SpO2 :低下幅と回復速度(「止めたら戻るか」)
  • 呼吸数・努力呼吸:肩挙上、陥没、鼻翼呼吸、会話の途切れ
  • 循環:頻脈の立ち上がり、血圧低下、冷汗、顔色
  • 痰・呼吸音:粗い呼吸音の増悪、喘鳴、喀出・吸引量
  • 安全:ふらつき、起立耐性、ライン・チューブ牽引リスク

例:SpO2 が目標域でも、呼吸数↑・会話の途切れ・肩挙上が強いときは“酸素化より呼吸仕事量”が限界です。負荷を下げ、回復を優先します。

判断のコツは「一瞬の低下」より、悪化が続く/休止しても回復しないを拾うことです。休止で回復できるなら段階を下げて継続し、回復が遅い日は“やり方”を変えます。

中止基準|「戻す」判断をチーム共通語にする

中止基準は「数値の一発アウト」より、悪化が続く/回復しないを重視すると現場で運用しやすいです。以下は成人で使える「目安」です。

HFNC 装着中リハの中止・中断目安(成人の現場用)
観察 中止を検討する状態 まずやること
SpO2 低下が続く/休止しても回復が遅い 休止 → 体位調整・呼吸介助 → 必要なら FiO2 / 流量を相談
呼吸 努力呼吸が増える/会話不能に近い 負荷を下げて座位へ戻す(立位継続より回復を優先)
循環 著明な頻脈・徐脈、血圧低下、冷汗 臥位へ戻し報告(迷走神経反射・脱水・薬剤も念頭)
胸部症状 胸痛、強い息切れ、意識変容 直ちに中断し評価・報告(重篤化の除外)
デバイス チューブ牽引・抜去リスクが高い 導線・固定を再構成し、介助者を増やす/段階を戻す

運用フロー|離床を「段階」で回す 5 ステップ

HFNC 装着中の離床・運動療法を安全に回すための開始条件、観察、中止基準、記録の流れ
HFNC 下の離床は「開始条件 → 観察 → 中止判断 → 記録」を 1 セットで標準化すると、チームで安全に回ります。

HFNC 装着中の離床は、いきなり歩行から入るより、段階で「回復できること」を確認しながら上げるほうが安全です。

  1. 開始前:開始条件とベースライン( SpO2 / 呼吸数 / 脈拍 )を固定
  2. 端座位: 2〜 3 分で「回復できるか」を確認(悪化が続くなら戻す)
  3. 立位:短時間で反応を見る(歩行に行ける日かを判定)
  4. 歩行/足踏み:短い往復で終了し、回復まで観察
  5. 終了後:回復時間と「次回の段階」を決めて記録

例:端座位は保てるのに、立位で SpO2 がストンと落ちて戻りが遅い日は「立位を続ける」より、端座位の回復を確認して段階を戻すほうが安全です。

現場の詰まりどころ|よくある失敗と対策

HFNC 装着中リハで起きやすい失敗と対策
失敗(よくある) 起きる理由 対策
「 SpO2 は大丈夫」なのに苦しそう 呼吸仕事量増大、過換気、姿勢で呼吸が崩れる SpO2 だけで判断しない。呼吸数・努力呼吸・会話の途切れを併記し、段階を戻す。
立位で急に低下して戻りが遅い 体位変換で換気血流が変化、分泌物移動、循環要因 端座位の時間を確保し「回復できる」ことを確認してから立位へ。休止 → 体位調整 → 回復を優先。
チューブが短くて動けない 導線設計不足、固定位置・延長の工夫不足 開始前に導線を作る。介助者を増やし、車椅子・点滴台・酸素源の位置を整える。
鼻の痛み・皮膚トラブルで継続できない 固定圧、乾燥、摩擦 固定の再調整、皮膚保護材、加温加湿の確認。短時間セッションに分割する。
終わった後に疲労が残り続ける 負荷設定が高い/回復の観察不足 「終了後に回復できるか」を目安に、次回は段階を 1 つ戻す。回復時間を記録して共有。

記録テンプレ|次のスタッフが同じ判断をできる書き方

HFNC 装着中のリハは「実施した」だけだと引き継ぎが弱くなります。最低限、設定・反応・中止判断・次回方針を 1 セットで残すと再現性が上がります。

HFNC 装着中リハの記録項目(コピペ用)
項目 書く内容(例) 狙い
実施前 HFNC:流量 / FiO2 /開始前 SpO2・呼吸数・脈拍 ベースライン固定
実施内容 端座位(分)→立位(分)→歩行(距離) 段階の再現
反応 最小 SpO2/回復時間(分:〇分でベースラインへ)/呼吸数のピーク/努力呼吸(会話の途切れ)/ふらつき 安全性の共有
中止判断 休止で回復した/回復遅く中断、医師・看護へ報告 判断の根拠
次回方針 同段階で反復/端座位を延長/歩行は見送り チームで前進

回復時間(分)は「次回も同段階で良いか/ 1 段階戻すか」を決める共通指標になります(例:回復が遅い日は歩行を見送り、端座位で回復確認まで)。

よくある質問( FAQ )

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. HFNC のまま歩かせていい「数値の基準」はありますか?

単一の数値で一律に決めるより、「開始前のベースライン」と「休止で回復できるか」で運用するほうが安全です。開始前の SpO2・呼吸数・脈拍を固定し、立位・歩行で悪化が続く場合は段階を戻して中断します。

Q2. SpO2 は保てるのに、呼吸数が増えて苦しそうです

SpO2 は保てても呼吸仕事量が増えていることがあります。呼吸数・努力呼吸・会話の途切れを優先して観察し、負荷を下げて座位に戻し、回復を確認します。回復が遅い場合は医師へ報告し、呼吸サポート方針の見直しを相談します。

Q3. 端座位で安定しない日は「やらない」ほうがいいですか?

「歩行は見送り」でも、端座位の時間を短く複数回に分けたり、体位調整・呼吸介助を中心にした低負荷介入に切り替える選択肢があります。目的(廃用予防か、排痰・換気か)を先に決めて、達成できる範囲で実施します。

Q4. 皮膚トラブルや鼻の痛みで継続が難しいです

固定圧・摩擦・乾燥が重なると起きやすいです。固定の再調整、皮膚保護材の使用、加温加湿の確認を行い、セッションを短時間に分割します。痛みや出血がある場合は無理に継続せず、病棟へ共有します。

次の一手|運用を揃えて、同ジャンルで回遊する

運用を整えたあとに、職場環境の詰まりも点検しておきましょう

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参考文献・資料

  1. Oczkowski S, Ergan B, Bos L, et al. ERS clinical practice guidelines: high-flow nasal cannula in acute respiratory failure. Eur Respir J. 2022;59(4):2101574. doi: 10.1183/13993003.01574-2021 ( PubMed : 34649974
  2. Moya-Gallardo E, Fajardo-Gutiérrez J, Acevedo K, et al. High-flow nasal cannula in adults with chronic respiratory diseases during physical exercise: a systematic review and meta-analysis. BMJ Open Respir Res. 2024;11(1):e002431. doi: 10.1136/bmjresp-2024-002431 ( PubMed : 39438081
  3. Paolucci T, Patrizio G, Pietrantonio D, et al. Utility of High Flow Nasal Cannula during Pulmonary Rehabilitation in COVID-19 Patients in Acute Respiratory Failure. Appl Sci. 2022;12(9):4637. doi: 10.3390/app12094637

著者情報

rehabilikun(理学療法士) rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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