- 大腿骨近位部骨折のリハ栄養(保存版):スクリーニング → 必要量 → 介入 → 再評価の実務フロー
- 術後 48 時間でやる栄養スクリーニング:誰が・何を・いつ
- 必要量の決め方:エネルギーとたんぱく質を“ズレにくく”置く
- 介入の選択肢:食事調整 → 補食 → ONS → 経腸/静脈の切替ライン
- リハと同期させる:負荷を上げる前に揃える 3 点
- 再評価の型:週 1 ミニ再評価 → 月 1 KPI 見直しで迷いを減らす
- 骨粗鬆症の食事指導は“別立て”で実装する( Ca / たんぱく / Vit D / Vit K )
- 現場の詰まりどころ:よくある失敗と立て直し
- よくある質問(FAQ)
- 次の一手:関連ページ(同ジャンル)
- 参考文献
- 著者情報
大腿骨近位部骨折のリハ栄養(保存版):スクリーニング → 必要量 → 介入 → 再評価の実務フロー
大腿骨近位部骨折の術後は、痛み・炎症・活動量低下が重なり、「食べられないのに筋は落ちる」が起きやすい時期です。結論から言うと、現場で一番効くのはリハと栄養を別々に回さず、①術後早期のスクリーニング ②必要量の目安を固定 ③食事 → 補食 → ONS の順に介入 ④短い周期で再評価、の“型”をチームで共通化することです。
日本リハビリテーション栄養学会のガイドラインでも、術後早期からのリハと併用して「強化型栄養療法」を行うことが、死亡率・合併症・ ADL / 筋力の改善を目的に弱く推奨されています。介入の例として、高エネルギー高たんぱく質栄養剤( ONS )の追加や、管理栄養士によるカウンセリング等が挙げられます。
術後 48 時間でやる栄養スクリーニング:誰が・何を・いつ
骨折後の栄養は「ちゃんと食べてそう」でも外れます。まずは術後 48 時間以内に、体重変化(直近 1〜6 か月)、食事摂取量(何割食べたか)、BMI と筋量/筋力の手がかりを、最低限そろえます。大腿骨近位部骨折では受傷時点から低栄養が一定割合で存在し、入院中のエネルギー・たんぱく質不足が体重/筋量低下に結びつくことが示されています。
| 項目 | 目安(現場での取り方) | 記録ポイント | 次アクション |
|---|---|---|---|
| 摂取量 | 主食/主菜の摂取割合(例: 5 割未満が続く) | 「食べられない理由」(疼痛・悪心・便秘・嚥下・抑うつ) | 補食 → ONS の検討(早め) |
| 体重/BMI | 直近の体重変化+ BMI(例: BMI 18 未満は要注意) | 浮腫・脱水でブレるため“傾向”で追う | 週 1 回の短い再評価を固定 |
| 筋量/筋力の手がかり | 握力・下腿周径・起立/歩行の回復速度 | 疼痛や荷重制限の影響を併記 | 「筋を増やす」より先に“落とさない”設計 |
| 炎症/併存症 | 発熱・ CRP / WBC、心不全/ CKD/ COPD など | 食欲低下の背景として重要 | 必要量は“安全側”に調整(栄養・主治医と共有) |
必要量の決め方:エネルギーとたんぱく質を“ズレにくく”置く
必要量は細かく詰めすぎると運用が破綻します。そこでまず、「目標( ADL 回復・合併症予防)に必要な最低ライン」として、エネルギーとたんぱく質を決め、摂取量が届かないときに介入段階を上げます。高齢者では、たんぱく質不足が筋量維持を阻害しやすく、ONS でたんぱく質を上乗せする実務が現実的です。
欧州の高齢者栄養ガイドライン( ESPEN )では、必要に応じて ONS を用い、たんぱく質摂取を確保する考え方が示されています。また、股関節骨折後の集団では、ONS で少なくとも 30 g / 日のたんぱく質を上乗せする推奨が言及されています(到達可能性や実装課題も報告されています)。
介入の選択肢:食事調整 → 補食 → ONS → 経腸/静脈の切替ライン
介入は“いきなり ONS だけ”ではなく、食べられない原因の除去(疼痛・便秘・悪心・睡眠・口腔)とセットで行うと効きます。そのうえで、摂取量が足りないと判断したら、段階的に上げます。ガイドラインでは、術後早期からリハと併用した強化型栄養療法( ONS 追加や栄養カウンセリング等)を考慮するとされています。
| 段階 | 入る条件(例) | やること | チーム共有 |
|---|---|---|---|
| 0:原因対応 | 摂取量低下の背景が明確 | 疼痛/便秘/悪心/睡眠/口腔、食形態の調整 | 「何が食べられないか」を言語化 |
| 1:補食 | 食事だけで不足しそう | 間食・高エネルギー食品、摂取タイミング調整 | 摂取量を“割合”で追う |
| 2:ONS | 摂取 5 割未満が続く等 | 高エネルギー/高たんぱく ONS を追加(嗜好に合わせる) | 「何 g のたんぱく質を上乗せしたいか」を共有 |
| 3:経腸/静脈(適応判断) | 経口が成立しない/合併症 | 栄養経路の検討(主治医・ NST 方針に従う) | リハ負荷の上限も同時に調整 |
リハと同期させる:負荷を上げる前に揃える 3 点
栄養が追いつかない状態で運動量だけ上げると、回復が伸びません。負荷を上げる前に、最低限つぎの 3 点をそろえます。
- 摂取量:「今日は 7 割食べられた」のように、同じ物差しで共有する
- 炎症・体調:発熱・疼痛・せん妄など、“食べられない原因”を先に潰す
- 体重/筋のトレンド:週 1 回でよいので、落ち続けていないかを確認する
再評価の型:週 1 ミニ再評価 → 月 1 KPI 見直しで迷いを減らす
「評価したけど次がない」が一番もったいないです。おすすめは、週 1 回のミニ再評価(摂取量・体重/ BMI・筋力の手がかり)を固定し、月 1 回で「 ADL / 歩行の目標に対して栄養が足りているか」を見直す運用です。たとえば ONS を入れたのに摂取が伸びない場合は、嗜好・タイミング・便秘/悪心など、原因側に戻って調整します。
骨粗鬆症の食事指導は“別立て”で実装する( Ca / たんぱく / Vit D / Vit K )
骨折後の栄養は「回復のための栄養(低栄養・筋量維持)」と、「骨粗鬆症の再発予防(骨代謝)」が混ざると詰まりがちです。まずは術後の回復を優先し、骨粗鬆症の栄養指導は退院指導〜外来フォローで“別立て”にすると回ります。
骨粗鬆症の栄養指導( Ca / たんぱく質 / ビタミン D / ビタミン K )は、こちらで 1 ページに整理しています:骨粗鬆症の栄養管理( PT ガイド )
現場の詰まりどころ:よくある失敗と立て直し
失敗 1:「離床を増やしたのに、食事が 5 割未満のまま」→ 先に摂取量の底上げ(補食/ ONS )と原因対応へ戻します。
失敗 2:「 ONS を処方したが、飲めない」→ 嗜好・温度・タイミング(リハ後/間食)を変える、便秘・悪心の対処を優先します。
失敗 3:「 CKD やワルファリンを見落として一律指導」→ 併存症・薬剤は“必ず”記録に残し、栄養・主治医と方針をそろえます。
面談時に“栄養と回復の土台”を早く整えたい場合は、準備物の抜け漏れを減らすチェックが役立ちます(関連:面談準備チェック( A4 ))。
よくある質問(FAQ)
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Q1:栄養は低栄養の人だけに介入すれば十分ですか?
骨折後は「見た目は食べていそう」でも不足しやすく、術後の活動量低下と炎症で筋が落ちやすい状態です。まずは摂取量(割合)と体重/筋のトレンドを“短い周期”で追い、届かない場合に補食 → ONS の順で早めに介入する方が、回復の遅れを防ぎやすいです。
Q2:ONS はいつから入れるのがよいですか?
術後早期からのリハと併用した強化型栄養療法が提案されており、摂取が落ちたまま数日続く場合は“待たずに”検討します。ポイントは「入れること」より「飲める設計(嗜好・タイミング・便秘/悪心の対処)」です。
Q3:骨粗鬆症の栄養指導は術直後に全部やるべきですか?
術直後は回復のためのエネルギー/たんぱく質確保が最優先です。骨粗鬆症の栄養( Ca / Vit D / Vit K など)は、退院指導や外来フォローで“別立て”にすると実装が安定します。
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参考文献
- 日本リハビリテーション栄養学会. 大腿骨近位部骨折患者におけるリハビリテーション栄養診療ガイドライン( 2018 ). PDF
- Minds. リハビリテーション栄養診療ガイドライン 2018 年版( CQ:大腿骨近位部骨折など ). 掲載ページ
- Nishioka S, Aragane H, Suzuki N, et al. Clinical practice guidelines for rehabilitation nutrition in cerebrovascular disease, hip fracture, cancer, and acute illness: 2020 update. Clin Nutr ESPEN. 2021;43:90-103. doi: 10.1016/j.clnesp.2021.02.018
- Volkert D, et al. ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics. 2022. PDF
- Frederiksen AKS, et al. Protein intake in geriatric patients with hip-fracture( ESPEN 推奨: ONS で 30 g / 日 たんぱく質上乗せの言及 ). Clin Nutr ESPEN. 2020. Full text
- Bell JJ, et al. Oral Nutritional Supplementation in Older Adults with a Hip Fracture. Healthcare. 2024;12(21):2157. Full text
- JMA Journal. Reconsidering the Widespread Use of Active Vitamin D …(日本の骨粗鬆症ガイドライン 2023 の位置づけに触れる). 2025. doi:10.31662/jmaj.2025-0401
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

