住宅改修の失敗は「工事」より「評価のズレ」で起きます
段差・手すり・トイレ・浴室は、住宅改修の中でも「やったのに危ない」「怖くて使えない」「追加工事になった」が起きやすい 4 大ポイントです。多くの原因は工事品質ではなく、動作の失敗条件(疲労・夜間・急ぎ・片手)や介助者条件を見落として、把持点・高さ・動線 の前提がズレることにあります。
このページでは、よくある失敗パターンを「起きる問題 → 原因(評価のズレ)→ 修正案 → 再発防止チェック」で固定し、再訪問や手戻りを減らすための “ やり直しの型 ” に落とします。
同ジャンル回遊(最短導線)
現場の詰まりどころ:失敗は「 2 つの見落とし」で増えます
やり直しが増える現場は、だいたい “ 見落とし ” が固定化しています。まずは次の 2 点だけを先に潰すと、追加工事と再訪問が減ります。
ポイントは、論点を増やさないことです。失敗場面を 1 つに固定して「どこで崩れたか(把持/支持/注意)」を特定し、用具・配置で試してから必要な部分だけ固定化します。
| 見落とし | 起きること | 最小の直し方 |
|---|---|---|
| 失敗条件(疲労・夜間・急ぎ・片手) | 「できる」はあるが「崩れない」が作れない | 失敗場面を 1 つに固定し、崩れる瞬間(手が離れる/足が止まる)を特定する |
| 介助者の条件(足場・回り込み・腰痛) | 本人は良くても、介助事故・腰痛で回らない | 介助者の動きも観察し、動線と立ち位置を先に確定する |
失敗とやり直し事例:段差・手すり・トイレ・浴室の定番パターン
下の表は、現場で遭遇しやすい “ やり直し ” の代表例です。修正案を「工事」だけで終わらせず、用具・配置・手順(声かけ)までセットで再設計すると、手戻りが減ります。
特にトイレと浴室は、衣服操作や濡れ条件で崩れやすいので「できる」ではなく「崩れない」条件で確認します。
| カテゴリ | 失敗例(何をしたか) | 起きる問題 | 原因(評価のズレ) | 修正案(やり直し) | 再発防止チェック |
|---|---|---|---|---|---|
| 段差 | 玄関に踏み台だけ設置 | 一歩目が不安定で転倒リスクが残る | 把持点がなく、重心移動が遅れる | 踏み台+縦手すり(把持点)をセットにする | 一歩目の失敗(つまずき/前方突っ込み)を観察したか |
| 段差 | 屋外段差をスロープ化 | 押し歩行で疲労、雨天で滑る | 勾配と耐久性(疲労条件)の見落とし | 手すり追加/段差分割/動線変更(別ルート)を検討 | 雨天・荷物・疲労時の条件で試したか |
| 手すり | 手すりを増やしすぎる | 迷いが増え、動作が遅くなる | 主動線の優先順位が未整理 | 主動線と排泄に絞って把持点を “ 減らす ” | 最優先場面(トイレ/浴室/玄関)を決めたか |
| 手すり | 横手すり中心で設置 | 立ち上がりが改善しない | 立ち上がりは前方への重心移動が鍵(縦把持が必要) | 縦手すり(立ち上がり用)+横手すり(移動用)に再設計 | 立ち上がりの失敗(膝折れ/反動)を見たか |
| トイレ | 便座高を固定してしまう | 立ち座りが重く、介助量が増える | 下肢出力と戦略(反動/膝伸展遅れ)を見ていない | 補高で試行 → 成功条件が再現できたら固定化 | 便座高( cm )と “ 崩れる条件 ” を記録したか |
| トイレ | 手すり位置が遠い | 衣服操作で手が離れ、ふらつく | “ 手が離れる瞬間 ” が未評価 | 衣服操作の途中で届く位置へ把持点を再配置 | 衣服操作(片手)を含めて確認したか |
| 浴室 | 手すりだけ追加 | 怖さが残り、入浴できない | 滑り・またぎ・濡れ条件が未対策 | 滑り止め/椅子/出入り手順で成功体験を作ってから再評価 | 濡れ・急ぎ・夜間の条件で再確認したか |
| 浴室 | 出入口の段差を甘く見る | またぎで転倒リスクが残る | 支持基底面と足運び(視線・注意)を見ていない | またぎ高さを下げる/踏み台/手すり位置をセットで再設計 | “ 足が止まる瞬間 ” を観察したか |
やり直し対応の最短手順:原因は「 1 つ」まで絞る
再訪問では、論点を増やさないことが最重要です。失敗場面を 1 つに固定し、「どこで崩れたか(把持/支持/注意)」を特定してから、用具・配置で試す → 必要な部分だけ固定化 → 条件を変えて再評価、の順で回します。
工事の前に “ 可逆な試行 ” を挟むと、追加工事のリスクが下がります。関連:住宅改修と福祉用具の使い分け
| 手順 | やること | コツ | 記録の一言(例) |
|---|---|---|---|
| ① 場面固定 | 失敗場面を 1 つ決める(例:トイレ立ち上がり) | 事故が重い or 頻度が高い場面を優先 | 「失敗場面:トイレ立ち上がり」 |
| ② 途切れ特定 | 把持・支持・注意のどれが途切れたか | “ 手が離れる瞬間 ” と “ 足が止まる瞬間 ” を見る | 「衣服操作で把持が途切れる」 |
| ③ 可逆で試行 | 用具・配置・手順で先に回す | 工事は最後。まず成功条件を作る | 「補高+立ち位置調整で改善」 |
| ④ 固定化 | 必要なら改修で固定化(位置・高さを確定) | 位置は “ 動作 ” と “ 条件(夜間/濡れ)” で決める | 「縦手すり位置を近づけ固定」 |
| ⑤ 再評価 | 夜間・荷物・疲労など条件で再確認 | “ できる ” ではなく “ 崩れない ” を見る | 「夜間でもふらつき減少」 |
再発防止チェック:ズレやすいのは「把持点」「高さ」「動線」
住宅改修は環境を変える介入ですが、狙いは動作の失敗を減らすことです。最後に、ズレやすい 3 点を “ 固定 ” できているかだけ確認すると、手戻りが減ります。
特にトイレは「衣服操作」、浴室は「濡れ・急ぎ」の条件で崩れやすいので、条件を変えて再確認します。
| 項目 | 確認ポイント | よくあるズレ | 最小の直し方 |
|---|---|---|---|
| 把持点 | 手が離れる瞬間に “ 届く位置 ” か | 立ち上がりは届くが、衣服操作で届かない | 失敗条件(片手)で再確認し、位置を寄せる |
| 高さ | 便座・段差・踏み台の高さが “ 記録されている ” か | 目安だけで固定し、再調整できない | 補高で試行 → 成功条件を再現できたら固定化 |
| 動線 | 最短で安全に通れる(狭さ・曲がり・立ち位置)か | 通れるが、旋回で崩れる/迷う | 主動線を 1 本化し、把持点を “ 減らす ” |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
「手すり位置」を決めるとき、最重要ポイントは何ですか?
最重要は “ 把持が途切れない ” ことです。立ち上がり・旋回・衣服操作の中で、どの瞬間に手が離れて不安定になるかを見て、その瞬間に届く位置へ把持点を置きます。迷ったら、トイレと浴室の失敗場面を優先して決めます。
便座高はどれくらいが目安ですか?(やり直しを減らす考え方)
目安はありますが、最終的には本人の下肢出力と立ち上がり戦略で決めます。やり直しを減らすコツは “ 数値を残して調整できる状態 ” にすることです。補高で試して、成功条件が再現できたら固定化を検討します。
浴室は改修したのに怖くて入れません
怖さの正体は多くが “ 滑り ” と “ またぎ ” です。手すり追加より先に、滑り止め、椅子、出入り手順(足の運び)を見直し、成功体験を作ると改善しやすいです。その上で、把持点が届くかを再評価します。
追加工事になりやすいのはどんなケースですか?
多いのは「できる場面」だけで評価して、失敗条件(夜間・急ぎ・疲労・片手・濡れ)で崩れるケースです。失敗場面を 1 つに固定して “ どこで崩れたか ” を特定し、可逆な試行(用具・配置・手順)で成功条件を作ってから固定化すると、追加工事が減ります。
誰に相談すべきですか?(ケアマネ/ PT /業者)
手続きや書類はケアマネ、動作と失敗条件の特定は PT / OT、施工の可否や納まりは業者、の分担がスムーズです。まずは失敗場面(例:トイレ立ち上がり)を 1 つに固定し、「どこで崩れたか」を共有すると話が早く進みます。
次の一手(関連リンク)
- 運用を整える:退院前訪問指導の流れと持ち物(現場フロー)
- 共有の型を作る:家屋調査の PT チェックリスト(評価→採寸→理由書)
教育体制・人員・記録文化など “ 環境要因 ” を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に「続ける/変える」の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- 厚生労働省.介護保険における住宅改修(概要).PDF
- 厚生労働省.住宅改修が必要な理由書(案)記入例.PDF
- 国土交通省.高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準.PDF
- e-Gov 法令検索.介護保険法(平成 9 年法律第 123 号).Web
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


