インシデント報告書は「事実→対応→背景→再発防止」で書く
インシデント報告書は、出来事を提出するための文書ではなく、再発防止につなげるための記録です。リハ部門では、転倒、移乗、離床、訓練中の急変、チューブ・ライン類、機器使用など、患者の動きと環境が関わる場面が多くあります。この記事では、リハ職向けにインシデント報告書の書き方、記載例、提出前チェックを整理します。
医療安全体制の全体像は、先に 医療安全管理者の配置義務化とリハ部門の対応 で確認できます。本記事では、報告書そのものの書き方に絞って解説します。
インシデント報告書で最初に押さえる4項目
インシデント報告書は、最初から長文で書かず「発生状況」「直後対応」「背景要因」「再発防止」の4項目に分けると整理しやすくなります。
臨床では、発生直後は対応や報告を優先するため、記録が後回しになることもあります。その場合でも、まずは事実と対応を短く残し、あとから背景要因と再発防止を整理すると書き漏れを減らせます。
スマホでは表を横スクロールできます。
| 項目 | 何を書くか | 避けたい表現 | 書き換え例 |
|---|---|---|---|
| 発生状況 | 日時、場所、場面、患者の動き、介助量、発見時の状態 | 危なかった、ふらついた、様子がおかしかった | 14時20分、病棟廊下で歩行器歩行中に左側へバランスを崩し、尻もちをついた |
| 直後対応 | 中止した介入、観察項目、報告先、追加確認 | 対応した、経過観察した | 訓練を中止し、意識、疼痛、バイタルを確認したうえで看護師へ口頭報告した |
| 背景要因 | 患者要因、環境要因、手順要因、共有要因に分ける | 患者が無理をした、注意不足だった | 起立直後のふらつきが強く、歩行開始前の立位保持時間が短かった |
| 再発防止 | 誰が、何を、いつから変えるか | 注意する、見守りを強化する | 病棟歩行は1週間、接触介助へ変更し、開始前に30秒の立位確認を行う |
インシデント報告書の書き方4ステップ
報告書は、発生状況、直後対応、背景要因、再発防止の順に書くと、読み手が状況を追いやすくなります。
院内様式が違っても、下書きの考え方は共通です。思い出した順に書くよりも、同じ順番で整理したほうが、部門内の表現もそろいやすくなります。

1.いつ・どこで・何が起きたかを書く
最初は、出来事そのものを短く具体的に書きます。日時、場所、場面、患者の動き、介助量、使用物品を入れると、読み手が状況を再現しやすくなります。
「危ない場面だった」ではなく、「平行棒内で方向転換時に右足が交差し、右後方へふらついた」のように、行動で書くのが基本です。
2.直後に何をしたかを書く
次に、発生後の対応を書きます。訓練を中止したか、どの観察をしたか、誰に報告したか、医師や看護師へつないだかを明確にします。
ここが弱いと「結果的に大丈夫だったのか」「追加対応が必要なのか」が読み手に伝わりません。中止、観察、共有の3点を意識するとまとまりやすいです。
3.背景要因を4つに分ける
背景要因は、患者要因だけで終わらせないことが大切です。患者、環境、手順、共有の4方向で見ると、精神論に流れにくくなります。
たとえば転倒なら、「起立直後のふらつき」「床環境」「歩行開始前の確認不足」「看護・リハ間の介助量共有不足」のように、複数の要因を並べて考えます。
4.再発防止は「誰が・何を・いつから」で書く
再発防止は、「注意する」や「見守る」だけでは弱くなりやすいです。担当、介助量、条件設定、共有先、開始時期まで入れると、次の行動に移しやすくなります。
書き方に迷うときは、「次回から何が変わるか」が読み取れるかを確認してください。行動が変わらない対策は、再発防止として残りにくいです。
場面別の記載例
リハ部門で起こりやすい場面は、転倒、急変、チューブ・ライン類、機器トラブルに分けると整理しやすくなります。
以下は、院内様式へそのまま写す完成文ではなく、下書きのたたき台です。実際には、患者状態、院内ルール、報告先に合わせて調整してください。
転倒
発生状況:10時15分、病棟トイレ前で歩行器歩行中、方向転換時に左後方へバランスを崩し尻もちをついた。
直後対応:訓練を中止し、疼痛、頭部打撲の有無、バイタルを確認した。看護師へ口頭報告し、病棟で経過観察を依頼した。
背景要因:起立直後のふらつきが残存していた一方で、歩行開始前の静止時間が短かった。方向転換時の介助位置も後方寄りで支えにくかった。
再発防止:方向転換を含む歩行練習は接触介助へ変更し、開始前に立位保持30秒を確認する。病棟スタッフへ現時点の介助量を共有する。
訓練中の急変
発生状況:14時05分、端座位で上肢運動中に顔面蒼白と発汗を認め、応答が緩慢になった。
直後対応:訓練を中止し、臥位へ戻してバイタルを確認した。看護師へ直ちに報告し、主治医への連絡を依頼した。
背景要因:昼食後早期の介入であり、離床時間が長くなっていた。介入前の体調確認が簡略化していた。
再発防止:午後介入前は体調確認項目を固定し、食後早期の端座位負荷を避ける。急変時の連絡手順を部門内で再確認する。
チューブ・ライン類
発生状況:ベッドサイドで起き上がり練習中、尿道カテーテルのチューブ張力が高まり、患者が疼痛を訴えた。
直後対応:練習を中止し、張力を解除した。固定位置と皮膚トラブルの有無を確認し、看護師へ報告した。
背景要因:起き上がり方向とチューブ取り回しの確認が不十分だった。介入前のライン位置確認が口頭のみで終わっていた。
再発防止:ライン類のある患者は、介入前チェック項目に「固定位置・可動範囲確認」を追加する。起き上がり方向は事前に看護師と共有する。
機器トラブル
発生状況:立位練習前の車椅子ブレーキ確認時に、左ブレーキの効きが不十分であることを認めた。
直後対応:介入を開始せず、当該車椅子の使用を中止した。病棟へ報告し、代替機を手配した。
背景要因:使用前点検が担当者判断に依存しており、確認項目が統一されていなかった。
再発防止:車椅子使用前の点検項目を部門内で統一し、ブレーキ、フットレスト、タイヤの確認を固定手順にする。
OK/NGの書き方比較
同じ出来事でも、表現を少し変えるだけで、報告書の伝わり方は大きく変わります。
「危ない」「注意不足」「見守り強化」は使いやすい言葉ですが、読み手が具体的な場面や次の行動を想像しにくい表現です。迷うときは、場所、動作、観察、条件、介助量を入れて書き換えます。
| 場面 | NG例 | OK例 | 修正ポイント |
|---|---|---|---|
| 発生状況 | 歩行中に危なかった | 病棟廊下で歩行器歩行中、方向転換時に左後方へふらついた | 場所、動作、方向を入れる |
| 直後対応 | 対応した | 訓練を中止し、疼痛とバイタルを確認後、看護師へ口頭報告した | 中止、観察、共有を分ける |
| 背景要因 | 患者の注意不足 | 起立直後のふらつきが残存し、歩行開始前の静止時間が短かった | 患者責任で終わらせない |
| 再発防止 | 見守りを強化する | 歩行開始前に30秒の立位保持を確認し、方向転換時は接触介助へ変更する | 条件と介助量を具体化する |
インシデント報告 下書きシートを使う
報告書の質を安定させたいときは、正式様式の前に下書き用の1枚を使うと整理しやすくなります。
今回のシートは、発生状況、直後対応、背景要因、再発防止を1枚で書ける構成です。正式な院内様式の代替ではなく、書き漏れ防止の下書き用として使う想定です。
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委員会へ上げる前のセルフチェック
提出前は、文章の上手さよりも、必要な情報がそろっているかを確認します。
以下の5項目を通しておくと、委員会や医療安全担当者が状況を把握しやすくなります。療養病棟でも、転倒やチューブ類のインシデントは多職種共有が必要になりやすいため、事実、対応、今後の変更点を分けておくことが重要です。
| 確認項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 発生状況 | 日時、場所、場面、患者の動き、介助量が入っている |
| 直後対応 | 中止、観察、報告先が分かる |
| 事実と解釈 | 見たことと推測が混ざっていない |
| 背景要因 | 患者要因だけで終わらず、環境や手順も見ている |
| 再発防止 | 誰が、何を、いつから変えるかが分かる |
現場の詰まりどころ
インシデント報告書で詰まりやすいのは、原因を一つに決めようとする場面です。
実際の現場では、患者要因だけでなく、環境、手順、共有不足が重なっていることが多くあります。そのため、「誰が悪かったか」ではなく、「どの条件が重なったか」「次回どの条件を変えるか」で整理すると、再発防止につながりやすくなります。
また、再発防止が抽象的になる場合は、「次回から何が変わるか」を1文で言えるか確認します。「注意する」ではなく、「歩行開始前に30秒立位保持を確認する」のように、行動へ落とし込むことが大切です。
よくある質問
各項目名をタップすると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
ヒヤリハットとインシデントはどう書き分けますか?
院内の定義が最優先ですが、書き方の骨格は同じです。どちらも「発生状況」「直後対応」「背景要因」「再発防止」で整理し、患者影響の有無や程度を院内基準に沿って追加します。
原因が一つに決められないときはどう書けばよいですか?
一つに絞る必要はありません。患者、環境、手順、共有のように複数の視点で背景要因を並べたほうが、対策の幅が広がります。
家族説明の有無は書いたほうがよいですか?
院内様式に項目がある場合はそれに従います。ない場合でも、家族説明の実施や説明先が共有上重要なら、直後対応や経過欄に残しておくと経時的に追いやすくなります。
再発防止は現場判断で書いてよいですか?
その場で決められる範囲は書いて問題ありません。ただし、委員会や多職種で再検討する前提のものは「暫定対応」と「今後の検討事項」を分けて書くと整理しやすいです。
次の一手
インシデント報告書は、書いて終わりではなく、委員会や部門内共有につなげることで意味が出ます。全体像と委員会の役割もあわせて確認しておくと、報告後の動きが整理しやすくなります。
参考資料
- 厚生労働省.病院等における医療の安全を確保するための措置について(令和8年3月31日 医政発0331第72号)
- 厚生労働省.医療機関における医療安全管理体制に関するこれまでの議論
- 厚生労働省.管理者等の医療事故の判断に資する研修プログラム作成指針(令和8年3月31日)
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を2022年4月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

