医療安全管理者の配置義務化|リハ部門は報告・記録・共有を先に整える
2026年4月から、病院、有床診療所、入所施設を有する助産所では、医療安全管理者の配置と医療安全に関する記録整備が求められます。リハ部門で最初に行うべきことは、担当者探しではなく、転倒・急変・機器トラブルなどを「何を報告し、どこに残し、誰へ共有するか」を決めることです。この記事では、PT・OT・STが現場で迷いやすい初動を整理します。
2026年4月から変わること
今回の改正で重要なのは、医療安全管理者の配置と、医療に係る安全管理に関する記録整備が明確化されたことです。
対象は、病院、患者を入院させるための施設を有する診療所、入所施設を有する助産所です。リハ部門では、転倒、転落、離床中の急変、移乗時の事故、歩行補助具・車いす・酸素・点滴ラインに関するトラブルなどが、医療安全の報告対象になりやすい領域です。
臨床では、制度名を知っていても、現場の報告ルートが曖昧だと運用が止まります。まずは「発見者が誰に伝えるか」「主任・管理者が何を確認するか」「医療安全管理者へどの情報を渡すか」をそろえることが大切です。
対象施設とリハ部門の考え方
病院のリハ部門では、自施設が対象である前提で、部門内の報告・記録・共有の型を整える必要があります。
一方で、外来のみの診療所などでは整理が異なる場合があります。この記事では、主に病院リハ部門と有床診療所で働くPT・OT・STを想定し、制度対応を現場運用に落とし込む視点で解説します。
医療安全管理者の役割
医療安全管理者は、医療安全管理委員会の支援、職員研修の実施支援、安全確保の方策を円滑に行うための業務を担います。
2026年3月31日の留意事項通知では、医療安全管理者は医療安全に関する十分な知識を有する常勤職員とされ、医療関連資格の有無は問わないことが示されています。ただし、医療資格を有しない者が担当する場合は、必要に応じて医療資格を有する者から支援を受けられる体制整備が求められます。
リハ部門から見ると、医療安全管理者は「報告書の提出先」ではなく、「再発防止を組織で回すための連携先」です。報告して終わりにせず、傾向把握、対策立案、部門内共有までつなげることが重要です。
スマホでは表を横スクロールできます。
| 項目 | 制度上の位置づけ | リハ部門で考えること |
|---|---|---|
| 委員会支援 | 医療安全管理委員会の業務を支援する | 部門の事例を何件・どの粒度で上げるか決める |
| 研修支援 | 管理者の指示がある場合、職員研修の全部または一部を実施する | 転倒、移乗、離床、急変、機器管理を教育テーマにする |
| 方策の実施 | 医療安全確保の方策を円滑に実施する | 報告後の改善策を手順・記録・申し送りに落とす |
| 記録整備 | 医療安全に関する記録を整備する | 事象、対応、再発防止、共有先を残す |
リハ部門が最初に決める4点
リハ部門では、報告対象、報告ルート、一次確認者、記録様式の4点を先に固定すると運用が安定します。
新人PT・OT・STでは、「これは報告すべきか」「誰に伝えるべきか」で迷いやすいです。主任や管理者が判断する前提でも、入口の基準がないと軽微なヒヤリハットが拾えません。

| 項目 | 決める内容 | よくある失敗 |
|---|---|---|
| 報告対象 | 転倒、転落、急変、機器トラブル、ライン関連、患者誤認など | 重大事例だけ報告し、前兆が集まらない |
| 報告ルート | 発見者→主任・科長→医療安全管理者・委員会 | 誰に上げるか毎回迷う |
| 一次確認者 | 主任、科長、当番責任者など | 事実確認が担当者任せになる |
| 記録様式 | 事象、背景、対応、再発防止、共有先を残す | 自由記載だけで比較できない |
記録に残す最小セット
医療安全の記録は、長文で詳しく書くよりも、あとから比較できる項目にそろえることが重要です。
療養病棟では、移乗介助、車いすブレーキ、離床センサー、酸素チューブ、点滴ライン、歩行補助具の確認漏れなどが日常的なリスクになります。記録は「事象」「背景」「対応」「再発防止」「共有先」の5項目にそろえると、委員会や部門会議で扱いやすくなります。
| 項目 | 記録例 | 目的 |
|---|---|---|
| 事象 | 転倒未遂、ふらつき、ライン抜去リスク、車いす操作ミス | 何が起きたかをそろえる |
| 背景 | 時間帯、場所、介助量、病棟状況、患者状態 | 再発パターンを見つける |
| 対応 | 介助、バイタル確認、医師・看護師報告、家族説明の有無 | 初動を確認する |
| 再発防止 | 介助方法変更、環境調整、チェック追加、申し送り変更 | 次に変えることを明確にする |
| 共有先 | 部門内、病棟、委員会、医療安全管理者 | 改善を止めない |
報告して終わりにしない5分フロー
インシデント報告は、報告書を出した時点ではなく、再発防止が現場に戻った時点で意味を持ちます。
- 発生・発見した事象を事実ベースで残す
- 主任・科長が一次確認する
- 医療安全管理者または委員会へ共有する
- 月ごとに件数・場所・時間帯・原因を確認する
- 手順、教育、環境調整、申し送りに反映する
委員会運用を詳しく見たい場合は、リスクマネジメント委員会の役割と運用も参考になります。このページでは、より手前の「リハ部門から何をどう上げるか」に絞って整理します。
委員会・研修につなげる視点
医療安全管理者の配置義務化では、部門が受け身になるのではなく、委員会や研修に上げるテーマを整理しておくことが重要です。
リハ部門では、転倒・転落、訓練中急変、機器・ライン管理、情報共有漏れが研修テーマになりやすいです。頻度が高いもの、患者影響が大きいもの、再発しやすいものを優先すると、委員会資料が現場改善につながります。
| テーマ | 委員会で見ること | 研修にしやすい内容 |
|---|---|---|
| 転倒・転落 | 場所、時間帯、介助量、環境 | 起立・移乗・歩行介助の確認 |
| 訓練中急変 | 前兆、バイタル変化、初動 | 中止基準、報告基準、観察ポイント |
| 機器・ライン管理 | 車いす、歩行補助具、酸素、点滴など | 訓練前チェック、ダブルチェック |
| 情報共有漏れ | 申し送り、計画変更、病棟連携 | 共有テンプレ、朝会・申し送りの型 |
現場で詰まりやすいポイント
制度対応で失敗しやすいのは、医療安全管理者を置いたことで現場が受け身になることです。
実際の現場では、報告書の数だけ増えて、分析や再発防止に使われないことがあります。以下のOK・NGを部門内で共有しておくと、形だけの対応になりにくくなります。
| 場面 | OK | NG |
|---|---|---|
| 役割分担 | 部門の一次確認者と報告先を固定する | すべて医療安全管理者任せにする |
| 記録 | 比較できる項目でそろえる | 自由記載だけで集計できない |
| 委員会連携 | 重点テーマを絞って上げる | すべて羅列して優先順位がない |
| 再発防止 | 手順・教育・環境に変換する | 注意喚起だけで終える |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
医療安全管理者は専従でなければいけませんか?
留意事項通知では、医療安全管理者は医療安全に関する十分な知識を有する常勤職員とされています。専従必須とは示されていませんが、病院では管理者との兼務は不可とされています。
医療安全管理者は医療職でなければいけませんか?
医療関連資格の有無は問わないとされています。ただし、医療資格を有しない者が担当する場合は、必要に応じて医療資格を有する者から支援を受けられる体制を整える必要があります。
リハ部門は何から整えるべきですか?
まずは、報告対象、報告ルート、一次確認者、記録様式の4点です。この4点がそろうと、日常のヒヤリハットやインシデントを医療安全管理者・委員会へつなげやすくなります。
インシデント件数を減らすことが目的ですか?
件数を減らすことだけが目的ではありません。報告しやすい体制を作り、前兆を拾い、再発防止策を現場に戻すことが重要です。件数だけを評価すると、報告控えにつながる可能性があります。
リハ部門の研修テーマは何がよいですか?
転倒・転落、移乗、離床、訓練中急変、車いす・歩行補助具、酸素・点滴ライン、情報共有漏れなどが候補になります。発生頻度と患者影響の大きさから優先順位を決めると実務に落としやすいです。
次の一手
医療安全管理者の配置義務化は、制度名を確認するだけでは現場運用に落ちません。リハ部門では、報告と記録の入口を整えたうえで、委員会運用や監査対応につなげると実務にしやすくなります。
参考文献
- 厚生労働省. 医療法施行規則の一部を改正する省令の公布等について. 2026.
- 厚生労働省. 医療法施行規則の一部を改正する省令の施行に伴う留意事項等について. 2026.
- 厚生労働省. 医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会報告書について. 2026.
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を2022年4月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養、シーティング、摂食・嚥下


