間接熱量測定(IC)とは?REE・RQの解釈と実務運用

栄養・嚥下
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間接熱量測定( IC )とは?(この記事の結論)

間接熱量測定( Indirect Calorimetry: IC )は、呼気の 酸素消費量( VO₂ )二酸化炭素産生量( VCO₂ )から、安静時エネルギー消費量( REE )を推定する方法です。推定式( MSJ / ハリス等)よりも「いまの代謝」を反映しやすく、急性期・重症・炎症が強い症例などで 過不足( under / over feeding )を減らす目的で使います。

本記事は、IC の結果を PT が現場で読める形に落とし込みます。具体的には「いつ IC を優先するか」「測定条件(条件固定)」「 RQ の読み方」「よくある失敗と対策」「記録の型」までを、チーム共有しやすい言葉で整理します。

IC を優先するのはどんなとき?

結論として、エネルギー必要量の変動が大きいほど、係数法( AF / SF )や推定式より IC の価値が上がります。例として、急性期の炎症・発熱、人工呼吸管理、鎮静や昏睡、複数の侵襲(手術+感染など)が重なる状況では、日単位で代謝が揺れやすく「係数の置き方」だけではブレやすいです。

一方で、回復期・生活期で全身状態が安定し、活動量も読みやすい場合は、推定式や kcal/kg 法で レンジ運用→同条件で再評価でも回せます。IC は「測れれば万能」ではなく、測定コストに見合う場面で選ぶのが現実的です。

IC 適応判定の早見表(病期×変動性×優先度)

IC を使うか迷うときは、病期だけでなく「代謝の揺れ(変動性)」で判断すると失敗が減ります。まずは下表で優先度を決め、測定コストに見合う場面に絞って運用します。

IC 優先度の判定早見(成人・実務用)
病期・場面 代謝の変動性(目安) IC 優先度 まずの運用
急性期・重症(人工呼吸、強い炎症、発熱、侵襲重複) 高い(日単位でブレやすい) 条件固定で IC を優先。REE を起点にレンジ設定し、短い間隔で再評価。
急性期~回復期移行(全身状態は改善中だが不安定要素あり) 中等度(イベントで変動) 推定式+レンジで開始。乖離が大きい/判断に迷う場合に IC を追加。
回復期・生活期(全身状態が安定、活動量が予測しやすい) 低い(比較的安定) 推定式/kcal/kg 法で運用し、同条件で経時評価。必要時のみ IC。
栄養介入後に反応が読みにくい(体重・摂取率・浮腫で解釈困難) 中~高(見かけの変化が混在) 中~高 条件を整えて IC 実施。数値だけでなく測定条件と一言解釈を同時記録。

IC で得られる指標( REE / RQ )

IC の主役は REE( kcal/日 )です。栄養処方(目標エネルギー)を立てるとき、まず「測定値=現時点の REE 」を起点に、病期・摂取状況・合併症・リハ負荷を合わせて 到達レンジを決めます。

もう 1 つが 呼吸商( RQ )です。 RQ は一般に VCO₂ / VO₂ で、基質利用(糖・脂質など)の目安になります。臨床では「 RQ が高すぎる/低すぎる」のときに、測定条件の崩れ栄養投与の過不足を疑う“警報”として使うと読み違えが減ります。

RQ の目安と、まず疑うポイント(成人・実務用)
RQ の目安 よくある解釈 まず確認すること 次の 1 手(例)
0.70 前後 脂質寄り/または条件不良 絶食・低栄養、漏れ(リーク)、不安定呼吸 条件固定→再測定、摂取状況を確認
0.80〜0.90 概ね妥当レンジ steady state か(変動が少ないか) REE を栄養目標の起点にする
1.00 以上 糖質過多/過栄養の疑い 過換気、測定中の不穏・動き、投与速度 投与レンジ調整、条件を整えて再測定

測定の流れ( PT が押さえる 5 つの条件固定 )

IC の読み違いは「数字」より 条件のバラつきで起こります。押さえるポイントは、①測定前の安静(可能なら 20〜30 分)、②姿勢(背臥位/座位など)と補装具、③酸素投与や換気設定の安定、④測定中の動き・会話・咳の有無、⑤測定時間(短すぎない)です。

PT の強みは、測定前後の 呼吸パターン・努力性・疲労や、直前の離床量(直後に測っていないか)を拾って、測定の解釈に“文脈”をつけられることです。チーム共有では「測定条件+一言解釈」をセットで残すと、次回の再測定が回ります。

再測定タイミングの小表(当日/翌日/数日)

再測定は「いつやるか」より「なぜ今やるか」を揃えるのがコツです。下表のトリガーで運用すると、再測の根拠が共有しやすくなります。

IC 再測定タイミング早見(トリガー別)
タイミング 主なトリガー 目的 実務メモ(条件固定)
当日(同日内) 体動・咳・不穏・過換気・リーク疑いで測定品質が低い 条件不良の切り分け(値の信頼性確認) 安静 20~30 分後、同姿勢・同酸素/換気条件で再測。
翌日 発熱/鎮静/換気設定/投与量など主要条件が前日から変化 介入変更への代謝反応を確認 同時刻で比較。前日との差は「条件差」とセットで解釈。
数日(2~4 日) 臨床像は安定、ただし栄養処方の妥当性を再確認したい レンジ設定の微調整 摂取率・体重/浮腫・離床量とあわせて評価。
1 週間前後 大きなイベントなしで経過観察フェーズ 中期トレンド確認(過不足の予防) ルーチン化する場合も「同条件比較」を最優先。

現場の詰まりどころ(よくある失敗と対策)

IC は「測定できた=正しい」ではありません。特に多いのは、測定中の不穏・会話・体動、酸素投与や換気設定の変動、リーク(マスクや回路の漏れ)などで、REE が“高く”出たり “RQ が跳ねる”パターンです。まずは 条件固定→再測定で切り分けるのが安全です。

もう 1 つは、数字の使い方です。REE をそのまま目標エネルギーに直結すると、病期や摂取率の変動で過不足が出ます。実務では「REE を起点にレンジで設定→摂取率・体重・浮腫・離床量で微調整」が回しやすいです。

IC の“よくある失敗”早見(原因→対策→記録の一言)
失敗パターン 起きやすい原因 対策(最短) 記録の一言(例)
RQ が 1.0 を超える 体動・過換気、投与過多、条件不安定 安静確保→再測定、投与レンジを確認 「体動あり。安静後に再測」
REE が前回より急に高い 直前の離床、疼痛・不穏、発熱 測定前の安静時間を確保 「直前歩行あり→安静 30 分後」
値がブレて結論が出ない 条件が毎回違う(姿勢・酸素・時間帯) 条件固定(同時刻・同姿勢) 「姿勢/酸素/時間帯を固定」
数値はあるが“次が決まらない” 解釈が 1 行で残っていない 「一言解釈+次の 1 手」をセットで残す 「REE 起点に 1,800–2,000 kcal/日」

記録の型:PT が残す 4 点セット

IC の記録は、数値だけだと再現できません。おすすめは「①測定条件(姿勢・酸素/換気・安静)②主要値( REE / RQ )③一言解釈(妥当 or 条件不良の疑い)④次の 1 手(レンジ・再測タイミング)」の 4 点セットです。これだけで、次回の再測と栄養調整が回りやすくなります。

また、推定式や係数法とズレたときは“ズレたこと”自体が重要な情報です。親記事の係数ガイド( AF / SF と推定式の基準)と照合し、どこがズレたかを説明できると、多職種の合意形成が速くなります。関連:エネルギー必要量の計算式( AF / SF・推定式 )

よくある質問( FAQ )

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

IC の結果( REE )は、そのまま目標エネルギーにしていい?

まずは「REE を起点」にしつつ、病期・摂取率・合併症・リハ負荷を合わせて レンジで設定するのが安全です。特に急性期は変動が大きいので、単一点で固定せず、数日単位で“同条件”で見直す前提にします。

RQ が高い( 1.0 以上 )とき、まず何を疑う?

体動・過換気・不穏などで条件が崩れていないかを最初に確認します。そのうえで、投与(特に糖質寄り)の過多や急激な増量がないかを見ます。結論を急がず、条件を整えて再測定できると解釈ミスが減ります。

測定の「同条件」って、最低どこを揃える?

時間帯、姿勢、酸素投与/換気条件、測定前の安静、測定中の体動(会話・咳)です。この 5 点を揃えると、REE の変化に“意味”を持たせやすくなります。

人工呼吸中は、どこが落とし穴?

リーク(回路やカフ周囲)、酸素濃度や換気設定の変動、吸引・ケア直後などで値がブレやすい点です。測定のタイミングを整え、測定中のイベント(吸引、体位変換など)を記録に残すと解釈が安定します。

IC が使えない施設でも、PT ができることは?

推定式や係数法を「レンジ」で運用し、摂取率・体重/浮腫・離床量・創/褥瘡・疲労の推移で早めに見直すことです。条件固定(同じ条件で再評価)を徹底するだけでも、栄養のブレは減らせます。

次の一手

教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。

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参考文献

  1. Weir JB de V. New methods for calculating metabolic rate with special reference to protein metabolism. J Physiol. 1949;109(1-2):1-9. doi: 10.1113/jphysiol.1949.sp004363
  2. Singer P, Blaser AR, Berger MM, et al. ESPEN guideline on clinical nutrition in the intensive care unit. Clin Nutr. 2019;38(1):48-79. doi: 10.1016/j.clnu.2018.08.037
  3. Delsoglio M, Dupertuis YM, Oshima T, van der Plas M, Pichard C. Indirect Calorimetry in Clinical Practice. J Clin Med. 2019;8(9):1387. doi: 10.3390/jcm8091387
  4. Oshima T, Berger MM, De Waele E, et al. Indirect calorimetry in nutritional therapy. A position paper by the ICALIC study group. Clin Nutr. 2017;36(3):651-662. doi: 10.1016/j.clnu.2016.06.010
  5. Frankenfield D, Hise M, Malone A, et al. Prediction of resting metabolic rate in critically ill adult patients: results of a systematic review. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2007;31(6):504-513. doi: 10.1177/0148607107031006504

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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