はじめに|2026 年に日本摂食・嚥下リハ学会認定士を目指す理由
専門資格をキャリアにどう活かすか整理する( PT キャリアガイド )
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会認定士は、嚥下障害に関わる多職種( ST ・ PT ・ OT ・看護・歯科・栄養など)が、一定水準以上の知識と臨床経験を備えていることを示す学会認定資格です。VE・VF・ベッドサイド評価・姿勢調整・食形態調整・栄養管理・口腔ケア・家族指導など、摂食嚥下リハの一連の流れを「チームで」進めるうえで、共通言語となるのがこの認定士といえます。
一方で、学会会員歴や嚥下臨床経験、研修・ e ラーニングの受講、症例の蓄積など、数年単位で準備が必要になる資格でもあります。「ST 以外でも目指す価値はあるのか」「自分の施設の症例数で条件を満たせるのか」と悩む方も多いはずです。本記事では、2026 年の受験・認定を目標とする医療職を想定し、認定士の位置づけ、受験資格と認定までの流れ、年間スケジュールの立て方、勉強ロードマップ、臨床現場での活かし方、よくある詰まりどころまでを一気通貫で整理します。
日本摂食・嚥下リハ学会認定士とは?(資格の目的と対象)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会認定士は、嚥下障害の評価・訓練・栄養管理・口腔ケアなどに関する体系的な知識と臨床能力を有することを学会が認める資格です。急性期病院・回復期リハ病棟・療養病棟・老健・特養・在宅・通所リハなど、多様なフィールドで嚥下障害に関わる職種が対象で、特定の職種だけに限定された資格ではありません。むしろ、VE の読影や嚥下造影後の方針決定を歯科・耳鼻科・内科と共有しつつ、ST・PT・OT・看護・栄養がそれぞれの立場から介入する、「チーム嚥下」の中核メンバーを想定しています。
認定士の取得は、直接的な加算の要件になるとは限りませんが、「嚥下に強いスタッフ」として院内外での信頼を高める材料になります。嚥下リハ外来・嚥下チーム回診・栄養サポートチーム( NST )との連携、在宅訪問での嚥下評価など、キャリアの選択肢を広げる意味でも、 ST だけでなく PT ・ OT ・看護・栄養にとっても意義のある資格です。
受験資格と認定までの流れ(2026 年のイメージ)
具体的な要件やスケジュールは年度ごとに見直される可能性があるため、最終的には必ず学会公式情報を確認する必要がありますが、おおまかな流れは次のようなイメージです。まず、日本摂食・嚥下リハビリテーション学会への入会と、一定期間(例:2 年以上)の会員歴が求められます。加えて、摂食嚥下リハに関する臨床経験(例:3 年程度)があり、所定の研修や e ラーニング講習の修了が受験条件に含まれることが多いです。
受験申請では、学会活動歴・臨床経験・研修参加歴などに加えて、嚥下障害症例のサマリー提出が求められる場合があります。書類審査を通過すると、筆記試験(マークシート+短答式など)を受験し、合格後に「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会認定士」として登録されます。資格は一定期間(例:5 年)ごとの更新制で、学会参加や研修参加、症例報告などによる単位取得が必要になるのが一般的です。
取得までの 5 ステップ(2026 年に認定を目指す)
2026 年の受験・認定をゴールに据えた場合の、大まかな 5 ステップを整理してみます。
- ステップ 1:学会入会と要件の確認
まず日本摂食・嚥下リハビリテーション学会に入会し、自分の会員歴・臨床経験年数がいつ要件を満たすかを確認します。同時に、最新の認定要項(会員歴・臨床経験・研修/e ラーニング・症例数など)と、試験実施のスケジュールを把握しておきましょう。 - ステップ 2:嚥下症例の「ログ」を取り始める
急性期・回復期・療養・在宅などで関わる嚥下障害症例について、評価所見・カンファレンス内容・介入内容・食形態や姿勢調整の工夫・アウトカムを簡単なフォーマットで記録していきます。いきなり正式な症例報告を書こうとせず、「A4 1 枚のメモ」を積み重ねておくことで、後で認定申請用の症例に選びやすくなります。 - ステップ 3:学会研修・ e ラーニングで基礎を固める
学会が主催する講習会や e ラーニングプログラムを活用し、嚥下の構造・生理・病態、代表的な疾患・症候、評価法(スクリーニング・ VE ・ VF など)、訓練手技、食形態・栄養管理、口腔ケア、多職種連携などを整理していきます。講習内容は試験範囲にも直結しやすいので、「自分の臨床でどう活かすか」をイメージしながら受講すると定着しやすくなります。 - ステップ 4:症例選定とレポート作成
一定数の症例ログが溜まってきたら、典型的な脳卒中後嚥下障害、神経筋疾患、認知症・フレイル、頭頸部がん、長期入院による廃用など、バリエーションを意識して認定申請にふさわしい症例を選びます。評価から方針決定、介入内容、チームでの役割分担、経過と課題、今後の改善点などを明確に言語化していくことがポイントです。 - ステップ 5:筆記試験対策と総復習
書類審査を通過したら、講習資料や学会テキスト、代表的な嚥下リハ教科書などを用いて筆記試験の準備を進めます。嚥下の解剖・生理・病態、評価手順、訓練手技、食形態の分類、栄養・口腔ケア、チーム医療といった基本事項に加え、自分の症例を通じて「なぜそのプランを選んだのか」を説明できるようにしておくと応用問題にも対応しやすくなります。
摂食嚥下リハをキャリアの柱にする場合は、学会認定士だけでなく、リハ栄養や NST 、言語聴覚士の専門認定などとの組み合わせも視野に入ってきます。嚥下・栄養の全体像を整理したいときは、一度 栄養・嚥下ハブ を眺めて、自分がどの領域から強化していくか考えてみるのもおすすめです。
勉強ロードマップと学び方のコツ
学習の軸になるのは、「学会の講習資料」「嚥下リハの標準的な教科書」「代表的な評価・スクリーニングツール」の 3 つです。まずは、嚥下の解剖と生理(口腔期・咽頭期・食道期)、誤嚥のメカニズム、嚥下反射のトリガーとなる因子などを押さえたうえで、代表的な疾患ごとの嚥下障害の特徴を整理します。その後、ベッドサイド評価・ RSST ・水飲みテスト・反復唾液嚥下テストなどのスクリーニングと、 VE ・ VF で何を確認しているのかを対応付けて学んでいきます。
試験対策としては、講習で強調されたポイントを中心に、教科書の該当章を繰り返し読むのが基本です。加えて、自施設で実施しているスクリーニングや評価シート、食形態コード、嚥下手技(頸部回旋、顎引き、努力嚥下、 Mendelsohn 手技など)を、自分の言葉で説明できるようにしておくと、臨床と試験勉強がうまくリンクしていきます。可能であれば、嚥下チームのカンファレンスや VE/VF 検査に同席し、実際の意思決定プロセスを見る機会を増やすことも大きな学びになります。
ST・PT・OT・看護・栄養が現場でどう活かせるか
言語聴覚士にとって、学会認定士は嚥下リハの「共通基盤」を再確認する機会になります。VE・VF の所見をもとに、姿勢調整・食形態・訓練プログラムをどう組み立てるか、家族指導・在宅移行支援をどう設計するか、といった日々の判断に裏付けを与えてくれます。また、嚥下チームのコアメンバーとして、他職種への教育・相談役を担う際の信頼性も高まります。
理学療法士・作業療法士は、「姿勢・体幹・四肢機能」と「嚥下機能」をつなぐ視点が強化されます。端座位の安定性や骨盤・体幹アライメント、頚部可動域、上肢機能、立ち上がりやトイレ動作など、全身の評価結果を踏まえて「安全に食べるための座位・環境づくり」を提案しやすくなります。看護師・管理栄養士にとっては、食事観察・モニタリング・食形態変更の提案・栄養管理のチーム連携がよりスムーズになり、誤嚥性肺炎や低栄養のリスク低減にもつながります。
現場の詰まりどころ
認定士を目指すうえで最初にぶつかりやすいのが、「症例数」と「チーム体制」の問題です。小規模病院や介護施設では VE ・ VF の実施件数が少なく、症例要件を満たせるのか不安になることがあります。この場合、ベッドサイド評価と嚥下リハが中心でも、「嚥下障害に対してチームでどのように介入したか」が明確であれば十分価値のある症例になります。必要に応じて、連携先病院で実施された VE ・ VF の情報を共有してもらい、自施設での経過と合わせてケースを整理していくと、より説得力のある症例になります。
もう一つの詰まりどころは、「日々の業務の中で勉強時間を確保すること」です。嚥下チームや NST 、リハ業務、病棟業務を抱えながら、学会活動や講習参加・教科書の読み込み・症例報告作成を進めるのは簡単ではありません。2026 年認定を目指すのであれば、「今年は学会入会と症例ログ作成」「来年は講習受講と症例レポート作成」「翌年に受験」といったように、少なくとも 2〜3 年のスパンでざっくり計画しておくと無理が少なくなります。同僚と複数人でチャレンジし、勉強会や症例検討会を共有の場にしてしまうのも有効な工夫です。
よくある質問
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ST 以外(PT・OT・看護・栄養など)が認定士を目指す意味はありますか?
あります。VE ・ VF の実施主体は医師・歯科医師・ ST が中心になりますが、嚥下障害のケアは食事介助・姿勢調整・環境調整・栄養管理・口腔ケア・在宅支援など多岐にわたります。PT ・ OT ・看護・栄養・歯科衛生士・介護職などが認定士レベルの知識を持つことで、チームとしての介入の質が大きく高まります。特に在宅や施設では、ST が常駐していない場面も多いため、他職種が嚥下の基本をしっかり押さえていることに大きな意味があります。
どの程度の嚥下症例経験があれば受験レベルに達すると考えればよいですか?
公式には症例数や経験年数の目安が示されることがありますが、体感としては「主疾患や重症度の異なる嚥下障害症例を、継続的に評価・介入した経験」があると、症例報告も書きやすくなります。例えば、脳卒中後嚥下障害、高齢フレイル・認知症、神経筋疾患、長期入院後の廃用、頭頸部がん術後など、いくつかのパターンを経験していると、試験で出てくる症例問題にも対応しやすくなります。
勉強する教材は何が良いですか? 講習だけで足りますか?
学会の講習や e ラーニングは試験範囲のコアになるので必須ですが、それに加えて嚥下リハの標準的な教科書を 1 冊決めて「辞書代わり」に使うのがおすすめです。講習でよく分からなかった点を教科書で補い、逆に教科書でイメージしにくい部分を講習の症例で具体化していくイメージです。自施設で使っている評価用紙や食形態表、嚥下訓練の手順書も重要な教材になるので、日々の臨床から学びを拾い集める意識を持つと効率的です。
資格を取っても給与や役職が変わらない場合、メリットはありますか?
直接的な手当や役職に結びつかない場合でも、嚥下チームや NST 、在宅支援の場面で「嚥下に強い人」としての信頼が高まり、症例の相談やカンファレンスでの発言の機会が増えることが多いです。また、転職や部署異動の場面で、自分の専門性を客観的に示す材料にもなります。何より、誤嚥性肺炎や経口摂取断念といった大きな分岐点に関わる場面で、「自信を持って提案できる」ことは、臨床のやりがいに直結します。
おわりに
日本摂食・嚥下リハ学会認定士は、嚥下障害に関わる多職種が「同じ土台」で議論し、患者さんと家族にとって納得感のある方針を提案するための強力なツールです。その一方で、症例の蓄積や研修参加、試験勉強など、日々の業務と並行して取り組むには負担も少なくありません。「本当にここまでやるべきか」と迷うときは、これまで関わってきた患者さんの経口摂取再獲得や、逆に経口中止に至ったケースを振り返り、「もし今の知識とスキルが当時あったら、何か違う選択肢を提示できたか」を考えてみてください。
今後の働き方やキャリアの軸を考えるうえでは、「嚥下・栄養・在宅のどこまでを自分の専門領域とするか」を言語化しておくことも重要です。その整理に使える面談準備チェック( A4 ・ 5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。嚥下リハや在宅に強い職場を探したいときにも役立つ内容なので、詳しくはマイナビ医療介護のお役立ち資料ページを確認してみてください。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡・摂食嚥下・リハ栄養などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、摂食・嚥下、リハ栄養、呼吸リハ、シーティング、住環境整備

