生活行為向上マネジメントの書類の書き方ガイド【事例・テンプレ付き】

臨床手技・プロトコル
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生活行為向上マネジメント(LCM/旧 MTDLP)とは?【この記事のゴール】

OT の配属別ポイントも一緒に押さえる(キャリアの流れを見る)

生活行為向上マネジメント( LCM / 旧 MTDLP )は、面接 → 評価 → 目標設定 → 介入計画 → モニタリングまでを一連のプロセスとして整理する枠組みです。本記事では「流れは知っているが、書類に落とし込めていない」状態を解消することをゴールに、臨床でそのまま使えるワークシートとケース記入例を提示します。

はじめての方でも初日から回せるように、面接の質問例・目標文のテンプレート・ KPI の置き方・介入計画とモニタリングのポイントを 1 本に集約しました。定義や公式様式は日本作業療法士協会の資料に譲り、本記事では「書き方」と「運用のコツ」に焦点を絞って解説します。

クイックスタート:今日から回せる 10 ステップ

  1. 準備:既往・生活状況・既存評価を確認(サマリー・チェック表を手元に集約)。
  2. インテーク面接:自由語りで「したい生活行為」を出してもらい、確認質問で場面・頻度・障害因子を具体化。
  3. 領域チェック:身体管理/家事/移動/余暇/役割/金銭管理/住環境など、生活行為の領域ごとに抜けを確認。
  4. 課題分析:行為(タスク) × 心身機能 × 環境 × 人的資源の関係を分けて書き出す。
  5. 目標設定:本人の言葉を核にしつつ、期日・場面・頻度・指標をそろえた SMART 目標に整える。
  6. KPI 設計:ゴールを代表する指標を 1–2 個だけ選び、評価タイミングと記録方法を決める。
  7. 介入計画:課題分解 × 環境調整 × 協力者の役割を 1 枚のシートに整理。
  8. 初回実施:短いサイクルで試行し、うまくいかなかった要因をその場で修正する。
  9. モニタリング:実行度 / 満足度( 0–10 )と KPI を週単位で確認し、変化の流れを見える化。
  10. 成果共有:本人・家族・多職種カンファで、目標とログをセットで共有(写真・チェックリストも活用)。

面接の進め方:自由語り → 確認質問 → 領域チェック

面接ではまず自由語りで「したいこと」「困っていること」を広く聞き、その後に確認質問で場面・頻度・障害因子を具体化します。話題が広がりにくい場面では、生活行為の領域チェックを使って抜け漏れを防ぎます。面接所見は、下で紹介するワークシートへ直接書き込む前提でメモしておくと後作業がスムーズです。

  • 「一日の流れで、自分でやりたいが難しい 場面はどこですか?」
  • 「最近できるようになったこと・できなくなったことと、その理由を教えてください。」
  • 「ご家族や周囲の支えで助かっていること・不足していると感じることは?」
  • 「住環境や道具で、変えられそうな点はありますか?(高さ・配置・手すり・滑り止めなど)」
  • 「これができるようになると、どんな良いことがありそうですか?(役割・参加・満足感など)」

目標設定:本人語 × SMART × KPI(文例)

LCM では「本人の言葉」を大事にしつつ、医療・介護チームで共有できるよう数値や場面を明確にした SMART 目標に整えます。ゴール文に悩んだら、まず本人の「やりたいこと」をそのまま書き、その後に期日・場面・頻度・指標を足していくとスムーズです。

  • 「4 週後、朝 7:30 までに 1 人で 朝食(味噌汁+ご飯)を整える(週 5 回)。」
  • 「8 週後、喫茶店まで 600 m週 1 回 歩いて行く。」
  • 「3 週後、入浴前後の衣類準備10 分以内 に完了(週 3 回)。」
代表 KPI の置き方(目的特化・最小構成の例)
目的 KPI 候補 メモ
IADL(家事・買い物) 達成率/所要時間/休憩回数 チェックリストや写真で可視化すると共有しやすい
移動・外出 6MWT/外出回数ログ/主観的疲労( RPE など ) 屋外と屋内を分けて記録すると変化が追いやすい
疼痛管理 NRS/立位許容時間 行為場面(調理・掃除など)とセットで評価する

介入計画:課題分解 × 環境調整 × 協力者

介入計画は「サブ目標」「課題分析」「介入・練習」「環境調整」「協力者」「次回確認」のブロックに分けて整理します。動作練習だけに偏らず、作業の順序や休憩タイミング、道具の配置、家族やスタッフの関わり方まで書き込むことで、誰が見ても同じ方向性で関われる計画になります。

特に IADL や役割行為では、環境調整と人的支援の影響が大きくなります。「本人が担う部分」「環境で補う部分」「他者が担う部分」を見える化し、少しずつ本人の役割を増やせるよう段階をつけておくと、モチベーション維持にもつながります。

モニタリングと再評価のポイント

モニタリングでは、実行度 / 満足度( 0–10 )と設定した KPI を週ごとに確認します。達成率だけでなく、疲労や疼痛・不安などの主観的情報もあわせて記録しておくと、ゴールを維持したまま負荷設定を微調整しやすくなります。変化はグラフや簡単な表にまとめると、カンファレンスでの共有がスムーズです。

再評価時には「何ができるようになったか」だけでなく、「やらなくてよくなったこと」「支援の仕方が変わったこと」も振り返ります。回復期・生活期・通所・訪問など、配属によって着眼点は少しずつ変わるため、自分のフィールドにおける LCM の役割を整理しておくと、多職種への説明もしやすくなります。

ケース記入例(短縮版)

ケース概要(架空事例の例)
項目 内容
基本情報 78 歳女性/脳梗塞後右片麻痺+膝 OA/夫と二人暮らし
希望 朝食を自分で整えたい/週 1 回 600 m の外出を再開したい
困りごと 台所立位 3 分で膝痛増悪/屋外 200 m で強い疲労感
目標(本人語) 4 週:朝食準備をほぼ自分で(週 5 回)/8 週:喫茶店まで 600 m を歩いて行く(週 1 回)
KPI 立位許容時間・疼痛 NRS・ 6MWT ・外出回数ログ

詳細な記入イメージは、下記「配布物」の ケース記入例( HTML ) にも反映しています。最初の数症例はテンプレートをなぞる形で埋めてみると、各項目のつながりが掴みやすくなります。

現場の詰まりどころ(ありがちな 4 パターン)

  • ① 目標が「動作名」で止まってしまう
    「歩行訓練」「立ち上がり練習」など、リハ室内の動作だけが目標になるパターンです。誰の生活にどうつながるかが見えにくく、本人の納得感も得られにくくなります。生活の場面(どこへ・誰と・何のために)を一緒に聞き出し、「行為名」まで言語化してから目標文に落とし込みます。
  • ② LCM シートが「評価の控え」に化ける
    所見やテスト結果をびっしり書いたものの、目標・介入・モニタリング欄がスカスカになりがちです。評価の詳細は別紙に任せ、 LCM シートは「生活行為の流れと合意形成」を可視化する場として割り切ると、書くべき内容が整理されます。
  • ③ 多職種カンファで十分活用されない
    せっかく丁寧に作っても、カンファでは読み上げるだけで終わってしまうケースです。カンファ用には「目標」「最近の変化」「今困っていること」を 1 枚に要約し、 LCM シートはバックデータとして位置付けると議論が進みやすくなります。
  • ④ 書く人ごとにフォーマットがバラバラ
    担当者によって記載の粒度や用語が大きく異なると、チーム内で共有しにくくなります。部署内で「ここだけは必ず書く」という必須項目(本人語の目標・ KPI ・次回確認など)を決め、サンプル症例を共有しておくと標準化が進みます。

配布物(印刷 / 保存可| WordPress へアップ済)

  • LCM ワークシート(面接質問ガイド+目標・介入計画| HTML / A4 / 印刷ボタン付):
    ダウンロード
  • ケース記入例(記入済みサンプル| HTML / A4 / 印刷ボタン付):
    ダウンロード
  • Excel 版テンプレ(面接/目標 – KPI /介入計画/モニタリング):
    ダウンロード

これらのテンプレートは、臨床メモとチーム内共有を目的とした汎用フォーマットです。協会や事業所が定める公式様式を置き換えるものではありません。加算や施設基準に関わる記録については、最新の通知・運営基準を必ず確認してください。

よくある質問( FAQ )

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

評価スケールはどれを入れれば良い?増やしすぎないコツは?

基本はゴールに直結する 1–2 指標で十分です(例: IADL 達成率、 6MWT 、疼痛 NRS など)。「歩行」「疼痛」「疲労」「自己効力感」など、変化を確認したい観点を先に決めてからスケールを選ぶと、項目数の増えすぎを防げます。既にある評価シートとの重複もチェックし、同じ内容を二重に測らないようにしましょう。

家族や多職種への共有はどう見せる?

本人語の目標と直近の達成ログ(チェックリスト・回数・写真など)を 1 枚にまとめて提示するのがおすすめです。詳細な課題分析や検討の経過はワークシート側に残し、カンファレンスでは「どこまで進んだか」「何がボトルネックか」を一目で伝えられる資料に整えます。

住環境にはどこまで踏み込めば良い?

高さ・配置・手すり・滑り止め・動線の 5 つを基本セットとして確認します。すべてを一度に変えようとせず、「最もリスクが高い場面」から優先順位をつけて介入することがポイントです。必要に応じて住宅改修や福祉用具専門相談員と連携し、 OT が得意な「動作 × 環境」の視点をチームに共有していきます。

おわりに

生活行為向上マネジメントは、「評価されるための書類」ではなく、本人とチームが同じゴールを向くための共通言語として活かしてこそ威力を発揮します。すべてを完璧に書こうとするよりも、まずは 1 つの生活行為に絞って、小さく回していくことが臨床での第一歩です。

日々の業務と並行して LCM を学び直したい方は、転職サイトを「求人探し」だけでなく、面談を通じた職場の情報収集の場として活用するのも一手です。例えば マイナビコメディカルの無料資料では、面談準備チェックと職場の教育体制・リハ体制を整理するシートがダウンロードできるため、「今の職場で LCM を根付かせるか」「環境を変えて学び直すか」を考えるヒントになります。

参考文献・参考資料

  1. 日本作業療法士協会:生活行為向上マネジメント( MTDLP ) 概説( Web )公式サイト
  2. 日本作業療法士協会:生活行為向上マネジメントのプロセスと各種シート( Web )公式サイト
  3. 日本作業療法士協会:生活行為向上リハビリテーションに関する資料( Web )公式サイト

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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