上腕二頭筋長頭腱の触診ポイント【結論】
上腕二頭筋長頭腱の触診は、単に「腱が触れたか」を確認するための手技ではありません。前方肩痛の局在を整理し、結節間溝、腱鞘周囲、烏口突起周囲、肩前面全体のどこに問題が近いのかを見分けるための“起点”として使うと、評価の迷いが減ります。
特に新人のうちは、肩前面の痛みを「前が痛い」で終わらせやすいです。上腕二頭筋長頭腱を“点”ではなく“走行”で捉えられるようになると、そのあとに圧痛の再現、内外旋での変化、抵抗運動、肩関節 ROM へと評価をつなげやすくなります。前方肩痛の基準点から順に整理したい場合は、結節間溝の触診ポイントもあわせて読むと流れがつかみやすいです。
上腕二頭筋長頭腱とはどこか
上腕二頭筋長頭腱は、肩関節の上方関節唇と関節上結節付近から始まり、関節内を通って上腕骨近位の結節間溝へ向かう腱です。肩前面の触診では、結節間溝の中を走る細い腱として捉えると理解しやすくなります。
ただし、触診で重要なのは「ここに 1 本ある」と覚えることではありません。大結節、小結節、結節間溝との位置関係の中で、長頭腱がどのラインを通るのかを立体的にイメージすることが、現場での再現性につながります。
なぜ上腕二頭筋長頭腱を触診するのか
上腕二頭筋長頭腱を触診する意義は、前方肩痛の見立てを具体化しやすい点にあります。前方肩痛では、長頭腱由来の痛み、腱鞘周囲の irritation、不安定性、肩峰下や烏口突起周囲の関連痛が混ざることがあります。そのとき、長頭腱の走行を基準にして「ここが一番痛いのか」「動きで変わるのか」を見ていくと、次にみる評価が決まりやすくなります。
一方で、長頭腱の圧痛だけで診断を決めることはできません。前方肩痛は回旋筋腱板病変や関節唇病変などと重なりやすく、徒手テスト単独の精度にも限界があります。だからこそ、触診は“断定”ではなく、他の所見へつなぐための入口として使うのが基本です。
触診前に整えること
基本肢位は座位が行いやすく、上肢は体側で軽く下垂させます。肩に余計な力が入っていると三角筋前部や大胸筋上部の緊張が強くなり、結節間溝と長頭腱の位置関係が分かりにくくなります。患者に「肩の力を抜いてください」と伝え、まずは自然な下垂位から始めるのがおすすめです。
また、いきなり痛い場所を押しに行くより、左右ともに大まかなランドマークを先に確認した方が精度は上がります。強い炎症が疑われる肩や外傷直後では、深い圧迫は避けて最小限の触診にとどめ、症状の強さと安全性を優先します。
上腕二頭筋長頭腱の触診手順
触診は「結節間溝を先に確認する」「その中の腱の走行を触る」「内外旋や軽い収縮で変化をみる」の順で進めると迷いにくいです。長頭腱は“点”ではなく“線”で捉えると、触れた感覚が安定しやすくなります。
1.結節間溝を先に確認する
最初に上腕骨近位前面で、大結節と小結節、そしてその間にある結節間溝の位置を大まかに取ります。長頭腱はこの溝の中を走るため、土台となる結節間溝の位置が曖昧だと、そのあとの触診もぶれやすくなります。
2.腱の走行を触れる
結節間溝の位置を取ったら、そのライン上をゆっくり触れていきます。症例によっては細い索状物として分かりやすく感じることもあれば、やや深部で存在感を捉える形になることもあります。最初から「 1 点で当てる」より、「溝の中を走る腱のライン」を追う意識の方が再現しやすいです。
3.内外旋や軽い収縮で変化をみる
長頭腱を疑う位置に触れたら、肩の軽い内外旋で感触や圧痛の変化を確認します。必要に応じて、肘屈曲や前腕回外の軽い収縮で症状や緊張変化をみると、位置の再現性を取りやすくなります。もちろん 1 回で決め打ちせず、左右差と再現性を必ず見ます。
触れたあとに確認したいポイント
触れたら終わりではなく、その所見が症状と本当に関係しているかを確認します。具体的には、「一点で鋭く痛いのか」「走行に沿って広く痛いのか」「動かしたときに痛みが増えるのか」を見ます。圧痛があるだけでは関連所見にすぎないことも多く、症状再現の質をみる方が実践的です。
また、肘屈曲や前腕回外で痛みが増えるのか、肩の挙上や外旋で変わるのかも重要です。長頭腱由来の所見は単独では非特異的になりやすいため、触診と動作をセットで読むと精度が上がります。
よくある失敗
上腕二頭筋長頭腱の触診でつまずく原因の多くは、「痛い所をそのまま押して長頭腱と決める」ことです。肩前面は軟部組織が多く、関連痛も出やすいため、位置関係で整理しないと迷いやすくなります。
| よくある失敗 | 実際に起きていること | 修正ポイント |
|---|---|---|
| 前方の痛い所をそのまま押している | 局在把握なしに圧痛だけを見ている | 先に結節間溝の位置を取り、その中の走行を触る |
| 三角筋前部や表層軟部組織を触っている | 表層の抵抗を腱だと思っている | 表層から徐々に深さを合わせ、結節間溝の中を意識する |
| 長頭腱を 1 点で決め打ちする | 走行ではなく点で考えている | 腱を“線”として追い、再現性を確認する |
| 圧をかけすぎる | 痛み誘発だけで位置同定が曖昧になる | 最小限の圧から始め、必要な分だけ深さを合わせる |
| 患側だけで判断する | 痛みで位置感覚が乱れる | 健側で先に触れて、深さと走行の感覚を作る |
長頭腱周囲の痛みをどう読むか
長頭腱周囲の圧痛は、長頭腱病変を考えるきっかけになります。ただし、前方肩痛では回旋筋腱板病変、関節唇病変、肩峰下病変、烏口突起周囲の痛みなども重なりやすいため、圧痛だけで長頭腱由来と決めるのは危険です。単独の徒手テストも感度・特異度が一定せず、診察所見は“組み合わせ”で読む必要があります。
そのため、長頭腱で痛みが再現されたら、次は抵抗下の肘屈曲や前腕回外、肩の挙上や外旋、夜間痛、発症様式などをあわせて確認します。必要に応じて画像評価を検討する視点も大切です。
次にみる評価
上腕二頭筋長頭腱を触診したあとに、そのまま評価を広げる流れを持っておくと実践的です。まず確認しやすいのは、結節間溝での圧痛、肩関節の自動・他動 ROM、肘屈曲や前腕回外での症状変化です。さらに、肩甲帯アライメントや前方偏位の強さもみておくと、局所所見と姿勢所見がつながりやすくなります。
また、前方肩痛の鑑別では烏口突起や肩峰前縁との位置関係も重要です。点で見るより“前面のどこに近いか”で整理すると、評価の再現性が上がります。
現場の詰まりどころ
上腕二頭筋長頭腱は、教科書で位置を覚えても現場では迷いやすい部位です。痩せ型では比較的触れやすい一方で圧をかけすぎやすく、筋量が多い症例や疼痛が強い症例では深さの調整が難しくなります。触れないことを失敗と考えるより、「今どの層を触っているか」「骨か腱か軟部組織か」を言語化しながら修正する方が上達しやすいです。
もう 1 つの詰まりどころは、Speed テストや Yergason テストなどの名前に引っ張られて、触診そのものが雑になることです。まずは結節間溝の位置関係を丁寧に取ってから、必要なテストへ進む方が結果的にぶれにくくなります。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
上腕二頭筋長頭腱がどうしても触れないときはどうしますか?
いきなり腱を探すのではなく、まず結節間溝の位置を大まかに取り、その中を走るラインとして考えると触れやすくなります。患側で痛みが強いときは、健側で先に深さと走行の感覚を作る方法が有効です。
長頭腱は必ずはっきり触れますか?
症例によっては比較的はっきり分かりますが、常に明確とは限りません。大切なのは「触れた気がする」ことより、位置関係と動きで再現性があるかを確認することです。
圧痛があれば長頭腱障害と考えてよいですか?
圧痛は重要な手がかりですが、単独では断定できません。前方肩痛では他の組織由来の痛みも重なりやすいため、ROM、抵抗運動、夜間痛、発症様式、必要に応じた画像所見を組み合わせて判断します。
新人は何とセットで覚えるとよいですか?
結節間溝、大結節、小結節、烏口突起の位置関係とセットで覚えると整理しやすいです。肩前面を「基準点 → 通り道 → 腱」と流れで覚えると、触診の再現性が上がります。
次の一手
この記事を読んだあとに現場で試すなら、まずは健側で「結節間溝を取る → 腱の走行を触る → 軽い内外旋で変化をみる」の流れを 3 回ほど繰り返してみてください。走行で捉えられるようになると、患側の圧痛評価もぶれにくくなります。
肩前面の触診を連続で整理したい方は、結節間溝の触診ポイントから読むと理解しやすいです。評価の全体像を戻り先として持っておきたい方は、評価ハブも起点にしてみてください。
参考文献
- Varacallo M, El Bitar Y, Mair SD. Proximal Biceps Tendinitis and Tendinopathy. StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023. NCBI Bookshelf
- Courage O, van Rooij F, Saffarini M. Ultrasound is more reliable than clinical tests to both confirm and rule out pathologies of the long head of the biceps: a systematic review and meta-analysis. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2023;31(2):662-671. DOI: 10.1007/s00167-022-07154-5 / PubMed: 36114842
- Bélanger V, Dupuis F, Cournoyer É, Roy J-S. Accuracy of examination of the long head of the biceps tendon in the clinical setting: A systematic review. J Rehabil Med. 2019;51(7):479-491. DOI: 10.2340/16501977-2561 / PubMed: 31243466
- Churgay CA. Diagnosis and Treatment of Biceps Tendinitis and Tendinosis. Am Fam Physician. 2009;80(5):470-476. AAFP
- Woodward TW, Best TM. The Painful Shoulder: Part I. Clinical Evaluation. Am Fam Physician. 2000;61(10):3079-3088. AAFP
- Diplock B, et al. The long head of biceps at the shoulder: a scoping review. J Orthop Surg Res. 2023;18:205. DOI: 10.1186/s13018-023-03726-0 / PubMed: 36978047
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

