- 結論|腰痛の整形外科テストは「症状パターン × 赤旗 × 最小セット」で選ぶと迷いません
- まずはここから|症状パターン別 “最小セット”
- テスト前にそろえる前提|危険サインと安全ライン
- 下肢伸展で悪化する坐骨神経痛パターン|神経伸張テスト
- 伸展・立位保持で増悪する腰痛| Kemp は “診断” より “負荷反応” をみる
- 仙腸関節( SIJ )・骨盤帯パターン|単独テストではなく “一致” をみる
- 末梢循環・危険サインを疑うとき|整形外科テストより “見逃さない” を優先
- 現場の詰まりどころ/よくある失敗(最短で修正する)
- 評価で終わらせない|所見 → 介入 → 再評価の 3 行テンプレ
- 記録用紙ダウンロード
- よくある質問
- 次の一手
- 参考文献
- 著者情報
結論|腰痛の整形外科テストは「症状パターン × 赤旗 × 最小セット」で選ぶと迷いません
腰痛・坐骨神経痛で迷いやすいのは、テスト名をたくさん知ることではなく、最初に何をやり、どこで止め、何を記録に残すかです。このページでは、腰部でよく使う整形外科テストを「症状パターン別の最小セット」として整理し、評価 → 介入 → 再評価までつなげやすい形にまとめます。
ここで答えるのは、腰部で最初に何を選ぶかです。単体テストの完全手順を網羅したり、疾患を確定したりするページではありません。部位全体の入口は 整形外科的テスト一覧(部位別) にまとめています。
評価の型は、個人の努力だけで身につくとは限りません。
今の職場で教育体制がない、相談相手がいない、見本となる評価の流れに触れにくいと感じるなら、学び方と環境の整え方を先に整理しておくと動きやすくなります。
まずはここから|症状パターン別 “最小セット”
腰痛の整形外科テストは、最初から数を増やすほど所見が散らばって迷いやすくなります。まずは症状の出方で入口を固定し、必要最小限の 2〜3 本から始めましょう。
大事なのは、陽性・陰性のラベルだけではなく、どの部位に、どんな症状が、どの条件で再現したかを記録に残すことです。
※表は横にスクロールできます。
| 症状パターン | まずやる(最小セット) | 追加で確認 | 何が決まるか |
|---|---|---|---|
| 殿部〜下肢へ放散痛・しびれ | SLR + 神経学的所見(筋力・感覚・反射) | crossed SLR / Bragard / FNS | 神経根由来をどこまで疑うか、負荷をどこで止めるか |
| 伸展・立位保持で増悪(腰部中心) | Kemp(軽負荷) + 立位保持での変化 | 反復での変化、歩行後の反応 | 伸展・回旋方向の負荷反応をどう介入に使うか |
| 殿部〜鼠径部の鈍痛・片側の奥の痛み | SIJ 疼痛誘発テストを 2〜3 個 | 股関節 ROM / FABER などで混同を整理 | SIJ っぽさがあるか、腰椎・股関節を戻るか |
| 安静時痛・夜間痛・冷感・腫脹・急速な悪化 | 赤旗のスクリーニング | 必要時はテストより共有を優先 | 深追いせず、評価の順番を切り替える |
テスト前にそろえる前提|危険サインと安全ライン
整形外科テストは症状を引き出す場面があるため、先に止めどころを決めておくほど安全です。安静時にも増悪し続ける強い痛み、夜間痛、発熱、原因不明の体重減少、急激な筋力低下、排尿排便の変化などは、テストの数を増やすより共有と精査の優先度を上げたほうがよい場面です。
迷うときは「最後までやる」より、「負荷を上げずに観察へ切り替える」ほうが実務的です。画像や追加検査が必要かどうかは、症状の重さと management が変わるかで考えます。
| 気になるサイン | その場の対応 | 記録に残すポイント |
|---|---|---|
| 安静時も続く強い痛み/夜間痛 | 負荷テストは増やさない | 時間帯、睡眠への影響、増悪因子 |
| 発熱、全身倦怠、原因不明の体重減少 | 精査優先で共有 | バイタル、随伴症状、既往 |
| 急激な筋力低下、排尿排便の変化 | 即時報告を優先 | 発症時期、左右差、進行の速さ |
| 冷感・蒼白・腫脹・発赤が目立つ | 運動器だけで完結させない | 皮膚所見、末梢循環、片側差 |
下肢伸展で悪化する坐骨神経痛パターン|神経伸張テスト
殿部〜大腿後面〜下腿へ広がる放散痛やしびれでは、まず神経伸張で何が再現されるかを押さえます。ただし、 SLR などの徒手テストを単独で使って病態を決め切るのではなく、筋力・感覚・反射と組み合わせて仮説を絞るのが基本です。
重要なのは “陽性/陰性” よりも、何度で、どこに、どんな症状が出たかです。恐怖回避が強いと偽陽性が増えやすいので、負荷を急に上げず、再現したい症状を先に共有してから進めます。
| テスト | 主な狙い | 実務の記録(例) | 注意点 |
|---|---|---|---|
| SLR | 放散痛・しびれの再現 | 角度、放散部位、痛み/しびれの性状 | 局所の腰痛だけなら別仮説も考える |
| crossed SLR | 神経根由来を補強する材料 | 健側挙上で患側症状が出るか | 陰性でも否定はしない |
| Bragard | 神経伸張ストレスの変化をみる | 背屈で増悪/変化なし | 足部由来の痛みと混同しない |
| FNS | L2〜L4 領域の疑い | 前大腿部症状の再現、左右差 | 筋短縮でも陽性っぽくなる |
伸展・立位保持で増悪する腰痛| Kemp は “診断” より “負荷反応” をみる
前屈よりも伸展や立位保持で腰痛が増悪するパターンでは、伸展方向の負荷に対して症状がどう変わるかを把握し、ADL 指導や運動療法の負荷調整に落とすのが目的です。
Kemp は “陽性なら確定” のテストではありません。どの方向・どの強さで症状が変化したかを整理し、再評価で同じ条件を比較できる形にしておくと臨床価値が上がります。
| 反応 | 次に確認 | 介入の方向性(例) |
|---|---|---|
| 軽い伸展で症状が変わらない / 軽い | 反復で悪化しないか | 伸展系の耐久性を段階化する |
| 伸展で悪化、屈曲で軽減 | 立位保持時間、歩行後の変化 | 姿勢戦略と活動配分を調整する |
| 伸展回旋で下肢放散痛が強い | 神経症状の変化、赤旗 | 反復を強行せず、刺激量を下げる |
仙腸関節( SIJ )・骨盤帯パターン|単独テストではなく “一致” をみる
殿部〜鼠径部の鈍痛は、 SIJ 、腰椎、股関節が混ざりやすい領域です。ここで大事なのは、単独テストの陽性で決め打ちすることではなく、同側・同部位の “いつもの痛み” が複数で一致するかを見ることです。
実務では、疼痛誘発テストを 2〜3 個行い、一致が弱ければ腰椎や股関節へ戻る運用が安定します。 SIJ っぽさがあっても、荷重位や動作でどう変わるかまで見て初めて介入につながります。
| やること | 狙い | 記録の型 |
|---|---|---|
| 疼痛誘発テストを 2〜3 個 | 同側・同部位の再現性をみる | 再現部位、性状、左右差 |
| 一致が弱ければ腰椎・股関節を再評価 | 混同を減らす | どの仮説を保留したか |
| 荷重位の変化を確認する | 介入へつなぐ | 片脚立位、歩行、階段での変化 |
末梢循環・危険サインを疑うとき|整形外科テストより “見逃さない” を優先
腰痛や下肢痛の中には、運動器だけで説明しにくいケースがあります。安静時痛、夜間痛、冷感・蒼白、腫脹・発赤、急速な悪化が目立つ場合は、整形外科テストで完結させず、危険サインの共有を優先します。
ここでの目的は診断確定ではなくスクリーニングです。違和感があるときほど “負荷を上げない” 判断が、安全と信頼につながります。
現場の詰まりどころ/よくある失敗(最短で修正する)
よくある失敗を見る / 記録の型を見る / 整形外科テスト総論へ戻る
腰痛の整形外科テストは、やり方そのものよりも解釈のズレと負荷のかけ方で失敗しやすい領域です。陽性・陰性だけを並べても、再評価と申し送りに使いにくくなります。
下の表は、現場で起きやすい詰まりを原因 → 対策 → 記録で固定した修正テンプレです。
| 失敗(詰まり) | 起きやすい原因 | 修正(対策) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 陽性/陰性だけ書いて終わる | 角度・部位・性状を残していない | “何度で・どこに・どんな” を固定する | 角度、部位、性状、増悪/軽減因子 |
| 恐怖回避で偽陽性が増える | 負荷が急、合意がない | 段階化し、再現したい症状を先に共有する | 開始姿勢、代償、途中中止理由 |
| Kemp で病態を断定する | “陽性=診断” と読んでしまう | 方向と負荷反応の整理に役割を戻す | どの方向・どの強さで変化したか |
| SIJ を単独所見で断定する | 腰椎 / 股関節との混同 | 複数一致を優先し、弱ければ戻る | 同側・同部位の一致の有無 |
| 危険サインがあるのに負荷を上げる | 評価で確定したい心理 | スクリーニングへ切り替えて共有する | 安静時痛、夜間痛、冷感、腫脹など |
評価で終わらせない|所見 → 介入 → 再評価の 3 行テンプレ
整形外科テストは、所見をそのまま並べるだけでは実務に残りません。所見 → 介入で守る条件 → 次回の再評価指標まで 1 セットで書くと、今日の評価が次回につながります。
再評価は毎回フルセットではなく、仮説に直結する 2〜3 個へ絞るほうが、患者さんの負担が少なく比較もしやすくなります。
| 見えた所見 | 介入で守る条件 | 再評価でみる指標 |
|---|---|---|
| SLR で早期から放散痛が強い | 神経伸張ストレスを上げすぎない | 同条件での角度・症状の変化 |
| 伸展で悪化、屈曲で軽減 | 立位保持と活動配分を調整する | 立位保持時間、歩行後痛 |
| 骨盤帯で一致(複数で同じ痛み) | 荷重位の骨盤制御を優先する | 片脚立位、階段、歩行での痛み |
カルテ記載例:
右 SLR 45°で殿部〜大腿後面に放散痛再現。右伸展回旋で腰部痛増悪、 SIJ は 2 テストで同部位一致なし。
本日は神経伸張ストレスを上げすぎず、体幹・骨盤の安定化と座位姿勢を調整。
次回は右 SLR 角度、立位保持 5 分、歩行後痛を同条件で再評価する。
記録用紙ダウンロード
腰痛の整形外科テストを、同じ条件で記録 → 再評価しやすくするための A4 記録シートを用意しました。患者情報、評価前に固定する項目、採点記録、再評価メモを 1 枚で残したい場面で使いやすい構成です。
印刷して使いたい方は、下のボタンから開けます。必要ならプレビューを開き、紙面レイアウトを確認してから保存してください。
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よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
SLR は何度まで挙上できれば “正常” と考えてよいですか?
70°前後を目安に語られることはありますが、年齢や柔軟性で変わります。臨床では角度そのものより、どの角度で、どこに、どんな症状が出たかを生活動作と結びつけて読むほうが有用です。
Kemp が陽性なら、椎間関節由来で確定ですか?
確定ではありません。Kemp は診断確定よりも、伸展・回旋方向の負荷で症状がどう変わるかをみる材料として使うと実務的です。方向・強さ・再現部位をそろえて再評価につなげるほうが有効です。
SIJ は何個くらい一致したら疑いやすいですか?
単独テストの陽性だけで決め打ちせず、同側・同部位の “いつもの痛み” が 2〜3 個で一致するかを見ます。ただし、それだけで確定とはせず、腰椎や股関節の再評価もあわせて候補を絞ります。
どこまでテストをして、どこで止めるべきですか?
安静時痛、夜間痛、急激な筋力低下、排尿排便の変化、冷感・腫脹などがあれば、テストを増やすより共有を優先します。迷うときは “やり切る” より “負荷を上げない” に倒すほうが安全です。
次の一手
次にやることは、①全体像へ戻って位置づけを確認する、②部位横断の選び方をそろえる、の 2 点です。腰部だけで閉じずに戻り先を持つと、整形外科テストの運用が安定します。
- 全体像に戻る:整形外科的テスト一覧(部位別)
- 選び方をそろえる:整形外科的テストの使い分け(総論)
参考文献
- Bernstein IA, Malik Q, Carville S, Ward S. Low back pain and sciatica: summary of NICE guidance. BMJ. 2017;356:i6748. PubMed
- van der Windt DAWM, Simons E, Riphagen II, Ammendolia C, Verhagen AP, Laslett M, Devillé W, Deyo RA, Bouter LM, de Vet HCW, Aertgeerts B. Physical examination for lumbar radiculopathy due to disc herniation in patients with low-back pain. Cochrane Database Syst Rev. 2010;(2):CD007431. DOI
- Devillé WLJM, van der Windt DAWM, Dzaferagić A, Bezemer PD, Bouter LM. The test of Lasègue: systematic review of the accuracy in diagnosing herniated discs. Spine (Phila Pa 1976). 2000;25(9):1140-1147. DOI
- Tawa N, Rhoda A, Diener I. Accuracy of clinical neurological examination in diagnosing lumbo-sacral radiculopathy: a systematic literature review. BMC Musculoskelet Disord. 2017;18(1):93. DOI
- Stuber K, Lerede C, Kristmanson K, Sajko S, Bruno P. The diagnostic accuracy of the Kemp’s test: a systematic review. J Can Chiropr Assoc. 2014;58(3):258-267. PubMed
- Laslett M. Evidence-based diagnosis and treatment of the painful sacroiliac joint. J Man Manip Ther. 2008;16(3):142-152. DOI
- Saueressig T, Owen PJ, Diemer F, Zebisch J, Belavy DL. Diagnostic accuracy of clusters of pain provocation tests for detecting sacroiliac joint pain: systematic review with meta-analysis. J Orthop Sports Phys Ther. 2021;51(9):422-431. DOI
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


