腰痛の整形外科テスト|症状別 “最小セット” 実践ガイド

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腰痛の整形外科テスト|症状別 “最小セット” と使い分け( SLR / Kemp / SIJ )

腰痛・坐骨神経痛の評価で迷うのは、「テスト名を知っている」よりもどれを最初に選び、どう解釈し、介入に落とすかです。本稿は、腰椎・骨盤まわりで頻出の整形外科テストを症状パターン別に整理し、現場で再現しやすい “最小セット” を提示します。

テストは診断を確定する道具ではなく、仮説を絞るためのスクリーニングです。まず安全ライン(危険サイン)を外し、必要最小限を組み合わせて「評価 → 介入 → 再評価」を回せる形にします。関連の入口は 整形外科的テスト一覧(部位別) にまとめています。

評価は “順番” が決まると迷いが減ります。初期評価 → 記録 → 再評価の型を 3 分で確認できます。 評価 → 記録 → 再評価の流れを 3 分で見る

まずはここから:症状パターン別 “最小セット”

腰痛の整形外科テストは、最初から種類を増やすほど所見が散らばって迷いやすくなります。まずは症状の出方(パターン)で入口を固定し、必要最小限のテストから入りましょう。

下の表は「まず 2〜3 個」→「必要なら追加」という順番に整えた最小セットです。陽性・陰性よりも再現した症状の部位・性状・角度を記録に残せると、介入へ直結します。

症状パターン別:最小セット(初期にやる 2〜3 個 → 追加)
症状パターン まずやる(最小セット) 追加で確認 見たいこと(結論)
下肢伸展で増悪(放散痛・しびれ) SLR → Bragard(必要なら) Flip、Bowstring、FNS(上位腰椎疑い) 神経伸張で “いつ・どこに・どんな” 症状が出るか
伸展・立位保持で増悪(腰部中心) Kemp(負荷量を調整) 叩打(局所の鋭痛があれば注意) 伸展・回旋方向で症状がどう変わるか
殿部〜鼠径部の鈍痛(片側の奥の痛み) SIJ 疼痛誘発テストを 2〜3 個 複数一致(同側・同部位)を確認 単独所見ではなく “一致(クラスター)” があるか
安静時痛・夜間痛・冷感・腫脹など 危険サインのスクリーニング 必要なら医師へ共有 運動器以外の可能性を見逃さない

テスト前にそろえる前提:危険サインと安全ライン

整形外科テストは痛みを “引き出す” 場面があるため、先に安全ラインを引いておくほど事故が減ります。特に、安静時も増悪し続ける強い痛み、夜間痛、発熱、原因不明の体重減少、急激な筋力低下などは評価より精査が優先になりやすいサインです。

迷うときは「やり切る」よりも「増悪させない範囲で観察」へ切り替え、所見と経過を共有できる形で残すほうが、結果的に患者さんの利益になります。

負荷テストを強行しないための安全チェック(例)
気になるサイン その場の対応 記録に残すポイント
安静時も増悪し続ける痛み/夜間痛 負荷テストは控える 時間帯、増悪因子、睡眠への影響
発熱、全身倦怠、原因不明の体重減少 精査優先で共有 バイタル、随伴症状、既往
急激な筋力低下、排尿排便の変化 即時報告を優先 いつから、左右差、日内変動

下肢伸展で悪化する坐骨神経痛パターン:神経伸張テスト

片側の殿部〜大腿後面に放散する痛みやしびれでは、まず下肢伸展(神経伸張)で症状がどう変化するかを押さえると、仮説が立てやすくなります。重要なのは “陽性/陰性” ではなく、何度で、どの部位に、どんな性状が出たかを具体化することです。

恐怖回避が強い場合、痛みが出る前から防御的に骨盤後傾や股関節屈曲が入り、偽陽性が増えます。負荷量を落として段階化し、再現したい症状(放散痛か、局所痛か)を先に合意してから進めると安全です。

神経伸張テスト:目的別の使い分けと記録
テスト 狙い 実務の記録(例) 注意点
SLR 伸張で放散痛が再現するか 角度、放散部位、痛み・しびれの性状 早期の強い局所腰痛は別仮説も検討
Bragard 神経伸張が主因かを補助 背屈で症状が増悪/変化なし 足部由来の痛みと混同しない
Flip 仰臥位が難しいときの代替 座位で膝伸展の再現性 骨盤後傾の代償に注意
FNS L2–4 領域の疑い 腹臥位で膝屈曲+股関節伸展の反応 前大腿部の筋短縮でも陽性っぽくなる

伸展・立位保持で増悪する腰痛:Kemp など(伸展回旋の反応を見る)

前屈よりも伸展や立位保持で腰痛が増悪するパターンでは、伸展方向の負荷に対する反応を把握し、ADL 指導や運動療法の負荷調整の根拠に変換するのが目的です。

Kemp は “陽性なら確定” のテストではありません。むしろ、どの方向・どの強さで症状が変化するかを整理し、再評価で同条件を比較できる形にしておくと実務価値が上がります。

Kemp の結果を “介入の条件” に変換する例
反応 次に確認 介入の方向性(例)
軽い伸展で楽になる 反復で増悪しないか 伸展系の可動域・耐久性を段階化
伸展で悪化、屈曲で軽減 立位保持時間、歩行での変化 屈曲優位の姿勢戦略、活動配分を調整
下肢放散痛が強く誘発 神経症状の変化、危険サイン 無理に反復せず、負荷を落として共有

仙腸関節(SIJ)・骨盤帯パターン:単独テストではなく “一致” を見る

仙腸関節や骨盤帯の問題は、殿部〜鼠径部の鈍痛として出ることが多く、腰椎や股関節由来の痛みと混同しやすいのが難所です。ここは単独の陽性に寄らず、同側・同部位の再現が複数で一致するかを優先すると判断が安定します。

実務上は疼痛誘発テストを 2〜3 個行い、同じ領域に “いつもの痛み” が再現されるかを確認し、必要に応じて追加します。妊娠後期や産後、外傷後は同じストレスでも痛みの出方が変わりやすい点に注意します。

SIJ で迷いにくい進め方:一致(複数で同じ痛み)を優先
やること 狙い 記録の型
疼痛誘発テストを 2〜3 個 同側・同部位の再現性 再現部位(可能なら図示)、性状
一致が弱ければ腰椎・股関節も再評価 混同を減らす どの仮説を保留したか
荷重位の動作で症状がどう変わるか 介入へつなぐ 片脚立位、階段、歩行での変化

末梢循環・危険サインを疑うとき:整形外科テストより “見逃さない” を優先

腰痛や下肢痛の中には、運動器ではなく循環器系の問題が背景にあるケースもあります。安静時痛、夜間痛、下肢の冷感・蒼白、腫脹・発赤が目立つ場合は、整形外科テストで完結させず、危険サインの共有を優先します。

ここでの目的は診断ではなくスクリーニングです。違和感があるときほど “負荷を上げない” 判断が、結果的に安全と信頼につながります。

現場の詰まりどころ/よくある失敗(最短で修正する)

腰痛の整形外科テストは、やり方よりも「解釈のズレ」と「負荷のかけ方」で失敗しやすい領域です。下の表は、現場で起きやすい詰まりを原因 → 対策 → 記録で固定した “修正テンプレ” です。

陽性・陰性のラベル付けよりも、同じ条件で比較できる形で所見を残すほうが、再評価と申し送りが一気にラクになります。

よくある失敗と修正:原因 → 対策 → 記録ポイント
失敗(詰まり) 起きやすい原因 修正(対策) 記録ポイント
陽性/陰性だけ書いて終わる 角度・部位・性状を残していない “何度で・どこに・どんな” を固定 角度、部位、性状、増悪/軽減因子
恐怖回避で偽陽性が増える 負荷が急、合意がない 段階化して “再現したい症状” を共有 開始姿勢、代償、途中中止理由
SIJ を単独所見で断定する 混同(腰椎/股関節) 複数一致を優先し、仮説を保留する 同側・同部位の一致の有無
危険サインがあるのに負荷を上げる 評価で確定したい心理 スクリーニングへ切り替えて共有 安静時痛、夜間痛、腫脹、冷感など

評価で終わらせない:所見を介入へ落とす “変換”

整形外科テストは、結果を介入条件に変換して初めて価値が出ます。たとえば神経伸張で放散痛が強い場合は、伸張ストレスを避けたポジショニングや、体幹・骨盤の安定化を優先した段階的アプローチが必要になります。

再評価は “毎回フルセット” ではなく、仮説に直結する 2〜3 個へ絞るほうが、患者さんの負担が少なく経時変化も追いやすくなります。

テスト所見 → 介入の条件づけ(例)
見えた所見 介入で守る条件 再評価で見る指標
SLR で早期から放散痛が強い 伸張ストレスを避ける、段階化 同条件での角度・症状の変化
伸展で悪化、屈曲で軽減 活動配分と姿勢戦略を調整 立位保持、歩行での耐久性
骨盤帯で一致(複数で同じ痛み) 荷重位の骨盤制御を優先 片脚立位、階段での痛み

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

SLR は何度まで挙上できれば “正常” と考えてよいですか?

目安として 70 度前後まで痛みなく挙上できると “正常範囲” とされることがありますが、年齢や柔軟性で大きく変わります。角度そのものよりも、痛みが出る角度・部位・性状と、生活で困っている動作とのつながりを押さえるほうが臨床では有用です。

テストがすべて陰性なら、運動器由来の痛みではないですか?

陰性でも運動器由来を否定できません。テストは “その肢位・その負荷条件” での反応であり、日常生活の長時間負荷とは条件が異なります。問診、動作分析、疼痛評価を組み合わせて総合的に判断します。

腰痛の患者さんに、どこまでテストを行ってよいか不安です。

危険サインが疑われる場合は、無理にストレスをかけず、スクリーニングに切り替えて共有します。そのうえで、痛みの強さや恐怖回避に応じてテストを段階化し、迷う場合は主治医へ評価方針を相談しておくと安心です。

次の一手

次にやることは、①想起期間と再評価間隔の固定、②欠損対応の統一、③合計点だけ保存しない、の 3 点です。ここが揃うと「伸びない/読めない」が一気に減ります。

  • 運用を整える:想起期間/欠損の扱い/再評価間隔をチームで固定する
  • 共有の型を作る:合計点+困りごと上位(生活・仕事)をセットで残す
  • 環境の詰まりも点検:教育体制や記録文化がボトルネックで「現職では変えにくい」と感じたら、マイナビコメディカルの活用を検討する(まず使い方・比較軸を整理)

参考文献

  1. Laslett M. Evidence-based diagnosis and treatment of the painful sacroiliac joint. J Man Manip Ther. 2008. PubMed
  2. Stuber K, et al. The diagnostic accuracy of the Kemp’s test: a systematic review. J Can Chiropr Assoc. 2014. PMC
  3. Tawa N, et al. Accuracy of clinical neurological examination in diagnosing lumbosacral radiculopathy: a systematic review. 2017. PMC
  4. Deville WL, et al. The test of Lasègue: systematic review of accuracy in diagnosing herniated discs. NCBI Bookshelf

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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