遂行機能障害の課題は「正解数」より、課題中の反応と生活場面をみる
遂行機能障害の課題では、正答数や所要時間だけでなく、目標を決められるか、順序を組み立てられるか、途中で脱線したときに戻れるか、誤りに気づいて修正できるかを観察することが重要です。さらに、机上課題でみられた反応が、予定管理・家事・仕事など実際の生活でも生じているか確認します。本記事では、OTが使いやすい課題例10選を、観察する反応・難易度調整・生活場面へのつなげ方で整理します。独自の合格点や固定時間は設けず、患者ごとの反応と支援量の変化を記録する方法まで解説します。
課題例だけで遂行機能障害と判断しない
遂行機能障害では、目標設定、計画、行動の開始、実行中のモニタリング、誤りの修正など複数の過程が関係します。そのため、1つの課題ができなかったことだけで「遂行機能障害」と判断するのではなく、どの段階で、どのような崩れ方をしたかを確認します。
また、同じ「課題が進まない」という反応でも、注意が続かない、指示を保持できない、言語理解が難しい、視空間認知や運動機能の影響を受けているなど、別の要因が関係する場合があります。課題中の反応は、神経心理学的検査、ADL・IADL、病棟生活、家族や多職種からの情報とあわせて解釈してください。
生活上の困りごとから仮説を立て、課題中の反応を観察し、その反応を実生活で再確認するための課題例として使用します。遂行機能障害の評価・介入全体の考え方は、遂行機能障害ドリル総論で整理しています。
課題を選ぶ前に生活上の困りごとを確認する
課題は、「遂行機能を鍛えるため」という理由だけで選ぶのではなく、実際の生活・作業で何がうまくいかないのかから選びます。課題そのものが上手になることではなく、生活上の問題を整理し、必要な支援や方略を見つけることが目的です。

| 生活・作業でみられること | 確認したい反応 | 使いやすい課題例 |
|---|---|---|
| 何から始めればよいか決まらない | 目標設定、優先順位、開始 | No.1、2、5 |
| 手順が前後する・抜ける | 順序づけ、計画と実行の照合 | No.3、6 |
| 予定変更で混乱する | 条件変更への対応、柔軟性 | No.4、8 |
| 途中で別のことを始めて戻れない | 中断後の復帰、目標保持 | No.7 |
| 失敗しても同じ方法を続ける | 自己モニタリング、自己修正 | No.9、10 |
遂行機能障害で使える課題例10選
以下の10課題は、「何点なら合格」という使い方ではなく、課題中の反応を観察するための例です。患者の認知機能、身体機能、生活背景、疲労、目標に合わせて課題内容や支援量を調整してください。
1.目標を具体化する
課題例:これから行う作業について、「何ができれば終わりか」を本人の言葉で説明してもらいます。
- 観察する反応:目標を具体化できるか、作業内容と目標が一致しているか、目標を保持したまま開始できるか
- 難易度調整:選択肢を提示する、視覚的に目標を提示する、自分で目標を設定してもらうなど支援量を変える
- 生活場面で確認:更衣、予定管理、家事などで「何を終えればよいか」を理解して行動できているか
2.複数の予定から優先順位を決める
課題例:複数の予定や作業候補を提示し、どれから行うかと、その理由を説明してもらいます。
- 観察する反応:重要度や締め切りを考慮できるか、理由を説明できるか、提示順に影響されすぎないか
- 難易度調整:候補数を減らす、条件を明示する、本人の日常生活に近い予定へ置き換える
- 生活場面で確認:病棟予定、家事、買い物、仕事などで優先順位をつけられるか
3.手順を正しい順序に並べる
課題例:身近な活動の手順カードを提示し、実際に行う順番へ並べてもらいます。
- 観察する反応:開始から終了までの流れを組めるか、不要な手順を挟まないか、矛盾に自分で気づくか
- 難易度調整:手順数を減らす、写真や文字を使い分ける、本人に身近な活動を選ぶ
- 生活場面で確認:更衣、整容、調理、服薬準備など多段階の活動でも順序が崩れていないか
4.条件が変わったときに計画を組み直す
課題例:一度立てた予定に「時間が短くなった」「使える道具が変わった」などの条件変更を加え、計画を修正してもらいます。
- 観察する反応:以前の計画に固執しないか、新しい条件を計画へ反映できるか、変更理由を説明できるか
- 難易度調整:変更条件を1つにする、視覚提示する、複数条件から本人に選択してもらう
- 生活場面で確認:予定変更、物品不足、担当者変更など想定外の状況で行動を組み直せるか
5.限られた時間で行うことを選ぶ
課題例:複数の作業から、限られた時間内に何を先に行うか選び、順番を決めてもらいます。
- 観察する反応:時間を見積もれるか、優先順位と実行可能性を考えられるか、すべてを行おうとして破綻しないか
- 難易度調整:時間条件を外す、候補数を減らす、時計や予定表を使えるようにする
- 生活場面で確認:外出準備、通院、仕事前の準備など時間制約のある活動で同様の問題がないか
6.自分で立てた計画に沿って実行する
課題例:事前に作成した手順や計画を見ながら、実際の作業を進めてもらいます。
- 観察する反応:計画を確認してから開始するか、途中で手順から外れないか、計画と現在位置を照合できるか
- 難易度調整:チェック欄を設ける、手順を分割する、外的手がかりを徐々に調整する
- 生活場面で確認:予定表や手順書があっても使わずに行動してしまうことがないか
7.中断後に元の作業へ戻る
課題例:安全に配慮したうえで作業中に声かけなどの中断を入れ、その後に元の課題へ戻ってもらいます。
- 観察する反応:中断前に何をしていたか把握しているか、同じ場所へ戻れるか、別の作業へ脱線しないか
- 難易度調整:中断をなくす、中断時間を短くする、再開位置を示す印やメモを使用する
- 生活場面で確認:会話、電話、スタッフからの声かけなどで中断したあとに元の活動へ戻れているか
8.複数の条件を保ちながら作業する
課題例:「この順番で行う」「この条件では別の方法を使う」など、複数の条件を確認したうえで作業を行います。
- 観察する反応:条件を保持できるか、一部の条件だけ抜けないか、条件違反に自分で気づけるか
- 難易度調整:条件数を減らす、条件を紙面に提示する、作業途中で確認できるようにする
- 生活場面で確認:服薬、家事、仕事など複数のルールを守る必要がある活動で同様の崩れがないか
9.作業後に自分の誤りを振り返る
課題例:課題終了後に「うまくいった点」「困った点」「やり直すなら変えること」を本人に振り返ってもらいます。
- 観察する反応:実際に起きた誤りへ気づいているか、結果と自己評価が一致しているか、原因を具体化できるか
- 難易度調整:チェック項目を提示する、具体的な場面を質問する、必要に応じてフィードバックを加える
- 生活場面で確認:失敗後に原因を振り返れるか、同じ失敗を繰り返していないか
10.次回の方略を決めて試す
課題例:今回困った場面に対して、次回は何を変えるか本人と整理し、その方略を次の作業で実際に使用します。
- 観察する反応:具体的な修正案を考えられるか、必要な場面で方略を思い出して使えるか、使用後に効果を判断できるか
- 難易度調整:方略候補を提示する、チェックリストやメモを用いる、本人が方略を選択する
- 生活場面で確認:病棟・家庭・職場など別の場面でも同じ方略を使えるか
難易度は「初級・中級」ではなく課題条件で調整する
遂行機能課題の難易度は、固定された「初級から中級」という段階だけで決まるものではありません。情報量、手順数、手がかり、時間条件、環境刺激、中断、ルール数などを患者の状態と生活目標に合わせて調整します。
| 調整する要素 | 負荷を下げる例 | 負荷を上げる例 |
|---|---|---|
| 情報量・手順数 | 候補や手順を減らす | 扱う情報や手順を増やす |
| 手がかり | 視覚提示・チェック表を使う | 本人による方略使用へ移す |
| 環境 | 刺激の少ない場所で行う | 実生活に近い環境で行う |
| 時間条件 | 時間制約を設けない | 生活上必要な時間条件を加える |
| 中断 | 中断なく実施する | 実生活に近い中断を加える |
| ルール | 条件を少なくし、見える形で提示する | 複数条件を組み合わせる |
再評価で前回との比較を目的とする場合は、複数の条件を一度に変えると変化の理由が分かりにくくなります。その場合は、比較したい条件以外をできるだけそろえると記録しやすくなります。ただし、「必ず1要素だけ変更する」という公式基準ではありません。
机上課題の反応を生活場面へ戻して確認する
課題でエラーが出たとしても、生活で問題になっていなければ、優先して介入すべき課題とは限りません。逆に、机上課題が成立していても、実際の生活では刺激量、疲労、時間制約、複数作業などによって問題が表面化することがあります。
| 課題中にみられた反応 | 生活場面で確認する例 |
|---|---|
| 開始までに時間を要する | 予定時刻になっても自分から準備を始められないか |
| 順序が崩れる | 整容、更衣、家事などの多段階活動で手順の抜けがないか |
| 中断後に戻れない | 会話や電話のあと、元の活動を再開できるか |
| 誤りに気づかない | 予定忘れや作業ミスを自分で発見できるか |
| 方略を使えば改善する | チェックリストやメモを生活場面でも自発的に使えるか |
記録は「結果」より課題条件・反応・支援を残す
遂行機能課題の記録では、「できた」「できなかった」だけでは次回の再評価につながりません。少なくとも、実施した課題、課題条件、観察されたエラーや停滞、必要だった支援、自己モニタリング・自己修正、使用した方略、生活場面で確認することを残します。
| 記録項目 | 残す内容 |
|---|---|
| 課題・条件 | 何を、どのような条件で行ったか |
| 反応・エラー | 開始、順序、脱線、ルール保持、時間配分など、どこで崩れたか |
| 支援 | 視覚提示、口頭確認、見本、手順分割など何が必要だったか |
| 自己モニタリング | 本人が誤りに気づいたか、修正できたか |
| 方略 | メモ、チェックリスト、声に出すなど何が有効だったか |
| 生活場面 | 同じ反応をどのADL・IADL・仕事場面で確認するか |
| 次回 | 何をそろえて比較し、何を変更するか |
記録例|課題中の反応から次の確認へつなげる
記録では、診断名だけでなく「何が起き、どの支援で変化したか」が分かる形にします。
生活上の困りごと:病棟予定を確認しても、次に行うことを自分で決められずスタッフの指示を待つことがある。
課題:複数の予定から、どれを先に行うか選択し理由を説明する課題を実施。
反応:提示順に選択する傾向があり、時間条件を自発的に確認しなかった。予定時刻を示すよう促すと優先順位を変更できた。
方略:予定表を見たあとに「時刻→必要な準備→優先順位」の順で確認する方法を本人と整理。
次回:病棟の実際の予定表でも同じ確認方法を使えるか観察し、口頭支援量の変化を確認する。
このように記録すると、単なる課題成績ではなく、生活上の問題と課題中の反応、必要な支援、次回の再評価を一続きで共有できます。
自己モニタリングと方略の使用も確認する
遂行機能障害への認知リハビリテーションでは、課題を繰り返すことだけでなく、本人が自分の行動や結果を振り返り、問題に応じた方略を検討・使用する視点があります。遂行機能や自己認識を扱うガイドラインや研究でも、実際の活動や本人の目標と関連づけながら、行動を振り返る介入が検討されています。
ただし、特定の介入方法や進め方を、疾患や病期を問わず一律に適用することは避けます。患者の認知機能、自己認識、生活目標、支援環境を踏まえ、方略を使うことで実際の生活行動がどう変化したかまで確認します。
よくある質問
Q1. この10課題で遂行機能障害を評価できますか?
この10課題は標準化された評価尺度ではないため、診断や重症度判定には使用できません。課題中の反応を観察し、生活上の問題との関係を整理するための課題例です。必要に応じてBADSなどの標準化評価、注意・記憶機能の評価、生活・作業場面の観察を組み合わせます。
Q2. 10課題をすべて実施する必要がありますか?
ありません。生活上の困りごとと確認したい反応に合わせて課題を選びます。課題数を固定するより、疲労や注意持続時間も考慮し、何を確認するためにその課題を行うのか明確にすることを優先します。
Q3. 記憶障害や注意障害がある場合はどう考えますか?
課題の失敗をすべて遂行機能障害として解釈しないことが重要です。指示を保持できない、課題へ注意を向け続けられないなど別の要因が考えられる場合は、提示方法や環境を調整し、注意・記憶機能の評価や実生活での観察とあわせて整理します。
次の一手
課題中の反応だけでは、注意・記憶・遂行機能のどこが主な問題か判断しにくいことがあります。高次脳機能障害の課題を症状から探したい場合は高次脳機能障害ドリル一覧、記憶障害との違いに迷う場合は記憶障害と遂行機能障害の違いを確認してください。
参考文献
- 国立障害者リハビリテーションセンター. 高次脳機能障害情報・支援センター. 医学的リハビリテーションプログラム. 2026年9月29日閲覧.
- Jeffay E, Ponsford J, Harnett A, et al. INCOG 2.0 Guidelines for Cognitive Rehabilitation Following Traumatic Brain Injury, Part III: Executive Functions. J Head Trauma Rehabil. 2023;38(1):52-64. doi: 10.1097/HTR.0000000000000834 / PubMed: 36594859
- Cicerone KD, Goldin Y, Ganci K, et al. Evidence-Based Cognitive Rehabilitation: Systematic Review of the Literature From 2009 Through 2014. Arch Phys Med Rehabil. 2019;100(8):1515-1533. doi: 10.1016/j.apmr.2019.02.011 / PubMed: 30926291
- Skidmore ER, Holm MB, Whyte EM, et al. The feasibility of meta-cognitive strategy training in acute inpatient stroke rehabilitation: case report. Neuropsychol Rehabil. 2011;21(2):208-223. doi: 10.1080/09602011.2011.552559 / PubMed: 21391121
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

