MDRPI 運用ガイド(目的と全体像)
MDRPI( medical device-related pressure injury )は、医療機器が皮膚・粘膜に局所の圧・ずれをかけ続けることで生じる圧迫損傷です。骨突出部の褥瘡と違い、部位が「機器の当たり方」に依存し、発見が遅れると短時間でも悪化しやすいのが特徴です。
本記事は、知識よりも現場で回る運用(チェック → 調整 → 再評価 → 申し送り)に絞って整理します。あわせて、すぐに使える現場用 2 ページ PDF(評価+経時記録+ SBAR )と、家族にも説明しやすい在宅向け 1 ページ PDFを用意しました。
配布 PDF(チェック・記録シート)
まずは「観察 → 調整 → 再評価 → 共有」を最小手数で回すために、下の PDF を使ってください。印刷して運用すると、見落としと申し送りの抜けを減らせます。
現場用( 2 ページ ):デイリーチェック(評価)+ 7 日ログ+ SBAR 報告テンプレ
現場用 PDF をプレビュー表示する
在宅向け( 1 ページ ):医療機器の「当たり」チェック(家族・介護者向け)
在宅向け PDF をプレビュー表示する
MDRPI で起きていること(なぜ短時間でも悪化する?)
MDRPI は「機器が当たる場所」に、圧(押し付け)+ずれ(滑り)が集中して起きます。皮膚は見た目が軽くても深部でダメージが進むことがあり、粘膜(口腔内・鼻腔内など)は目視しにくいため、発見が遅れるほど手戻りが増えます。
そのため MDRPI の基本は、発生後の処置よりも早期発見と微調整の反復です。難しい判断を増やすより、「見る場所を固定する」「調整の選択肢を固定する」「再評価を必ず残す」の 3 つを守るほうが再現性が上がります。
リスクが上がる条件(先に当てはめておく)
MDRPI は「機器の硬さ」だけでなく、患者側の条件で起きやすさが変わります。初回評価で、下の条件に当てはまるほど観察頻度を上げる運用が安全です。
| 分類 | 例 | 運用のコツ |
|---|---|---|
| 皮膚の弱さ | 高齢、低栄養、浮腫、ステロイド、脱水 | 同じテンションでも傷む前提で「早く見る」 |
| 循環・酸素化 | ショック、末梢循環不全、貧血、低酸素 | 発赤が出にくいことがあるので触って確認 |
| 意識・感覚 | 鎮静、せん妄、麻痺、感覚低下 | 痛み訴えが頼れないため“所見優先”で回す |
| 湿潤 | 発汗、分泌物、失禁、口腔内の湿潤 | 浸軟が早いので乾燥・交換の頻度を上げる |
| 装着条件 | 長時間装着、固定が強い、ケーブル張力 | 張力を抜く、固定方向を変える、エッジを減らす |
運用フロー(観察 → 調整 → 再評価 → 共有)
判断を増やすと運用が崩れるので、フローは単純化します。現場用 PDF はこの順番に並べてあり、チェック欄を埋めるだけで運用が残る設計です。
- 観察:機器と部位を固定して見る(当たりやすい部位から)
- 調整:テンション・サイズ・固定方向・張力・保護材の順で選ぶ
- 再評価:時間を決めて戻る(改善/不変/悪化)
- 共有:消えにくい発赤、びらん、水疱、痛みが強い場合は早めに連携
観察のコツ(見る場所を固定する)
見落としの原因は「どこを見るかが人で違う」ことです。まずは頻度上位の部位を固定し、毎回同じ順番で見ます。代表例は、鼻梁・鼻翼・耳介後面・口角・顎下・後頭部などです。
所見は難しく書かず、発赤(消える/消えにくい)・圧痕・浸軟・びらん・痛み/不快・ずれの最小セットで十分です。迷ったら「消えにくい」「痛い」「濡れている」を拾えば、重症化の前に止めやすくなります。
調整の選び方(“やること”を固定する)
介入は「いきなり全部」より、再現性が高い順に固定します。下の順番で選ぶと、チームで同じ判断になりやすいです。
| 優先 | やること | 狙い | 記録のポイント |
|---|---|---|---|
| 1 | テンション調整(締めすぎを解除) | 圧を下げる | 「どれくらい緩めたか」を短文で残す |
| 2 | サイズ再評価(当たりが強いなら変更) | 局所の集中を減らす | 変更前後のサイズ、当たり部位の変化 |
| 3 | 固定方向を交替(左右や支点をずらす) | 同一点への負荷を避ける | 「右→左」など方向を明記 |
| 4 | 配管の張力を抜く(引っ張りを消す) | ずれを減らす | 張力の原因(体位・位置)も一言添える |
| 5 | 保護材(当て物)・乾燥/交換頻度アップ | エッジと湿潤を対策 | 材の種類は書ける範囲で(一般名) |
再評価の型(“時間”を決めて戻る)
調整して終わりにすると、同じ失敗を繰り返します。必ず再評価の時刻を決め、「改善/不変/悪化」を残します。ここが残っていると、夜勤帯や担当交替でも運用が切れにくくなります。
現場用 PDF の E 欄は、再評価+共有の最小欄に絞っています。書ききれない場合は「共有メモ( 1 行 )」に相手と要点だけ残せば十分です。
共有の判断(いつ申し送る?)
共有のタイミングを曖昧にすると、結局「様子見」が続きます。次のいずれかに当てはまる場合は、早めに連携する運用が安全です。
- 発赤が消えにくい(時間を置いても残る)
- びらん・水疱・皮むけが出た
- 痛み/不快が強い、または訴えが増えた
- 粘膜(口腔内・鼻腔内など)で所見が疑わしい
- 調整しても不変、または悪化
報告は長文より、機器・部位・所見・やったこと・再評価の 5 点で十分です。現場用 PDF の SBAR 枠は、この 5 点が自然に揃う形にしています。
在宅・家族への説明(言い回しを固定する)
在宅では、専門用語より「何を見て、いつ連絡するか」を固定するほうが伝わります。在宅向け PDF は赤み・へこみ跡・痛み・皮むけを拾うだけに絞り、連絡時に読むだけで要点が揃う文章を入れています。
家族説明で迷う場合は、「痛みがある」「赤みが引かない」「皮ふがむけた」は連絡、それ以外は「ゆるめる/張力を抜く/乾かす」を先に試す、のように二択化すると混乱が減ります。
現場の詰まりどころ/よくある失敗
一番多い失敗は、「観察はしたが調整内容と再評価が残らない」ことです。結果として、担当が変わるたびに同じテンションで固定され、悪化してから気づきます。対策は、現場用 PDF の D・E 欄のように、選択肢を固定して“短く残す”ことです。
もう 1 つは、機器の固定や皮膚観察が属人化してしまい、新人が迷って報告が遅れるパターンです。施設で標準化したい場合は、面談準備やチェックリストの作り方も含めて型を作ると回りやすくなります(関連:マイナビコメディカルの資料ダウンロード)。
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
発赤があっても、すぐに褥瘡(圧迫損傷)と判断していいですか?
判断は慎重で OK ですが、「消えにくい発赤」「痛みが強い」「湿潤が強い」「びらんがある」場合は、MDRPI の入口として扱うほうが安全です。まずはテンションや張力を調整し、再評価の時刻を決めて戻り、改善しない場合は早めに共有します。
どのくらいの頻度で観察すればいいですか?
機器と患者条件で変わります。鎮静・浮腫・湿潤・循環不全などがある場合は、観察頻度を上げる運用が基本です。実務では「機器の装着直後」「体位変換後」「勤務帯の終わり」など、タイミングを固定すると抜けが減ります。
保護材(当て物)は先に入れたほうがいいですか?
当て物だけで解決しないことが多いので、まずはテンションとサイズ、配管の張力を見直して“当たりの原因”を減らします。その上で、エッジ対策や湿潤対策として保護材を使うと再発が減ります。
粘膜(口腔内・鼻腔内など)はどう扱えばいいですか?
見えにくく進行が早いので、疑わしい所見があれば早めに共有し、可能なら機器の当たり方や固定方法を再検討します。無理にこすらず、観察と連携を優先してください。
次の一手(運用を回すチェック)
- 現場用 PDF を 1 セット印刷して、病棟(または ICU )で 1 週間だけ試す
- 「観察部位」と「調整メニュー」の順番をチームで合わせる
- 再評価の時刻と「共有メモ( 1 行 )」だけは必ず残す運用にする
参考文献
- National Pressure Injury Advisory Panel( NPIAP ). MDRPI posters(医療機器関連圧迫損傷). https://npiap.com/page/MDRPI-Posters
- European Pressure Ulcer Advisory Panel( EPUAP ). Pressure Ulcer / Injury Guidelines( 2019 国際ガイドライン情報 ). https://epuap.org/pu-guidelines/
- Kottner J, et al. Prevention and treatment of pressure ulcers/injuries(ガイドライン開発プロトコルの概要). 2019. PubMed: 30658878
- Joint Commission. Managing medical device-related pressure injuries(実務資料). PDF
- NHS( Doncaster and Bassetlaw Teaching Hospitals ). Prevention of Medical Device-Related Pressure Ulcers guidance( 2024–2027 ). PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


