リハ中の呼吸苦|SpO2正常でも確認する中止・相談ポイント

臨床手技・プロトコル
記事内に広告が含まれています。

リハ中の呼吸苦|SpO2が正常でも中止・相談が必要なことがある

リハビリ中に患者さんが「息苦しい」と訴えたとき、SpO2が正常だからそのまま続けてよいとは判断できません。呼吸苦は患者さんが感じる呼吸の不快感であり、SpO2だけでは状態を評価できないためです。新人PTがまず確認したいのは、突然・強い呼吸苦か、努力呼吸や会話困難、胸部症状、意識変化を伴うか、SpO2がその患者さんの個別目標域から外れていないかです。

この記事では原因疾患を診断するのではなく、負荷を止める→症状と呼吸状態を見る→SpO2と測定条件を確認する→回復をみる→必要時に相談するまでの初期対応を整理します。

バイタル変化全体の初期対応を先に確認したい方へ
新人PTのバイタル変化|中止・再測定・相談の確認順

結論|SpO2が目標域内でも、突然・強い呼吸苦ならいったん止める

リハ中に突然の呼吸困難、強い呼吸苦、会話困難、急な努力呼吸、胸痛、冷汗、顔色不良、意識変化が出現した場合は、SpO2の数値だけを根拠に運動・離床を続けず、いったん負荷を中断して状態を確認します。

J-ReCIP 2023では、重症患者の離床・運動療法における中止基準案として「突然の呼吸困難」や急な呼吸努力の増大などが挙げられています。一方で、中止基準について統一されたコンセンサスは確立しておらず、施設の体制や疾患・生理状態に合わせて使用することが示されています。[1]

そのため一般病棟を含む実務では、「SpO2が何%なら全員中止」と一律に決めるのではなく、症状の強さ・新規性、SpO2の個別目標、呼吸数、呼吸様式、酸素条件、経時変化、休息後の回復を合わせて判断します。

呼吸苦とSpO2を分けて考える|「症状の強さ×個別目標域」で整理する

呼吸苦とSpO2は同じ情報ではありません。呼吸苦は主観的な呼吸の不快感であり、酸素化だけでなく、呼吸仕事量や換気、循環など複数の要因が関係します。[2]

そのため初期対応では、「患者さんの呼吸苦が強いか」と「SpO2がその患者さんの個別目標域に入っているか」をいったん分けて確認すると整理しやすくなります。

呼吸苦の強さとSpO2が個別目標域内かを組み合わせたリハビリ中の初期対応
図:呼吸苦の強さとSpO2が個別目標域内かを分けて考える初期対応。SpO2が目標域内でも、突然・強い呼吸苦がある場合は継続を前提にしません。

この4象限は公式の中止基準ではなく、呼吸苦とSpO2を混同しないための実務上の整理です。個別の目標SpO2、医師指示、疾患固有の制限、院内基準がある場合は、それらを優先します。

特に新人PTが迷いやすいのは、「SpO2は保たれているのに患者さんが明らかに苦しそう」という場面です。この場合、SpO2が目標域内という理由だけで運動を継続せず、呼吸状態や胸部症状、循環、意識の変化まで確認します。

呼吸苦が出た直後|原因を考える前に安全確保と状態確認を行う

呼吸苦が出た直後は、その場で原因を断定するより、患者さんを安全な状態へ戻して変化を確認することを優先します。特に突然・強い呼吸苦や胸部症状、意識変化がある場合は、測定を何度もやり直すことより中断と必要な応援要請を優先します。

  1. 運動・離床を中断する:立位・歩行中なら転倒を防ぎ、安全な姿勢を確保します。
  2. 症状を確認する:呼吸苦の強さ、突然の発症か、会話困難、胸痛・胸部不快感、動悸、冷汗、顔色、意識変化を確認します。
  3. 呼吸状態を見る:呼吸数、努力呼吸、補助呼吸筋の使用、呼吸パターン、咳嗽・痰などを確認します。
  4. SpO2と他のバイタルを確認する:開始前値と現在値、個別の目標域、脈拍、必要に応じて血圧を確認します。
  5. 測定・酸素条件を確認する:センサーの装着状態や信号、酸素デバイス、流量・設定、チューブの外れや屈曲を確認します。
  6. 休息後の回復を見る:症状、SpO2、呼吸数などがどこまで、どの程度の時間で戻るか確認します。
  7. 相談・報告する:新規または強い症状、持続する異常、回復が不十分な場合、同じ変化を繰り返す場合は医師・看護師などへ共有します。

この順番は「何分以内に判断する」という固定プロトコルではありません。危険サインがあれば途中の確認項目をすべて終えることより、安全確保と院内の急変対応・相談経路へつなぐことを優先します。

SpO2が正常なのに息苦しい|酸素化以外の変化を確認する

SpO2が患者さんの目標域内でも、呼吸苦が強ければそのまま運動を続ける根拠にはなりません。呼吸困難は酸素化だけでは説明できず、換気、呼吸仕事量、循環などさまざまな要因と関係します。[2]

そのため、SpO2が保たれているときほど「数値は大丈夫」で終わらせず、次の所見を確認します。

  • 呼吸苦が突然出現したか、普段より明らかに強いか
  • 呼吸数が開始前から増えていないか
  • 補助呼吸筋の使用など呼吸努力が増えていないか
  • 一文を続けて話せるか、会話が途切れていないか
  • 胸痛、胸部圧迫感、動悸がないか
  • 脈拍や血圧に急な変化がないか
  • 冷汗、顔面蒼白、チアノーゼ、意識変化がないか

BTSの酸素療法ガイドラインでも、低酸素血症を伴わない呼吸苦が存在することを前提としており、非低酸素血症の呼吸苦に対して酸素を一律に使用する考え方は採用していません。[3]

したがって、「息苦しい=酸素を増やす」と自己判断するのではなく、現在の酸素療法の指示、個別の目標SpO2、酸素デバイス・流量、院内手順を確認し、必要な変更は指示系統に沿って行います。

SpO2は「一律の正常値」ではなく患者ごとの目標域と比較する

SpO2を判断するときは、単一の正常値をすべての患者さんへ当てはめるのではなく、その患者さんに設定された目標域と開始前値を確認します。

BTSでは、急性疾患患者の多くで94〜98%、高二酸化炭素血症性呼吸不全のリスクがある患者では88〜92%など、患者背景によって異なる目標域を提示しています。[3]

ただし、これらは一般病棟リハビリの一律の中止基準ではありません。「SpO2の目標域は患者背景によって異なる」という点を理解するための参考として扱います。

リハ中のSpO2変化では、次の情報をセットで確認します。

  • 患者ごとの目標SpO2
  • リハ開始前のSpO2
  • どの動作・負荷で変化したか
  • 低下が一過性か持続しているか
  • 呼吸苦や努力呼吸を伴うか
  • 休息後にどこまで回復するか
  • 酸素デバイス・流量・設定に変化がないか

つまり、「90%だから中止」「94%だから安全」と一つの数字だけで判断するのではなく、個別目標と症状、前後の変化を合わせて確認します。

SpO2が下がったとき|測定値の信頼性も確認する

SpO2が急に低下した場合は、患者さんの状態を確認すると同時に、測定値が信頼できるかも確認します。パルスオキシメータは非侵襲的に酸素飽和度を推定できる便利な機器ですが、表示値には測定上の限界があります。

FDAは、末梢循環不良、皮膚色素、皮膚の厚さ、皮膚温、喫煙、マニキュアなどがパルスオキシメータの精度へ影響する可能性を示しています。[4] 患者の動きやセンサー条件なども含め、表示された数値だけに依存しないことが重要です。

実際の場面では、センサーの位置、信号状態、末梢冷感、体動などを確認し、開始前値や患者さんの症状と照合します。

ただし、強い呼吸苦、胸痛、冷汗、意識変化などを伴う場合に「測定エラーかもしれない」と考えて運動を続けることは避けます。患者さんの状態確認と安全確保を優先し、そのうえで測定条件を確認します。

SpO2低下の原因、測定誤差、動作との関係を詳しく整理したい場合は、記事末のSpO2各論へ進んでください。

中止・相談を優先する場面|症状・呼吸・全身状態の変化を見る

明らかな危険サインがある場合は、「負荷を少し下げれば続けられるか」を先に考えず、いったん中断して再評価します。

呼吸苦出現時に中止・相談を優先して考える主な所見
確認領域 見逃したくない変化 初期対応
呼吸苦 突然の呼吸困難、急激な増悪、強い呼吸苦、会話困難 負荷を中断し、症状・バイタル・酸素条件を再評価する
呼吸様式 急な努力呼吸増大、補助呼吸筋使用の増加、呼吸パターンの明らかな変化 中断し、呼吸数・SpO2・呼吸状態を確認する
胸部症状 胸痛、胸部圧迫感、強い動悸 中断してバイタルを確認し、速やかに共有する
全身状態 冷汗、顔面蒼白、チアノーゼ、意識レベル低下 安全な姿勢を確保し、必要な院内急変対応へつなぐ
酸素化 個別目標域から外れた状態が持続する、休息後も回復しない、繰り返し低下する 測定・酸素条件を確認し、継続せず共有する

J-ReCIP 2023の重症患者向け中止基準案では、突然の呼吸困難、呼吸数5回/分未満または40回/分超、SpO2 88%未満または90%未満、急な吸気・呼気努力の増大などが示されています。[1]

ただし、これらは重症患者の離床・運動療法を対象にした提案基準です。一般病棟を含むすべての患者さんへ、その数値をそのまま絶対的な中止基準として適用するものではありません。個別の医師指示、疾患・病態、ベースライン、院内基準と合わせて判断します。

休息後は何を見る?|「戻ったか」だけでなく回復経過を確認する

負荷を中断したあとは、SpO2が1回戻ったことだけで再開を決めず、症状と呼吸状態を含めて回復しているかを確認します。

  • 呼吸苦が開始前に近い状態まで軽減したか
  • 呼吸数や努力呼吸が落ち着いたか
  • SpO2が患者さんの個別目標域へ戻ったか
  • 脈拍・血圧などに不安定な変化が残っていないか
  • 胸痛、冷汗、意識変化などが出現していないか
  • 同じ程度の負荷で異常を繰り返していないか

症状やバイタルが回復しない場合、新たな危険サインが出現した場合、軽い負荷でも同じ変化を繰り返す場合は、その場で再開することを前提にせず、医師・看護師などへ共有して次の方針を確認します。

報告・記録|「何をして、何が起き、どう回復したか」を伝える

呼吸苦が出たときの報告では、PTが原因を断定するよりも、どの負荷で何が起こり、どう対応し、その後どう変化したかを具体的に伝えることが重要です。

呼吸苦出現時に記録・共有したい情報
項目 記録する内容
出現場面 端座位、立位、移乗、歩行など、どの負荷で出現したか
症状 呼吸苦の強さ・新規性、会話状態、胸部症状、冷汗、顔色
呼吸・バイタル 開始前・出現時・回復後のSpO2、呼吸数、脈拍、必要に応じて血圧
酸素条件 酸素デバイス、流量・設定、外れや屈曲の有無
回復経過 どの姿勢・休息で、症状と数値がどこまで、どの程度の時間で戻ったか
対応・共有 中断した内容、報告先、指示内容、次回確認する条件

報告例:「歩行約10mで普段より強い呼吸苦が出現しました。SpO2は開始前96%、症状出現時95%で個別目標域内ですが、呼吸数増加と会話の途切れを認めたため歩行を中断しました。座位休息後の症状とバイタルを再確認しています。本日の離床負荷について相談したいです。」

このように、SpO2が保たれている場合でも症状と呼吸状態を具体的に伝えると、「数値は目標域内なのに、なぜ中断したのか」が共有しやすくなります。

新人PTが迷いやすい3つのポイント

呼吸苦への対応で迷いやすいのは、SpO2の数字だけで継続・中止や原因を決めようとする場面です。

呼吸苦の初期対応で避けたい考え方
迷いやすい考え方 見直すポイント
SpO2が正常だから続ける 突然・強い呼吸苦、呼吸努力、胸部症状、循環・意識の変化を確認する
SpO2が下がったから原因も決まる 測定条件、酸素条件、症状、動作、経時変化を確認する
息苦しいから酸素を増やす 個別の目標SpO2と酸素療法の指示を確認し、院内の指示系統に沿って対応する

よくある質問

Q1. SpO2が96%でも、息苦しそうならリハを止めますか?

SpO2が96%という数値だけでは継続可否を判断できません。突然または強い呼吸苦、会話困難、努力呼吸の増大、胸痛、冷汗、意識変化などがあれば、いったん負荷を中断して状態を確認します。軽い呼吸苦で休息により改善する場合も、開始前との変化や呼吸数、回復経過を確認してから次の負荷を判断します。

Q2. SpO2が90%になったら全員中止ですか?

全患者さんへ同じ数値を一律に適用することはできません。個別の目標SpO2、基礎疾患、開始前値、症状、酸素条件、持続性を確認します。J-ReCIP 2023にはSpO2 88%未満または90%未満という重症患者向けの中止基準案がありますが、一般病棟を含むすべての患者さんの絶対基準ではありません。

Q3. 息苦しいと訴えたら酸素流量を上げてもよいですか?

呼吸苦だけを根拠に自己判断で酸素流量を変更するのではなく、現在の酸素療法の指示、個別の目標SpO2、デバイスや配管の状態、院内手順を確認します。必要な変更は医師・看護師などと共有し、指示系統に沿って行います。

次の一手|SpO2低下の原因と離床中止基準を分けて確認する

SpO2が下がった原因・測定誤差を詳しく確認する
離床でSpO2が下がる原因|測定誤差と確認ポイント
呼吸以外も含めた離床の中止・再開判断を確認する
離床の中止基準と再開基準|症状・バイタルの見方

参考文献

  1. Unoki T, Hayashida K, Kawai Y, et al. Japanese Clinical Practice Guidelines for Rehabilitation in Critically Ill Patients 2023 (J-ReCIP 2023). J Intensive Care. 2023;11:47. doi:10.1186/s40560-023-00697-w.
  2. Parshall MB, Schwartzstein RM, Adams L, et al. An official American Thoracic Society statement: update on the mechanisms, assessment, and management of dyspnea. Am J Respir Crit Care Med. 2012;185(4):435-452. doi:10.1164/rccm.201111-2042ST.
  3. O’Driscoll BR, Howard LS, Earis J, Mak V. BTS guideline for oxygen use in adults in healthcare and emergency settings. Thorax. 2017;72(Suppl 1):ii1-ii90. doi:10.1136/thoraxjnl-2016-209729.
  4. U.S. Food and Drug Administration. Pulse Oximeters. Accessed September 29, 2026.

著者情報

rehabilikun のプロフィールアイコン

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

運営者プロフィール /
編集・引用ポリシー /
お問い合わせ