危険因子評価票の院内運用プロトコル

臨床手技・プロトコル
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スクリーニングは早いほど価値が高い一方で、「評価して終わり」ではアウトカムはほとんど変わりません。本稿では、厚生労働省「危険因子評価票」で拾い上げたリスクを、診療計画書・看護計画・リハビリテーション計画へ確実に落とし込むための院内運用プロトコルを整理します。評価方法そのものではなく、記載例・ PT 指示文テンプレート・監査チェックリストを通じて「誰が使っても同じ質で回せる仕組みづくり」をめざします。

危険因子評価票を「計画書」につなぐ考え方

ねらいは、評価票の 「はい/いいえ」 をその場で終わらせず、確実に 具体的な予防策 へ橋渡しすることです。評価者ごとに表現がばらつくと、診療計画書の中身も属人的になりがちです。そこで、フロー・用語・文例 を病棟単位で標準化しておくことで、交代勤務や多職種連携の場面でもケアの質を揃えやすくなります。

本稿で想定するベースラインは、① 対象= ADL 自立度 B/C の入院患者、② 厚労省様式に基づく 8 項目の二者択一評価、③ 1 項目でも該当すれば診療計画書で対策を立案、の 3 点です。個々の項目の見方・評価のコツ・点数化の考え方については、別記事の「危険因子評価票の評価方法」をご参照ください。こちらは評価の「やり方」を、本稿は院内運用の「回し方」を扱う位置づけです。

病棟で使える評価・計画テンプレをまとめて見る(PT キャリアガイド)

運用フロー(院内標準ひな形)

危険因子評価票の運用は、次の 7 ステップに分けて整理しておくと新人にも共有しやすくなります。① 入棟 24 時間以内に評価票を実施 → ② 該当した危険因子をリストアップ → ③ 各項目ごとに看護/ PT /栄養/医師など担当職種を割り振り → ④ 診療計画書・看護計画・リハビリテーション実施計画書へ標準文例で転記 → ⑤ 日々のケアとリハで観察項目をモニタリング → ⑥ 目安 48 時間以内に効果判定 → ⑦ 必要に応じて計画を更新、という流れです。

PT は特に、「体位変換ができる身体づくり」と「座位・車椅子シーティング環境の規格化」 を両輪として支援します。座り直しの頻度や手がかり(アームレスト・テーブル・フットサポートなど)、クッションの種類・配置、ベッド〜車椅子間の移乗ハンドリングを短いサイクルで評価・修正し、病棟スタッフと共通言語で共有していくことがポイントです。褥瘡予防の全体像は 褥瘡予防バンドル、マットレス選定や OH スコア運用は マットレス選定プロトコルOH スコア運用プロトコル も参考になります。

記載例(看護計画・ PT 指示文)

「評価票 → 診療計画書」への翻訳文例(必要に応じて修正して使用)
該当項目 看護計画(例) PT 指示文テンプレ(例)
基本的動作能力 2 時間ごとに体位変換を行う。日中の椅子座位中は 30 分ごとに座り直しを促し、皮膚観察を 1 日 1 回以上実施する。 日中の座位保持訓練を 15 分 × 2 回/日実施する。座面高・足台・背支持を調整し、自力座り直しを促せる手がかりを付与する。
病的骨突出 仙骨・踵部に除圧材を使用し、体位変換時に骨突出部の皮膚状態を観察する。必要に応じて滑走シートを導入し、ズレ力を軽減する。 骨突出部への圧集中を評価し、推奨するクッションの種類と配置図を作成して病棟に共有する。移乗時に牽引が生じないよう介助方法を指導する。
関節拘縮 安全な可動域内で定期的に体位を変更する。衣類・寝具のしわや抵抗を最小限とし、関節周囲の圧迫・摩擦を避ける。 拘縮関節の駆動域確保を目的に、ベッド上での他動運動・ポジショニングを週 3 回実施する。介助時のハンドリング方法をスタッフに統一して指導する。
皮膚湿潤 失禁状況を再評価し、オムツ・パッドの種類と交換頻度を見直す。通気性の高いカバーを選択し、皮膚の乾燥時間を確保する。 長時間座位は 60 分以内を目安とし、全身状態に応じて休憩姿勢を提案する。ずれ・摩擦を最小化する移乗と体位変換の手順を教育する。
スキンテア 発生部位を保護材で保護し、被覆材の交換手順と頻度を統一する。更衣や移乗時の牽引動作を避けるようスタッフへ周知する。 更衣・移乗場面で滑走面(スライディングシート等)を使用し、皮膚への剪断力を軽減する。写真付きの介助手順書を作成し、病棟カンファレンスで共有する。

監査チェックリスト(院内用)

危険因子評価票の運用に関する監査チェック(抜粋)
項目 OK NG(是正例)
対象の適正 ADL 自立度 B/C のみを対象に、入棟後 24 時間以内に評価を実施している。 J/A を含む全患者に漫然と実施 → 評価対象と実施タイミングを明文化し、病棟で再周知する。
結果の共有 評価当日中に、結果が電子カルテやカンファレンスで多職種に共有されている。 翌日以降の共有・口頭のみにとどまる → 「当日中に記録・共有」を標準手順に明記し、監査項目に追加する。
計画への転記 診療計画書・看護計画・リハ計画で、用語・文例が院内標準に沿って記載されている。 担当者ごとに表現がばらばら → 本稿のテンプレをもとに標準文例集を作成し、電子カルテの定型文として登録する。
フォロー 少なくとも 48 時間以内に、観察指標(皮膚所見・疼痛・活動量など)をもとに効果判定が行われている。 介入後の評価が行われず放置されている → 判定の期限と観察指標を計画書内に明記し、再評価の記録欄を設ける。

おわりに

危険因子評価票は、「スクリーニング → 診療計画 → ケア・リハビリの実行 → 観察記録 → 再評価」という一連のリズムで回してはじめて意味を持ちます。PT は、褥瘡危険因子を「動かし方・支え方・座らせ方」に翻訳し、病棟スタッフと共通の言葉で共有していくことで、評価結果を日々のケア場面の変化につなげることができます。

一方で、こうした取り組みを継続するには、病棟や部署の体制づくりやスタッフ教育の進め方など、働き方そのものを整える視点も欠かせません。働き方を見直すときの抜け漏れ防止に、見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック( A4・5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。印刷してそのまま使えますので、関心のある方はダウンロードページも活用してみてください。

参考・一次情報

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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