この記事で決まること
このページは、厚生労働省の危険因子評価票をどう判定するかではなく、判定後にどこへ書き、どう回し、何を証跡として残すかを決める記事です。診療計画書・看護計画・リハビリテーション実施計画書へ落とし込むときの院内運用を、 PT 向けに整理しました。
先に役割を固定すると、このページで答えることは「転記ルール・文例・担当分担・再評価の回し方」です。反対に、 8 項目の細かい見方や施設基準全体の説明は深掘りしません。ここでは、評価後の実装に絞って、現場でそのまま使える形を優先します。
評価の型は、個人の努力だけで身につくとは限りません。今の職場で教育体制がない、相談相手がいない、教材に触れにくい、適切なアセスメントの見本が少ないと感じるなら、学び方と環境の整え方を先に整理しておくと動きやすくなります。
結論:評価票 → 計画 → 観察 → 更新を 7 ステップで固定する
危険因子評価票は、点数化して終える票ではなく、該当したリスクをそのまま計画へ翻訳する起点として使うとブレが減ります。運用の質は、評価技術だけでなく、誰が・どこに・いつまでに書くかを先に固定できるかで決まります。
ここでは、現場で回しやすいように 7 ステップへ整理しました。本文中の「当日中」「 24 時間以内」「 48 時間前後」は院内でそろえやすい目安です。自施設のカンファレンス頻度や記録文化に合わせて調整してください。
- 対象を固定する:誰に回す票かを院内文書で明文化する。
- 評価票を実施する:実施者・日時・判定結果を残す。
- リスクを翻訳する:該当項目を支持面・体位変換・湿潤・栄養・離床へ整理する。
- 主担当を 1 つにする:“みんなで見る”ではなく、更新の責任者を明確にする。
- 計画へ転記する:診療計画書・看護計画・リハ計画へ短文テンプレで落とす。
- 観察指標を固定する:発赤・疼痛・ずれ・活動量など、毎回見る項目を絞る。
- 再評価と更新を残す:改善・不変・悪化と、更新日・理由を必ず残す。
図で見る運用 4 ステップ
先に全体像をひと目で共有したい場合は、下の図版から入ると運用の軸がそろいやすいです。評価票そのものより、計画と更新まで 1 本化することがこのページの主題です。
記録シートをダウンロード
本文の流れをそのまま紙に落としたい方向けに、A4 1 枚完結の運用記録シートを用意しました。評価票の結果を、主担当・計画・再評価まで 1 枚で整理しやすい構成です。
カンファレンス前の整理、病棟内の申し送り、監査時の運用確認など、「評価したあとに何を残すか」をそろえたい場面で使いやすい形にしています。
プレビューを開く
前提をそろえると、運用は崩れにくくなります
危険因子評価票の運用が崩れるときは、評価のうまさよりも前提の共有不足が原因になりやすいです。特に「対象」「該当後の扱い」「記録場所」の 3 点が曖昧だと、評価したのに計画へつながらない状態が起こります。
最初にここをそろえておくと、担当者によるばらつきが減り、院内で“同じ言葉で回る”運用へ近づきます。
- 対象:自院で誰を対象にするかを固定する。例として、 ADL 自立度 B / C を中心対象にする、長時間臥床や除圧困難例を対象にする、など。
- 該当後の扱い:“ 1 項目該当で即対策開始”なのか、“カンファで優先順位を決めて開始”なのかをそろえる。
- 記録場所:評価票だけで終わらせず、計画・観察・更新が追える見出しをカルテ内で固定する。
現場の詰まりどころ
このテーマで先に潰すべき詰まりどころは、対象のブレ、担当の曖昧さ、計画の抽象化、更新忘れの 4 つです。ここを整えるだけで、危険因子評価票は“紙が増えるだけ”の運用から抜けやすくなります。
施設基準や監査側の体制まで一緒に点検したい場合は、褥瘡対策の基準の進め方で“病棟体制”の抜け漏れも合わせて確認してください。
- 対象が広すぎる:対象を広げすぎると、記録だけ増えて更新が止まります。
- 担当が曖昧:主担当が決まっていないと、計画の修正が遅れます。
- 計画が抽象的:「体位変換を行う」だけでは、観察と再評価につながりません。
- 効果判定が残らない:実施記録だけが増え、更新理由が説明できなくなります。
よくある失敗
運用の失敗は、評価票そのものではなく、翻訳の浅さで起こりやすいです。特に、該当項目を“ケア名”だけで終わらせると、スタッフ間で解釈が割れます。
| 失敗 | なぜ止まるか | 直し方 |
|---|---|---|
| 対象を広げすぎる | 票の件数だけ増えて、再評価が追えなくなる | 対象条件・例外条件を短文で文書化する |
| 主担当が複数いる | 誰も更新しない状態になりやすい | 項目ごとに主担当を 1 つだけ決める |
| 計画が抽象的 | 実施したかどうかしか残らない | 頻度・条件・観察指標を 1 行で併記する |
| 更新理由がない | 監査や引き継ぎで説明できない | 改善/不変/悪化+更新日+理由を必須化する |
運用フロー(院内標準ひな形)
病棟で共有しやすいように、各ステップで主担当・残すもの・院内目安を固定します。電子カルテの運用に合わせて名称は調整してください。
| ステップ | 主担当(例) | 残すもの | 院内目安 |
|---|---|---|---|
| 1. 対象確認 | 看護(受け入れ) | 対象条件・除外条件の確認 | 入棟当日 |
| 2. 評価票実施 | 看護(一次) | 実施者・日時・判定結果 | 入棟後早期 |
| 3. リスク翻訳 | 看護+ PT | 支持面、体位変換、湿潤、栄養、離床への整理 | 当日中 |
| 4. 担当固定 | 病棟カンファ | 各項目の主担当 1 名 | 当日中 |
| 5. 計画へ転記 | 看護/ PT | 診療計画書・看護計画・リハ計画への記載 | 24 時間以内を目安 |
| 6. 実行と観察 | 全職種 | 発赤・疼痛・ずれ・活動量などの観察記録 | 毎日 |
| 7. 再評価と更新 | 主担当 | 改善/不変/悪化、更新日、更新理由 | 48 時間前後を目安 |
記載例(看護計画・ PT 指示文・転記先)
評価票の結果をそのまま貼り付けるだけでは、行動が決まりません。計画に落とすときは、頻度・条件・観察指標を 1 行にまとめると運用が安定します。
| 該当項目(例) | 転記先(例) | 看護計画(例) | PT 指示文テンプレ(例) |
|---|---|---|---|
| 基本的動作能力 | 看護計画/リハ計画 | 2 時間ごとに体位変換を行う。日中の椅子座位中は 30 分ごとに座り直しを促し、発赤の有無を観察する。 | 座位保持訓練を 15 分 × 2 回/日実施。座面高・足台・背支持を調整し、自力での座り直しを促す。観察指標は「ずれ」「疼痛」「発赤」。 |
| 病的骨突出 | 診療計画書/看護計画 | 仙骨・踵部の除圧を行い、体位変換時に骨突出部の皮膚状態を確認する。移乗時のずれを避ける。 | 圧集中部位を確認し、クッション配置と体位バリエーションを提案する。移乗時に牽引が生じない介助手順を病棟へ共有する。 |
| 関節拘縮 | 看護計画/リハ計画 | 安全な可動域内で体位を変更し、寝具のしわや抵抗を最小限とする。 | 可動域確保を目的に、他動運動とポジショニングを週 3 回実施。痛み・抵抗の上限を共有し、ハンドリングを統一する。 |
| 皮膚湿潤 | 看護計画 | 失禁状況と交換頻度を見直し、皮膚の乾燥時間を確保する。 | 長時間座位は 60 分以内を目安に休憩姿勢を提案する。観察指標は「湿潤」「発赤」「疼痛」。 |
| 浮腫 | 診療計画書/看護計画 | 循環に配慮したポジショニングを行い、圧迫や皮膚損傷を避ける。皮膚の張りと発赤を観察する。 | 支持面と肢位を評価し、末梢の圧集中を回避する姿勢を提案する。観察指標は「皮膚所見」「疼痛」「靴ずれ」。 |
| 栄養状態低下 | 診療計画書 | 摂取量の記録と食事形態の調整を検討し、必要時に栄養介入へ連携する。 | 活動量と離床計画を栄養側と連動し、過負荷にならない訓練量へ調整する。観察指標は「摂取量」「体重」「疲労」。 |
| スキンテア | 看護計画/診療計画書 | 保護材で保護し、更衣や移乗時の牽引を避ける。手順と頻度を統一する。 | 更衣・移乗で滑走面を使用し、剪断力を軽減する。介助手順を作成し、病棟カンファレンスで共有する。 |
監査で残す証跡
監査で説明しやすいのは、「対象条件」「結果共有」「計画への反映」「更新理由」が追える記録です。項目を増やしすぎず、少なく・具体的にすると現場でも回しやすくなります。
| 項目 | OK | NG | 証跡 |
|---|---|---|---|
| 対象条件 | 誰を対象にするかが院内文書で共有されている | 担当者ごとに対象が違う | 運用文書/教育資料 |
| 結果共有 | 評価結果が当日中に共有される | 口頭のみで残らない | 共有欄/カンファ記録 |
| 計画への転記 | 文例と記録場所が院内標準に沿っている | 人ごとに表現がばらつく | 定型文一覧/テンプレ履歴 |
| 観察指標 | 発赤・疼痛・ずれ・活動量などが記録されている | 介入名だけが残る | 経過記録/チェック欄 |
| 更新理由 | 改善/不変/悪化と更新日・理由が追える | 続行だけで理由がない | 再評価記録/更新履歴 |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
「評価はしたのに、計画に反映されない」原因は?
最も多い原因は、計画の記録位置が固定されていないことです。どこに書くかが曖昧だと、評価票だけが残って終わります。評価後は、診療計画書・看護計画・リハ計画のうち、どこへ何を書くかを先に決めてください。
計画が抽象的になりがちです。何を足せばいいですか?
頻度・条件・観察指標の 3 点です。例として、「 2 時間ごと」「座位 60 分以内」「発赤・疼痛・ずれを観察」のように 1 行で決めると、再評価へつながりやすくなります。
PT が担うべきポイントはどこですか?
PT は、体位変換ができる身体づくりと、座位・シーティングの規格化を担います。単に訓練を行うだけでなく、病棟で再現できる条件として共有することが重要です。
監査で説明しやすい記録は何ですか?
「誰を対象にしたか」「いつ評価したか」「どの計画へ落としたか」「更新理由は何か」が追える記録です。実施の有無だけでなく、運用として回っているかが説明できる形を目指してください。
次の一手(同ジャンルを 2 本だけ)
参考文献
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


