MNA-SF とは?( 6 項目・所要 5 分の低栄養スクリーニング)
MNA-SF( Mini Nutritional Assessment-Short Form )は、高齢者の低栄養リスクを 6 項目・合計 0〜14 点で評価する国際標準のスクリーニングツールです。入院時・回復期リハ・通所や訪問リハなど、場面を問わず 5 分前後で実施でき、握力や歩行速度などの身体機能評価とも組み合わせやすいのが特徴です。
本記事では、MNA-SF の読み方(スコア解釈)や評価方法、6 項目の中身とカットオフ値、さらにフル版 MNA との違いまでまとめて解説します。評価して終わりではなく、陽性であれば GLIM 基準などによる詳細評価と、多職種での栄養介入につなげることが重要です。現場での運用フローは 栄養スクリーニング運用プロトコル もあわせて参照してください。
MNA と MNA-SF の違い(どちらを使うか)
原法の MNA( Full MNA )は 18 項目で栄養状態を詳細に評価する包括的ツールです。一方、MNA-SF はそのうち予測力の高い 6 項目を抽出した短縮版で、「低栄養リスクのスクリーニング」に特化しています。まず MNA-SF で拾い上げ、陽性であれば Full MNA や GLIM で深掘りする、という 2 ステップ運用が推奨されます。
臨床では、時間制約の大きい病棟や在宅での初期評価には MNA-SF、栄養外来や NST 介入など、より丁寧なアセスメントが必要な場面では MNA( Full )を用いる、という使い分けが現実的です。どちらも同じ MNA ファミリーのツールであり、MNA-SF は「別物」ではなく、Full MNA の入口として位置づけると整理しやすくなります。
MNA-SF の 6 項目と評価方法
MNA-SF は「食事摂取量」「体重減少」「移動能力」「急性疾患・ストレス」「認知・気分」「体格( BMI または CC )」の 6 項目で構成されます。ここでは、各項目の評価方法と選択肢の並びを整理し、「どの選択肢をつけるか」で迷いやすいポイントを押さえます。
CC( calf circumference:下腿周囲長 )は膝下の最大周径を左下腿で測るのが標準です。座位で膝を約 90° 屈曲し、メジャーを下腿長軸に直交するように当てます。強く締め過ぎず緩過ぎないテンションで測定し、最大値を 2 回以上確認します。浮腫やギプス装着時は、その状況を備考欄に記録しておきます。
| 項目 | 評価内容 | 選択肢と点数の目安 |
|---|---|---|
| A 食事摂取量 | 過去 3 か月の食事量の変化(食欲低下・消化器症状・咀嚥障害など) | 0=ほとんど食べられていない/1=やや減っている/2=ほぼ通常どおり |
| B 体重減少 | 過去 3 か月の体重変化 | 0=約 3 kg 以上減少/1=変化が分からない/2=約 1〜3 kg の減少/3=明らかな減少なし |
| C 移動能力 | 歩行や外出の可否(屋内・屋外移動の実態) | 0=ベッド上か車椅子中心/1=離床はできるが外出は困難/2=自立して屋外まで出られる |
| D 急性疾患・ストレス | 過去 3 か月の急性疾患や大きなストレスイベントの有無 | 0=はい(入院や大きな体調変化あり)/2=いいえ |
| E 認知・気分 | 認知症やうつ状態など、認知機能・精神状態の問題 | 0=重度の認知症または抑うつ状態/1=中等度の認知症/2=明らかな問題なし |
| F 体格( BMI または CC ) | BMI もしくは CC(代替指標) |
BMI:0= <19 / 1= 19–<21 / 2= 21–<23 / 3= ≧23 CC 代替:0= <31 cm / 3= ≧31 cm |
MNA-SF のカットオフとスコアの読み方
MNA-SF は合計 0〜14 点で判定します。一般的なカットオフは、12〜14 点が「栄養良好」、8〜11 点が「低栄養リスク」、0〜7 点が「低栄養」とされています。特に 8 点と 12 点が境界となり、8 点未満では早期の介入と詳細評価が必要です。
ただし、MNA-SF のスコアはあくまで「スクリーニング結果」であり、これだけで低栄養の診断が確定するわけではありません。陽性( 0〜11 点 )の場合は GLIM 基準などの診断枠組みに接続し、体重・筋量・摂取量・炎症など、表現型と病因の両面を評価する必要があります。経時的な変化も含めて読み解くことで、フレイルやサルコペニアの早期介入につなげやすくなります。
| 合計点 | 判定 | 対応の例 |
|---|---|---|
| 12–14 | 栄養良好 | 定期的な再評価と予防的アドバイス(薬剤・口腔・活動量・食習慣の見直し) |
| 8–11 | 低栄養リスク | 主食・主菜・間食の工夫、栄養補助食品の検討、嚥下・口腔評価、活動量の処方などを早期に開始 |
| 0–7 | 低栄養 | 管理栄養士と連携し、GLIM による診断と重症度判定を行い、原因是正と多職種での集中的介入を実施 |
MNA-SF の評価手順(マニュアルの押さえどころ)
実務上の「MNA-SF マニュアル」としては、①問診 → ②計測 → ③集計 → ④次アクション、という 4 ステップで覚えるとシンプルです。具体的には、①問診で A(食事量)・D(急性疾患/ストレス)・E(認知/気分)を聞き取り、②体重・身長または CC を測定して F を決定し、③全項目を集計してスコアを算出、④陽性であれば GLIM 評価や栄養ケアのプランニングにつなげます。
CC は左右差や浮腫に注意しながら測定し、条件が悪い場合はコメントを残して経時的にフォローします。BMI は可能であれば実測身長で算出しますが、立位が困難な場合は無理に推定身長法を使うよりも、CC を代替指標として用いたほうが再現性が高い場面も多いです。再評価の間隔は、在宅・外来では 1〜3 か月ごと、急性期〜回復期病棟では週 1 回程度が目安になります。
MNA-SF 評価でよくある落とし穴
- BMI が測れないからといって F を空欄のままにしてしまう(→ CC 代替で必ずどちらかを選択する)。
- 浮腫やギプス装着で CC が不正確なのに、そのまま数値だけを記録してしまう(→状況を備考に記載し、条件が整ったタイミングで再測定する)。
- スコアが陽性でも、GLIM などの診断ステップや具体的介入につながらず「評価して終わり」になってしまう。
- 急性期の一時的な状態低下を、そのまま長期的な低栄養と誤認してしまう(→経過と併せて判断し、必要に応じて再評価する)。
- アルブミン値などの血液データを MNA-SF の点数に組み込もうとする(→本スケールは採血なしで完結する設計である)。
評価用紙と使用上の注意
MNA の評価用紙は、原著者・Nestlé Health Science が提供する公式フォームを使用する必要があります。MNA フォームはロゴやレイアウトを含め外観の改変が認められていないため、順序や表現を変えずに利用してください。MNA-SF の日本語版マニュアルやフォームは、以下の公式サイトから入手できます。当ブログでは A4 印刷用にレイアウトを整えたシートを用意していますが、内容は公式フォームに準拠しています。
参考文献(一次情報・DOI/PubMed)
- Rubenstein LZ, Harker JO, Salvà A, et al. Screening for undernutrition in geriatric practice: developing the MNA-SF. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001;56(6):M366-M372. doi:10.1093/gerona/56.6.m366 PubMed
- Kaiser MJ, Bauer JM, Ramsch C, et al. Validation of the MNA-SF. J Nutr Health Aging. 2009;13(9):782-788. doi:10.1007/s12603-009-0214-7 PubMed
- MNA User Guide / Forms(英語・日本語版 PDF). Nestlé. Guide / Full MNA / Japanese
- Cederholm T, Jensen GL, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition. Clin Nutr. 2019;38(1):1-9. PMC
おわりに
MNA-SF は「短時間で低栄養リスクを拾い上げる」ことに特化したツールです。問診と計測をセットで回し、スコアだけでなく経時変化やフレイル・サルコペニア所見とあわせて捉えることで、スクリーニング → 診断( GLIM 等) → 介入 → 再評価のリズムが整いやすくなります。評価結果は必ず多職種で共有し、「誰が・いつまでに・何をするのか」まで具体化しておきましょう。
日々の栄養評価やカンファレンス準備で忙しいと、働き方や職場環境を見直すタイミングが後回しになりがちです。働き方を見直すときの抜け漏れ防止に、見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェックと職場評価シート(いずれも A4・5 分)を用意しています。印刷してそのまま使えるので、気になる方はこちらのダウンロードページもあわせてご覧ください。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
MNA-SF は何歳くらいの高齢者を対象に使うべきですか?
原著では 65 歳以上の高齢者を主な対象として開発されていますが、実務では「高齢者医療・介護の文脈にある成人」を広く対象とすることが多いです。施設入所者や在宅要介護高齢者、回復期病棟入院中の患者など、低栄養がアウトカムに直結しやすい集団で特に有用です。若年者やがん専門病棟など、他のツールが推奨されている領域では、その施設のプロトコルに従ってください。
在宅や通所リハでも MNA-SF を使ってよいですか?
MNA-SF はベッドサイドでも在宅でも実施しやすいよう設計されており、通所リハ・訪問リハ・小規模多機能などでも有用です。体重・身長の実測が難しい場合は CC 代替を活用し、同じ条件で繰り返し評価することで経時変化を追いやすくなります。評価結果はケアマネや管理栄養士、主治医と共有し、サービス担当者会議やカンファレンスで栄養ケアの優先度をすり合わせると良いでしょう。
MNA-SF と他の栄養スクリーニング(MST・MUST など)はどう使い分けますか?
どのツールを使うかは施設方針や診療科によって異なります。急性期病棟やがん領域では MST・MUST が採用されることも多く、高齢者医療・介護領域では MNA-SF が選ばれることがよくあります。大切なのは「施設として 1 つのスクリーニングを標準化し、結果を診療計画書や栄養ケア計画に確実に接続すること」です。当ブログでは、MNA-SF を高齢者リハの標準ツールの 1 つとして位置づけつつ、他ツールとの併用や切り替えも現場の実情に応じて検討するスタンスです。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


