座位 Modified Functional Reach Test( mFRT )のやり方|座位バランスを 3 分で定量化
座位 mFRT( Modified Functional Reach Test )は、立位が難しい対象者でも、座位での体幹・上肢リーチを使って座位バランス(安定余裕)を短時間で数値化できる評価です。脳卒中、脊髄損傷、重度 deconditioning、起立性低血圧など「まず座位で安全に評価したい」場面で有用です。
本記事は、準備 → 声かけ → 記録ルール → 失敗修正までを、現場で再現しやすい形に統一しています。バランス評価全体を俯瞰したい場合は、評価ハブから先に流れを確認すると運用が早く整います。
mFRT を使う場面
mFRT は「立位能力」ではなく、座位での重心移動と支持基底面の管理をみるテストです。転倒リスクが高い時期でも、座位で安全に“どこまで余裕があるか”を把握できます。
開始時点の評価として、とくに次のケースで使いやすいです。
- 立位が禁止/困難(術後、循環不安定、起立性低血圧、重度疼痛 など)
- 車椅子生活が中心で、移乗・更衣・食事など座位活動の課題が大きい
- 脳卒中で体幹非対称やリーチ時代償が強く、座位で再現性を取りたい
- 脊髄損傷など非立位者の座位バランスを定量化したい
準備(環境・姿勢・測定ライン)
mFRT の価値は「同じ条件で繰り返せること」にあります。椅子、足底、骨盤、開始肢位を固定すると、数 cm の変化を臨床判断に使いやすくなります。
最初に、椅子・足底・開始肢位・測定点の 4 点を院内で統一しておきます。
- 椅子:背もたれなし(基本)。高さは足底が全面接地できる範囲で統一。
- 足底:左右接地(基本)。足台や免荷がある場合は毎回記録し同条件にする。
- 骨盤:中間位(過度な後傾を避ける)。必要時は座面前方に浅く座る。
- 上肢:原則、肩 90° 屈曲・肘伸展で開始。
- 測定ライン:壁固定メジャー等を用い、測定点(例:第 3 中手骨レベル)を統一。
手順(前方/左右)
基本は「練習 → 本番複数回」です。信頼性を担保するには、同一条件で反復する運用が前提です。
安全を確保したうえで、次の順に実施します。
- 開始姿勢を固定:骨盤中間位、足底接地、体幹正中。
- 開始位置を合わせる:測定点をメジャーの基準位置へ合わせる。
- 声かけ:「お尻と足はそのままで、届く範囲まで伸ばします。怖ければ途中で止めて大丈夫です。」
- 前方リーチ:最大到達を測定(体幹前傾は許容、支持条件は維持)。
- 側方リーチ:体幹回旋で距離を稼がないよう、骨盤・胸郭の向きをそろえる。
- 試行回数:練習 1〜2 回、本番 3 回(施設内ルールで統一)。
記録とスコア(何 cm を残すか)
mFRT は点数法ではなく距離( cm )評価です。だからこそ、条件固定と無効試行の扱いを明確にしておくと、再評価の解釈がぶれません。
最低限、次の項目を記録すると再現性が上がります。
※ 表は横スクロールできます。
| 項目 | 記録例 | 目的 | 注意 |
|---|---|---|---|
| 姿勢条件 | 背もたれなし/足底接地/座面高 | 再現性の担保 | 足台・クッション使用は必ず明記 |
| 方向 | 前方/右側方/左側方 | 非対称の把握 | 患側・非患側の表記も統一 |
| 試行回数 | 練習 2 → 本番 3 | 同条件の継続 | 平均を取る範囲を固定 |
| 代表値 | 本番 3 の平均( cm ) | 経時比較 | 最大値採用か平均採用かを院内で統一 |
| 無効条件 | 臀部離床/足の移動/介助で支える | ズレの除外 | 無効時は“やり直し”か“中止”かも決める |
解釈のコツ(数値を次アクションへ)
mFRT は「長い/短い」だけではなく、どの運動戦略で距離が出たかを見ることが重要です。距離の背景に、介入優先順位が反映されます。
臨床では次の 3 点をセットで確認すると、次アクションが決めやすくなります。
- 方向差:前方は出るが側方が出ない、患側だけ短い → 側方制御・荷重移動の課題。
- 代償:肩甲帯突出・体幹回旋で距離を稼ぐ → 距離より“質”を優先して修正。
- 経時変化:同条件で再測定し、実施前後・週単位で比較する。
よくある失敗と修正( OK / NG 早見)
mFRT は代償が入りやすく、見かけの改善が起こりやすい評価です。NG を先に共有しておくと、数値の意味が安定します。
声かけは「禁止」より「実行方法の誘導」に寄せると、恐怖を下げて再現性が上がります。
※ 表は横スクロールできます。
| 場面 | NG(無効・ズレ) | なぜ問題? | 修正の声かけ例 |
|---|---|---|---|
| 支持基底面 | 臀部が浮く/座り直す | “座位バランス”ではなく移動になり距離が増える | 「お尻はそのまま、上半身だけで伸ばします」 |
| 足底 | 足が前に出る/踏ん張り直す | 支持面が変化して条件が崩れる | 「足は今の位置のままにしましょう」 |
| 上肢戦略 | 肩甲帯突出だけで稼ぐ | 体幹制御の評価になりにくい | 「胸ごと前に動かすイメージで」 |
| 側方 | 体幹回旋で“近道”する | 側方荷重移動を見たいのに回旋で逃げる | 「おへそは正面のまま、横に寄せます」 |
| 安全確保 | 恐怖で途中停止/手で支える | 距離が出ない原因が“恐怖”の場合がある | 「怖くなったら止めて大丈夫です」 |
中止基準と安全管理
mFRT は座位で実施できるため安全性は高い一方、循環変動や恐怖反応が強い場合は中止判断が必要です。距離より安全を優先してください。
次の所見があれば中止、または条件変更を検討します。
- めまい、悪心、冷汗、顔面蒼白など循環不良が出現
- 座位保持が 10 秒未満で、見守りでも危険が高い
- 疼痛で動作が破綻し、反復しても再現性が得られない
現場の詰まりどころ
mFRT で止まりやすいのは「距離は出たが、質が悪い」「再評価で条件が変わる」の 2 点です。先に修正ポイントを共有しておくと、チーム内の解釈が揃います。
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. mFRT は前方だけで十分ですか?
A. 目的次第です。前方は体幹前方制御を見やすく、側方は非対称や荷重移動課題を把握しやすいです。移乗・更衣で左右差が問題なら、側方も含めて同条件で測定するのがおすすめです。
Q2. 何回測って、平均と最大値どちらを残すべきですか?
A. どちらでも構いませんが、施設内で統一することが最重要です。臨床では「練習 1〜2 回 → 本番 3 回 → 平均採用」にすると再現性を保ちやすくなります。
Q3. 車椅子でも実施できますか?
A. 実施可能です。背もたれ接触の有無、座面高、クッション条件を必ず記録し、再評価時に同条件へ揃えることが前提です。
Q4. 数 cm の変化は臨床的に意味がありますか?
A. 同一条件での反復が担保されていれば、変化の追跡に意味があります。まずは条件固定(椅子・足底・開始姿勢・代表値ルール)を徹底してから解釈してください。
次の一手
- 運用を整える:評価ハブで全体像を確認する(全体像)
- 共有の型を作る:FRT(立位)の標準手順をそろえる(すぐ実装)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Katz-Leurer M, Fisher I, Neeb M, Schwartz I, Carmeli E. Reliability and validity of the modified functional reach test at the sub-acute stage post-stroke. Disabil Rehabil. 2009;31(3):243–248. doi:10.1080/09638280801927830. PubMed
- Lynch SM, Leahy P, Barker SP. Reliability of measurements obtained with a modified functional reach test in subjects with spinal cord injury. Phys Ther. 1998;78(2):128–133. doi:10.1093/ptj/78.2.128. PubMed
- Duncan PW, Weiner DK, Chandler J, Studenski S. Functional reach: a new clinical measure of balance. J Gerontol. 1990;45(6):M192–M197. doi:10.1093/geronj/45.6.M192. PubMed
- Marchesi G, Ballardini G, Barone L, et al. Modified Functional Reach Test: Upper-Body Kinematics and Muscular Activity in Chronic Stroke Survivors. Sensors. 2022;22(1):230. doi:10.3390/s22010230. Journal
- Functional Reach Test / Modified Functional Reach Test. Rehabilitation Measures Database( Shirley Ryan AbilityLab ). Web
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


