筋緊張評価の視診と触診|抵抗の正体を当てる最小手順
筋緊張( muscle tone )の評価は、スケールを付ける前に「抵抗の正体」を当てられると精度が上がります。視診と触診だけで、①痙縮(速度依存の反射要素)、②拘縮(組織短縮)、③痛み・防御収縮、④浮腫・軟部組織の硬さをある程度切り分けられます。
本記事は、明日から再現できるように視診 → 触診 → 条件固定 → 記録を “最小手順” に固定します。被動性検査や MAS / MTS は、視診・触診の見立てを答え合わせする位置づけで扱います。
現場の詰まりどころ:触った瞬間「痙縮」と決め打ちしてしまう
筋が硬いと、つい「痙縮が強い」と言いたくなります。ただ実際の “硬さ” は、拘縮や疼痛、防御収縮、浮腫などが混ざった合成です。ここで大事なのは、スケールの前に「速度で変わるか」と「終末感がどこで立ち上がるか」を、視診・触診で先に押さえることです。
結論として、評価は①安静で当たりを付ける → ②遅い動きで拘縮/痛みを拾う → ③速い動きで反射要素を確認の順で進めると、迷いが減ります。
視診:見るだけで拾える 8 つのサイン
視診は、触る前に緊張の出方(パターン)を掴む工程です。ポイントは「安静」と「誘発(努力・注意・動作)」を分けること。安静時は肢位と左右差、誘発時は共同運動や連合反応、疼痛サインがヒントになります。
以下の 8 点を “順番固定” で見ると、所見の取りこぼしが減ります。
| 観察ポイント | 所見例 | 示唆 | 次の確認 |
|---|---|---|---|
| 安静肢位 | 内反・尖足、肘屈曲、手指屈曲位 | 痙縮 / 共同運動 / 拘縮 | アライメントを整えて触診へ |
| 左右差 | 骨盤回旋、体幹側屈、肩甲帯拳上 | 姿勢戦略 / 痛み / 固さ | 痛みの部位・タイミングを確認 |
| 筋量・輪郭 | 萎縮、筋腹の凹み、局所の盛り上がり | 廃用 / 局所過緊張 | 筋腹の質感を触診で確認 |
| 皮膚・浮腫 | 光沢、圧痕、皮膚可動性低下 | 軟部組織の抵抗 | “筋以外の抵抗” を意識して動かす |
| 自発運動 | ぎこちなさ、分離困難、共同運動 | 運動制御 / 痙縮誘発 | 誘発条件(努力・注意)を統一 |
| 歩行・立位(可能なら) | 尖足、反張膝、股内転、上肢屈曲固定 | パターン化した高緊張 | キーとなる筋群の仮説を立てる |
| 誘発での変化 | 注意・努力で固さが増減する | 防御収縮 / 不安要素 | 声かけ・呼吸で脱力を作る |
| 疼痛サイン | 表情変化、拒否、逃避、息止め | 痛み / 防御収縮 | 疼痛評価とポジショニングを優先 |
触診:同じ部位を 3 段階で追って “正体” を分ける
触診は「硬い / 柔らかい」を言う工程ではなく、抵抗が筋由来か、関節・軟部組織由来かを分ける工程です。コツは、同じ部位を触り続けたまま、安静 → 遅い動き → 速い動きの 3 段階で反応の変化を追うことです。
| 段階 | 触る場所 | 触る所見 | 示唆 |
|---|---|---|---|
| ① 安静 | 皮膚 / 皮下 → 筋腹 → 腱 | 圧痛、熱感、浮腫、皮膚可動性 | 痛み / 軟部組織要素が強い |
| ② 遅い動き | 筋腹を軽く把持しながら | 終末感( end-feel )、抵抗の立ち上がり | 拘縮 / 関節包要素 |
| ③ 速い動き | 同じ筋腹を触り続ける | 速度で抵抗が増える、反射様収縮 | 速度依存要素(痙縮) |
条件固定:評価者間の “ばらつき” を最小化する
筋緊張は評価者が変わると揺れやすい領域です。上手さより先に、条件を固定して誤差を減らします。最低限、次の 5 点を毎回そろえてください。
- 体位:背臥位 / 座位のどちらかに固定(目的により選ぶ)
- 開始肢位:関節中間位を “毎回同じ” にそろえる
- 脱力:声かけ、呼吸、支持面の安定(不安定だと防御収縮が増える)
- 速度:遅い / 速いの 2 段階に分け、順番を固定する
- 把持:遠位で振り回さず、関節軸と筋腹を意識して支える
よくある失敗: NG を潰すと所見が “再現” できる
筋緊張評価が崩れる原因は、だいたい “条件ブレ” です。以下の NG を潰すだけで、所見の再現性が上がり、介入の根拠も言語化しやすくなります。
| よくある NG | 起きること | 修正ポイント |
|---|---|---|
| いきなり速く動かす | 驚き・痛みで防御収縮が混ざる | 遅い動きで痛みと終末感を先に確認 |
| 関節軸がずれている | 関節包・靱帯の抵抗が増える | アライメントを整えてから評価する |
| 遠位だけを把持 | テコで抵抗が誇張される | 近位支持+筋腹に触れながら確認 |
| 疼痛を見落とす | “痙縮” と誤認し介入が悪化する | 表情・逃避・息止めを必ず確認 |
| 評価の順番が毎回違う | 所見が比較できない | 安静 → 遅い → 速い、を固定する |
記録の型: 1 行で “比較” できる形にする
記録は長文より、次回や他職種が同条件で再現できる情報を残すのが正解です。おすすめは、体位・開始肢位・速度・反応・終末感の 5 点セットで 1 行に固定することです。
例:「背臥位、足関節中間位。遅い動きで終末感は硬い。速い動きで抵抗が増え、筋腹に反射様収縮。疼痛サインなし。」――この形なら、次回も同条件で比較できます。
次の評価へつなぐ:視診・触診の見立てを “答え合わせ” する
視診・触診で「抵抗の正体」の当たりが付いたら、次は条件を固定した他動の評価で答え合わせをします。手順と記録テンプレは、こちらの記事で 5 ステップに整理しています:被動性検査のやり方|筋緊張(痙縮・固縮・拘縮)を見分ける。
よくある質問( FAQ )
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痙縮と拘縮は、視診・触診だけで分けられますか?
完全には分けきれませんが “当たり” は付けられます。遅い動きで終末感が硬く、可動域制限が強いなら拘縮要素が濃厚です。速い動きで抵抗が急に増え、筋腹に反射様の収縮が乗るなら速度依存要素(痙縮)が疑われます。まず遅い動きで痛みと拘縮を確認し、その後に速い動きで反射要素を見ます。
触診で “硬結” が強いときは痙縮ですか?
硬結=痙縮とは限りません。局所の過緊張、疼痛、防御収縮、浮腫、筋膜の滑走低下などでも硬結様に触れます。同じ部位を安静 → 遅い → 速いの 3 段階で追い、速度で反応が変わるかを確認すると誤認が減ります。
評価前にリラクゼーションは必要ですか?
必要です。痛み・不安・寒さなどで防御収縮が強いと “筋緊張” が過大評価されます。支持面の安定、呼吸の誘導、声かけで脱力を作り、評価条件をそろえるのが最優先です。
評価者間のばらつきを減らすコツは?
体位・開始肢位・把持位置・速度・順番(安静 → 遅い → 速い)を固定し、記録にも残すことです。特に “疼痛サインの有無” を必ず書くと、後から読み返して判断しやすくなります。
次の一手:評価を “運用” に乗せる
参考文献
- Bohannon RW, Smith MB. Interrater reliability of a modified Ashworth scale of muscle spasticity. Phys Ther. 1987;67(2):206-207. DOI: 10.1093/ptj/67.2.206 / PubMed
- Pandyan AD, et al. A review of the properties and limitations of the Ashworth and modified Ashworth Scales as measures of spasticity. Clin Rehabil. 1999;13(5):373-383. DOI: 10.1191/026921599677595404 / PubMed
- Trompetto C, et al. Pathophysiology of spasticity: implications for neurorehabilitation. PM R. 2014. PMC
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


