- 転倒恐怖・転倒不安の評価は「懸念・自信・能力」を分ける
- まず「転倒への懸念・自信・身体能力」の3軸に分ける
- 転倒への「懸念」を知りたいならFES-Iを選ぶ
- バランスや活動への「自信」を知りたいならABC・MFESを検討する
- TUGやBBSでは転倒不安そのものは評価できない
- 単一質問は入口に使い、必要なら標準化尺度へ進む
- 迷ったときは3ステップで評価を選ぶ
- PROMと身体能力がズレたときこそ解釈する
- 患者の訴えから評価を選ぶ具体例
- 得点方向を取り違えない
- カットオフだけで尺度を選ばない
- 記録は「尺度名・構成概念・生活場面・客観評価」を残す
- 転倒恐怖の評価でよくある間違い
- 認知機能が低下している場合は回答の成立条件も確認する
- FES-I・ABC・MFESを直接比較したい場合
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
- 参考文献
- 著者情報
転倒恐怖・転倒不安の評価は「懸念・自信・能力」を分ける
転倒恐怖や転倒不安を評価するときは、最初に「本人の何を知りたいのか」を分けることが重要です。転倒への懸念を知りたいなら FES-I、バランスや活動への自信を知りたいなら ABC や MFES、実際の身体能力を知りたいなら TUG・BBS・Mini-BESTest などの客観テストを検討します。
これらは似た場面で使われますが、測っているものは同じではありません。特に転倒への懸念、転倒自己効力感、バランスへの自信、実際の身体能力を混同しないことが、尺度選択と結果解釈のポイントです。
この記事では、転倒関連の心理面を評価するときに、FES-I・ABC・MFESなどをどう選び、客観テストとどう組み合わせるかを整理します。各尺度の質問項目や詳細な採点方法ではなく、「次に何を評価するか」を決めるための親記事として解説します。
バランス評価全体から選びたい方へ
バランス評価の種類と選び方を見るまず「転倒への懸念・自信・身体能力」の3軸に分ける
転倒に関連する評価で迷ったら、尺度名から選ぶのではなく、転倒への懸念、自信、実際の身体能力の3軸に分けると整理しやすくなります。
| 知りたいこと | 主な評価候補 | 評価する内容 | 得られる情報 |
|---|---|---|---|
| 転倒への懸念・心配 | FES-I、Short FES-I | 活動中に転倒することをどの程度気にしているか | 懸念が強い生活場面、活動回避につながる可能性 |
| バランス・活動への自信 | ABC、MFES | 活動を安全に遂行できると思えるか | 自信が低い活動、自己効力感の低下 |
| 実際の身体能力 | TUG、BBS、Mini-BESTest など | 立位、歩行、方向転換、動的バランスなど | 実際に観察・測定できる身体機能 |
重要なのは、PROMであるFES-I・ABC・MFESと、実際のパフォーマンスを測る客観テストを同じものとして扱わないことです。本人の感じ方と身体能力は一致することもあれば、大きくズレることもあります。
転倒への「懸念」を知りたいならFES-Iを選ぶ
「転ぶかもしれないという心配が、生活のどこにあるか」を確認したい場合はFES-Iが第一候補になります。FES-I(Falls Efficacy Scale-International)は名称に「Efficacy」が含まれていますが、現在は主にconcerns about falling、すなわち転倒への懸念を評価する尺度として位置づけられています。
FES-Iは16項目で構成され、各活動について転倒することをどの程度気にしているかを4段階で回答します。合計点は16〜64点で、得点が高いほど転倒への懸念が強い方向です。7項目のShort FES-Iもあります。
2022年の転倒予防・マネジメントに関するWorld Guidelinesでは、多因子転倒リスク評価の一部として転倒への懸念を評価することが推奨され、地域在住高齢者ではFES-IまたはShort FES-Iなどの標準化された尺度の使用が示されています。
FES-Iを選びやすい例:
「転倒してから外出を避けるようになった」「階段や屋外歩行を必要以上に心配している」「身体能力だけでは説明できない活動制限がある」といった場合です。
一方で、FES-Iの名称だけを見て「転倒自己効力感そのものを測る尺度」と考えると、ABCやMFESとの違いが曖昧になります。この記事では、FES-Iは転倒への懸念を把握する尺度として整理します。
バランスや活動への「自信」を知りたいならABC・MFESを検討する
「この活動を安全にできると思っているか」を知りたい場合は、ABCやMFESを検討します。どちらもFES-Iより「自信」や自己効力感に近い構成概念を扱いますが、同じ尺度ではありません。
ABCは活動場面ごとのバランスへの自信を見る
ABC(Activities-specific Balance Confidence Scale)は、さまざまな日常活動を行う際に、バランスを失わずに遂行できる自信がどの程度あるかを評価する尺度です。
原版は16項目で、各活動に対する自信を0〜100%で評価します。基本的には得点が高いほどバランスへの自信が高い方向です。
「身体能力は改善しているのに屋外活動へ広がらない」「特定の複雑な活動だけ自信が低い」といった場面では、客観的なバランス能力とは別にABCを確認する意味があります。
MFESは転倒せず活動できる自己効力感を見る
MFES(Modified Falls Efficacy Scale)は、活動を転倒せずに遂行できるという自己効力感・自信を確認する尺度です。Hillらが報告したMFESでは、屋内外の活動を含む14活動について自信を評価しています。
ただし、「MFES」という名称で複数の改変版が報告されており、項目数や得点方法がすべて同一とは限りません。臨床や研究で使用するときは、どの版を採用しているのか、原著・日本語版・施設手順を確認してから運用することが重要です。
| 尺度 | 中心となる構成概念 | 得点の基本的な方向 | まず確認したい問い |
|---|---|---|---|
| FES-I | 転倒への懸念 | 高いほど懸念が強い | 「転ぶことをどの程度気にしているか」 |
| ABC | バランスへの自信 | 高いほど自信が高い | 「バランスを保ってできると思えるか」 |
| MFES | 転倒自己効力感・活動への自信 | 一般に高いほど自信が高い | 「転倒せずに活動できると思えるか」 |
尺度名だけでは構成概念が分かりにくいため、FES-I・ABC・MFESを同じ「転倒恐怖尺度」として一括りにせず、何を測りたいのかを先に決めることが大切です。
TUGやBBSでは転倒不安そのものは評価できない
TUG、BBS、Mini-BESTestなどは、転倒不安や転倒への懸念を直接評価するPROMではありません。これらは実際の移動・バランス能力を観察・測定するための客観テストです。
たとえばTUGでは立ち上がり、歩行、方向転換、着座を含む移動能力を確認できます。BBSでは複数の静的・動的バランス課題、Mini-BESTestでは予測的姿勢調整、反応的姿勢制御、感覚機能、動的歩行などを評価します。
したがって、TUGが良好だから「転倒への不安はない」とは判断できません。反対に、FES-IやABCだけから「実際のバランス能力が低い」とも断定できません。
ポイント:転倒関連PROMは「本人がどう感じているか」、客観テストは「実際にどう動けるか」を確認します。どちらか一方で代用するのではなく、必要に応じて並べて解釈します。
単一質問は入口に使い、必要なら標準化尺度へ進む
すべての患者に最初から複数のPROMを実施する必要はありません。初回面接では、「転ぶことが心配ですか」「転倒が心配で避けている活動はありますか」といった質問から、転倒への懸念が生活に影響しているかを確認する方法もあります。
ただし、単一質問とFES-Iなどの標準化尺度は同じではありません。初期スクリーニング、経時変化の比較、介入前後の評価など目的が明確な場合は、構成概念に合った尺度を選びます。
迷ったときは3ステップで評価を選ぶ
実際の尺度選択では、以下の順序にすると整理しやすくなります。
- 何を知りたいか決める:転倒への懸念なのか、活動への自信なのか、実際の身体能力なのかを決めます。
- 構成概念に合う評価を選ぶ:懸念ならFES-I、自信ならABC・MFES、身体能力ならTUG・BBS・Mini-BESTestなどを候補にします。
- 主観と客観を並べる:PROMと身体能力の結果が一致するか、ズレているかを確認します。
FES-I・ABC・MFESそのものの構成、採点、得点方向を直接比較したい場合は、FES-I・ABC・MFESの違いと使い分けで整理しています。
PROMと身体能力がズレたときこそ解釈する
転倒関連PROMの独自価値は、客観テストと同じ結果を確認することではありません。むしろ、本人の認識と実際の身体能力がズレたときに、次の評価や介入を考える材料になります。
| 主観 | 身体能力 | 考えられる状態 | 次に確認すること |
|---|---|---|---|
| 懸念が強い/自信が低い | 低下している | 身体能力低下と心理面の双方が活動を制限している可能性 | バランス・歩行能力、安全条件、活動回避の程度 |
| 懸念が強い/自信が低い | 比較的保たれている | 転倒経験、失敗体験、環境、過度な安全行動などが影響している可能性 | 転倒歴、生活環境、実際に避けている活動、成功体験 |
| 懸念が弱い/自信が高い | 低下している | 実際の能力に対して自己評価が高い可能性 | 方向転換、二重課題、屋外環境、安全認識 |
| 懸念が弱い/自信が高い | 比較的保たれている | 主観と身体能力がおおむね一致している可能性 | 実際の生活範囲、転倒歴、環境要因を含めて確認 |
ここで示した組み合わせは診断基準ではなく、あくまで追加評価を考えるための仮説です。「自信が高い=安全」「懸念が強い=転倒リスクが高い」と単純化せず、転倒歴、薬剤、認知機能、視覚、環境、歩行・バランス能力などと合わせて判断します。
患者の訴えから評価を選ぶ具体例
尺度選択は、患者さんの言葉を「懸念・自信・能力」のどこに置くか考えると実践しやすくなります。
| 患者の訴え | まず考える軸 | 評価候補 | 追加して確認したいこと |
|---|---|---|---|
| 「また転びそうで外に出たくない」 | 転倒への懸念 | FES-I | 転倒歴、外出頻度、歩行・バランス能力 |
| 「階段は自信がない」 | 活動への自信 | ABC・MFES | 実際の階段動作、筋力、バランス、安全条件 |
| 「自分では問題なく歩けると思う」 | 自信と能力の一致 | 客観テストを追加 | TUG、BBS、Mini-BESTestなどで実能力を確認 |
| 「前より動けるのに外出は増えていない」 | 身体能力と心理面のズレ | FES-IまたはABC・MFES+客観評価 | 避けている活動、環境、転倒経験、生活範囲 |
得点方向を取り違えない
FES-IとABC・MFESでは、得点の方向が異なることにも注意が必要です。
- FES-I:高得点ほど転倒への懸念が強い方向
- ABC:高得点ほどバランスへの自信が高い方向
- MFES:一般に高得点ほど転倒せず活動できる自信が高い方向
経時変化を見る際に「点数が上がった=改善」と一律に解釈すると、FES-Iでは逆になります。また、MFESには複数の版があるため、使用している版の採点法を確認してください。
カットオフだけで尺度を選ばない
転倒関連の尺度には、研究によってカットオフ値や重症度区分が提示されているものがあります。ただし、対象となる年齢、疾患、生活環境、転倒歴によって意味が変わります。
そのため、「カットオフがあるからこの尺度を使う」のではなく、「知りたい構成概念に合っているから選ぶ」ことを優先します。カットオフを使用する場合も、その値が自分の対象集団に適用できる根拠を確認します。
記録は「尺度名・構成概念・生活場面・客観評価」を残す
記録では総得点だけで終わらず、何を評価したのかと生活場面を残しておくと、再評価時に解釈しやすくなります。
記録の型
尺度名:____
評価した構成概念:転倒への懸念 / バランス・活動への自信
得点:____
特に影響している生活場面:____
客観評価:____
主観と身体能力の一致・ズレ:____
次回確認する条件:____
再評価では、補助具、介助・見守り条件、生活環境などが大きく変わっていないかも確認します。点数の変化だけでなく、以前避けていた活動を再開できたか、実際の生活範囲が広がったかまで確認すると臨床につながりやすくなります。
転倒恐怖の評価でよくある間違い
| よくある間違い | 問題点 | 対応 |
|---|---|---|
| FES-I・ABC・MFESをすべて「転倒恐怖尺度」と扱う | 測定している構成概念の違いが見えなくなる | 懸念・自己効力感・バランスへの自信を分ける |
| 尺度名だけでFES-Iを自己効力感尺度と判断する | FES-Iが主に評価する転倒への懸念とズレる | 質問内容と開発目的を確認する |
| TUGが良好だから転倒不安も問題ないと判断する | 主観的な懸念や活動回避を見逃す | PROMと客観評価を別軸で確認する |
| PROMが悪いから身体能力も低いと判断する | 失敗体験や環境要因などを見落とす | 歩行・バランス能力を客観的に評価する |
| すべての対象に同じカットオフを使う | 疾患や対象集団の違いを無視してしまう | カットオフの対象集団と研究条件を確認する |
認知機能が低下している場合は回答の成立条件も確認する
PROMは本人の認識を回答してもらう評価であるため、質問内容の理解や回答の一貫性が必要です。認知機能が低下している場合でも一律に使用できないわけではありませんが、質問を理解できているか、回答が安定しているかを確認します。
回答の信頼性が十分でない場合は、PROMの点数だけに依存せず、実際の活動観察、転倒歴、家族・介護者からの情報、客観的な歩行・バランス評価などを組み合わせます。家族による代理回答を本人のPROMと同等に扱えるかどうかは、使用する尺度の検証状況を確認する必要があります。
FES-I・ABC・MFESを直接比較したい場合
このページでは「何を評価するか」を決めるところまでを扱いました。FES-I・ABC・MFESについて、項目数、質問の向き、得点方向、構成概念を横並びで確認したい場合は、FES-I・ABC・MFESの違いと使い分けを参照してください。
FES-I単体の実施方法や得点の見方を確認したい場合は、FES-Iの評価方法と結果の見方で詳しく整理しています。
よくある質問(FAQ)
FES-IとABCはどちらを使えばよいですか?
何を知りたいかで選びます。転倒することへの懸念・心配を知りたい場合はFES-I、活動中にバランスを保てるという自信を知りたい場合はABCが候補になります。どちらが優れているという関係ではなく、測定する構成概念が異なります。
FES-IとMFESは同じ尺度ですか?
同じではありません。名称は似ていますが、FES-Iは主に転倒への懸念、MFESは転倒せず活動を遂行できるという自己効力感・自信を評価します。得点方向も異なるため、混同しないようにします。
TUGがあればFES-IやABCは不要ですか?
代用はできません。TUGは実際の移動能力を測定する客観テストであり、転倒への懸念やバランスへの自信を直接測る尺度ではありません。身体能力と本人の認識の両方を知りたい場合は、目的に応じて併用します。
FES-I・ABC・MFESを全部実施した方がよいですか?
必ずしも必要ではありません。最初に「懸念」「自信」「身体能力」のどれを知りたいのかを決め、必要な尺度から選びます。複数尺度を追加するのは、最初の評価だけでは臨床上の疑問に答えられない場合に検討します。
転倒歴がなくても転倒への懸念を評価しますか?
転倒歴がなくても、転倒への懸念や活動回避がみられることがあります。外出や歩行範囲が狭くなった、特定の活動を避けているなどの変化があれば、転倒歴だけで判断せず心理面も確認します。
再評価では何をそろえればよいですか?
同じ尺度を用いることに加えて、補助具、介助・見守り条件、生活環境など、回答に影響しそうな条件を確認します。総得点だけでなく、懸念や自信が強く表れた生活場面と実際の活動範囲も比較します。
まとめ
転倒恐怖・転倒不安の評価では、尺度名から選ぶのではなく、転倒への懸念・バランスや活動への自信・実際の身体能力の3つを分けることが出発点です。
- 転倒への懸念を知りたい:FES-I・Short FES-I
- バランスへの自信を知りたい:ABC
- 転倒せず活動できる自己効力感を知りたい:MFES
- 実際の身体能力を知りたい:TUG・BBS・Mini-BESTestなど
特に、FES-IとMFESは名称が似ていても同じ構成概念ではありません。PROMと客観テストを別軸で確認し、結果がズレたときに転倒歴、活動回避、環境、身体能力などを追加評価すると、介入につなげやすくなります。
参考文献
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著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を2022年4月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信しています。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験があります。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

