はじめに|2026 年に「NST 専門療法士」を目指す理由
専門資格をキャリアにどう活かすか整理する( PT キャリアガイド )
栄養サポートチーム( NST )専門療法士は、静脈・経腸栄養を含む臨床栄養に関して、高い専門性と実践力を備えた人材を認定する資格です。対象となる職種は、管理栄養士・看護師・薬剤師・臨床検査技師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・歯科衛生士・診療放射線技師などで、まさに「チーム医療」を前提とした仕組みになっています。摂食・嚥下障害やサルコペニア、褥瘡、呼吸不全など、「栄養状態がアウトカムを左右する症例」に関わる人にとって、NST の専門性は避けて通れません。
一方で、NST 専門療法士の取得には、学会参加やセミナー受講による単位、認定教育施設での 40 時間実地修練、症例や実務経験の蓄積、認定試験の合格など、数年単位で準備が必要です。何となく興味はあっても、「条件が複雑そう」「今から間に合うのか分からない」と感じている方も多いと思います。本記事では、2026 年以降の受験をイメージしながら、受験資格・実地修練・単位の集め方・試験対策・リハ職や管理栄養士が現場でどう活かせるかを、できるだけ具体的な手順として整理します。細かな要件や日程は変わる可能性があるため、最終的には必ず日本栄養治療学会などの公式情報を確認してください。
NST 専門療法士とは?(資格の位置づけ)
NST 専門療法士は、栄養サポートチームの一員として、栄養アセスメント・栄養管理計画の立案・経腸栄養や静脈栄養の運用・合併症予防・栄養教育などに主体的に関わることが期待される資格です。単に「カロリー計算ができる」「栄養剤の名前を知っている」というレベルではなく、病態生理・臓器機能・薬物治療・リハビリ・口腔機能・嚥下などを総合的に踏まえたうえで、最適な栄養戦略をチームで組み立てていく役割が求められます。
資格は 5 年ごとの更新制で、学会参加や講習会、NST 活動の実績などによる点数を積み上げて維持していきます。つまり「一度取って終わり」ではなく、最新のガイドラインやエビデンスをキャッチアップし続けることが前提です。リハ職にとっては、栄養・サルコペニア・リハ栄養の知識をより体系的に整理し、「なぜこの評価と介入が必要なのか」をチームに説明しやすくなる資格といえます。
受験資格と必要な実務経験・単位
受験資格の柱は、「対象となる国家資格を持っていること」「栄養サポートに関する一定以上の実務経験があること」「学会や講習会参加などで規定単位を満たしていること」の 3 つです。対象資格には、管理栄養士・看護師・薬剤師・臨床検査技師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・歯科衛生士・診療放射線技師などが含まれ、多職種が同じフレームで認定を受ける形になっています。
実務経験については、医療機関や介護施設などで、一定年以上(例: 3~5 年)の勤務歴を有し、そのうち規定期間以上を NST 活動や栄養サポート業務に従事していることが求められます。加えて、日本栄養治療学会(JSPEN)学術集会や関連セミナーへの参加、e ラーニングなどで所定の単位(例: 30 単位以上)を取得し、認定教育施設での臨床実地修練( 40 時間)を修了する必要があります。詳細な年数や単位数は年度ごとに見直されることがあるため、日本栄養治療学会の公式サイトに掲載される最新の認定要項を必ず確認してください。
取得までの 5 ステップ(2026 年版の流れ)
NST 専門療法士を 2026 年に目指すイメージで、準備の流れを 5 つのステップに分けてみます。
- ステップ 1:基礎資格と勤務歴の確認
自分の国家資格が対象職種に含まれているか、臨床経験年数が要件を満たしているかを確認します。同時に、これまでの勤務でどの程度 NST や栄養サポートに関わってきたかを振り返り、今後必要な症例や実務経験をイメージしておきます。 - ステップ 2:学会・講習会で単位を集める
JSPEN 学術集会や関連学会、NST 研修会、e ラーニングなどの情報をチェックし、認定対象となる企画を優先的に受講します。年度末に慌てて単位を集めなくて済むよう、毎年少しずつ参加しておくのが現実的です。 - ステップ 3:認定教育施設で 40 時間実地修練を受ける
日本栄養治療学会が認定した教育施設(NST 稼働病院など)で、 40 時間(通常は 5 日間)の臨床実地修練を受けます。カンファレンスへの参加、回診の同行、症例検討、カンファレンス発表などを通じて、NST の実際の動きを学ぶ貴重な機会です。 - ステップ 4:症例整理と申請書類の準備
これまで関わってきた栄養関連症例の中から、サルコペニア・嚥下障害・術後・慢性心不全・慢性呼吸不全・褥瘡など、代表的なケースをピックアップし、アセスメント~介入~フォローアップまでを整理します。同時に、勤務証明書・単位取得の証明書・実地修練の修了証など、申請に必要な書類をそろえます。 - ステップ 5:認定試験の受験と合格
必要要件を満たしたら、年 1 回の認定試験を受験します。試験形式は筆記/CBT など年度によって異なりますが、臨床栄養・栄養管理・NST 運営・各職種の役割など、広い範囲から出題されるため、ガイドライン・学会テキスト・実地修練で得た知見を総合して復習しておくことが重要です。
この 5 ステップは、短くても 2~3 年、じっくり取り組むなら 3~5 年スパンのプロジェクトです。「今年は学会・セミナー中心」「来年は実地修練と症例づくり」といった形で、数年計画で逆算しておくと、無理なく進めやすくなります。
勉強ロードマップとおすすめの学び方
勉強のベースになるのは、JSPEN や関連学会が発行するガイドライン・テキストと、認定教育施設での実地修練で得た経験です。まずは、エネルギー・タンパク質の必要量、投与経路の選択(経口・経腸・静脈)、再栄養症候群、輸液管理、電解質異常、栄養評価法(体重・ BMI ・握力・筋量・血液検査など)といった「共通言語」をざっくり押さえます。そのうえで、栄養サポートが特に重要な病態(消化器外科・循環器・呼吸器・神経疾患・高齢フレイルなど)ごとに、症例ベースで理解を深めていきます。
忙しい臨床の中で学びを積み上げるには、資格勉強だけを切り離すのではなく、日常のカンファレンス・回診・リハカン・褥瘡対策委員会などを「復習の場」として活用するのがおすすめです。栄養・嚥下・リハを横断的に整理したいときは、院内 NST 活動とあわせて自施設の取り組みを確認したり、関連分野をまとめている栄養・嚥下ハブも一度見直したりしながら、自分にとっての苦手領域をはっきりさせておくと、試験対策にも役立ちます。
リハ職・管理栄養士・看護師はどう活かせるか
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士にとって、NST 専門療法士で学ぶ内容は「リハ栄養」というキーワードと密接に結びつきます。筋力低下・サルコペニア・フレイル・嚥下障害など、栄養と機能が絡み合ったケースで、「どの程度の負荷量が安全か」「どのタイミングで栄養投与量を増減すべきか」「経口移行をどう段階づけるか」といった判断を、栄養チームと共通言語で議論できるようになります。単に「運動の専門家」としてではなく、「栄養状態を前提にした運動処方ができるリハ職」としての価値が高まります。
管理栄養士にとっては、エネルギー・タンパク質設計だけでなく、「チームで合意形成する栄養プラン」を学び直す機会になります。看護師にとっては、輸液ルートや経腸栄養の管理、観察ポイント、リスクの早期発見などの精度が上がり、病棟での NST ラウンドをリードしやすくなります。薬剤師・臨床検査技師・放射線技師にとっても、自分の専門領域と栄養治療のつながりを再確認することで、患者説明や他職種への情報提供の質が高まっていきます。
現場の詰まりどころ
最初の大きなハードルは、「学会単位・研修・実地修練・日常業務」を同時にこなす時間的な負荷です。特にシフト制勤務や当直がある職場では、学会参加や 5 日間の実地修練にまとまった日数を割くのが難しく、「興味はあっても一歩踏み出せない」という声も少なくありません。この場合、まずは年 1 回の学会に参加して 1 日だけでも聴講する、近場のセミナーやオンライン講習から単位を積み上げる、といった“小さな一歩”から始めるのが現実的です。
もう一つの詰まりどころは、「NST 活動や栄養サポートの実績をどう記録に残すか」という問題です。日々のカンファレンスやラウンドでの関わりは多くても、後から振り返ったときに「どの症例にどう関わったか」が曖昧になりがちです。認定を意識し始めたタイミングで、簡単な症例ログ(患者属性・主病名・栄養課題・自分の関わり・アウトカム)を作り、週に 1 件でも書き足していく習慣をつけておくと、申請時の症例整理がぐっと楽になります。
よくある質問
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理学療法士・作業療法士・言語聴覚士でも NST 専門療法士を目指せますか?
はい、対象となる国家資格の中に理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が含まれています。必要なのは、資格そのものだけでなく、一定期間以上の臨床経験と、NST 活動や栄養サポートに関わった実績です。自施設で NST がどのように機能しているか、どの程度リハが関わっているかを確認しつつ、今後の症例経験やカンファレンス参加を計画していくと良いでしょう。受験年度ごとの要件は、必ず学会の公式情報で確認してください。
実地修練 40 時間(5 日間)を取る時間がありません。どうすればいいですか?
実地修練は、NST 専門療法士にとって非常に重要な経験ですが、まとまった 5 日間を確保するのはたしかに大きな負担です。まずは所属長や人事と早めに相談し、「来年度のどこかで 1 週間だけ教育目的の出張に出たい」という希望を伝えておくのが現実的です。また、自施設が将来的に認定教育施設を目指す予定があるかどうかも確認しておくと、自前で実地修練に近い経験を積める可能性があります。どうしても難しい場合は、受験時期を 1~2 年後ろにずらし、その間に症例と学会単位をじっくり蓄えるという選択肢もあります。
どのくらいの勉強時間が必要ですか?試験は難しいですか?
必要な勉強時間はバックグラウンドや日常業務の内容によって異なりますが、目安としては「関連ガイドラインやテキストを 2 周程度読み、実地修練や日常の症例を通じて理解を深める」イメージです。試験そのものは決して易しすぎるわけではありませんが、数年かけて学会参加や実地修練を積んでいれば、過度に恐れる必要はありません。重要なのは、暗記だけでなく「この病態なら、なぜこの栄養管理を選ぶのか」を説明できるレベルを目指すことです。
資格を取っても、給与や配置が変わらない場合にメリットはありますか?
NST 専門療法士の手当やポジションは施設によって大きく異なり、すぐに給与や肩書きに反映されないケースもあります。ただし、栄養状態とアウトカムの重要性が広く認識されるようになった現在、「NST にも強いリハ職」「栄養を含めて患者を見られる看護師・管理栄養士」としての信頼は、将来的なキャリアの選択肢を広げてくれます。また、転職や部署異動の場面で「NST 専門療法士としての経験」を具体的に語れることは、応募先とのミスマッチを減らすうえでもメリットがあります。
おわりに
NST 専門療法士は、臨床栄養を軸に多職種連携を進めるうえで、非常に実務寄りの力が身につく資格です。その一方で、学会単位の取得や実地修練、症例整理、認定試験など、日々の業務と並行して進めるには相応の負荷があります。「本当にここまでやる価値があるのか」と迷うときは、自分が関わってきた患者さんの顔を思い出しながら、「栄養の視点がもっと早くあれば、何が変えられたか」を一度振り返ってみるのも一つの方法です。少しずつでも学びを積み上げることで、数年後に振り返ったときの景色が大きく変わっているはずです。
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著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

