作業療法( OT )評価の全体像|順番と最小セットを先に固定する
作業療法( OT )評価で最初に決めるべきなのは、「何を全部見るか」ではなく「何から見れば次の一手が決まるか」です。作業の困りごと、実際の作業観察、環境、必要最小限の心身機能をこの順でそろえると、評価が“測っただけ”で終わりにくくなります。
本記事で答えるのは、成人・一般の OT 初期評価における順番と最小セット、そして記録の型です。個別スケールの比較や疾患別の深掘りは子記事に任せ、このページでは「迷わず始めて、チームに通る所見にする」ところまでに絞ります。
同ジャンル回遊(最短導線):入口 → 比較 → 実務の順で辿ると、評価設計がブレにくくなります。
何から見るかが決まる|5 分で回す OT 初期評価の流れ
最初に固定するのは「全部やる」ことではなく、次の一手が決まる情報だけを集める順番です。迷ったら、次の 5 ステップに戻れば十分です。
順番が先に決まると、評価項目を増やしすぎずに済みます。作業を起点にし、観察で必要になった分だけ測る設計にしてください。
- 困りごと(作業)を 3 つに絞る: ADL / IADL / 役割(仕事・家事・趣味)から「できない」「やりにくい」を具体化する。
- 少なくとも 1 つは実作業を観察する:工程のどこで止まるか、代償や危険がどこに出るかを確認する。
- 環境を先に見る:道具、家屋、家族支援、職場条件で解決できる部分を先に潰す。
- 必要な要素だけ測る:上肢、感覚、注意、遂行、バランスなど、観察で必要になった項目だけ追加する。
- 目標を 1 文にする:「いつまでに/何を/どの条件で」を 1 文にし、再評価条件も固定する。
なぜこの順番で迷いが減るか|OTIPM と ICF の役割分担
OTIPM は、作業遂行の観察から入り、要因分析と目標設定、介入へつなげるための“進め方”として使うと実務に乗せやすくなります。いっぽう ICF は、活動・参加、環境因子、心身機能をチームで共有しやすい形に並べる“まとめ方”として相性がよい枠組みです。
現場で迷いを減らすコツは、作業 → 環境 → 必要なら心身機能の順で考えることです。 OT らしさは、機能を測ること自体ではなく、「その機能がどの作業のどの工程にどう影響しているか」を説明できるところにあります。
測りすぎを防ぐ|初期評価で残す最小セット 8 項目
忙しい現場ほど、最初に「最低限これだけは残す」を決めておくと回ります。ここでは、作業の再建とチーム共有に直結する項目だけに絞ります。
スマホでは表を横スクロールできます。
| 項目 | 見るポイント | 記録の一言例 | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| 困りごと(作業) | 本人が困っている作業を 3 つに絞る | 「更衣で右手が使えず 10 分以上かかる」 | 優先課題を決める |
| 背景・役割 | 生活歴、役割、価値観、退院後の方向 | 「退院後は一人で朝食準備を再開したい」 | 目標の軸を作る |
| 作業観察 | どの工程で止まるか、姿勢・道具・順序の崩れ | 「袖通しで肩外転が詰まり体幹後方偏位あり」 | 作業分析 → 仮説化 |
| 安全条件 | 転倒、疲労、疼痛、介助量、 NG 条件 | 「立位 2 分でふらつき増。見守り以上が必要」 | 負荷量と段階を決める |
| 環境因子 | 道具、家屋、家族支援、職場・制度 | 「把持補助具で食事動作は実用化の余地あり」 | 環境調整を先行する |
| 上肢・感覚(必要時) | 到達、把持、巧緻、触覚、深部感覚 | 「把持は可、巧緻と触覚低下で操作が不安定」 | 上肢・感覚を追加評価 |
| 高次脳・認知(必要時) | 注意、遂行、失行、視知覚、手順の抜け | 「工程理解はあるが二重課題で抜けが増える」 | 必要な各論へ進む |
| 目標( 1 文 ) | 期限、条件、評価方法をそろえる | 「 2 週で上衣更衣を見守り下で実施できる」 | 再評価条件を固定する |
どこを深掘りするかが決まる|領域別の見立て方
評価は領域ごとに分けると整理しやすい一方、最後に「作業へ戻す一言」がないと共有で詰まります。ここでは、作業に戻せる見立て方を 3 つに分けて整理します。
ポイントは、どの領域も単独で完結させず、「どの作業にどう影響したか」で閉じることです。
作業パフォーマンス(作業ベース)
OT らしさが最も出るのは、実際の作業を見て「どのように行っているか」を捉える部分です。できる/できないだけでなく、時間、安全、疲労、効率、代償まで観察し、作業の質として残します。
心身機能・活動
ROM、筋力、感覚、注意、遂行機能などは多職種で共有しやすい共通言語です。ただし、単独の数値で終わらせず、「更衣の袖通し」「食事の把持」「家事の段取り」など、具体的な作業工程とセットで残すと伝わります。
環境・文脈
環境は段差や手すりだけでなく、家族支援、職場・学校の体制、使える道具、本人の価値観や役割も含みます。初期評価では「これまで/いま/これから」の時間軸で見ると、目標と環境調整の方向性が見えやすくなります。
どう書けば通るかが決まる|OT 評価の記録テンプレ
評価が回らない原因は、情報不足よりも「共有できない書き方」になっていることが多いです。おすすめは、作業 → 観察 → 要因 → 介入 → 再評価の順で 1 本の線にすることです。
まずは、次の型をそのまま使ってください。 ICF の並びを借りるなら、活動・参加を先に置き、環境因子を次に書き、心身機能を補足にすると読み手が迷いにくくなります。
記録テンプレ:「最優先作業は上衣更衣。袖通しで右上肢の到達不足と体幹後方偏位があり、触覚低下も重なって操作が不安定。滑りやすい衣類と介助位置の調整を先行し、右上肢の到達練習を併用する。 1 週後に同じ衣類・同じ環境で再評価する。」
ダウンロード|OT 初期評価 5 分フロー PDF
本文の「順番」「最小セット」「記録の型」を、現場で見返しやすいように A4 1 枚へまとめた PDF です。初回評価前の確認、カンファ前の整理、指導時の共通資料として使いやすい形にしています。
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現場の詰まりどころ|検査を増やす前に戻る場所
詰まりやすいポイントは、知識不足より「順番の崩れ」で起きることが多いです。ここでは、迷ったときに戻る場所を先回りで固定します。
よくある失敗|評価が増えるほど介入が遅れる
失敗を減らすコツは、「足す」より先に「戻る」ことです。検査数を増やす前に、作業・観察・環境・目標のどこが抜けたかを確認してください。
スマホでは表を横スクロールできます。
| 失敗 | 詰まる理由 | 戻る場所 |
|---|---|---|
| 最初から検査を並べる | 優先作業が決まらず、何のための数値か曖昧になる | 困りごと 3 つに戻る |
| 作業観察が不足する | 工程のどこで止まるか分からず、介入が機能訓練中心になる | 少なくとも 1 つ実作業を観察する |
| 環境を後回しにする | 道具や介助位置で増やせる「できる」を見落とす | 環境因子を先に確認する |
| 目標が抽象的なまま | 再評価で変化を説明できず、共有が崩れる | 期限・条件つきの 1 文にする |
回避の手順(チェック)|迷ったらここに戻る
次の 6 項目がそろっていれば、初期評価は十分に回り始めます。全部が高得点である必要はなく、抜けを減らすことが目的です。
- 困りごと(作業)を 3 つに絞ったか
- 少なくとも 1 つは作業を観察したか
- 環境(道具・家屋・支援)を先に検討したか
- 追加測定は「観察で必要になった分だけ」になっているか
- 目標が「いつまでに/何を/どの条件で」 1 文になっているか
- 再評価の条件(同課題・同環境・期限)が固定できているか
ここまで整えても毎回同じところで詰まる場合は、書き方や手順だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無など、職場環境の影響を受けている可能性もあります。評価・記録・報告の「型」をまとめて整理したい方は、PT キャリアガイドも参考になります。
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. OT の初期評価で「全部やれない」場合、何を優先しますか?
最優先は「困りごとの作業を 3 つに絞ること」と「少なくとも 1 つ作業を観察すること」です。ここが決まれば、上肢・感覚・注意など、追加で見るべき要素が自然に絞れます。
Q2. OTIPM と ICF は、現場ではどう使い分けますか?
進め方を作るのが OTIPM、チームに通る形へ整理するのが ICF です。実務では「進め方は OTIPM、まとめ方は ICF」と考えるとブレにくくなります。
Q3. ツール( COPM / AMPS ほか)を導入していない職場でも、 OT らしく評価できますか?
できます。用紙やスコアがなくても、「本人が大事にしている作業」を具体化し、実際の作業を観察して、詰まりを言語化できれば OT らしい評価になります。ツールは、その作業をより安定して共有するための補助と考えると使いやすいです。
Q4. 評価項目が多くて時間内に終わりません。何を削ればいいですか?
削るべきなのは「目的が曖昧な追加測定」です。まずは優先作業、作業観察、安全、環境、目標 1 文をそろえ、そこから必要になった心身機能だけを足してください。
次の一手|全体像から運用へつなげる
読んで終わりにせず、次の 2 本で「入口」と「実務」に分けて整えると回りやすくなります。
- 入口に戻る:OT 評価ハブ(索引)
- 運用に落とす:初期評価チェックリスト( A4 運用 )
参考文献
- World Health Organization. International Classification of Functioning, Disability and Health (ICF). WHO(公式)
- 一般社団法人日本作業療法士協会. 作業療法ガイドライン 2012. PDF
- Law M, Baptiste S, McColl M, et al. The Canadian occupational performance measure: an outcome measure for occupational therapy. Can J Occup Ther. 1990;57(2):82-87. doi:10.1177/000841749005700207 / PubMed
- Fisher AG. Uniting practice and theory in an occupational framework. 1998 Eleanor Clarke Slagle Lecture. Am J Occup Ther. 1998;52(7):509-521. doi:10.5014/ajot.52.7.509 / PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


