作業療法の評価ツール比較|この記事のゴール
臨床で伸びる学び方の流れを見る(PT・OT キャリアガイド)
本記事は、作業療法士が日々の臨床でよく耳にする評価ツール( COPM / AMPS / ADOC / GAS )を「何ができる道具なのか」「どの場面で選ぶのか」という視点で整理することをねらいとしています。どれも名前だけは知っているけれど、自施設では導入されていない、使ったことがないという方も少なくありません。
ここでは、各ツールの特徴を細かく暗記するのではなく、作業パフォーマンス・価値観・目標設定・実行レベルという 4 つの切り口でざっくりと把握できるようにまとめます。新人 OT・PT が、「今のケースにこのツールを使うと何が見えるか」「導入していない職場でも考え方だけ真似できないか」をイメージしやすい構成を目指します。
評価ツールの全体像と比較表
作業療法で扱う評価ツールは、「作業パフォーマンスそのものを見る道具」と「目標や計画を構造化する道具」に大きく分けられます。 COPM と AMPS は「作業の質」を、 ADOC は「作業の価値と優先順位」を、 GAS は「目標達成度」をそれぞれ見える化する役割を担います。いずれも FIM や Barthel Index のような ADL 自立度とは異なる軸から情報をくれる点が特徴です。
まずは、印象をつかみやすくするために簡単な比較表を示します。詳細は後続の各セクションで掘り下げますが、「このケースで何を一番明らかにしたいのか」を考えながら眺めてみてください。
※スマートフォンでは横スクロールしてご覧ください。
| ツール名 | 主な目的 | 評価対象 | 所要時間の目安 | 導入のハードル |
|---|---|---|---|---|
| COPM | 本人が大事にする作業の特定と満足度の変化の把握 | 作業パフォーマンスの自己評価(重要度・達成度・満足度) | 初回 20〜40 分、再評価は 10 分前後 | 面接スキルが重要。トレーニングや用紙があれば中程度。 |
| AMPS | ADL / IADL の作業遂行の質を観察し、運動面・プロセス面を定量化 | 日常場面での行為(例:調理、更衣、掃除など)の観察 | 評価 30〜40 分+得点処理 | 講習会受講と校正が必須でハードルは高め。 |
| ADOC | 作業の価値・重要度をカードで整理し、目標作業を一緒に選ぶ | 本人が「やりたい・大事にしたい」と感じる作業や役割 | 15〜30 分程度(コミュニケーション能力に依存) | ツールの準備が必要だが、手順自体は比較的わかりやすい。 |
| GAS | 「どこまでできるようになったらゴールか」を 5 段階で合意し、達成度を評価 | 個別に設定した目標作業(例:一人で外出、週 1 回の通所など) | 初回目標設定 20〜30 分、以後の再評価は短時間 | チームでの合意形成が必要だが、考え方はシンプル。 |
COPM :本人の語りから「大事な作業」と変化を捉える
COPM ( Canadian Occupational Performance Measure )は、本人が「重要だ」と感じている作業を面接で挙げてもらい、その達成度と満足度を数値化するツールです。評価者が「困っていそうだから」と推測するのではなく、「何に困っているか・何を大事にしたいか」を本人の言葉で整理してもらう点が特徴です。退院支援・生活期・訪問リハなど、生活の全体像を一緒に見渡したい場面で特に威力を発揮します。
運用のポイントは、作業名を生活の文脈ごと具体的に書くこと(例:「一人でコンビニへ行き、昼食を買って帰る」など)と、評価者の価値観を押しつけない姿勢です。初回は時間がかかりますが、再評価ではスコアを比較しながら「何がどれだけ変化したか」を一緒に振り返ることができます。カルテには、重要度・達成度・満足度の変化と、本人のコメントをセットで記録しておくと、チームカンファレンスでも共有しやすくなります。
AMPS :作業遂行の質を「運動」と「プロセス」に分けてみる
AMPS ( Assessment of Motor and Process Skills )は、日常の作業場面を観察し、運動スキル(動作の滑らかさ・安定性など)とプロセススキル(段取り・問題解決など)を定量化するツールです。調理・掃除・洗濯や簡単な工作など、実際の作業を行ってもらい、その最中の行動を細かく観察してスコアリングします。
正式な導入には講習会受講や校正が必要でハードルは高めですが、「作業を分解して観察する」という視点は、講習を受けていない場合でも日々の臨床に応用可能です。例えば、更衣をただ「自立」と書くのではなく、「上衣を脱ぐときに左肩の痛みで動きが止まる」「ズボンを引き上げる前に片足立ちでふらつく」といった形で、運動とプロセスの両面から言語化してみるだけでも、介入の焦点が明確になります。
ADOC :カードを使って「大事な作業」と優先順位を可視化する
ADOC ( Aid for Decision-making in Occupation Choice )は、イラストカードなどを用いて、本人が「大事にしたい作業」や役割を一緒に選び、優先順位を整理するためのツールです。作業の例が視覚的に提示されるため、「何がやりたいか」を言葉でうまく説明できない方や、高齢者とも比較的コミュニケーションを取りやすいのが利点です。
ADOC の強みは、「やりたいことがない」と言っていた方でも、カードを見ながら対話すると少しずつ本音が出てくる点です。例えば、「昔は畑仕事をしていた」「孫と公園に行きたい」といったエピソードが引き出せると、 OT 側も目標設定やアクティビティのアイデアを広げやすくなります。実際には、 COPM や GAS と組み合わせて、カードで選んだ作業を COPM の評価対象や GAS の目標に落とし込む、という使い方もよく行われます。
GAS :「どこまでできたらゴールか」を 5 段階で共有する
GAS ( Goal Attainment Scaling )は、個別に設定した目標について、「最も期待される状態( 0 )」とそこから ±2 段階の状態をあらかじめ定義し、達成度を評価する方法です。例えば、「 3 か月後に 1 人で近所のコンビニへ行ける」という目標に対して、「−2:ほとんど外出できない」「−1:家族付き添いなら近所を歩ける」「 0 :付き添いなしでコンビニ往復」「+1:週 2 回以上 1 人でコンビニに行く」などと具体的に条件を決めます。
GAS のメリットは、「できた / できない」の二択ではなく、予定より良かったのか・悪かったのかをチーム全員が共通のものさしで共有できることです。また、目標設定の段階で本人・家族・多職種が対話するきっかけになるため、「誰のための目標か」が曖昧なまま介入が進んでしまう事態を防ぎやすくなります。ポイントは、目標文を「誰が・どこで・何を・どのくらい」まで具体的に書くことと、評価時に主観だけでなく具体的な行動指標を用いて判断することです。
現場の詰まりどころ(よくあるつまずきと対策)
評価ツールを導入しようとすると、現場では次のようなつまずきが起こりやすくなります。「名前は知っているが、実際に使うイメージが湧かない」「用紙やマニュアルが揃っておらず、途中で頓挫する」「忙しくて COPM や ADOC に時間をかけられない」といった声は、どの領域でも共通です。
対策としては、いきなりすべてを完璧に導入しようとせず、まず 1 つのツールを “試しに 1 症例だけ” 使ってみることが現実的です。また、「正式なスコアリングは行わなくても、考え方だけ取り入れる」ステップも重要です。例えば、 COPM の代わりに「大事な作業を 3 つ挙げてもらい、満足度を 10 点満点で自己評価してもらう」など、職場の状況に合わせて簡略版を試すところから始めると、チームの抵抗感も少なく導入しやすくなります。
よくある質問( FAQ )
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Q1.ツールを正式導入していない職場でも、意味がありますか?
はい、十分に意味があります。正式な講習会やマニュアルがなくても、「何を明らかにする道具なのか」という発想だけ取り入れることは可能です。 COPM であれば「本人が大事と思う作業を自分の言葉で挙げてもらう」、 ADOC であれば「作業の例を提示しながら一緒に選ぶ」といった形で、まずは簡略版から始めると効果を実感しやすくなります。
Q2. COPM / ADOC / GAS のどれを優先すべきか迷います。
ケースによって優先順位は変わりますが、「まずは何を一緒に決めたいのか」で選ぶと整理しやすくなります。やりたい作業自体を探りたいなら ADOC 、既にやりたい作業がはっきりしていて変化を追いたいなら COPM 、多職種を巻き込んだ具体的なゴールを共有したいなら GAS が向いていることが多いです。ひとつのケースで段階的に複数ツールを併用することもあります。
Q3.評価に時間をかけると、介入時間が削られてしまいませんか?
確かに、初回の COPM や GAS などは時間がかかります。ただし、最初に評価に時間をかけることで、その後の介入が「本人にとって意味のある作業」に集中しやすくなるというメリットがあります。結果として、漫然とした訓練時間が減り、短時間でも納得感の高いリハビリにつながることが多いです。忙しい病棟では、初回は簡略版で行い、状態が落ち着いてからじっくり再評価するなど、段階的な運用も検討できます。
おわりに
COPM / AMPS / ADOC / GAS は、いずれも「この人にとって意味のある作業は何か」「どこまでできればゴールと言えるか」を一緒に考えるための道具です。すべてを一度に使いこなす必要はなく、自分の得意なツールから少しずつ広げていくだけでも、評価の質とカンファレンスでの発言内容は大きく変わってきます。
評価や目標設定の整理に不安があるときは、見学や情報収集中にも使える面談準備チェック( A4 ・ 5 分)と職場評価シート( A4 )を活用すると、自分に合う学び方や働き方も立て直しやすくなります。詳しくはこちらのダウンロードページから確認してみてください。
参考文献
- Law M, Baptiste S, McColl M A, et al. The Canadian Occupational Performance Measure. 4th ed. CAOT Publications ACE; 2005.
- Fisher A G. Assessment of Motor and Process Skills. 7th ed. Three Star Press; 2009.
- Sato D, et al. Development of the Aid for Decision-making in Occupation Choice ( ADOC ) for elderly rehabilitation.(和文紹介論文などを適宜追加してください)
- Kiresuk T J, Sherman R E. Goal attainment scaling: A general method for evaluating comprehensive community mental health programs. Community Ment Health J. 1968;4(6):443-453.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

