圧痕(ゴデットサイン)と Stemmer 徴候:浮腫の所見をブレなく記録する
浮腫の所見は、周径や体積よりも「書き方の型」が共有されにくく、申し送りでズレやすい領域です。特に圧痕は、押す部位や秒数が揃わないと同じ患者でも結果がぶれます。本記事は、圧痕と Stemmer 徴候を同じ条件で再現できる形に整理し、現場でそのまま使える記録フォーマットまでまとめます。
結論はシンプルです。部位・秒数・深さ・戻り時間を固定し、Stemmer 徴候を補助所見として併記するだけで、再評価と共有の質が上がります。
圧痕( pitting )とは?
圧痕性浮腫は、皮下の間質液増加により、指で圧迫した凹みが残る所見です。臨床では「凹みの深さ」と「戻るまでの時間」を組み合わせて重症度を表現します。グレード表記だけでなく、条件を添えて記録すると比較可能性が高まります。
圧痕の取り方(ゴデットサイン):手順を固定する
目的は、誰が評価しても同じ条件に戻せることです。患者ごとに部位と秒数を固定し、毎回同じ流れで実施します。
- 部位を固定する(例:足背、内果後方、脛骨前面、下腿内側)。
- 親指で 2〜5 秒、骨支持方向へ圧迫する(チームで秒数を統一)。
- 離した後に凹みの深さ( mm )と戻り時間(秒〜分)を確認する。
- 左右差評価は、同じ部位・同じ条件で左右比較する。
最重要ポイントは「この患者はここで 3 秒押す」の固定です。これだけで再評価の解釈が安定します。
圧痕のグレーディング:深さ+戻り時間で書く
1+〜4+ の表記は広く使われますが、資料差があるため、グレード単独では伝達力が不足します。実務では、深さと戻り時間を併記して曖昧さを減らします。
| グレード(例) | 凹みの深さ(目安) | 戻り時間(目安) | 記録の書き方(例) |
|---|---|---|---|
| 1+ | 〜 2 mm 程度 | すぐ戻る | 内果後方:1+(〜 2 mm 、即時回復) |
| 2+ | 2〜4 mm 程度 | 10〜15 秒程度 | 足背:2+(3 mm 、15 秒以内) |
| 3+ | 4〜6 mm 程度 | 1 分程度 | 脛骨前面:3+(5 mm 、約 1 分) |
| 4+ | 6〜8 mm 以上 | 数分(2〜5 分など) | 下腿内側:4+(深い圧痕、数分残存) |
解釈のコツ:圧痕は「原因」ではなく「状態」
圧痕所見は「その部位の液体貯留状態」を示す情報であり、原因の確定ではありません。全身性か局所性かは、分布、経過、随伴所見(疼痛・熱感・呼吸苦など)を合わせて判断します。圧痕の強さだけで方針を決めると、評価のズレにつながります。
Stemmer 徴候:リンパ系らしさの補助所見
Stemmer 徴候は、足趾(多くは第 2 趾)背側皮膚をつまめるかで判定し、つまめない場合を陽性とします。陽性はリンパ浮腫を示唆しますが、陰性でも否定はできません。分布・皮膚所見・量的評価と組み合わせる運用が実用的です。
所見の書き方テンプレ:申し送りでズレない型
短くても比較可能な記録は「部位」「条件」「結果」の 3 点セットです。
- 部位:右/左、押した具体部位(例:右内果後方)
- 条件:3 秒圧迫、体位、圧迫着の有無など
- 結果:2+(3 mm 、10 秒)など深さと戻り時間を併記
| 項目 | 記録例 | 意図 |
|---|---|---|
| 圧痕(部位・条件) | 右内果後方:3 秒圧迫 | 再評価時に同条件へ戻せる |
| 圧痕(結果) | 2+(約 3 mm 、10 秒で回復) | グレード単独記録の曖昧さを補う |
| 分布・左右差 | 右優位、足背まで腫脹 | 鑑別の手がかりを残す |
| 皮膚・疼痛 | 熱感(−)、疼痛 NRS 2 | 炎症・感染の評価に接続する |
| Stemmer 徴候 | 右第 2 趾:陰性(つまめる) | リンパ系評価の補助所見を追加する |
現場の詰まりどころ
圧痕評価が不安定になる主因は、所見そのものより「条件の不統一」です。まず評価手順を固定し、記録を型化すると改善が早いです。
よくある失敗と対策(OK / NG)
| NG | 起きること | OK(修正) |
|---|---|---|
| 「2+」だけ書く | 再評価時に比較できない | 部位・秒数・深さ・戻り時間を併記する |
| 押す場所が毎回違う | 変化と誤認しやすい | 患者ごとに押す部位を固定する |
| Stemmer 陰性でリンパ浮腫を否定する | 鑑別が単純化してズレる | 分布・皮膚所見・量的評価と併用する |
| 圧痕を原因とみなす | 介入判断が粗くなる | 圧痕は状態情報として解釈する |
よくある質問(FAQ)
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Q1. 圧痕の押す秒数は何秒がよいですか?
A. 2〜5 秒が一般的ですが、最優先は「毎回同じ秒数」です。チームで 3 秒などに統一すると、日差・担当者差の比較がしやすくなります。
Q2. 圧痕が強く、痛みや熱感もある場合はどう考えますか?
A. 圧痕だけで説明しきれない可能性があります。炎症・感染・血栓などを含め、分布・経過・随伴所見を合わせて評価し、必要時は速やかに連携します。
Q3. Stemmer 徴候はどの程度信頼できますか?
A. 有用な補助所見ですが単独判定は避けます。陽性は示唆的でも、陰性で完全否定はできないため、他所見と組み合わせて判断します。
Q4. 日によって所見が違うとき、最初に確認することは?
A. まず条件差(時間帯、体位、圧迫直後、押す部位・秒数)を確認します。条件を揃えてなお変化が続く場合に、原因評価や介入調整へ進みます。
次の一手
- 運用を整える:浮腫評価の親記事で全体フローを揃える(全体像)
- 共有の型を作る:本記事の記録テンプレをチーム運用に落とす(すぐ実装)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Goss JA, Greene AK. Sensitivity and Specificity of the Stemmer Sign for Lymphedema: A Clinical Lymphoscintigraphic Study. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2019. PMC
- Executive Committee of the International Society of Lymphology. The Diagnosis and Treatment of Peripheral Lymphedema: 2023 Consensus Document. Lymphology. 2023;56(4):133-151. PDF
- Pitting Edema Assessment: Physical Exam. EBM Consult. Web
- Goyal A, Cusick A. Peripheral Edema. StatPearls. 2023. NCBI Bookshelf
- Calzon ME, et al. Quantitative measurement of pitting edema with a novel method and correlation with customary clinical grading. J Vasc Surg Venous Lymphat Disord. 2023. PMC
著者情報
rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


