PSFS(Patient-Specific Functional Scale)とは?|患者自身が選ぶ「困りごと」を数値化する評価
PSFS(Patient-Specific Functional Scale/患者特異的機能評価)は、患者さん自身が「今いちばん困っている活動」を 3〜5 個挙げ、その 1 つひとつについて 0〜10 の数値で困難さを評価してもらう患者立脚型のスケールです。NDI・ODI・RDQ のような固定項目式 PROM と異なり、内容があらかじめ決まっていないため、疾患や部位、ライフステージを問わず使える汎用的な評価ツールとして位置づけられています。
評価結果は各活動のスコアと平均値で表され、治療前後やフォローアップの変化を追うことができます。目標設定やクリニカルリーズニングと相性が良く、「患者さんが本当に困っていること」と「セラピストが改善したい機能」を結びつけるのに役立ちます。腰痛・関節疾患・スポーツ障害・神経筋疾患など、幅広い領域で研究・臨床利用が進んでおり、当サイトの評価まとめ(評価ハブ)の中でも、汎用 PROM の 1 つとして押さえておきたい指標です。
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PSFS の特徴とスコアの考え方
PSFS では、あらかじめ用意された設問はなく、患者さん自身に「今の症状のために難しくなっている活動・動作」を 3〜5 個まで書き出してもらいます。そのうえで、各活動について「0=まったくできない」から「10=症状が出る前と同じように問題なくできる」までの 11 段階で評価します。スコアリングは、①各活動スコア、②活動スコアの平均値を用いるのが基本です。
下図は、PSFS の流れ(活動の抽出 → 数値評価 → 平均値の算出)を 3 ステップで整理したイメージ図です。紙ベースでも口頭でも実施できますが、手順を標準化しておくことで、複数セラピスト間でのばらつきを抑えやすくなります。
PSFS の実施手順|活動の挙げ方と 0〜10 の説明
PSFS を実施する際は、まず「今の症状のために難しくなっている、または以前のようにできなくなっている活動」を思い浮かべてもらい、具体的な場面として 3〜5 個まで書き出してもらいます。ここでのポイントは、「歩く」「家事」など大きすぎるカテゴリではなく、「駅まで 10 分歩く」「洗濯物を干す」「子どもを抱っこして階段を上がる」など、イメージしやすい行動レベルで挙げてもらうことです。
つぎに、それぞれの活動について「0〜10」のスコアを説明します。説明の目安は下表のようなイメージで統一しておくと、セラピスト間でのばらつきを抑えやすくなります。
| スコア | 状態のイメージ |
|---|---|
| 0 | まったくできない(その活動自体が不可能) |
| 1〜3 | ほとんどできない/人の助けや大きな工夫が必要 |
| 4〜6 | 時間をかければ何とかできるが、痛みや不安が強く負担が大きい |
| 7〜9 | 少し気になるが、大きな問題なくこなせるレベル |
| 10 | 症状が出る前と同じように、まったく問題なくできる |
スコアリングは、介入前後で各活動のスコアと平均値を比較するのが基本です。カルテには「PSFS:洗濯物を干す 3→7、駅まで 10 分歩く 2→6、床の物を拾う 1→5(平均 2.0→6.0)」のように具体的な活動名とともに記載しておくと、後から見返したときにイメージしやすくなります。
スコアの解釈と変化量(MCID)の目安
PSFS では、スコアが高いほど機能が良好であることを意味します。研究報告を総合すると、個々の活動スコアで 2 ポイント前後、平均スコアで 1〜2 ポイント程度 の改善が、最小限臨床的重要差(MCID)の候補として扱われることが多いです。また、ベースラインからの 約 30 % 以上の改善 を 1 つの目安とする方法も提案されています。
ただし、PSFS は対象疾患や活動内容によってばらつきが生じやすく、固定項目式 PROM のように「◯点以上で改善」と一律に決めることは難しいスケールです。実地では、①活動ごとの変化量、②平均スコアの変化量、③患者さんの主観的な回復感や目標達成度を合わせて解釈し、「意味のある変化かどうか」を判断していくことが重要です。
固定項目式 PROM(NDI・ODI・RDQ など)との使い分け
NDI・ODI・RDQ などの固定項目式 PROM は、対象部位や病態に応じて標準化された質問票であり、集団比較やエビデンス構築に適しています。一方、PSFS は「患者さん自身が選んだ活動」だけに焦点を当てるため、個別性の高い目標設定や介入効果のモニタリングに向いています。どちらが優れているというよりも、「固定項目式で全体像を把握しつつ、PSFS で本人の最重要課題を深掘りする」 という役割分担で考えると整理しやすくなります。
例えば、腰痛患者では RDQ で日常生活全般の障害度を把握しつつ、PSFS で「長時間座って仕事をする」「子どもを抱えて階段を上がる」といった具体的な活動を評価する、といった組み合わせが有効です。評価ハブ(/hub-evaluation/)などで各スケールの特性を一覧できるようにしておくと、「どの症例でどの評価を組み合わせるか」をチームで検討しやすくなります。
目標設定とクリニカルリーズニングへの組み込み方
PSFS の強みは、評価そのものが「目標設定の素材」になる点です。列挙された活動は、そのまま短期・中期目標候補として扱うことができます。例えば「駅まで 10 分歩けるようになりたい」「子どもを抱っこしたまま階段を上がれるようになりたい」という活動に対して、「期間」「具体的な達成条件」「必要な身体機能」を整理していくことで、クリニカルリーズニングの土台が明確になります。
また、再評価時には単にスコアの変化を見るだけでなく、「活動内容そのものが変化していないか」にも注意が必要です。症状の変化や生活環境の変化によって、「いちばん困っている活動」が変わることは自然なことですが、その場合は「前回からの継続課題」と「新たに優先度が上がった課題」を切り分けて整理し直す必要があります。
PSFS を使うときの注意点と限界
PSFS にはいくつかの注意点もあります。まず、活動を自由記述で挙げてもらうため、評価者によって誘導の仕方が異なると、症例間の比較が難しくなることがあります。「職業・家事・余暇の中から 1 つずつ選んでもらう」「痛みの強さではなく、“その動作がどれくらいできるか” に注目してもらう」など、施設としてのルールをあらかじめ決めておくとばらつきを減らしやすくなります。
また、同じ患者さんでも、再評価のたびに違う活動を挙げると、数値変化の解釈が難しくなります。再評価時は「前回挙げた活動」から振り返りつつ、「今も優先度が高いもの」「新たに重要になってきたもの」を話し合いながら決めるとよいでしょう。PSFS はあくまで「患者特異的な困りごと」を可視化するツールであり、集団レベルの比較や疾患特異的な重症度評価には別の PROM を補完的に用いる必要があります。
記録とチーム共有のコツ
カルテ記載では、「活動名」「各活動スコア」「平均スコア」の 3 点をセットで残すのがおすすめです。例えば「PSFS:①洗濯物を干す 3→7、②駅まで 10 分歩く 2→6、③床の物を拾う 1→5(平均 2.0→6.0)」のように書けば、後から見返したときに具体的な変化がイメージしやすくなります。また、退院サマリーなどでは「患者本人が重視していた活動」として文章中に引用することで、退院後の生活像を伝えやすくなります。
チーム内の共有では、PSFS を「目標設定カンファレンスの共通フォーマット」の一部として用いるのも有効です。看護師・MSW・作業療法士など多職種が同じ活動リストを見ながら、「医療側が重視するゴール」と「患者さん本人が重視するゴール」をすり合わせていくことで、ケアの方向性が揃いやすくなります。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
PSFS は何点くらい変化したら「リハビリの効果あり」と考えてよいですか?
PSFS は対象疾患や選ばれた活動によってばらつきが大きいスケールですが、研究報告を総合すると、個々の活動スコアで 2 ポイント前後、平均スコアで 1〜2 ポイント程度 の改善が「意味のある変化(MCID)の候補」として扱われることが多いです。また、ベースラインからの 約 30 % 以上の改善 を 1 つの目安とする方法もあります。
一方で、現場では「スコア変化は小さいが、患者さんはかなり良くなったと感じている」ケースや、その逆も少なくありません。数字と主観が食い違うときは、評価や介入の質だけでなく、勤務体制や介入時間、病棟の方針など環境面が影響していることもあります。「今の職場では、評価に見合うだけのリハビリやフォローを組みにくい」と感じる状況が続くときは、働き方や職場選びを一度整理してみるタイミングかもしれません。そうした“危険サイン”を整理するには、理学療法士の転職・職場選びガイドも参考になります。
おわりに
実地では、「レッドフラッグの確認 → 疾患特異的・固定項目式 PROM(NDI・ODI・RDQ など)で全体像を把握 → PSFS で患者特異的な困りごとを可視化 → 目標設定と介入計画 → 再評価」というリズムを意識しておくと、評価結果がそのままクリニカルリーズニングとゴール設計につながりやすくなります。PSFS はシンプルなスケールですが、「誰のどんな生活を良くしたいのか」を具体的にするうえで非常に心強いツールです。
一方で、「評価のアイデアはあるのに、体制や時間的制約のために十分に活かしきれない」と感じる場面も少なくありません。働き方を見直すときの抜け漏れ防止に。見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック( A4・5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。印刷してそのまま使えますので、転職に限らず情報収集や見学の場面でもダウンロードページを活用してみてください。
参考文献
- Stratford P, Gill C, Westaway M, Binkley J. Assessing disability and change on individual patients: a report of a patient-specific measure. Physiother Can. 1995;47(4):258–263. doi:10.3138/ptc.47.4.258. DOI
- Westaway MD, Stratford PW, Binkley JM. The Patient-Specific Functional Scale: validation of its use in persons with neck dysfunction. J Orthop Sports Phys Ther. 1998;27(5):331–338. doi:10.2519/jospt.1998.27.5.331. DOI
- Horn KK, Jennings S, Richardson G, et al. The Patient-Specific Functional Scale: psychometrics, clinimetrics, and application as a clinical outcome measure. J Orthop Sports Phys Ther. 2012;42(1):30–42. doi:10.2519/jospt.2012.3727. DOI
- Abbott JH, Schmitt J. Minimum important differences for the Patient-Specific Functional Scale, 4 regions of the body. J Orthop Sports Phys Ther. 2014;44(8):551–558. doi:10.2519/jospt.2014.5248. DOI
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

