SAS(Specific Activity Scale)分類とは(心不全の活動度を METs で半定量化)
SAS(Specific Activity Scale)は、心不全などで「どの強度( METs )の活動まで症状なく行えるか」を、日常活動の例から半定量化する評価です。NYHA が“症状ベースの重症度共有”に強いのに対し、SAS は「何をすると息切れするか」=活動強度に落とし込める点が臨床メリットです。
なお “SAS” は睡眠時無呼吸(Sleep Apnea Syndrome)でも使われる略語です。本記事は心不全など循環器領域の SAS(Specific Activity Scale)を扱います。結論だけ言うと、SAS は外来 3 分の問診で「運動耐容能の当たり」を付け、運動処方や生活指導の強度設定の土台にできます。
評価方法(外来 3 分で回す “SAS の取り方”)
SAS は「活動例 → その活動ができるか」を聞き、“できない(症状が出る)最も軽い活動”の METs を拾うのがコツです。迷うところは、患者さんの主観(速度・休憩・手すり・段差)で強度がズレる点なので、質問の枠(条件)を固定して再評価できる形にします。
臨床で回す手順はシンプルです。まず “普段の生活に近い活動” から入り、症状が出る強度帯を挟み撃ちします。最後に条件(速度・休憩・補助具・坂/階段)をカルテに残すと、担当が変わってもブレにくくなります。
| ステップ | やること | 質問の例 | 記録に残すポイント |
|---|---|---|---|
| 1 | 生活の基準を確認 | 「普段、外にどのくらい出ますか?階段は使いますか?」 | 生活範囲、階段/坂の有無 |
| 2 | 活動例で “できる/できない” を切る | 「平地を普通に歩くのは大丈夫?早歩きは?」 | 症状(息切れ/胸部症状/疲労)と出現タイミング |
| 3 | 境界を詰める(挟み撃ち) | 「階段 1 階分は?途中で止まる?」 | 休憩の必要、手すり、荷物、速度 |
| 4 | 最低不可 MET を決める | 「“これ以上だときつい” はどれ?」 | “できない最も軽い活動” の MET |
| 5 | 再評価できる条件化 | 「同じ条件なら次回も比べられます」 | 条件(速度/休憩/補助具/環境) |
METs 活動早見(SAS 4 段階の “当たり” を付ける)
下の表は、SAS のクラスを「この強度以上が難しい(症状が出る)」という発想で整理した早見です。実際は活動の種類や生活背景で揺れるので、“表は入口、記録は条件付き”で運用すると安定します。
ポイントは、患者さんの言葉を METs に翻訳することです。たとえば「歩くときつい」は、速度や坂、休憩、手すりで強度が変わります。質問を固定し、次回も同じ条件で聞ける形にします。
| SAS クラス | 最低不可 MET の目安 | 活動例(よく出る聞き方) | 臨床メモ(標準化のコツ) |
|---|---|---|---|
| I | ≥ 7 METs | 「重い運動(ジョギング/強い早歩き)でも症状が出ない」 | “運動でしか症状が出ない” かを確認 |
| II | 5 – 6 METs | 「階段を速く上る・坂道・早歩きで息切れする」 | 速度(急ぐ/普通)と休憩有無を固定 |
| III | 2 – 4 METs | 「平地の普通歩行や軽い家事で息切れする」 | 歩行の距離/時間、家事の内容を具体化 |
| IV | ≤ 1 MET | 「安静に近い活動(更衣/洗面など)でも症状が出る」 | “いつも” か “悪い日だけ” かを分けて記録 |
採点と解釈(最低不可 MET を “ブレなく” 記録するルール)
SAS の運用で一番ズレるのは、「できる活動」を採用してしまうことです。SAS は基本的に“できない(症状が出る)最も軽い活動”を拾う方が、介入後の変化が追いやすくなります。
次の 4 つのルールを決めておくと、担当が変わっても再現性が上がります(チーム内で共有推奨)。
- ルール 1:“できない最も軽い活動” を 1 つ決め、そこを最低不可 MET とする
- ルール 2:迷ったら「速度」「休憩」「手すり」「荷物」「坂/階段」を聞き、条件を揃えてから判定する
- ルール 3:体調差が大きい場合は「良い日/悪い日」を分けて記録し、主運用は “普段” に寄せる
- ルール 4:症状の種類(息切れ/胸部症状/下肢疲労)と出現タイミング(開始直後/途中/終盤)をセットで残す
NYHA・6 MWT・Borg との使い分け(SAS は “翻訳” に強い)
心不全の機能評価は、1 つで完結しません。SAS は「生活の困りごと」を METs に翻訳できるのが強みで、運動処方の “強度の当たり”に直結します。一方で、客観指標( 6 MWT )や相対強度( Borg )と合わせると安全で、解釈ミスが減ります。
全体像(順番・組み合わせ)を 1 枚で整理したい場合は、心不全・呼吸器の “症状 × ADL” 設計図の記事にまとめています(下の「次の一手」から)。
| 指標 | 強い場面 | 弱い場面 | 臨床での使い方(おすすめ) |
|---|---|---|---|
| SAS | 生活活動を METs に翻訳/外来 3 分 | 条件が揃わないとブレる | 強度の当たりを付ける → 記録で再評価 |
| NYHA | 重症度共有(カンファ・紹介状) | クラス II のばらつき | SAS と併記して “生活の強度” も残す |
| 6 MWT | 客観的な耐容能/介入効果 | 実施条件が必要 | SAS の仮説を検証する(前後比較) |
| Borg(RPE) | 相対強度の調整(薬剤影響も吸収) | 初回は説明が必要 | METs で当たり → Borg/症状で安全に合わせる |
現場の詰まりどころ/よくある失敗(標準化しないと “全部ズレる”)
SAS が活きない最大の理由は、質問の条件が毎回変わることです(同じ “歩く” でも速度・坂・荷物で METs が変わる)。まずは「施設でよく聞く活動」を 5 つに絞って、聞き方をテンプレ化すると安定します。
教育コストを下げたいときは、「質問の型」+「面談準備のチェック」をセットにすると新人が回しやすいです。評価面談の準備に使えるチェックもまとまっています(関連:面談準備チェック(DL))。
| よくある NG | なぜズレる? | OK(対策) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 「歩けますか?」だけで終わる | 速度/距離/休憩で強度が変わる | 「普通歩行」「早歩き」「階段 1 階」などに分解 | 速度(急ぐ/普通)、休憩有無 |
| “できる活動” を採点に使う | 改善が追いにくい | “できない最も軽い活動” を最低不可 MET にする | 症状の種類と出現タイミング |
| 良い日だけで判定 | 生活指導が外れる | 普段/悪い日を分けて記録(主運用は普段) | 体調差(浮腫、睡眠、感染など) |
| 手すり・補助具を無視 | 同じ活動に見えて負荷が違う | 補助具/手すり/荷物を条件として固定 | 補助具、手すり、荷物の有無 |
中止基準(レッドフラッグ)
SAS は問診中心ですが、実際には「活動で症状が出る」前提で話が進むため、危険サインの拾い上げが重要です。評価中にレッドフラッグがあれば、無理に “強度の当たり” を付けず、まず安全確保と情報共有を優先します。
施設の運用(医師への報告基準、看護連携、バイタル確認手順)に合わせて、下表をローカライズして使ってください。
| 所見 | 具体例 | 対応 |
|---|---|---|
| 胸部症状 | 胸痛、圧迫感、冷汗を伴う息切れ | 中止、安静、報告(施設基準に従う) |
| 呼吸困難の急変 | 安静でも増悪、起座呼吸、会話困難 | 中止、体位調整、バイタル確認 |
| 循環不安定 | めまい、失神前、動悸が強い | 中止、転倒予防、確認と共有 |
| うっ血悪化の示唆 | 急な体重増加、浮腫の増悪、夜間呼吸困難 | 生活指導より先に評価と連携を優先 |
記録テンプレ(SOAP にコピペして使う)
SAS を “使える評価” にするには、数値(クラス)よりも条件付きの文章が重要です。次回も同じ条件で再評価できるように、「症状」「活動」「条件」を 1 行で残します。
下のテンプレを施設用に微調整し、カルテやサマリにそのまま貼れる形にしておくと運用が回ります。
| 項目 | 記載例 |
|---|---|
| S(主観) | 「平地は普通に歩けるが、急ぐと息切れする。階段は 1 階で途中休憩が必要。」 |
| O(客観/条件) | 症状:息切れ(会話可能)。条件:手すり使用、荷物なし、途中休憩 1 回。 |
| A(解釈) | 最低不可 MET の目安:5 – 6 METs(早歩き/階段で症状)。SAS クラス II 相当。 |
| P(次の一手) | 運動:METs は当たりを付け、相対強度は Borg と症状で調整。再評価は同条件で 2 週後。 |
評価票(A4)
院内で共有しやすいように、SAS の記録用紙(A4)を用意しています。運用ルール(最低不可 MET、条件の残し方)をセットで使うとブレにくくなります。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1.SAS は「できる活動」を選ぶの?「できない活動」を選ぶの?
運用が安定しやすいのは、“できない(症状が出る)最も軽い活動”を拾って最低不可 MET とする方法です。改善が出たときに変化を追いやすく、担当が変わってもブレにくくなります。
Q2.患者さんの “歩く” が曖昧で METs にできません
速度・休憩・手すり・坂/階段・荷物の 5 点を聞いて、条件を固定してから判定します。「普通歩行」「早歩き」「階段 1 階」など、よくある活動に分解して “境界” を挟み撃ちすると決めやすいです。
Q3.SAS だけで運動処方まで決めていい?
SAS は “強度の当たり” を付けるのに便利ですが、単独で完結させず、Borg(RPE)や症状、必要に応じて客観指標( 6 MWT など)を組み合わせると安全です。METs は絶対強度なので、相対強度の調整をセットにするのがコツです。
Q4.“SAS” って睡眠時無呼吸のことですか?
睡眠時無呼吸(Sleep Apnea Syndrome)も “SAS” と略されますが、本記事はSpecific Activity Scale(心不全など循環器の活動度評価)です。検索で混ざりやすいので、記事タイトルや冒頭で「心不全」「活動度」「METs」を明示しています。
次の一手(回遊用)
参考文献
- Goldman L, et al. Comparative reproducibility and validity of systems for assessing cardiovascular functional class: advantages of a new specific activity scale. Circulation. 1981;64(6):1227-1234. doi:10.1161/01.cir.64.6.1227 / PubMed
- Makita S, et al. JCS/JACR 2021 Guideline on Rehabilitation in Patients With Cardiovascular Disease. Circ J. 2022;87(1):155-235. doi:10.1253/circj.CJ-22-0234 / PubMed
- 大内秀雄, 他. 小児心疾患患児の重症度分類:運動耐容能から見た身体活動指数(Specific Activity Scale;SAS)による分類と NYHA 機能分類の比較. 日本小児循環器学会雑誌. 1994;9(5):623-630. PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


