SAS 分類とは(METs による活動可否の半定量化)
SAS( Specific Activity Scale )は、活動例と METs を手がかりに「可能/困難/不可」を問診し、不可になった最も低い MET 値を機能指標として扱う方法です。NYHA の主観性を補い、運動処方の足切りや日常活動ゴール設定に有用です。
SAS 分類は「心不全評価の使い分け【NYHA/SAS】」で示した全体像のうち、日常生活に即した活動度を METs で半定量化するパートを担うスケールです。
評価方法(ステップ&問診スクリプト)
- 標準化された活動リストを提示:階段昇段、速歩、荷物運搬、家事など。施設で“例示文”を統一。
- 各活動の可否を確認:可能/困難/不可。症状の種類(息切れ・胸痛・動悸 等)と回復時間も記録。
- 最低不可 MET を算出:「不可」が最初に出た MET レベルを SAS として記録。
- 同一条件で再評価:説明文・順序・時間帯を固定し再現性を担保。
問診テンプレ:「階段を 1 階分、普段のペースで上がるのはどうですか?」「速歩(6 km/h 相当)は?」「買い物で 2〜3 kg の荷物を持って歩くのは?」
METs 活動早見(例)
| MET レベル | 代表的な活動例 | 可能 | 困難 | 不可 |
|---|---|---|---|---|
| ≧ 7 MET | ジョギング(約 8 km/h)、連続で 2 階分の階段昇段、雪かきなど | □ | □ | □ |
| 5–7 MET | 速歩(約 6 km/h)、10–12 kg の荷物を持って階段を上がる、重めの庭仕事 | □ | □ | □ |
| 2–5 MET | 普通歩行(約 4 km/h)、軽い家事、買い物で数 kg を持つ | □ | □ | □ |
| < 2 MET | 身の回り(食事・洗面・更衣など)中心、ベッド上での軽い動作 | □ | □ | □ |
※ 活動例は施設・地域特性に合わせてローカライズしてください。最低不可 METの経時変化を追うことで、介入の有効性を半定量で把握できます。
採点・判定(解釈ガイド)
- 最低不可 MET が高いほど機能は良好(例:≥7 は高機能、5–7 は中等度、2–5 は低下、<2 は高度低下)。
- 臨床での使い方:運動処方の足切り、在宅生活ゴールの設定、外来フォローの指標に利用。
- 説明の工夫:MET 値を日常動作に置換して患者と共有(例:「この買い物ができれば 3–4 MET 程度です」)。
現場の詰まりどころ(評価のポイントと標準化)
| テーマ | NG | OK(対策) |
|---|---|---|
| 活動リスト | 海外例をそのまま使用し、患者像と乖離している。 | 施設標準リストを整備(家庭内・公共交通・職業活動を含める)。心不全患者の「生活のリアル」に合わせて更新。 |
| 判定基準 | 「主観」で可否を決め、評価者間でバラつく。 | 症状の種類(胸痛・息切れ・めまい 等)と回復時間を併記し、可否の根拠をカルテに残す。 |
| 比較条件 | 毎回の説明が違い、経時変化か条件差か分からない。 | 同一説明・同一順序で実施し、時間帯や服薬状況も記録して再現性を担保。 |
| チーム共有 | NYHA と SAS が別々に記載され、解釈が共有されていない。 | NYHA・SAS・歩行距離などを 1 枚のシートで一覧化し、カンファレンスで共通言語として使う。 |
中止基準(レッドフラッグ)
- 胸痛・増悪する呼吸困難・重度めまい/失神前症状
- SpO₂ の急低下・著明な動悸/不整脈感
- バイタル悪化(収縮期血圧の異常低下/過度上昇 等)
異常があれば評価を中止し、速やかに医師へ共有します。
記録テンプレート(コピー&運用)
| 日付 | 最低不可 MET | 不可となった活動 | 症状・回復時間 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2025-10-12 | 2 | 普通歩行(約 4 km/h) | 息切れ・2 分で回復 | 階段は不可 |
ミニケース(判定練習)
- 速歩(6 km/h)は困難、階段 1 階分は不可 → 最低不可 5 MET(中等度低下)。
- 普通歩行で不可 → 最低不可 2–3 MET(低〜高度低下)。
- 日常動作は概ね可能、ジョギング不可 → 最低不可 7 MET(良好)。
評価から運動処方までの全体像は理学療法士キャリアガイド(#flow)も参照してください。
評価票ダウンロード(A4・印刷対応)
SAS(Specific Activity Scale)評価票(A4・印刷) ※印刷 → PDF 保存も可
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
METs はどこまで厳密に扱うべき?
臨床では目安で十分です。施設標準の活動例を用い、最低不可 METの経時変化を追う運用が現実的です。数値そのものよりも、NYHA・歩行耐容能・バイタルと組み合わせて変化を捉えます。
NYHA と SAS はどちらを先に評価する?
まず NYHA で症状ベースの重症度の目安を共有し、必要に応じて SAS で活動可否を半定量化する流れがスムーズです。カルテ上は「NYHA II・SAS 3 MET で普通歩行困難」のようにセットで記録すると、チームでの解釈がそろいやすくなります。
先天性心疾患や若年例にも SAS 分類は使えますか?
活動例を年齢・生活背景に合わせて入れ替えれば応用可能です。ただし競技スポーツレベルの活動を評価する際は、心エコーや運動負荷試験など、より詳細な検査結果と組み合わせて慎重に解釈してください。
おわりに
心不全リハでは、「症状をどう感じているか(NYHA)」と「どの活動までは実際にこなせるか(SAS メッツ)」をセットで押さえることで、患者さんとの目標設定や増悪予防の精度が一段上がります。SAS 分類は紙と問診だけで始められる一方、活動リストや判定基準の標準化を怠ると、経時比較が効かなくなる点が現場の落とし穴です。
まずは自施設の心不全パスや心リハカンファレンスで「NYHA+SAS+歩行耐容能」を 1 枚の評価票にまとめ、チームで同じ言葉・同じ物差しを持つところから始めてみてください。SAS 評価票(A4)を活用しつつ、日々の回診や生活指導の会話に METs の視点を少しずつ溶け込ませていくと、患者さんの「できること」を増やす具体的な一歩につながります。
参考文献
- Goldman L. Advantages of a Specific Activity Scale. Circulation. 1981;64(6):1227–34. DOI: 10.1161/01.CIR.64.6.1227
- 日本循環器学会. 慢性心不全治療ガイドライン. 最新版.
- 日本心臓リハビリテーション学会. 心臓リハビリテーションに関する指針・用語集.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:心不全リハビリテーション、脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


