階段昇り(昇段)の動作分析とは?(結論: 3 相で「見る順番」を固定)
結論:階段昇り(昇段)は、①受け止め(初期荷重)→②引き上げ( pull-up )→③振り出し( step-through )の 3 相で整理すると、新人 PT でも「どこで崩れたか」を言語化しやすくなります。まずは相ごとに “ まず見る場所 ” を固定し、同じ順番・同じ言葉で記録できる状態を作るのが近道です。
本記事では、観察ルーティン(正面/側面/後方)、よくある失敗パターン、原因仮説の立て方(変数は 1 つだけ変えて反応を見る)、その場でできるミニテスト、カルテ記載テンプレまでを 1 本にまとめます。
関連:動作分析を「ハブ → 親 → 子」でつなげて、回遊しながら型を固める
まずはハブで全体像を押さえ、次に “ 観察→仮説→次の一手 ” の親記事で進め方を統一すると、各論(本記事)の理解が速くなります。
階段昇りの 3 相モデル(受け止め → 引き上げ → 振り出し)
階段昇り(昇段)は「 3 相(①受け止め→②引き上げ→③振り出し)」に分けると、観察の迷いが一気に減ります。最初に “ 気になる見た目 ” を追うのではなく、相ごとに「まず見る場所」を固定して、同じ順番で確認するのがコツです。これだけで所見のバラつきが減り、次の評価や介入に繋がるメモが残せます。
①受け止めは膝の位置・骨盤の水平性・足部支持、②引き上げは体幹前傾量と股関節/膝伸展のタイミング、③振り出しはつま先クリアランスと骨盤の代償(外回し・ヒップハイク)を まず見る(優先 3 )として揃えます。原因は “ 筋力不足 ” と決め打ちせず、段差・手すり・足部位置など変数を 1 つだけ変えて反応を見ながら、仮説を絞り込むのが安全で速い進め方です。
※観察→仮説→次の一手を “ 型 ” にしたい方は、 動作分析のやり方(親)もあわせてどうぞ。
観察ルーティン(正面/側面/後方)
ルーティンは 正面→側面→後方の順に固定します。相( ①〜③ )を意識しながら、まずは “ 崩れやすい場所 ” を粗く拾い、次に変数を 1 つだけ変えて反応を確認すると、原因仮説が過不足なく絞れます。
目線が泳ぐと所見が散るので、各視点で “ 優先 3 ” を決めておきます(下表)。新人のうちは、所見数を増やすよりも「同じ順番で記録できる」ことを先に完成させる方が、結果的に上達が速いです。
| 相 | 正面(まず見る:優先 3 ) | 側面(まず見る:優先 3 ) | 後方(まず見る:優先 3 ) |
|---|---|---|---|
| ① 受け止め | 膝の位置(内側偏位)/骨盤の水平性/足部支持(回内・不安定) | 膝の前方移動(過多・不足)/体幹の逃げ/足関節の使い方 | 骨盤の回旋・側方偏位/踵の安定/左右差の出方 |
| ② 引き上げ( pull-up ) | 骨盤の左右差/手すり依存の有無/膝の軌道(内外) | 体幹前傾量(反動)/股関節伸展と膝伸展のタイミング/踵の浮き | 支持側殿筋の保持/体幹の側屈/肩・上肢の代償 |
| ③ 振り出し( step-through ) | つま先クリアランス/外回し/骨盤挙上(ヒップハイク) | 振り出し開始のタイミング/膝屈曲量/足部の引っかかり | 骨盤挙上・回旋/支持脚の安定(保持)/歩隔の変化 |
※スマホでは横スクロールで見られます。
現場の詰まりどころ(よく迷う 3 つだけ)
階段昇りの現場で詰まりやすいのは、① “ 膝が入る/骨盤が傾く ” を見ても原因が言えない、② “ 反動(前傾)” と “ 必要な前傾 ” を混同する、③ “ つま先が引っかかる ” の理由を 1 つに決め打ちする、の 3 つです。ここは 失敗パターン→回避の手順を先に押さえると、評価の質が一段上がります。
よくある失敗(崩れ方 → ありがちな決め打ち)
“ 崩れ方 ” を見た瞬間に原因を決め打ちすると、介入が外れやすくなります。まずは相( ①〜③ )を確定し、次に「まず見る(優先 3 )」に戻って、変数を 1 つだけ変えて反応を確認してください。
| 相 | 崩れ方(見た目) | ありがちな決め打ち | まず見る(優先 3 )へ戻す |
|---|---|---|---|
| ① 受け止め | 膝内側偏位/骨盤傾斜 | 「殿筋が弱い」で終了 | 膝の位置・骨盤水平・足部支持(回内・不安定)を固定して再観察 |
| ② 引き上げ( pull-up ) | 前傾が大きい/膝が伸び切らない | 「大腿四頭筋が弱い」で終了 | 体幹前傾量・伸展タイミング・手すり依存をセットで見る |
| ③ 振り出し( step-through ) | つま先接触/外回し/ヒップハイク | 「股関節が硬い」で終了 | つま先クリアランス・骨盤代償・支持脚保持の順に確認 |
回避の手順(変数は 1 つだけ変えるチェック)
“ 原因らしきもの ” が複数見えたら、いきなり強化や矯正に入る前に、変数を 1 つだけ変えて反応を見ます。反応が出た変数が、次の評価(ミニテスト)や介入の入口になります。
- 相を確定:崩れは ①受け止め/②引き上げ( pull-up )/③振り出し( step-through )のどこか
- まず見る(優先 3 )へ戻す:相に対応する 3 点だけを見直す(表のとおり)
- 変数は 1 つだけ:段差(低め)/手すり(軽く)/足部位置( 1 つだけ)/速度(ゆっくり)
- 反応を記録:崩れが減ったか?別の崩れへ移ったか?( “ 改善/移動/不変 ” の 3 択でよい)
- 次の一手へ:反応が出た変数に対応するミニテスト/介入を選ぶ
その場でできるミニテスト(仮説を 10 秒で絞る)
ここでは “ 詳しい検査 ” ではなく、階段昇りで見えた崩れに対して、仮説を 1 段だけ絞るためのミニテストを置きます。ポイントは「安全に」「短く」「左右差が出る」ことです。
- ① 受け止めで膝が入る:片脚立位の骨盤保持( 5 秒)/足部の支持(裸足での接地感)
- ② 引き上げで前傾が増える:座位からの立ち上がりで前傾量を減らせるか( “ 反動 ” と “ 必要な前傾 ” を分ける)
- ③ 振り出しでつま先が引っかかる:足関節背屈の可動域チェック(左右差)/膝屈曲でクリアランスが増えるか
カルテ記載テンプレ( 2 行で相と所見を残す)
記録は “ きれいに書く ” より、相( ①〜③ )と「まず見る(優先 3 )」が残っていることが大切です。まずは 2 行で OK にして、必要が出たら詳細を足します。
テンプレ(貼って使える)
階段昇り(昇段):崩れは ①/②( pull-up )/③( step-through )の [ ]相。まず見る(優先 3 ):[膝の位置/骨盤水平/足部支持](該当を残す)。
変数 1 つだけ変更:[段差/手すり/足部位置/速度] → 反応:[改善/移動/不変]。次の一手:[ミニテスト/介入]。
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
まずはどの相から見ればいいですか?
手すりは “ 依存 ” なのか “ 安全確保 ” なのか、どう見分けますか?
つま先が引っかかるとき、まず疑うべきは可動域ですか?
次の一手(観察から意思決定へ)
ここまでで “ 相 ” と “ まず見る(優先 3 )” が揃ったら、次はチームで共有できる形に落とし込みます。運用(手順)と共有(記録の型)が整うほど、階段の所見は治療と生活場面に繋がりやすくなります。
- 運用を整える:動作分析のやり方(親)で “ 型 ” を統一
- 共有の型を作る:別動作の記録例(着座)でテンプレ運用を確認
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
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- Novak AC, Brouwer B. Sagittal and frontal lower limb joint moments during stair ascent and descent in young and older adults. Gait Posture. 2011;33(1):54-60. doi: 10.1016/j.gaitpost.2010.09.024. PubMed: 21036615
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- Novak AC, Brouwer B. Kinematic and kinetic evaluation of the stance phase of stair ambulation in persons with stroke and healthy adults: a pilot study. J Appl Biomech. 2013;29(4):443-452. doi: 10.1123/jab.29.4.443. PubMed: 22927500


