VOCSN-VC の使い方|マスク運用で排痰補助を安全に回す( ALS・筋ジス )

臨床手技・プロトコル
記事内に広告が含まれています。

VOCSN-VC の排痰補助(マスク運用)を “迷わず回す” 手順

迷ったときは「条件の棚卸し → 現場で試す → ふり返り」で一気に進みます。 PT キャリアガイドを見る(進め方の全体像)

VOCSN-VC は「人工呼吸器」と「排痰補助(咳介助)」が一体の機器で、マスク( NIV )運用のまま排痰補助を開始できるのが特徴です。ALS や筋ジストロフィーなど神経筋疾患では、咳の力が落ちる/意思疎通が難しい/痰が増えるタイミングが読みにくいなどの理由で、現場が “詰まりやすい” 介入になります。

本記事では、マスク運用での VOCSN-VC を「手順」よりも リーク・同調・回収(吸引/喀出)・記録に焦点を当てて、迷うポイントを減らすための運用の型をまとめます。呼吸療法の全体像(介入の位置づけ)は 呼吸療法(コンディショニング) に整理しています。

まず押さえる前提:VOCSN-VC は “換気を止めずに排痰補助へ切り替える” 機器

VOCSN 系は、換気に加えて咳介助( Cough )や吸引( Suction )など複数の治療を 1 台で扱えるコンセプトが示されています。マスク運用でつまずきやすいのは、①リーク②同調、そして③上がった痰の回収です。つまり「設定を覚える」よりも、うまくいかない原因を切り分けて、次に残すほうが臨床的価値が出ます。

  • 目的:気道の痰を “動かす → 上げる → 回収する” までを、短時間で反復する
  • 難所:マスクのリークが大きいと効果が落ち、アラームや呼吸困難感につながりやすい
  • 臨床のコツ:「準備 2 分 → 実施 1 セット → 回収 → 再評価」のミニサイクルを回す

※機器の詳細な適応・禁忌や設定は、必ず処方・施設手順・取扱説明資料に従ってください。メーカー資料の参照先は末尾にまとめています。

実施前チェック(5 点)|ここがズレると “効かない” が起きやすい

VOCSN-VC(マスク運用)実施前チェック:つまずきを減らす 5 点
チェック 見落としやすいポイント その場の対処(優先順) 記録に残す項目
①マスクフィット サイズ不一致、ストラップ過不足、口漏れ 再フィット → サイズ再検討 → 体位調整 マスク種類/サイズ、リークの印象(小/中/大)
②回路・フィルタ 接続はできているが抵抗増大、湿潤や閉塞 目視 → 交換/乾燥 → 再評価 回路構成、フィルタ交換の有無
③加湿・痰性状 痰が粘い/乾くと “動くが回収できない” 口腔ケア → 加湿再確認 → ネブ併用(指示内) 痰性状(粘稠・泡沫・膿性など)
④吸引の準備 上がった痰を拾えず効果が見えない 口腔内吸引準備 → 介助者配置 → 手順確認 吸引の実施回数、回収量(少/中/多)
⑤観察の基準 意思疎通困難で “苦しい” を拾いにくい 表情・努力感 → SpO2 / HR → 呼吸音 開始前/各セット後の所見(定型で)

5〜10 分で回す基本フロー|「1 セット → 回収 → 再評価」を反復する

  1. 開始前 30 秒:体位(上体挙上など)を決め、マスクフィットを取り直す。口腔内の痰が多い場合は先に口腔吸引で整える。
  2. 実施(1 セット):処方・施設手順に沿って排痰補助を実施。最中は「リーク」「同調」「表情」「SpO2 変化」を優先して観察する。
  3. 回収(30〜60 秒):上がった痰を口腔吸引/喀出介助で回収する。ここで回収できないと “効いた実感” が出にくい。
  4. 再評価:呼吸音、努力感、SpO2、痰量・性状を短く記録する(後述テンプレ)。
  5. 必要なら次セット:同じ型で反復し、反応が悪い場合は「リーク → 同調 → 回収」の順に原因を切り分ける。

ポイントは、長く続けて頑張るより「短いサイクルを正確に回す」ことです。意思疎通が難しい人ほど、反応の拾い方(観察と記録)が成否を分けます。

現場の詰まりどころ(マスク運用の Top 6)|“効かない” を分解する

VOCSN-VC(マスク運用)で起きやすい “効かない” を分解する
よくある困りごと まず疑う 優先して試す 次回に効く記録
①リークが大きく効果が薄い マスクフィット/口漏れ 再フィット → 体位 → サイズ再検討 リークの印象、合ったフィット手順
②同調が合わず苦しそう タイミング不一致、過換気感 一旦止めて落ち着かせる → 条件を整えて再開 出現タイミング、表情・努力感の変化
③アラームが頻回で中断 リーク/回路抵抗/接続 回路の目視 → フィルタ確認 → マスク再調整 鳴ったアラーム名、前後のリーク状況
④痰は動いたが回収できない 吸引準備不足、痰が粘い 口腔吸引の段取り → 加湿の再確認 回収量、痰性状、回収しやすい体位
⑤反復で疲労が強い 実施間隔が短い/負荷が高い 休息を十分に → セット間を延ばす 疲労サイン、SpO2 / HR の推移
⑥記録がバラバラで再現できない 観察項目が定まっていない テンプレで固定して毎回同じ順で残す 「効いた条件」「効かなかった条件」

一旦止めて評価し直すサイン|意思疎通が難しい人ほど “見える指標” を固定する

意思疎通が難しい場合は、「苦しい」の訴えが拾いにくいので、見た目と生体指標で “止めどき” を決めておくと運用が安定します。

  • 表情が強くこわばる/眉間が寄る、呼吸努力感が急に増える
  • SpO2 が明らかに低下し戻りが遅い、頻脈化が続く
  • 咳反射や嘔吐反射が強く出て継続が難しい
  • マスクリークが大きく、アラーム対応で介入が分断される

上記が出たら、いったん中断して体位・マスクフィット・回収(口腔吸引)を整え、短いサイクルで再開できるかを再評価します。

意思疎通が難しい人の観察と記録(テンプレ)|“次回の再現” に効く

記録は長文よりも、同じ項目を毎回残すほうが役に立ちます。下記をカルテや申し送りに合わせて調整してください(数値は機器表示や施設ルールに合わせて記載)。

VOCSN-VC(マスク運用)排痰補助の記録テンプレ:観察と再現性を高める
項目 書き方(例) 狙い
実施日時/体位 1/6 AM、上体挙上 30° 効きやすい体位を固定する
マスク フルフェイス/サイズ M、フィット手順(頬→鼻梁) リーク対策を再現する
リークの印象 小/中/大(どこから漏れたか) “効かない原因” の一次切り分け
実施内容(処方枠) 排痰補助:処方設定にて 1 セット × 2 詳細数値は処方・手順に寄せる
反応(見た目) 努力感:増→落ち着く、表情:こわばり軽減 意思疎通困難でも拾える指標
生体指標 SpO2:96→94→96、HR:88→98→90 負荷と回復の確認
回収 口腔吸引 2 回、回収量:中、性状:粘稠 “動いた痰” を回収できたか
次回へのメモ 開始前に口腔内を整えると回収が良い 勝ちパターンを残す

家族・介助者へ伝えるときの短い言い回し(例)

  • 「いまは痰を “上げる” ための介入です。終わったら口の中に上がった痰を吸います。」
  • 「マスクがずれると効果が落ちるので、ズレたらすぐに教えてください。」
  • 「顔色や苦しそうな表情が増えたら、すぐに止めて様子を見ます。」

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. “効いている” かどうかは何で判断しますか?

一番わかりやすいのは「回収できる痰が増える」「呼吸音が変わる」「努力感が軽くなる」の 3 つです。意思疎通が難しい場合は、表情・努力感と SpO2 / HR の “回復の速さ” をセットで見ます。1 セットごとに回収と再評価を挟むと判断しやすくなります。

Q2. アラームが多くて続きません。最初に見るべきは?

マスク運用では、まずリーク(フィット/口漏れ)を疑います。次に回路の目視(接続、フィルタ、抵抗)を確認し、最後に体位と休息で整えて再開できるかを見ます。アラーム名と直前の状況(リークの印象)を記録しておくと、次回が楽になります。

Q3. 痰は動いた感じがあるのに、回収できません。

回収が追いつかないと “効果がない” に見えます。口腔内吸引の段取り(人手、タイミング)を先に作り、加湿や口腔ケアで痰性状を整えると回収しやすくなります。体位も効きやすさに影響するため、効いた条件をテンプレで残してください。

Q4. 記録は何を残せば十分ですか?

「体位」「マスク」「リークの印象」「セット数(処方枠で)」「反応(見た目)」「SpO2 / HR」「回収量・性状」の 7 点が揃うと、次回の再現性が上がります。数値より “条件” を残す意識が重要です。

参考文献

メーカー資料(参照先)

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

運営者について編集・引用ポリシーお問い合わせ

おわりに

排痰補助は「中止基準の確認 → 準備 → 段階的に介入 → 観察と記録 → 再評価」というリズムで回すほど、現場の再現性が上がります。次に備えるために、面談準備チェックと職場評価シートを こちら からまとめて用意しておくと、行動が一段ラクになります。

タイトルとURLをコピーしました