- VOCSN-VC の排痰補助(マスク運用)を “迷わず回す” 手順
- まず押さえる前提:VOCSN-VC は “換気を止めずに排痰補助へ切り替える” 機器
- 実施前チェック(5 点)|ここがズレると “効かない” が起きやすい
- 5〜10 分で回す基本フロー|「1 セット → 回収 → 再評価」を反復する
- 現場の詰まりどころ(マスク運用の Top 6)|“効かない” を分解する
- 一旦止めて評価し直すサイン|意思疎通が難しい人ほど “見える指標” を固定する
- 意思疎通が難しい人の観察と記録(テンプレ)|“次回の再現” に効く
- 家族・介助者へ伝えるときの短い言い回し(例)
- よくある質問(FAQ)
- 参考文献
- メーカー資料(参照先)
- 著者情報
- おわりに
VOCSN-VC の排痰補助(マスク運用)を “迷わず回す” 手順
迷ったときは「条件の棚卸し → 現場で試す → ふり返り」で一気に進みます。 PT キャリアガイドを見る(進め方の全体像)
VOCSN-VC は「人工呼吸器」と「排痰補助(咳介助)」が一体の機器で、マスク( NIV )運用のまま排痰補助を開始できるのが特徴です。ALS や筋ジストロフィーなど神経筋疾患では、咳の力が落ちる/意思疎通が難しい/痰が増えるタイミングが読みにくいなどの理由で、現場が “詰まりやすい” 介入になります。
本記事では、マスク運用での VOCSN-VC を「手順」よりも リーク・同調・回収(吸引/喀出)・記録に焦点を当てて、迷うポイントを減らすための運用の型をまとめます。呼吸療法の全体像(介入の位置づけ)は 呼吸療法(コンディショニング) に整理しています。
まず押さえる前提:VOCSN-VC は “換気を止めずに排痰補助へ切り替える” 機器
VOCSN 系は、換気に加えて咳介助( Cough )や吸引( Suction )など複数の治療を 1 台で扱えるコンセプトが示されています。マスク運用でつまずきやすいのは、①リークと②同調、そして③上がった痰の回収です。つまり「設定を覚える」よりも、うまくいかない原因を切り分けて、次に残すほうが臨床的価値が出ます。
- 目的:気道の痰を “動かす → 上げる → 回収する” までを、短時間で反復する
- 難所:マスクのリークが大きいと効果が落ち、アラームや呼吸困難感につながりやすい
- 臨床のコツ:「準備 2 分 → 実施 1 セット → 回収 → 再評価」のミニサイクルを回す
※機器の詳細な適応・禁忌や設定は、必ず処方・施設手順・取扱説明資料に従ってください。メーカー資料の参照先は末尾にまとめています。
実施前チェック(5 点)|ここがズレると “効かない” が起きやすい
| チェック | 見落としやすいポイント | その場の対処(優先順) | 記録に残す項目 |
|---|---|---|---|
| ①マスクフィット | サイズ不一致、ストラップ過不足、口漏れ | 再フィット → サイズ再検討 → 体位調整 | マスク種類/サイズ、リークの印象(小/中/大) |
| ②回路・フィルタ | 接続はできているが抵抗増大、湿潤や閉塞 | 目視 → 交換/乾燥 → 再評価 | 回路構成、フィルタ交換の有無 |
| ③加湿・痰性状 | 痰が粘い/乾くと “動くが回収できない” | 口腔ケア → 加湿再確認 → ネブ併用(指示内) | 痰性状(粘稠・泡沫・膿性など) |
| ④吸引の準備 | 上がった痰を拾えず効果が見えない | 口腔内吸引準備 → 介助者配置 → 手順確認 | 吸引の実施回数、回収量(少/中/多) |
| ⑤観察の基準 | 意思疎通困難で “苦しい” を拾いにくい | 表情・努力感 → SpO2 / HR → 呼吸音 | 開始前/各セット後の所見(定型で) |
5〜10 分で回す基本フロー|「1 セット → 回収 → 再評価」を反復する
- 開始前 30 秒:体位(上体挙上など)を決め、マスクフィットを取り直す。口腔内の痰が多い場合は先に口腔吸引で整える。
- 実施(1 セット):処方・施設手順に沿って排痰補助を実施。最中は「リーク」「同調」「表情」「SpO2 変化」を優先して観察する。
- 回収(30〜60 秒):上がった痰を口腔吸引/喀出介助で回収する。ここで回収できないと “効いた実感” が出にくい。
- 再評価:呼吸音、努力感、SpO2、痰量・性状を短く記録する(後述テンプレ)。
- 必要なら次セット:同じ型で反復し、反応が悪い場合は「リーク → 同調 → 回収」の順に原因を切り分ける。
ポイントは、長く続けて頑張るより「短いサイクルを正確に回す」ことです。意思疎通が難しい人ほど、反応の拾い方(観察と記録)が成否を分けます。
現場の詰まりどころ(マスク運用の Top 6)|“効かない” を分解する
| よくある困りごと | まず疑う | 優先して試す | 次回に効く記録 |
|---|---|---|---|
| ①リークが大きく効果が薄い | マスクフィット/口漏れ | 再フィット → 体位 → サイズ再検討 | リークの印象、合ったフィット手順 |
| ②同調が合わず苦しそう | タイミング不一致、過換気感 | 一旦止めて落ち着かせる → 条件を整えて再開 | 出現タイミング、表情・努力感の変化 |
| ③アラームが頻回で中断 | リーク/回路抵抗/接続 | 回路の目視 → フィルタ確認 → マスク再調整 | 鳴ったアラーム名、前後のリーク状況 |
| ④痰は動いたが回収できない | 吸引準備不足、痰が粘い | 口腔吸引の段取り → 加湿の再確認 | 回収量、痰性状、回収しやすい体位 |
| ⑤反復で疲労が強い | 実施間隔が短い/負荷が高い | 休息を十分に → セット間を延ばす | 疲労サイン、SpO2 / HR の推移 |
| ⑥記録がバラバラで再現できない | 観察項目が定まっていない | テンプレで固定して毎回同じ順で残す | 「効いた条件」「効かなかった条件」 |
一旦止めて評価し直すサイン|意思疎通が難しい人ほど “見える指標” を固定する
意思疎通が難しい場合は、「苦しい」の訴えが拾いにくいので、見た目と生体指標で “止めどき” を決めておくと運用が安定します。
- 表情が強くこわばる/眉間が寄る、呼吸努力感が急に増える
- SpO2 が明らかに低下し戻りが遅い、頻脈化が続く
- 咳反射や嘔吐反射が強く出て継続が難しい
- マスクリークが大きく、アラーム対応で介入が分断される
上記が出たら、いったん中断して体位・マスクフィット・回収(口腔吸引)を整え、短いサイクルで再開できるかを再評価します。
意思疎通が難しい人の観察と記録(テンプレ)|“次回の再現” に効く
記録は長文よりも、同じ項目を毎回残すほうが役に立ちます。下記をカルテや申し送りに合わせて調整してください(数値は機器表示や施設ルールに合わせて記載)。
| 項目 | 書き方(例) | 狙い |
|---|---|---|
| 実施日時/体位 | 1/6 AM、上体挙上 30° | 効きやすい体位を固定する |
| マスク | フルフェイス/サイズ M、フィット手順(頬→鼻梁) | リーク対策を再現する |
| リークの印象 | 小/中/大(どこから漏れたか) | “効かない原因” の一次切り分け |
| 実施内容(処方枠) | 排痰補助:処方設定にて 1 セット × 2 | 詳細数値は処方・手順に寄せる |
| 反応(見た目) | 努力感:増→落ち着く、表情:こわばり軽減 | 意思疎通困難でも拾える指標 |
| 生体指標 | SpO2:96→94→96、HR:88→98→90 | 負荷と回復の確認 |
| 回収 | 口腔吸引 2 回、回収量:中、性状:粘稠 | “動いた痰” を回収できたか |
| 次回へのメモ | 開始前に口腔内を整えると回収が良い | 勝ちパターンを残す |
家族・介助者へ伝えるときの短い言い回し(例)
- 「いまは痰を “上げる” ための介入です。終わったら口の中に上がった痰を吸います。」
- 「マスクがずれると効果が落ちるので、ズレたらすぐに教えてください。」
- 「顔色や苦しそうな表情が増えたら、すぐに止めて様子を見ます。」
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. “効いている” かどうかは何で判断しますか?
一番わかりやすいのは「回収できる痰が増える」「呼吸音が変わる」「努力感が軽くなる」の 3 つです。意思疎通が難しい場合は、表情・努力感と SpO2 / HR の “回復の速さ” をセットで見ます。1 セットごとに回収と再評価を挟むと判断しやすくなります。
Q2. アラームが多くて続きません。最初に見るべきは?
マスク運用では、まずリーク(フィット/口漏れ)を疑います。次に回路の目視(接続、フィルタ、抵抗)を確認し、最後に体位と休息で整えて再開できるかを見ます。アラーム名と直前の状況(リークの印象)を記録しておくと、次回が楽になります。
Q3. 痰は動いた感じがあるのに、回収できません。
回収が追いつかないと “効果がない” に見えます。口腔内吸引の段取り(人手、タイミング)を先に作り、加湿や口腔ケアで痰性状を整えると回収しやすくなります。体位も効きやすさに影響するため、効いた条件をテンプレで残してください。
Q4. 記録は何を残せば十分ですか?
「体位」「マスク」「リークの印象」「セット数(処方枠で)」「反応(見た目)」「SpO2 / HR」「回収量・性状」の 7 点が揃うと、次回の再現性が上がります。数値より “条件” を残す意識が重要です。
参考文献
- Gómez-Merino E, Sancho J, Marín J, et al. Am J Phys Med Rehabil. 2002;81(8):579-583. doi: 10.1097/00002060-200208000-00004
- Shah NM, et al. Mechanical insufflation-exsufflation use in neuromuscular disease: a single centre cohort study. BMJ Open Respiratory Research. 2025. doi: 10.1136/bmjresp-2024-002651 / PubMed: PMID: 39961705
- Shah NM, et al. The Effect of Pressure Changes During Mechanical Insufflation-Exsufflation on Respiratory and Airway Physiology. Chest. 2024;165(4):929-941. doi: 10.1016/j.chest.2023.10.015 / PubMed: PMID: 37844796
- Chatwin M, Sancho J, Lujan M, Andersen T, Winck J-C. J Clin Med. 2024;13(9):2643. doi: 10.3390/jcm13092643
- Troxell DA, Bach JR, Nilsestuen JO. Chest. 2023;164(6):1505-1511. doi: 10.1016/j.chest.2023.07.007
メーカー資料(参照先)
- カフベンテックジャパン:VOCSN-VC 製品情報(リーク補正・排痰補助の概要): VOCSN-VC Ventilator
- Ventec Life Systems:Clinical Quick Start Guide: VOCSN Quick Start Guide(PDF)
- Ventec Life Systems:Cough Therapy Protocol(臨床用プロトコル例): VOCSN Cough Therapy Protocol(PDF)
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
おわりに
排痰補助は「中止基準の確認 → 準備 → 段階的に介入 → 観察と記録 → 再評価」というリズムで回すほど、現場の再現性が上がります。次に備えるために、面談準備チェックと職場評価シートを こちら からまとめて用意しておくと、行動が一段ラクになります。

