WMFT とは(目的と使いどころ)
WMFT( Wolf Motor Function Test )は、脳卒中などで低下した上肢機能を、課題の所要時間(時間タスク)と動作品質( FAS : Functional Ability Scale )で定量化するパフォーマンステストです。各課題は最大 120 秒で打ち切り、未完了は 120+ として記録します。
臨床での強みは、「できた / できない」だけでなく、速さ(速度)と質(代償・滑らかさ・独立性)の両方を同時に追える点です。回復期〜生活期で「上肢を実用手として伸ばすのか」「課題はできるが遅いのか」を説明したい場面で、評価と介入の接続が作りやすくなります。
1 分要約(先に結論)
WMFT は速度(時間)と質( FAS )の 2 軸で上肢課題を追うため、介入効果を連続値として示しやすい評価です。ブレを減らすコツは、①セットアップ条件を数値で固定し、②各課題を 120 秒上限(未完了は 120+ )で統一し、③集計は時間は中央値、 FAS は合計または平均を “施設ルール” として決めることです。
WMFT はいつ使う(評価セット内の位置づけ)
上肢評価は「運動障害( impairment )」「活動( activity )」「実用( participation / 実生活 )」を分けると迷いが減ります。WMFT は activity 寄りですが、時間と質を同時に見られるため、 impairment と activity の橋渡しとして働きます。
| 指標 | 主に測るもの | 強み | 弱み / 注意 | WMFT と併用するなら |
|---|---|---|---|---|
| WMFT | 上肢課題の速度+質(時間 / FAS ) | 「遅さ」と「代償」を同時に追える | セットアップ差でブレやすい(固定が必須) | 運動障害と作業の “間” を埋める |
| FMA-UE | 運動障害(協調性・分離運動など) | 麻痺の回復段階を細かく追える | 「作業として使えるか」の説明は別軸が要る | WMFT の変化の “理由” を説明しやすい |
| ARAT | 物品操作の達成度(課題成功) | 活動レベルの把握が速い | 速度や質の連続変化は拾いにくい | 「できる / できない」を押さえ、WMFT で伸び幅を見る |
| MAL | 実生活での使用頻度・質(自己報告) | 実用手としての “使えている” を拾える | 自己認識の影響がある(観察評価と併用が安全) | WMFT 改善が生活に波及したかを確認 |
| NHPT / Purdue | 巧緻性(手指のスピード / 正確性 ) | 短時間で手指要素を抽出できる | 近位・体幹代償の要素は限定的 | WMFT で “広く” 、巧緻性で “深掘り” |
セットアップ(再現性を担保する準備)
WMFT は “条件差” がそのままスコア差になりやすい評価です。再評価のたびにブレないよう、数値とマークで固定します。
- 椅子・テーブル高:座面高 / 天板高を cm 単位で記録(再評価で同一条件)。
- 物品配置:位置と向きを固定し、天板に目印(テープ)を残す。
- 姿勢:体幹・肩甲帯の開始肢位を揃え、代償が出やすい症例は “許容ライン” を事前に共有。
- 説明:「できるだけ速く、しかし安全に」「痛みが強ければすぐ申告」を毎回同じフレーズで。
実施ルール( WMFT やり方の基本 )
運用で揉めやすいのは時間上限とやり直しです。迷いを “ルール化” しておくと、担当者が変わっても指標として機能します。
| 論点 | 推奨ルール | なぜ必要か | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 時間上限 | 各課題は最大 120 秒。未完了は “ 120+ ” | 上限の揺れがそのまま改善量の錯覚になる | “ 121 秒” など実測で残さない |
| 再試行 | 外的要因(落下物など)で無効のみ再試行 | 練習効果が混ざると “評価” にならない | 再試行した場合は備考に理由 |
| 声かけ | タスク間の声かけは定型(励まし過多を避ける) | 動機づけの差が結果に影響しうる | 指示文はテンプレ化が安全 |
| 安全 | 肩痛・疲労・バイタル変動は即休憩 / 中止を検討 | 痛み増悪が “能力低下” と誤認される | 中止理由を必ず残す |
採点(時間 / FAS )と集計のコツ
WMFT は速度(時間)と質( FAS )がズレることがあります。片方だけ見て結論を急がないのがコツです。
時間(秒)の扱い:中央値を基本にする
時間は外れ値が出やすいため、臨床では中央値が運用しやすいです。未完了は “ 120+ ” とし、集計に入れるか(例えば 120 とみなすか)は施設ルールで統一します。大事なのは同じやり方で繰り返すことです。
FAS( 0–5 ):境界を “観察ルール” に落とす
FAS は「滑らかさ」「代償」「独立性」を観察して決めます。迷ったときは、次の “境界ルール” に寄せるとブレが減ります。
- 2 ↔ 3 :達成はするが、速度が遅く、代償が目立つ / 非滑らかなら 2〜3。
- 3 ↔ 4 :課題は概ね成立し、欠点が軽微(わずかなぎこちなさ)なら 4。
- 4 ↔ 5 :健側に近い自然さで、ためらい・修正がほぼ無いなら 5。
| 軸 | 代表値 | 迷ったとき | 記録例 |
|---|---|---|---|
| 時間 | 中央値( 15 課題 ) | 未完了( 120+ )の扱いを統一 | 時間:中央値 38 秒(未完了 3 / 15 ) |
| FAS | 合計 or 平均 | 代償の種類を備考に残す | FAS:平均 2.9(体幹側屈と肩挙上が主) |
解釈(“変わった” の判断と次の一手)
WMFT は単一のカットオフで “良い / 悪い” を決めるというより、変化量と変化の質を追う評価です。目安として、WMFT の最小検出可能変化( MDC )が報告されており、真の変化を考える際の材料になります。
- 変化量の目安:平均 Performance Time の MDC が報告されています(研究条件により幅あり)。
- 読み方の基本:時間が短縮しても代償が増えるなら “戦略の変化” の可能性があり、 FAS と備考の情報が重要です。
| 変化 | 起きていること(仮説) | 次の介入 | 再評価の軸 |
|---|---|---|---|
| 時間だけ改善 / FAS 横ばい | 速くなったが質は同等(または代償固定) | 成功率は維持しつつ、代償を “ 1 つだけ ” 減らす課題設計 | 備考(代償の種類)を定点観察 |
| FAS 改善 / 時間横ばい | 質が上がり、安定したが速度はまだ | 同一課題で反復量を増やし、テンポを段階づけ | 疲労で崩れる条件(回数 / 時間 ) |
| 両方改善 | 課題遂行の効率が上がっている | 生活課題へ転移(食事・更衣など)を具体化 | MAL など “実生活の使用” を確認 |
| 悪化 / ばらつき増大 | 痛み・痙縮・疲労・覚醒低下などの影響 | 評価前の状態チェック(疼痛・血圧・痙縮 )を固定化 | 中止基準と再評価タイミング |
現場の詰まりどころ(よくある失敗 / 中止基準)
WMFT は “やれば点が出る” 反面、運用が曖昧だと改善量が信用できません。チームで揉めやすい点を先に潰します。なお、評価の型づくりや面談準備のチェックにも使える資料があります(関連:/mynavi-medical/#download)。
| 場面 | OK(推奨) | NG(避ける) | 中止 / 再評価の目安 |
|---|---|---|---|
| セットアップ | 椅子・机の高さ、物品配置を固定して記録 | 毎回高さ・配置が変わる / 麻痺側の向きがバラバラ | 疼痛増悪、強い不安、バイタル逸脱で中止 |
| 採点 | 120 秒上限と “ 120+ ” 記録を徹底 | 上限を超えて計測し続ける / 担当者で運用が違う | 理解困難、注意力低下、疲労蓄積なら休憩して再評価 |
| 安全管理 | 監視・転倒対策・動線確保を事前に確認 | 無監視での実施 / 急激な負荷増加 | 肩痛悪化、顔色不良、息切れ増悪で中断し原因評価 |
WMFT 記録シート( A4 ・印刷用 )
記入欄と集計欄を中心にした、臨床用のワークシートです(項目文の掲載はしていません)。セットアップ条件まで一緒に残すと、再評価のブレが減ります。
プレビューを表示
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. “ 120+ ” はどう集計すべきですか?
未完了は “ 120+ ” として記録し、集計に入れる場合は「 120 として扱う」など施設ルールを固定します。大切なのは、同一ルールで繰り返し、改善量を比較可能にすることです。症例内の比較が主目的なら “一貫性” が最優先です。
Q2. 時間が良くなったのに FAS が上がりません。悪いことですか?
必ずしも悪いとは限りません。速度が上がる過程で代償が固定化している可能性があり、備考欄の観察が重要です。次は「代償を 1 つだけ減らす」「成功率は維持する」など、課題のねらいを絞ると介入に接続しやすくなります。
Q3. WMFT と ARAT はどちらを優先しますか?
「課題の達成度(できる / できない)を手早く押さえたい」なら ARAT、「できるが遅い / 質が悪いを含めて伸び幅を追いたい」なら WMFT が向きます。迷ったら、評価の全体像(評価ハブ)で目的から選ぶのが安全です。
Q4. 所要時間が取れません。短縮する方法はありますか?
初回は説明と試行で長くなりがちです。 2 回目以降は、①セットアップ条件を固定、②指示文をテンプレ化、③評価者が物品配置を “手順書” に沿って準備、の 3 点で短縮しやすくなります。
Q5. 日本語版はありますか?
日本語版 WMFT の信頼性・妥当性を検討した報告があります。運用時は、公式の手順書(マニュアル)と施設ルール(上限・集計)をセットで整えると安全です。
次の一手(回遊の最短導線)
- 評価の全体像に戻る:評価ハブ
- 達成度を押さえる:ARAT の実践ガイド
- 手指の巧緻性を深掘り:NHPT と Purdue Pegboard の評価
参考文献
- RehabMeasures. Wolf Motor Function Test ( WMFT ). SRALab
- Morris DM, Uswatte G, Crago JE, Cook EW, Taub E. The reliability of the Wolf Motor Function Test for assessing upper extremity function after stroke. Arch Phys Med Rehabil. 2001;82:750-755. doi: 10.1053/apmr.2001.23183
- Fritz SL, Blanton S, Uswatte G, Taub E, Wolf SL. Minimal Detectable Change Scores for the Wolf Motor Function Test. Neurorehabil Neural Repair. 2009. doi: 10.1177/1545968309335975
- Hsieh YW, Wu CY, Lin KC, et al. Responsiveness and Validity of Three Outcome Measures of Motor Function After Stroke. Stroke. 2009. doi: 10.1161/STROKEAHA.108.530584
- UAB CIT Training. WMFT Manual. PDF
- 新しい上肢運動機能評価法・日本語版 Wolf Motor Function Test の信頼性と妥当性の検討(日本語版に関する報告). 医書.jp
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


