リハ栄養の進め方: 5 ステップ実務

栄養・嚥下
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リハ栄養とは?まず何をする?

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リハ栄養は、栄養状態の最適化と運動療法を同期させて、機能回復と QOL を最大化する実践フレームです。迷ったら スクリーニング → 詳細評価 → 必要量の設計 → 訓練と補食の同期 → 再評価 5 ステップで進めます。入口の評価は短時間でも十分ですが、判断は「次の一手(何を増やす/減らす/置き換える)」に直結させるのが最重要です。

本ページは総論として、リハ栄養の進め方(標準フロー)と、必要エネルギー・たんぱく質・水分の考え方、さらに 低栄養 × リハビリで起こりやすい「負荷量の迷い」「逆効果の回避」を、現場で運用できる形に整理します。

リハ栄養ケアプロセス( 5 ステップ )

リハ栄養ケアプロセスは、①スクリーニングで危険域を拾い、②詳細評価で原因(摂取不足/消耗/吸収障害/嚥下/炎症など)を整理し、③必要量を設計して、④訓練と栄養(補食・水分)を同期化し、⑤同じ指標で再評価して更新する流れです。評価のための評価にせず、「明日から何を変えるか」を決めるために使います。

運用のコツは、入力を増やしすぎないことです。スクリーニングと週次の再評価は最小限の指標に絞り、詳細評価は「迷ったときに深掘りする」設計にすると、回り続けます。

初診〜 1 週間の標準フロー

初期対応は「見落とさない幅広さ」と「判断の速さ」を両立させます。まずスクリーニングで危険域(低栄養・摂取不良・嚥下の不安)を拾い、詳細評価で原因を特定し、必要量を概算します。そのうえで、訓練タイミングと補食・水分を同期化し、週次で再評価してプランを更新します。

標準手順:① スクリーニング → ② 詳細評価 → ③ 必要量の設計(エネルギー・たんぱく) → ④ リハ前後の補食・水分管理 → ⑤ 再評価(体重・摂取実績・機能・創傷)。記録は「目標・必要量・実績・次の一手」を 1 枚に集約すると、短時間カンファでも意思決定が速くなります。

スクリーニングの選び方(使い分け)

場面によって“最初に使いやすい道具”は変わります。入院(急性〜回復期)では NRS-2002 のような入院向けツールが運用しやすく、地域・外来では質問紙ベースのスクリーニングが回りやすいことがあります。高齢者包括では MNA-SF が選択肢になります。嚥下の不安が強い場合は、嚥下の自己評価尺度を併用して食形態や補食設計に直結させます。

「施設で複数ツールが並行運用」は混乱のもとです。まず 1 種を標準化し、対象外のケースに限って補助指標を使うと、運用負荷が下がります。

詳細評価のポイント(意思決定に直結)

詳細評価は、体重推移・摂取実績・炎症や浮腫の所見・薬剤・嚥下・活動量を統合して、「なぜ足りないのか/なぜ増えないのか」を言語化する工程です。体組成は、握力・下腿周囲・観察(浮腫、筋萎縮、倦怠感)を軸に、必要に応じて追加評価を選びます。

重要なのは、評価の結論を 具体的な変更に落とすことです。例:摂取不足なら分割補食とタイミング調整、嚥下が原因なら形態・姿勢・水分の再設計、消耗が強いなら負荷と量のバランス修正、創傷があるなら必要量レンジの上方修正、など「次の一手」に変換します。

必要量の設計(エネルギー・たんぱく質・水分)

必要エネルギーは、体重 × 25–35 kcal/kg/日を基点に、活動性・創傷・炎症・体重変化でレンジ調整します。たんぱく質は一般に 1.0–1.2 g/kg/日を目安にし、サルコペニアや創傷、高負荷リハが続く場合は 1.2–1.5 g/kg/日を検討します(腎機能や嚥下状況に応じて分割投与・形態調整)。

低栄養が疑われる状態で負荷だけを先に上げると、疲労や体重減少が進み「低栄養 × 運動の逆効果」に寄りやすくなります。負荷量に迷ったら、①摂取実績(食事+補食)を先に整える、②短時間・分割でトータル量を確保する、③週次で体重・機能・食事量の変化を見て、負荷と摂取量を同時に微調整する、の順で安全側に設計します。水分・電解質は脱水とうっ血の両方に注意し、とろみ併用時は総摂取量が落ちやすい点を前提に目標を明確化します。

リハと栄養の同期化( P × E を最大化 )

筋力・移動能力の改善を狙うときは、訓練の直前〜直後の補食が効きやすい“窓”になります。前は低血糖・低エネルギー状態の回避、後は合成同化の後押しが目的です。長時間リハや嚥下訓練日では、少量を複数回に分け、疲労と摂取状況を見ながら形態とタイミングを調整します。

運用の再現性を上げるには、ログに「タイミング・量・形態・反応(疲労、むせ、眠気、血圧変動など)」を残し、次回の設計に反映させます。栄養と運動が別々に動くと成果が出にくいため、“同期化”をチームの共通言語にします。

現場の詰まりどころ(うまく回らない原因と対策)

  • スクリーニングで止まる:「危険域かどうか」だけで終わらず、次の一手(補食追加、形態変更、負荷調整、追加評価)まで決める。
  • 必要量と実績が乖離する:設計値だけで安心せず、摂取実績(食事+補食)を週次で見える化して更新する。
  • 低栄養のまま負荷を上げる:疲労・体重減少が進みやすい。まず摂取を整え、短時間・分割で“総量”を確保してから段階的に負荷を上げる。
  • 嚥下不安で摂れない:形態・増粘・姿勢・分割補食をセットで見直し、記録に「むせ・疲労・所要時間」を残す。
  • 記録が増えて破綻する:ログは「目標・必要量・実績・次の一手」に絞って 1 枚運用にする。
  • 多職種で基準がバラバラ:同じ指標で同じ頻度(週次など)で見直し、用語(必要量、実績、同期化)を統一する。

多職種連携と運用( NST × リハ )

評価 → 設計 → 介入 → 再評価の各段階で、栄養・嚥下・リハ・看護が同じ指標を見て同じログに記録すると、短時間カンファでも意思決定が速くなります。週 1 回の小さな PDCA を習慣化し、体重・摂取実績・機能の変化でプランを更新します。

連携の要点は、「誰が何をいつ更新するか」を決めることです。たとえば、摂取実績は看護、必要量設計は管理栄養士、同期化(補食タイミングと訓練枠)はリハ、嚥下・形態調整は ST と連携、のように役割を固定すると属人差が減ります。

よくある質問( FAQ )

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

リハ栄養の進め方で、最初に何を見ればいいですか?

まずはスクリーニングで危険域(低栄養、摂取不良、嚥下の不安)を拾い、次の一手を決めます。その後、詳細評価で原因を整理し、必要量を概算して、訓練と補食・水分の同期化まで一気に設計します。最初から完璧を狙わず、週次の再評価で更新する前提にすると回ります。

必要エネルギーは結局どれくらいで考えればいいですか?

体重 × 25–35 kcal/kg/日を基点に、活動性・創傷・炎症・体重変化でレンジ調整します。重要なのは設計値そのものより、摂取実績と体重推移を週次で確認して「増やす/減らす」を判断することです。

低栄養の人のリハビリ負荷量は、どう決めると安全ですか?

低栄養が疑われるときは、負荷だけを先に上げないのが安全です。まず摂取実績(食事+補食)を整え、短時間・分割で総量を確保しつつ、週次で体重・機能・疲労の変化を見て負荷と摂取量を同時に微調整します。

低栄養 × 運動は逆効果になりますか?

摂取不足のまま高負荷が続くと、疲労の蓄積や体重減少が進み、成果が出にくくなります。逆効果を避けるには、必要量設計と摂取実績の確認、補食タイミングの同期化、週次の再評価(体重・機能・摂取)をセットで回すことが重要です。

たんぱく質はどのくらいを目安にしますか?

一般に 1.0–1.2 g/kg/日を目安にし、サルコペニアや創傷、高負荷リハが続く場合は 1.2–1.5 g/kg/日を検討します。腎機能や嚥下状況に応じて分割投与・形態調整を行います。

リハ栄養の資格は必要ですか?

資格の有無より、ケアプロセスを現場で回せることが重要です。まずは共通のログ運用(目標・必要量・実績・次の一手)を整え、チームで同じ指標を見て週次更新できる状態を作ると、再現性が上がります。

おわりに

リハ栄養は「スクリーニング → 詳細評価 → 必要量の設計 → 訓練と補食の同期 → 再評価」というリズムを作ると、判断が速くなり、介入の再現性も上がります。まずは 1 枚ログで“次の一手”まで落とし込み、週次で更新する運用から始めてみてください。

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参考文献

  • Cederholm T, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition. Clin Nutr. 2019;38(1):1–9. https://doi.org/10.1016/j.clnu.2018.08.002
  • Kondrup J, et al. Nutritional Risk Screening (NRS 2002): a new method based on an analysis of controlled clinical trials. Clin Nutr. 2003;22(3):321–336. https://doi.org/10.1016/S0261-5614(02)00262-5
  • Rubenstein LZ, et al. Screening for undernutrition in geriatric practice: developing the Short-Form Mini-Nutritional Assessment ( MNA-SF ). J Nutr Health Aging. 2001;5(2):108–113.
  • Bauer J, et al. Evidence-based recommendations for optimal dietary protein intake in older people: a position paper from the PROT-AGE Study Group. J Am Med Dir Assoc. 2013;14(8):542–559. https://doi.org/10.1016/j.jamda.2013.05.021
  • Belafsky PC, et al. Validity and reliability of the Eating Assessment Tool ( EAT-10 ). Dysphagia. 2008;23(4):343–347. https://doi.org/10.1007/s00455-007-9131-8

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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