半側空間無視(USN)の評価は「短時間で拾う→ADLで危険を確かめる」が基本
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半側空間無視(Unilateral Spatial Neglect:USN)の初回評価では、1つの机上検査だけで有無を決めるのではなく、短時間の観察と探索課題で疑いを拾い、ADLで生活上の危険を確かめることが重要です。机上検査が軽度または陰性でも、移動・更衣・食事では衝突や取りこぼしが現れることがあります。
この記事では、PT・OTなどの医療従事者に向けて、5〜10分で何を確認するか、どの検査を追加するか、どこでADL観察へ切り替えるかを整理します。5〜10分という時間は正式な検査バッテリーの所要時間ではなく、初回の疑いを拾って次の評価を決めるための実務上の目安です。
USNを5〜10分でスクリーニングする流れ
短時間のスクリーニングでは、すべての机上検査を毎回行う必要はありません。まず評価条件と行動を確認し、抹消課題で探索の偏りをみます。所見が不明確な場合や別の側面を確かめたい場合だけ、線分二等分・描画・二重同時刺激などを追加し、最後にADLで危険場面を確認します。

事故につながる行動がある場合は、机上検査の完遂より安全確認を優先します。歩行・車椅子での衝突、患側上下肢の置き去り、ブレーキやフットレストの操作忘れなどがある場合は、その時点でADL観察と環境調整へ進みます。
机上所見とADL所見から次の評価を決める
USNの評価で迷いやすいのは、机上検査と生活場面の結果が一致しない場合です。どちらか一方だけで結論を出さず、次の4パターンに分けると、追加評価と安全管理を決めやすくなります。
| 机上所見 | ADL所見 | 読み方 | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| 偏りあり | 危険あり | 机上と生活場面の所見が一致している | 安全管理を開始し、CBSなどで危険場面を整理する |
| 偏りあり | 明らかな危険なし | 課題条件に限定した偏り、またはADLで代償できている可能性がある | 刺激量や二重課題を調整し、別の生活場面でも確認する |
| 明確な偏りなし | 危険あり | 机上で代償できている、または紙筆検査では捉えにくい可能性がある | USNを否定せず、ADL観察と視野・注意・運動要因を確認する |
| 判定困難 | 評価可能な場面で確認 | 失語、覚醒低下、視力、上肢麻痺・失調などが結果へ影響している | 反応方法を変更し、行動観察を中心に条件と限界を記録する |
異なる検査で結果が一致しない場合も、平均して1つの重症度へまとめるのではなく、どの課題・空間・条件で偏りが出たかを残します。USNは、評価方法によって捉えられる側面が異なるためです。
評価前の30秒で固定する条件
再評価の精度は、検査数を増やすことより、実施条件をそろえることで高めやすくなります。少なくとも、覚醒と理解、視覚条件、姿勢、用紙位置、使用手、教示、時間帯と疲労を確認します。
- 覚醒・理解:短い教示を理解し、課題へ注意を向けられるか
- 視覚条件:眼鏡、照明、視力、視野、眼球運動に問題がないか
- 姿勢:骨盤・体幹・頭部の向きと支持条件
- 用紙位置:体幹正中を基準に置かれているか
- 運動条件:利き手変更、麻痺、失調、疼痛の影響がないか
- 介入量:声かけ、指差し、開始位置の誘導をどこまで行ったか
頭部や体幹が一側へ回旋した状態で開始すると、空間探索の偏りと姿勢条件の影響を分けにくくなります。ただし、安全確保や座位保持のために調整が必要な場合は、無理に正中へ固定せず、実施した支持や介助を記録してください。
USNスクリーニング記録シートPDF
机上所見とADLの危険場面を同じ用紙へ記録したい場合は、USNスクリーニング記録シートを使用できます。評価条件を先に固定し、各課題の結果と根拠メモを1枚で整理するための記録用紙です。
記録シートの「無・軽・中・重」は、正式な尺度の共通カットオフではありません。偏位量、見落とし数、開始側、所要時間、衝突場面などの根拠を併記し、標準化検査を採点する場合は各検査の正式な手順と判定基準に従ってください。
記録シートを記事内でプレビューする
USN評価で使う検査の選び方
抹消課題、線分二等分、描画、二重同時刺激、CBSは、同じUSNを評価する検査でも得意な役割が異なります。検査名を増やすのではなく、確認したい所見に応じて選びます。
| 評価 | 主に分かること | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 抹消課題 | 見落としの分布、探索開始側、探索効率 | 短時間の入口として偏りを拾う | 用紙の種類や配置で難易度が変わる |
| 線分二等分 | 線の中心に対する偏位量と方向 | 空間的な偏位を定量記録する | 単独でUSNを除外・確定しない |
| 描画・模写 | 構成要素の欠落、配置、表象上の偏り | 抹消課題とは異なる誤り方を確認する | 構成障害、失行、理解面の影響を受ける |
| 二重同時刺激 | 単独刺激では反応できるが、同時提示で一側が落ちる消去 | 消去現象を疑う場合 | 単独刺激への反応が安定していることが前提 |
| CBS/KF-NAP | 更衣、食事、移動、物品探索など生活上の影響 | 事故場面、介助量、環境調整を決める | 観察条件と介入量をそろえる |
各検査の詳しいやり方と記録
本記事では評価の順番と分岐を扱い、各検査の教示、測定、採点、記録用紙は子記事へ分けています。
- 抹消課題のやり方・判定:見落とし数、探索開始側、所要時間の残し方
- 線分二等分試験のやり方・判定:偏位量をmm・%・方向で記録する方法
- 二重同時刺激のやり方・判定:単独刺激と同時刺激を分けて消去を確認する方法
- CBS評価の使い方:ADL観察、採点、自己評価との差、申し送り
机上検査からADL観察へ切り替える4つのサイン
以下のいずれかがある場合は、机上検査を増やすより、生活場面で何が危険かを確認します。
- 事故につながる行動がある:歩行・車椅子での接触、移乗時の患側管理不良、ブレーキ操作忘れなど
- 病棟から情報がある:看護師や家族から、食べ残し、着衣の抜け、物品探索の偏りが報告されている
- 机上と生活場面が一致しない:紙筆課題では軽度でも、移動やセルフケアで見落としが反復する
- 紙筆検査の妥当性が低い:失語、覚醒低下、視力低下、上肢麻痺・失調などで課題が成立しにくい
ADL観察では、単に「無視あり」と記録するのではなく、どの場面で、何を見落とし、どの援助で修正できたかを確認します。事故リスクや介助方法まで整理する場合は、CBSやKF-NAPなどの行動観察へつなげます。
机上検査とADLの結果が異なるときの読み方
静かな机上では、対象者が時間をかけて探索したり、検査場面で意識的に代償したりできます。一方、歩行、更衣、食事、会話を伴う動作では、姿勢制御、探索、判断を同時に行うため、一側への反応低下が表れやすくなります。
乖離がある場合は、病識や気づきだけでなく、覚醒、注意持続、疲労、時間帯、刺激量、頭部・体幹の向き、移動速度、声かけの有無を確認します。再評価では、机上得点だけでなく、危険行動の頻度と必要な援助が同じ条件で変化したかをみます。
半盲との鑑別は単独の机上検査で決めない
半盲は視野障害、USNは空間への注意・定位・探索の障害として整理されますが、両者は併存することがあります。そのため、「声をかけたら見えた」「線分二等分が偏った」といった1所見だけで区別するのは困難です。
同じ側で一貫した視野欠損があるか、探索開始側や見落とし方が変動するか、二重同時刺激で消去があるか、患側身体の管理や病識に問題があるかを組み合わせます。判断に迷う場合は、半盲・USN・視知覚障害の違いも確認し、必要に応じて正式な視野評価や他職種への相談へつなげます。
USN評価で結果がぶれる原因と対策
| よくある判断 | 問題 | 修正方法 | 記録すること |
|---|---|---|---|
| すべての検査を毎回行う | 疲労が増え、ADL確認が後回しになる | 抹消課題を入口にし、目的に応じて補助課題を選ぶ | 追加した検査と理由 |
| 机上検査が陰性ならUSNなし | 生活場面の見落としや衝突を見逃す | 病棟情報とADL観察を確認する | 危険場面、頻度、必要な援助 |
| 用紙位置が毎回違う | 位置条件の差を改善・悪化と誤認する | 体幹正中を基準に配置を固定する | 用紙位置と視距離 |
| 声かけが多い | 誘導によって成績が上がり、比較できない | 教示を定型化し、追加ヒントを段階別に残す | 声かけの内容と回数 |
| 軽度・中等度などの要約だけを書く | 判定根拠と変化が伝わらない | 偏位量、見落とし数、探索開始側、危険行動を残す | 要約を支える具体的所見 |
| 再評価条件が異なる | 介入効果と条件差を区別できない | 時間帯、姿勢、課題、環境、介入量をそろえる | 前回と異なった条件 |
USN評価の記録は「条件・所見・ADL・次回」で残す
USNの記録は、検査名や総合判定だけでは介入へつながりません。最低限、次の4点を同じ順番で記載します。
- 条件:覚醒、姿勢、用紙位置、視距離、使用手、声かけ、時間帯
- 机上所見:見落とし数、分布、開始側、偏位量、所要時間、消去の有無
- ADL所見:衝突、置き去り、食べ残し、更衣の抜け、必要な介助
- 次回:安全管理、有効だった対応、再評価する条件と場面
記録例
午前、車椅子座位、体幹正中、用紙中央、眼鏡装着で実施。抹消課題は右側から探索を開始し、左側の見落としが多い。線分二等分は右方偏位を認めた。病棟移動では左側障害物への接近を反復し、停止合図と左側への目印で修正できた。次回は同時間帯・同経路で、声かけ前に自発的な左確認がみられるか評価する。
「机上では軽度、ADLでは左側衝突が頻回」のように、机上と生活場面を並べて書くと、結果の乖離と安全管理の必要性が伝わります。
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップすると回答が開きます。
Q1. 線分二等分だけでUSNの有無を判断できますか?
線分二等分だけでUSNを確定・除外することは避けます。線分二等分は偏位量を記録しやすい一方、別の課題では異なる所見が現れることがあります。抹消課題、行動観察、必要に応じて描画や二重同時刺激と組み合わせます。
Q2. 初回に最優先する検査は何ですか?
事故につながる行動がなければ、行動観察に続いて抹消課題を入口にすると、見落としの分布や探索開始側を確認しやすくなります。ただし、すでに衝突や患側管理不良がある場合は、机上検査よりADLの安全確認を優先します。
Q3. 机上検査が正常でも、ADLに問題があればUSNを疑いますか?
疑います。机上では代償できても、歩行、更衣、食事、物品探索など複数の処理が必要な場面で問題が現れることがあります。USNを否定せず、CBSなどの行動観察と、視野・注意・運動要因を確認します。
Q4. 麻痺や失語で紙筆検査ができない場合はどうしますか?
反応方法を指差し、視線、うなずきなどへ変更し、変更した条件を記録します。紙筆検査の妥当性が低い場合は、患側身体の管理、物品探索、食事、更衣、移動などの行動観察を中心に評価します。
Q5. 改善は何をもって判断しますか?
同じ条件で再評価し、見落とし数や偏位量だけでなく、病棟での衝突、セルフケアの抜け、必要な声かけや介助が減ったかを確認します。条件が異なる場合は、単純に前回の結果と比較しません。
次の一手
- 半側空間無視の退院判断:移動・セルフケア・病識・家族支援から自宅復帰の条件を整理できます。
- USNドリルの進め方と記録:評価で確認した探索の偏りを課題設定と再評価へつなげられます。
参考文献
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著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

