厚生労働省褥瘡危険因子評価票の見方と診療計画書

臨床手技・プロトコル
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危険因子評価票の位置づけ(結論)

厚生労働省が示す「褥瘡に関する危険因子評価票」(いわゆる 褥瘡 危険因子評価表)は、ADL 自立度 B/C の患者さんを対象に、褥瘡発生リスクを 二者択一(あり/できない)で素早くふるい分けするスクリーニングです。 1 項目でも該当 したら褥瘡予防の計画立案へ直結します。本稿では「 8 項目 」の要点、実施タイミング、評価後の運用までを PT 視点で整理します。

本票(厚生労働省 危険因子評価)は「誰に」「いつ」「どう判定し」「次に何をするか」を明確にする院内標準です。対象は ADL 自立度 B/C、判定は 8 項目の二者択一で、 1 項目でも該当なら 看護計画や診療計画書の作成 に進みます。点数合算は不要で、迅速に介入へ橋渡しできるのが最大の強みです。

一方で、多くの項目は「個体要因」の確認にとどまります。リスクの全体像を捉えるには、ブレーデン(運用)OH スコア と併用し、褥瘡予防バンドルマットレス選定 に落とし込む運用が実務的です。

危険因子評価票とは?(厚生労働省の公式様式)

「危険因子評価票」は、厚生労働省が提示する「褥瘡リスクアセスメント票・褥瘡予防治療計画書」一式の中で、褥瘡発生リスクの有無をチェックするための 1 枚です。ベースラインのリスクを確認し、必要に応じて褥瘡予防計画・診療計画書・看護計画へつなぐトリガーとなる位置づけです。

ブレーデンスケールのように詳細なスコアリングを行うツールとは異なり、危険因子評価票は 「高リスク群(ADL 自立度 B/C)」に絞って二者択一で確認するシンプルな様式です。そのため、新人スタッフでも運用しやすく、病棟全体で標準化したい場面に向いています。

対象と評価タイミング

対象は原則として ADL 自立度 B/C です。入院時・術後・全身状態の変化時・長期臥床化の兆候・失禁管理の変更時など、リスクが動きやすい局面で実施します。観察と同時に 体位変換の可否・除圧の自立度・皮膚所見 をセットでまとめると、その後の計画立案が速くなります。

頻度は病棟の標準手順に合わせます。急性期では短い間隔(例: 48 時間ごと)、慢性期・療養では週 1 回程度の見直しが実務的です。スクリーニング結果は電子カルテで即共有し、多職種のタスクリストへ反映します。

危険因子評価票の「点数」と判定の考え方

褥瘡危険因子評価表 点数を知りたくて検索された方も多いと思いますが、厚生労働省の 危険因子評価票は点数合算を行わない設計です。各項目は「あり/できない」で判定し、 1 項目でも該当すればハイリスクとして扱い、褥瘡予防計画や診療計画書の作成に進む、というルールになっています。

ブレーデンのように合計点でリスクを段階づける方式と異なり、危険因子評価票はそもそも対象を ADL 自立度 B/C に絞ったうえで、「迷わず介入へ進めること」を優先した トリガー型のスクリーニングです。「何点なら安全か」を議論するより、該当項目ごとに体圧分散・離床・栄養・失禁ケアなどの具体的対策へ落とし込むことが重要になります。

8 項目の判定と PT 視点のポイント

厚生労働省「褥瘡に関する危険因子評価票」 8 項目(要約・院内標準に合わせて表現)
項目 判定のめやす(あり/できない) PT 視点の補足
基本的動作能力 寝返り・座り直し・端坐位保持などに自立不可 座り直しの 頻度手がかり を観察。座面・足台・背支持の調整で自力除圧を促進。
病的骨突出 仙骨・腸骨・踵などの突出で圧集中が懸念 接触面の圧集中部を同定し、クッション配置と体位バリエーションを即日指示。
関節拘縮 体位変換・座位保持を制限する拘縮あり 短期:ポジショニング固定/中長期:伸張・駆動域確保とハンドリング教育。
栄養状態低下 食思不振・摂取不足・体重減少・低栄養疑い 栄養士と連携し、摂取記録・補助食品・蛋白摂取の最適化を提案。
皮膚湿潤 多汗・尿失禁・便失禁で皮膚が持続的に湿潤 吸収パッド・通気・シート素材の選択と交換頻度の標準化を支援。
皮膚の脆弱性(浮腫) 浮腫により皮膚張力が高く損傷リスク高い 下肢挙上・弾性着衣・離床頻度増で循環改善。ずれ・摩擦の最小化を指導。
皮膚の脆弱性(スキンテア) スキンテアの保有・既往あり 移乗・更衣時の牽引回避、滑走面活用、保護材の使用を標準手順に組み込む。
その他の危険因子 せん妄・発熱・鎮静・麻痺などで除圧困難 看護・医師と共同で一時的な体圧分散強化(マットレス選定・体位計画)。

評価後の計画立案フロー

二者択一の結果はゴールではなくスタートです。該当項目を 介入方針・担当・期限 に落とし、日次でモニタリングします。体位変換表・離床スケジュール・皮膚観察記録・マットレス選定を 1 枚の計画に束ねると、属人性が下がり実行率が上がります。

PT は「体位変換ができる身体づくり」と「座面環境の規格化」を両輪で進めます。関連:褥瘡予防バンドルマットレス選定プロトコルOH スコア運用

診療計画書・褥瘡予防計画への落とし込み例

「厚生労働省 危険因子評価票」は単独で完結せず、診療計画書・褥瘡予防計画書・看護計画の各欄にどう反映するかが重要です。該当した危険因子を「問題」「目標」「ケア内容」「評価期間」にマッピングすると、多職種で共有しやすくなります。

危険因子評価票から診療計画書への落とし込み例
危険因子の例 診療計画書の「問題」記載例 代表的なケア・リハ介入
基本的動作能力低下 自力による体位変換・座り直しが困難で、長時間同一体位となる 2 時間ごとの体位変換、離床スケジュール、座位保持訓練、自力除圧動作の練習
皮膚湿潤(失禁) 尿失禁により殿部皮膚が持続的に湿潤し、褥瘡リスクが高い 失禁ケアの見直し、パッド選択と交換頻度の標準化、皮膚保護剤の使用
皮膚の脆弱性(浮腫) 下肢浮腫と皮膚脆弱性により、ずれ・摩擦で損傷しやすい 下肢挙上、弾性ストッキング、移乗時のスライディングシート使用、体圧分散マットレス導入
その他の危険因子(せん妄) せん妄により安静保持が困難で、除圧指示の自己管理ができない ベッド柵・センサーなどの環境調整、一時的な体圧分散強化、多職種での観察強化

このように、危険因子評価票の結果を 診療計画書の文章とケア内容に翻訳しておくことで、褥瘡予防の具体的なタスクが明確になり、看護・リハ・栄養など多職種での実行率が高まります。

PT の関与ポイント

( 1 )座位保持・座り直しの自立化、( 2 )関節可動域の維持と短時間反復、( 3 )ポジショニングとクッション配置の標準化、( 4 )移乗・寝返りの手順教育、( 5 )リスク変動の早期検知。この 5 本柱で「自力除圧能力」を底上げします。

実施例: 1 3 回の座り直し訓練+クッション再配置点検 を 1 セットとして病棟と共通言語化。 48 時間で効果が乏しければプランを更新します。

他スケールとの使い分け

ブレーデンは包括的で点数式、OH は個体要因に特化、本票は二者択一で 行動決定 を加速します。病棟の人員・用具配分では併用が合理的です。

関連:ブレーデン運用プロトコルOH スコア運用

原票・様式(外部)

参考文献

  1. 厚生労働省. 褥瘡リスクアセスメント票・褥瘡予防治療計画書(様式集). PDF
  2. 日本褥瘡学会. 褥瘡関連項目に関する指針(2018 年改定資料). PDF
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