【疼痛生活障害評価尺度(PDAS)】慢性疼痛の多面的評価方法

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基礎的評価
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リハビリくん
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この記事の内容
  1. この記事は「疼痛生活障害評価尺度(PDAS)」をキーワードに内容を構成しています。
  2. 疼痛生活障害評価尺度(PDAS)は、慢性疼痛が日常生活や社会参加に及ぼす影響を多面的に評価できる信頼性の高い尺度です。
  3. 身体的活動の制限だけでなく、心理・社会的側面も含めて測定する点が特徴であり、従来の痛み強度評価では捉えきれない生活障害を明らかにします。
  4. 慢性疼痛患者のリハビリテーションにおいて、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が PDAS を活用することで、機能回復と生活の質の向上を目指した包括的介入が可能となります。
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理学療法士として以下の経験と実績を持つリハビリくんが解説します♪

リハビリくんの実績
  1. rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設
  2. 2025 年 9 月時点:186 記事公開(月間 3 万 PV)
  3. 実務経験(医療機関、介護福祉施設、訪問リハビリ等)
  4. 講師活動(脳卒中、褥瘡等をテーマに複数回講演)
  5. 脳卒中 認定理学療法士
  6. 褥瘡 創傷ケア 認定理学療法士
  7. 3 学会合同呼吸療法認定士
  8. 福祉住環境コーディネーター 2 級
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慢性疼痛とは

慢性疼痛は 1986 年に国際疼痛学会(IASP)によって、「治療に要すると期待される時間枠組みを超えて持続する痛み、または進行性の非癌性疼痛による痛み」と定義されています。

一般的には 3 か月以上持続する痛みを慢性疼痛とみなすことが多いです。急性疼痛と異なり、組織損傷の治癒後も痛みが持続することが特徴であり、単なる症状ではなく一つの疾患概念として捉えられています。

社会的影響と医療的課題

慢性疼痛は個人の生活の質(QOL)を大きく低下させるだけでなく、社会的にも大きな負担となります。日本では年間 1 兆 9,530 億円(2012 年推計)に及ぶ経済的損失が報告されており、就労や日常生活活動の制限につながっています。

世界的にも有病率は高く、慢性疼痛は「社会的疾患」として医療・介護・福祉が一体となった支援体制が求められています。

病態と要因

慢性疼痛は単純な侵害受容性疼痛だけでなく、神経障害性疼痛や中枢性感作といった神経科学的要因が関与します。

心理社会的要因(不安、抑うつ、社会的孤立など)も痛みの持続や増悪に寄与し、**生物心理社会モデル(Biopsychosocial model)**での包括的理解が必要です。この多因子性が、慢性疼痛の治療を難しくしている大きな理由です。

評価の重要性と理学療法士の視点

慢性疼痛の臨床評価では、単なる VAS や NRS による疼痛強度測定だけでは不十分です。活動制限や生活障害を把握する評価尺度が不可欠です。

本邦では有村らが開発した**疼痛生活障害評価尺度(PDAS)**が広く用いられ、痛みによる身体機能・移動能力の障害を定量化できます。さらに、FIM や SF-36 などの機能的指標と併用することで、包括的な評価が可能になります。

リハビリテーションの役割

慢性疼痛への理学療法は「痛みを完全に取り除く」ことよりも、痛みと共存しながら活動量を回復・維持することを目標とします。

有酸素運動や筋力トレーニングによる身体機能改善 ストレッチや関節可動域訓練による柔軟性維持 マインドフルネスや認知行動療法(CBT)との併用による心理的支援 が有効とされています。

作業療法士は日常生活活動や職業復帰支援に介入し、言語聴覚士は嚥下障害やコミュニケーション障害を伴う患者への支援を担います。

疼痛生活障害評価尺度(PDAS)とは

疼痛生活障害評価尺度(Pain Disability Assessment Scale:PDAS)は、慢性疼痛患者の生活障害の程度を客観的に把握するための自己記入式質問票です。

1990 年代に有村らによって開発され、特に腰痛や膝痛といった運動器慢性疼痛を中心に広く臨床や研究で用いられています。単なる痛みの強さではなく、「痛みによって生活がどの程度制限されているか」を評価できる点が大きな特徴です。

従来の評価は VAS や NRS のような痛みの強度を数値化する尺度が中心でした。しかし、慢性疼痛は「痛みの強さ」と「生活の障害」が必ずしも一致しないことが知られています。

そのため、痛みによる生活機能への影響を把握できる尺度が必要とされ、PDAS が開発されました。参考にされたのは Sickness Impact Profile(SIP)や Health Assessment Questionnaire(HAQ)といった国際的に用いられる尺度です。

評価項目

PDASは 20 項目で構成され、疼痛が身体活動・日常生活・社会参加にどの程度支障をきたしているかを評価します。

【身体活動に関連する項目】

  1. 腰を曲げて床のものを拾う
  2. 腰を曲げたり伸ばしたりする
  3. 手を伸ばして棚の上から重いものを取る
  4. 重いものを持って運ぶ
  5. じっと立っている
  6. 平らな地面の上を歩く
  7. ゆっくり走る
  8. 階段を登る、降りる

【日常生活に関連する項目】

  1. 掃除機かけ、庭仕事など家の雑用
  2. 料理や食器洗い
  3. 体を洗ったり拭いたりする
  4. 洗髪する
  5. 便座への着座・立ち上がり
  6. ベッドや床への出入り
  7. 車のドアの開閉

【社会活動・余暇に関連する項目】

  1. 買い物に行く
  2. 友人を訪れる
  3. バスや電車に乗る
  4. レストランや喫茶店に行く
  5. 趣味の活動を行う

これらは日常生活に直結しており、痛みが生活のどこに影響を及ぼしているかを具体的に把握できる点が特徴です。

評価方法

各項目に対し、患者が自己記入式で回答します。選択肢は 0 ~ 3 点の 4 段階評価となっており、以下の基準で採点されます。

  • 0 点:この行動を行うのに全く困難(支障)はない
  • 1 点:この行動を行うのに少し困難 (苦痛)を感じる
  • 2 点:この行動を行うのにかなり困難 (苦痛)を感じる
  • 3 点:この行動は苦痛が強くて私には行えない

全 20 項目の得点範囲は 0 ~ 60 点 となり、得点が高いほど疼痛による生活障害が強いことを示します。

疼痛生活障害評価尺度(PDAS)評価用紙

疼痛生活障害評価尺度(PDAS)の評価用紙は以下の通りとなります。

疼痛生活障害評価尺度(PDAS)の評価表をダウンロードできます。評価表が必要な方はこちらからどうぞ☺

カットオフ値

臨床研究の結果、PDAS のカットオフ値は 10 点とされています。

  • 10 点未満:健常、または疼痛による生活支障が軽度
  • 10 点以上:慢性疼痛による生活障害あり

この基準により、単なる「痛みの有無」ではなく、生活への影響を踏まえた慢性疼痛のスクリーニングが可能になります。

臨床における活用意義

  1. 理学療法士の視点
    • 運動療法や物理療法の効果判定に用いることができる
    • 歩行や階段昇降といった動作能力の変化を客観的に評価可能
  2. 作業療法士の視点
    • 家事、買い物、趣味活動など IADL に関する障害の把握に有用
    • 生活支援や環境調整、職業復帰支援の根拠となる
  3. 言語聴覚士の視点
    • 疼痛に伴う生活制限が社会参加やコミュニケーション機会に与える影響を補足的に評価
    • 精神心理的側面(孤立や抑うつ傾向)に着目した支援につなげられる

注意点

  • 自己記入式であるため、回答者の主観や心理状態に左右される可能性があります。
  • カットオフ値 10 点はあくまでスクリーニングの目安であり、包括的な評価(VAS、NRS、FIM、SF-36など)と併用することが望ましいです。
  • 疾患特性(腰痛、膝痛、線維筋痛症など)や年齢層によって解釈を調整する必要があります。

まとめ

最後までお読みいただきありがとうございます!

疼痛生活障害評価尺度(PDAS)は、慢性疼痛患者の生活機能障害を捉える有効なツールです。カットオフ値は 10 点とされ、10 点以上で慢性疼痛による生活支障があると判断されます。

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士がそれぞれの専門性を活かし、この評価を適切に用いることで、リハビリ計画の立案や治療効果の判定に役立ちます。

痛みの中でも、特に心理社会的な痛みの評価の 1 つに HADS という評価方法がございます。このテーマについては、他の記事で更に詳しくまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【HADS(評価法)を徹底解説についての記事はこちらから

参考文献

  1. 有村達之,小宮山博朗,細井昌子.疼痛生活障害評価尺度の開発.行動療法研究.第23巻,第1号,p7-15.
  2. 太田晴之,齋藤圭介,原田和宏,京極真.慢性疼痛患者の集学的治療標本における疼痛生活障害評価尺度 (Pain Disability Assessment Scale)の因子構造モデルの検討.日保学誌.Vol.23,No.2,2020,p51-59.
  3. 太田晴之,齋藤圭介,原田和宏,京極真.慢性疼痛患者の集学的治療標本における疼痛生活障害評価尺度 (Pain Disability Assessment Scale) の因子構造モデルの検討.日本保健科学学会誌.23(2),p51-59,2020.
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