DSS とは?嚥下重症度分類の見方と判定
DSS( Dysphagia Severity Scale /摂食・嚥下障害臨床的重症度分類 )は、誤嚥の有無と重さを軸に、嚥下障害を 1〜7 で共有するための尺度です。臨床では、1〜4 = 誤嚥あり、5〜7 = 誤嚥なし と大きく整理すると、申し送りと初期対応をそろえやすくなります。
この記事では、DSS の 7 段階の意味、判定で迷いやすい境界、段階ごとの対応の出発点を 1 ページで整理します。あわせて、本文内に DSS 記録シート PDF を埋め込み、病棟や外来でそのまま使いやすい形にまとめます。
先に全体像をそろえる
DSS を単独で覚えるより、評価の順番と関連尺度の役割まで一緒にそろえる方が、チーム内の共有がぶれにくくなります。
DSS で何が決まるか
DSS の役割は、今の嚥下機能を短く共有することです。VE / VF がない場面でも、臨床所見とスクリーニング結果からおおまかな重症度をそろえやすく、食事条件や再評価の必要性を話し合う出発点になります。
ただし、DSS だけで食形態を最終決定するのは不十分です。咀嚼、食塊形成、送り込み、覚醒、姿勢、疲労によって実際の食事場面は変わるため、DSS は「食事メニュー表」ではなく、重症度共有の共通言語として使うのが実務的です。
DSS を決める 5 分フロー
細かな検査手順は各論記事に譲り、このページでは DSS にたどり着くまでの順番を固定します。
| 段階 | 目的 | 主にみること | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| 1. 安全確認 | 試行できる状態か確認する | 覚醒、呼吸、循環、口腔、姿勢 | 不安定なら水や食物の試行を急がない |
| 2. RSST | 反復嚥下の可否をみる | 30 秒間の空嚥下回数 | 低下があれば慎重に次へ進む |
| 3. MWST | 水分での安全性をみる | むせ、湿性嗄声、呼吸変化 | 危険信号があれば中止し再評価する |
| 4. DSS 判定 | 重症度を共通言語にする | 誤嚥の有無、条件依存性、口腔期の問題 | 食事条件と再評価条件をそろえる |
| 5. 必要時 VE / VF | 機序を詳しく確認する | 誤嚥、残留、代償手段の効果 | 方針を更新して再評価へつなぐ |
DSS 7 段階の見方
DSS は 1 が最重症、7 が正常範囲です。まずは各段階の意味を大づかみに押さえ、次に「どこが境界になるか」を読むと理解しやすくなります。
| 段階 | ラベル | 実務での読み方 | 対応の出発点 |
|---|---|---|---|
| 7 | 正常範囲 | 臨床的に大きな問題を認めにくい状態 | 通常どおり。変化時のみ再評価 |
| 6 | 軽度問題 | 誤嚥はないが、条件によって軽い困難がある | 誘発条件を避けつつ経過観察 |
| 5 | 口腔問題 | 誤嚥はないが、主として口腔期に問題がある | 食塊形成、送り込み、食具、姿勢を調整 |
| 4 | 機会誤嚥 | いつもではないが、条件によって誤嚥が起こる | 危険条件を固定し、再評価トリガーを決める |
| 3 | 水分誤嚥 | 水分で誤嚥しやすく、液体条件の調整が必要 | 一口量、性状、姿勢を厳密に合わせる |
| 2 | 食物誤嚥 | 食物でも誤嚥し、経口は慎重判断が必要 | 専門的評価を優先し、安全確保を先に行う |
| 1 | 唾液誤嚥 | 唾液レベルでも安全性が保ちにくい最重度 | 経口を急がず、全身管理と精査を優先する |
判定で迷いやすい境界
いちばん迷いやすいのは、DSS 4(機会誤嚥) と DSS 5(口腔問題) の境界です。ここを先に整理しておくと、申し送りの質が上がります。
| 境界 | 判断の軸 | 低い段階に寄る場面 | 高い段階に寄る場面 |
|---|---|---|---|
| 4 と 5 | 誤嚥があるか、ないか | 疲労や姿勢崩れでむせ・湿性嗄声・咳が再現する | 誤嚥所見はなく、主問題が食塊形成や送り込みにある |
| 3 と 4 | 液体で一貫して危険か、条件依存か | 水分で繰り返し危険信号が出る | 一口量や姿勢調整で安全域が広がる |
| 1〜2 と 3〜4 | 食物・唾液レベルでも危険か | 唾液や食物でも安全確保が難しい | 主に水分や条件依存で危険が表れる |
現場の詰まりどころ
迷ったときは、まず よくある失敗 と 再評価の回し方 を確認してください。DSS は単発の点数として見るより、評価の流れの中で使う方が安全です。全体像に戻したいときは 嚥下評価の実務フロー を基準にすると整理しやすくなります。
よくある失敗
| よくある失敗 | なぜ起こるか | 回避のコツ |
|---|---|---|
| DSS だけで食形態を決める | 口腔期、咀嚼、覚醒の影響を見落としやすい | DSS は重症度共有、食形態は別に個別調整と考える |
| 単回のむせだけで低く判定する | 疲労や一口量の影響を切り分けていない | 姿勢、一口量、時間帯をそろえて再確認する |
| 5 を「軽いから大丈夫」と扱う | 誤嚥がない = 問題なし、と受け取りやすい | 口腔残留、食塊形成、送り込み、介助量まで記録する |
再評価の回し方
DSS は、発熱、食形態変更、覚醒変動、疲労、肺炎後、薬剤変更などで見直すと運用しやすくなります。判定そのものより、どの条件で悪化したかを残すことが、次回の事故予防につながります。
| 変化 | 見直したいポイント | 記録しておきたいこと |
|---|---|---|
| 発熱・肺炎後 | 呼吸状態、湿性嗄声、咳の変化 | 前回 DSS、食形態、酸素化、むせの有無 |
| 食形態変更時 | 水分・固形のどちらで危険が出るか | 性状、一口量、介助条件、時間帯 |
| 覚醒・疲労の変化 | 機会誤嚥の出現 | 姿勢保持、食事時間、後半での変化 |
| 口腔環境の変化 | 口腔問題の増悪 | 残留、送り込み、自己修正の可否 |
段階別の対応目安
DSS は「今すぐ何をそろえるか」を決めるのに便利です。ただし、食形態は最終決定ではなく、開始点の目安として見てください。
| DSS | 食事条件の考え方 | 直接訓練 | 共有しておきたいこと |
|---|---|---|---|
| 1〜2 | 経口は慎重。経管中心で安全確保を優先 | 専門的判断が必要 | 全身状態、分泌物、精査の要否 |
| 3 | 水分条件を厳密に調整する | 条件付き | 一口量、性状、姿勢での変化 |
| 4 | 条件依存のため、危険条件を固定する | 条件付き | 疲労、時間帯、姿勢、介助量 |
| 5 | 誤嚥より口腔期への対応を優先する | 行いやすい | 残留、食塊形成、送り込み、食具 |
| 6〜7 | 通常に近いが、誘発条件があれば避ける | 必要に応じて予防的に | むせやすい食品、服薬時、水分摂取 |
DSS と FILS / FOIS の違い
DSS は重症度、FILS / FOIS は経口摂取の実際をみる尺度です。DSS は「どれくらい危ないか」、FILS / FOIS は「どこまで食べられているか」の共有に向いています。役割を分けて使うと、記録と申し送りが整理しやすくなります。
| 指標 | 主にみるもの | 段階数 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| DSS | 誤嚥の有無・重さ、口腔期の問題 | 7 | 初期重症度の共有、対応の出発点 |
| FILS | 経口摂取の成立度と代替栄養の併用 | 10 | 食事レベルの経過記録 |
| FOIS | 機能的な経口摂取レベル | 7 | 経口摂取状況の共有 |
ダウンロード( A4 ・印刷可)
DSS の段階、根拠、条件差、次回確認点を 1 枚で残したいときは、下の記録シートを使うと共有しやすくなります。
DSS 記録シートをこのページでプレビューする
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
DSS は何を基準に 1〜7 を決めますか?
誤嚥の有無と重さを軸に、口腔期の問題や残留を含めて総合的に判断します。まずは 1〜4 = 誤嚥あり、5〜7 = 誤嚥なし で大きく分け、そのうえでどの条件で悪化するかをみます。
DSS 4 と 5 の違いは何ですか?
いちばん大きい違いは、誤嚥があるかどうかです。DSS 4 は条件によって誤嚥が起こる「機会誤嚥」、DSS 5 は誤嚥はないが主として口腔期に問題がある状態です。疲労や姿勢をそろえて再確認すると判断しやすくなります。
VE / VF がなくても DSS は使えますか?
使えます。DSS は臨床所見でも重症度共有に使いやすい尺度です。ただし、VE / VF ができる環境では、誤嚥や残留の機序を確認して、判定と介入の精度を上げた方が安全です。
DSS と FILS / FOIS はどちらを優先しますか?
役割が違います。初期の安全域を決めるときは DSS、どこまで食べられているかの経過記録は FILS / FOIS が向いています。実務では併用すると整理しやすいです。
次の一手
参考文献
- 戸原玄, Palmer JB, Reynolds K, Kuhlemeier KV. 摂食・嚥下障害重症度分類( DSS: Dysphagia Severity Scale ). 口病誌. 2003;70(4):242-248. DOI:10.5357/koubyou.70.242. J-STAGE
- Nishimura K, Kagaya H, Shibata S, Onogi K, Inamoto Y, Ota K, Miki T, Tamura S, Saitoh E. Accuracy of Dysphagia Severity Scale rating without using videoendoscopic evaluation of swallowing. Jpn J Compr Rehabil Sci. 2015;6:124-128. PDF
- Persson E, Wårdh I, Östberg P. Repetitive Saliva Swallowing Test: Norms, Clinical Relevance and the Impact of Saliva Secretion. Dysphagia. 2019;34(2):271-278. DOI:10.1007/s00455-018-9937-0. PubMed
- Osawa A, Maeshima S, Tanahashi N. Water-Swallowing Test: Screening for Aspiration in Stroke Patients. Cerebrovasc Dis. 2013;35(3):276-281. DOI:10.1159/000348683. PubMed
- Kunieda K, Ohno T, Fujishima I, Hojo K, Morita T. Reliability and validity of a tool to measure the severity of dysphagia: the Food Intake LEVEL Scale. J Pain Symptom Manage. 2013;46(2):201-206. DOI:10.1016/j.jpainsymman.2012.07.020. PubMed
- Crary MA, Carnaby Mann GD, Groher ME. Initial psychometric assessment of a functional oral intake scale for dysphagia in stroke patients. Arch Phys Med Rehabil. 2005;86(8):1516-1520. DOI:10.1016/j.apmr.2004.11.049. PubMed
- 一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会. 嚥下障害診療ガイドライン 2024年版. PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


