DSS(嚥下)とは?7段階の判定基準と対応

栄養・嚥下
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この記事でわかること(結論)

DSS( Dysphagia Severity Scale /臨床的重症度分類)は、誤嚥の有無を軸に摂食・嚥下障害を 1–7 の順序尺度で判定する指標です。1–4 = 誤嚥あり(重症群)/ 5–7 = 誤嚥なし(軽症群)が基本。この記事では RSST → MWST → DSS 決定の簡易フロー、7 段階の要点段階別の対応目安判定基準・観察ポイント・閾値、および FILS/FOIS との違いまでを 1 ページに集約します。

DSS(臨床的重症度分類)とは?

DSS は才藤らが提唱した、検査機器なしでも臨床所見をもとに重症度を素早く共有するための 7 段階尺度です。誤嚥の頻度・状況と、口腔期の問題の程度(食塊形成・送り込み・残留)で段階づけします。VE/VF が可能なら所見を加味して判定を再確認します。嚥下まわりの全体設計や関連スケールは 嚥下・栄養ハブ を参照してください。

臨床判定フロー( RSST → MWST → DSS )

  1. スクリーニング:RSST( 30 秒に嚥下 3 回以上なら誤嚥リスク低の目安)で嚥下反復の可否を把握。
  2. 水テスト:MWST(少量水嚥下)でムセ/湿性嗄声/呼吸変化を確認。必要に応じて 1 % とろみ水( TLST )も併用。
  3. DSS 決定:誤嚥の有無・頻度、口腔期の問題(食塊形成・送り込み)を踏まえ、 1–7 を判定。
  4. 必要時:VE/VF で機序を特定し、介入(体位・一口量・食形態・練習)を精緻化。

ポイント:RSST → MWST → DSSの“一直線”を全職種で共有すると、手順がぶれにくく安全域を保ちやすいです。

DSS 7 段階の目安(趣旨・判定基準・観察ポイント)

※スマホは横スクロール可。各段階の文言は臨床共有向けに要約しています(原著の表現は参考文献を参照)。

DSS 7 段階の要点(成人・臨床メモ)
段階 趣旨(その段階が示す状態) 判定基準(簡易) 観察ポイント(例)
1 唾液でも誤嚥。持続的な不顕性誤嚥を含む最重度。 唾液・分泌物で頻回に誤嚥。 湿性嗄声・湿性咳、SpO2 低下、口腔内分泌過多、嚥下反射著明低下。
2 食物で誤嚥。固形・半固形とも処理が困難。 食物提示で繰り返し誤嚥。 反復ムセ、強い口腔残渣、舌運動不良、送り込み不能。
3 薄い液体で誤嚥。液体で誘発されやすい状態。 薄液で咽頭侵入〜誤嚥の所見。 水嚥下後の湿性嗄声・ムセ、嚥下反射の遅延、複数嚥下の増加。
4 状況依存の誤嚥。疲労・姿勢・一口量で変動。 条件により時折誤嚥(常時ではない)。 長時間摂食でのパフォーマンス低下、注意で軽減、交互嚥下で改善。
5 誤嚥はないが口腔期に問題。食塊形成や送り込みが不良。 咽頭侵入や誤嚥の兆候なし。口腔期に時間・介助を要す。 刻みでの散乱、頬袋残り、自己クリア可、食具や姿勢で改善。
6 ごく軽微な問題。特定条件でのみ軽い困難。 通常は安全。特定食材や姿勢で軽度のムセ。 乾燥時のムセ、早食い・大きい一口でのみ誘発。
7 実質正常。通常食で問題なし。 誤嚥所見なし。口腔期・咽頭期とも概ね正常。 通常食・自由飲水で問題なく完食。

判定基準・観察ポイントの「閾値」目安

院内基準に従うことを前提に、代表的な目安を整理します(成人・ベッドサイド)。

  • RSST( Repetitive Saliva Swallowing Test ):30 秒で 3 回以上嚥下できればリスク低の目安。0–2 回は誤嚥リスク(注意)。高齢・口腔乾燥の影響に留意。
  • MWST( Modified Water Swallow Test ):少量水嚥下でムセ/湿性嗄声/呼吸苦のいずれかが出現 → 異常所見。必要に応じて 1 % とろみ水( TLST )で再評価。
  • 頸部聴診・声質:嚥下後の湿性嗄声( gurgly voice )は咽頭残留〜不顕性誤嚥を示唆。
  • バイタル変動:嚥下直後に SpO2 低下( 3 % 以上)呼吸数 30 /min 超、顕著な咳嗽持続は中止・再評価のサイン。
  • 一口量・姿勢:誤嚥が疑われる場合は一口量を半分以下に、顎軽度前屈・体幹前傾で再評価。

中止基準(レッドフラッグ)

以下のいずれかが出たら直ちに中止・姿勢調整・医師へ報告を検討(目安)。

嚥下介入・評価の中止目安(成人・ベッドサイド)
所見 閾値の例 初期対応
SpO2 低下 ベースから 3 % 以上低下が持続 中止・体位調整・呼吸評価・医師連絡
呼吸困難/頻呼吸 RR 30 /min 超、または顕著な陥没呼吸 中止・座位保持・吸引準備・医師連絡
持続的な湿性嗄声/強いムセ 嚥下後に持続(数分で解消しない) 中止・嚥下後咳嗽/複数嚥下指示・再評価
循環動態の変化 著明な血圧変動、 HR の急上昇/徐脈 中止・モニタリング・医師連絡

段階別の対応目安(食形態・直接訓練の可否)

※食形態は咀嚼・食塊形成能力や覚醒度で大きく変わります。以下は“開始点の目安”であり、個別評価(姿勢・一口量・介助法)で調整してください。

DSS 段階別の対応(成人・ 2025 年版)
DSS 食形態の例 直接訓練 看護の注意
1–2 経管中心(必要に応じゼリー試験) ×(間接訓練中心/ VE・VF 検討) 分泌物管理、口腔ケア頻回化、体位管理
3 とろみ水/半固形中心 △(条件付き/誤嚥兆候の厳密監視) 一口量・姿勢の標準化、嚥下後の声質確認
4 やわらかめ主菜+とろみ水 ○(疲労時は中止基準を明確化) 食事時間の短縮、交互嚥下の指導
5 一口大・刻み回避(食塊形成を助ける) ○(口腔期訓練・食具調整) 口腔残渣の確認と自立支援
6–7 通常食(むせ誘発食材に注意) ○(状況依存の予防指導) 内服・水分摂取の安全管理

比較:DSS と FILS/FOIS(何が違う?)

“何を測るか”が異なります。DSS = 重症度(誤嚥/口腔期)FILS/FOIS = 摂食状況(どれだけ経口摂取できているか)です。

主要指標の比較(成人・臨床現場向け)
指標 目的/測定対象 段階数 検査機器の要否 主な用途
DSS 誤嚥の有無・頻度+口腔期の問題 7 不要( VE/VF で精度向上) 初期重症度共有、対応方針の出発点
FILS 経口摂取の状況(チューブ依存〜通常食) 10 不要 食形態段階づけ、経過・予後の指標化
FOIS 機能的経口摂取レベル(液体・固形の範囲) 7 不要 食事内容の記録、変化の追跡

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よくある質問( FAQ )

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DSS は何を基準に 1–7 を決めますか?

誤嚥の有無・頻度と、口腔期の問題(食塊形成・送り込み・残留)を総合して段階化します。1–4 = 誤嚥あり/ 5–7 = 誤嚥なしが大枠です。VE/VF が可能な場合は所見を加味して再確認します。

VE/VF がなくても DSS 判定は可能?

可能です。RSST と MWST などのベッドサイド所見から DSS を決められます(必要に応じてとろみ水テストを併用)。ただし、機序特定や方針の精緻化には VE/VF が有用です。

段階別の「食形態」は固定ですか?

固定ではありません。DSS は重症度共有が目的で、食形態は咀嚼・食塊形成・覚醒度の影響を強く受けます。本文の対応表は“開始点の目安”として使い、個別評価で必ず調整してください。

DSS と FILS/FOIS はどちらを優先しますか?

役割が異なります。DSS = 重症度FILS/FOIS = 摂食状況。初期は DSS で安全域を把握し、栄養・食形態設計や経過追跡は FILS/FOIS を併用するのが実務的です。

参考文献

関連ページ(同一タブで開きます)
記事 概要
嚥下・栄養ハブ 嚥下スクリーニング/食形態設計/口腔ケアの要点を集約
評価ハブ リハ評価の全体像と主要スケールの位置づけ(横断比較)

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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